表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/339

第四十話 今日は前回入らなかった店に行ってみないか?

連続更新中。

楽しんでいただければ幸いです。




 平和万歳……、というか、冒険者ギルドに行っても結局依頼が無くてあまりに暇なのでヴィルナと話したんだけど、三日ほど完全に休みという事にしてみた。あそこで真っ昼間から酒盛りばかりしててもしょうがないし。


 気分転換というか、ウインドウショッピングというか、今日は貴族街にほど近い北エリアの商店街をヴィルナと歩いていた。まあ、いわゆるデートだよな。


「この辺りに来るのも二回目だけど、今日は前回入らなかった店に行ってみないか?」


「前回入った店は結局あの飾り物の店だけじゃったな」


「そうだった。いろいろ気になる店もあるんだけどね」


 この辺りは流石に貴族街が近いとあってレストランというか、食堂なんかも物凄い高級感が漂ってる。こういった店で食べてみるのもホントはいい市場調査になるんだけどね。こういった高級店に何が提供されているのかを調べるだけでもかなり違う。


 俺が知りたいのは主にスイーツ系だ、高級宿泊施設の部類に入る白うさぎ亭の食堂ですら、スイーツ系は砂糖菓子ひとつ販売されていなかった。メニューにあったのは森イチゴなどの比較的安い果物の盛り合わせが精々だったしな。


 これだけ森に囲まれた町なのに、この世界にはミツバチもいないのかハチミツを使った料理も壊滅状態だし、どんなものがどんな形で出てくるのか興味は尽きない。


「ちょっと軽めにこの辺りの店で何か食べてみないか? 調べたいこともあるし、ここは俺が出すから行こうぜ」


「この辺りは貴族の連中も来るという高級店ばかりじゃぞ?」


「そのあたりは問題ないぞ。それに俺が元いた世界だとデートの時は男の方が払うって相場が決まってるんだ」


 絶対に割り勘って人もいるだろうし全員がそうじゃないけど、俺はやっぱりそういうもんだと思ってる。


 それに今の俺の稼ぎだと、多少の高級店でも全然問題ないしな。


「で、デートか。そうじゃな、ではソウマに任せるとするのじゃ」


「この世界の食事マナーは分からないけど。問題ないかな? どんなものが出てくるかにもよるけど」


 テーブルマナーというか、ある程度の決まりくらいはあるんだろうしな。


「特に決まりはないのじゃ。どのような高級店であっても貴族や金持ち相手に何か言えば、どうなるか位は理解しておるようじゃな」


「やっぱりそういうものなのか……。貴族って」


 この世界の貴族は多分に漏れずに残念貴族か?


 地位が人を作るじゃないけど、貴族って人の上に立つ立場なんだからそれに相応しい振舞いや心構えを身に着けるべきだと思うんだよな。粗暴で傲慢な自分を他人に知られて恥ずかしくないんだろうか?


 その点、グレートアーク商会のスティーブンは人の上に立つ人間の見本みたいな人だったな。雰囲気からいえば、あの性格は元からなのかもしれないけど。


「ではあの店などはどうかの? なかなか良さそうな雰囲気じゃ」


「へぇ。外装は豪華過ぎないしいい感じだな。っていうか、あの店の感じって……」


「では行くのじゃ!!」


 木造ではあるけど元の世界……、厳密にいえば日本の喫茶店に近い感じ? ここって異世界なのに? 白うさぎ亭もおかしいと思ってるけど、同じ人間が建てた建築物がまだ結構あるのか?


「いらっしゃいませ。こちらのお席へどうぞ」


 ウエイトレス姿もこの世界の意匠とは微妙に違う気がする。


 白うさぎ亭でもギルドの食堂でもウエイトレスなんて普段着にエプロン姿なのに、ここってファミレスチェーン店みたいな服だしな……。


「ほう。この店はマカロニ料理を取り扱ってるみたいじゃな。わらわでも過去に一度しか食べた事のない珍しい料理なのじゃ」


「マカロニ入り鳥スープに、マカロニの香草オイル炒め……。マカロニがあるのにパスタ系が無いのはなんでなんだ?」


「パスタが何か知らんから答えようは無いの。このマカロニも扱っておるのはこの町ではこの辺りだけじゃぞ」


 並んでるメニューもどことなくだけど元の世界の気配を感じるぞ、やっぱり俺の他にも異世界に飛ばされてきた人間がいると考えて間違いない。ただ、問題がいくつかあるんだけど、元の世界の知識があったとしても塩と砂糖、それに油が入手し辛いこの町では、もし仮に元の世界のレシピを大量に持っていても再現は難しいし、作れたとしても高すぎて売り物にならない。


 その上食文化の違いも大きい。例えば日本では大人気メニューのラーメンは美味しいけど(すす)る文化のなさそうなこの世界には普及しにくいだろうし、普通だとこの世界では入手不可能な調味料や食材も多いからな。


 貴族相手の店だったらいくつかは扱えるんだろうけど、色々苦心してその結果出来上がったのがこのメニューのような気がする。


「ここでもデザート系、甘い系の料理はなしか。果物の盛り合わせはあるけど」


「それが普通じゃな。あるだけでもたいしたものよ、果物も一年中手に入る訳ではないのじゃ。それよりも何を注文するのじゃ? わらわはマカロニ入り鳥スープとパンにするかの。飲み物はワインじゃ」


「マカロニの香草オイル炒めを注文してみるか。これにパンだと主食がかぶる気がするけど……、まあいいか。すいません、注文をお願いします」


「は~い。マカロニ入り鳥スープとパンっと……。こちらがマカロニの香草オイル炒めとパンですね。飲み物はそれぞれワインっと。えっとお支払いですが」


「俺が全部払います。全部で三十二シェルですよね」


「ありがとうございます。できあがるまですこしお待ちください」


 軽食系メニューが十シェルってのも結構すごいけど、パンが一人前で四シェルもするんだよな。もしかして、期待できる?


 にしてもこのクラスの店でもこのメニューが精々か……。


「果物も年中は無いってのはアレだな。あの飴が売れる訳だ……。アイスやクッキーなんて存在すら怪しくなってきた」


「うむ。わらわはソウマの出してくれた、あの冷たくて甘い食べ物やクッキーとやらが大好物になったのじゃ」


 この世界がどうか知らないけど、少なくともこの辺りだとアイスやバタークッキーなんて存在しないだろうしな。だって今まで牛乳すら売ってるとこ見た事ないもん。酒場で定番のミルクの注文すらできやしない。というか、この世界って牛とかの家畜飼ってたりしないのか?


「ヴィルナ。乳製品というか、ミルク系の商品ってないのか?」


「……いきなりそこまで話を飛ばすのはどうかと思うのじゃ。子供は欲しいと思うが、まだその……」


 はい、大・失・言!! この世界でミルク系の話が何を指すのか、一発で理解しました~。


「いや、そのそういう話じゃなくてさ。ただ単にミルクとかのメニューが無いかなと思っただけなんだ。あのアイスもミルクを加工した物なんだぞ」


「なんと!! そうじゃったのか。ミルク……動物の乳を加工した商品はないのじゃ。手に入れる事も困難じゃしな」


「という事はこの辺りには酪農文化が無いのか? 羊皮紙が出回ってるし、羊は飼ってるんだよな?」


「北方の町や村で飼っておる羊は主に毛が目的じゃな。肉を食べる事もあると聞いたが、乳を使うとか聞いた事は無いの。貴族や金持ちの家では乳を搾る為に山羊などを飼う事はあるそうじゃ。その赤子の為にじゃが」


 なるほど、家畜の乳は母乳が出なかったりしたときのミルク対策なのか……。となると、乳製品もない可能性が出てきた訳か。アイスクリームは当然としてチーズにヨーグルト、クリーム系のメニューも全滅? 酪農が一般に行われていないのはこの辺りだけかもしれないけど。


「お待たせしました。マカロニ入り鳥スープとパンです。こちらがマカロニの香草オイル炒めとパンになります。飲み物はこちらに置かせていただきますね、ではごゆっくりどうぞ」


「それじゃあ、食べるとするか。フォークとかスプーンはあるんだよな……。ん、味付けは濃くてうまいな」


 味付けは美味しいんだけど、ほぼ具の無いマカロニの香草オイル炒めをパンで食べる光景は割とシュールだ。パンは柔らかくておいしい、このクラスのパンだったら毎日でも食いたくなるんだけどな。俺は白うさぎ亭のパンでもきつくて、たまに寿買(じゅかい)でおにぎりとか買って食べてるし……。


「見た目以上に美味しいのは確かじゃが、やはり堅苦しくていかんの。こういう料理が好きな者もおるのかもしれんが」


「小洒落てていいとは思うぞ。俺が若い時だったら通ってたかもしれないし」


 彼女を連れて……な。雰囲気はいいし、デートとかにはいい喫茶店だろう。


 貴族とか金持ちでないと、この世界の人間が通うにはきつそうだけどね……。


 まあ、特定の誰かと一緒に、この雰囲気を味わうのも悪くないさ。




読んでいただきましてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ