第四話 ……ここ何処……って、ああ
第四話になります。
楽しんでいただければ幸いです。
「んぁ? ……ここ何処……って、ああ」
どのくらい寝ていたかはわからないが目が覚めた。……って、まだ暗いな。
明かりの無い小屋の中だ。周りもほとんど見えない。
「アイテムボックスから懐中電灯を……って。半透明な画面は光ってるけど明かり代わりになるほどは明るくないな」
半透明なアイテムボックスはうっすらと光ってはいるがそれほど明るいという訳ではない。明かりの代わりになるかなと一瞬思ったけど、これ不思議な事に周りが明るくなってないんだよな。
アイテムボックス自体は暗闇の中でも見えなくはないが、周りを照らすことがほぼないので懐中電灯などの代わりにはならない感じだ。明るいのに光源にならないってどんな仕組みなんだよ……。
仕方がないので収納ボックスに無造作に並べられてる懐中電灯を選んでスイッチを入れる。
懐中電灯だけだと明かりとしては不十分だけど、ここでこれ以上無駄遣いなんてできないしな。
「疲れは完全には抜けていないが、板の上に寝袋を置いただけの状態で寝てるのだからこんなものだろう。今何時……って、こんな状況だとあまり時計は意味がない気がするな」
腕時計を見たら針は二時二十三分を指している。日付は変わってるから七時間近く寝てたのか?
歩いた時間とか経過時間とかそのあたりが分かるだけでも今は十分かな?
しかし、こんな状況で熟睡できるって俺の神経ってそこまで太かったか?
久しぶりの本格的な山歩きで俺が思った以上に疲労してたのかもしれない……。仕事が終わった後だったのも原因の一つかな?
「……やっぱ、夢じゃなかったんだな。これからどうすりゃいいんだよ?」
正直、突然何の説明もなくこんな世界に放り出されるとか訳わからない。普通、何かしら説明があるんじゃないのと思うが、残念ながら俺にそれを教えてくれる親切な存在は居なかったようだ。田舎だけにな。
さて、くだらないことを考えてないで考えを纏めよう。といってもここでの選択肢なんて元の世界に戻る方法を探すか、この世界に永住するか位で、現実的に考えたら元に戻れる方法なんてそう簡単に見つかりっこないだろうし、当面この世界で生きていくしかないんだろう。
現実的といっても全然これが現実に起きてるなんて納得できないけどよ。理不尽が過ぎるだろ?
「とりあえずもう一回夜明けまで寝るか、何かをして時間を潰すかだが、何か暇つぶしというかできる事は……っと」
そういえば、森で採集したキノコとかが結構あったよな。
暗いうちに鑑定とかしてみるか。何かいい物が混ざっているかもしれないし……。
「収納ボックス、収集物(森)、シロヒラタケ、鑑定……」
【シロヒラタケ:キノコ、食用可、無毒】
「これだけ?」
他のキノコ類も殆ど食用可位しか表示されないし、この機能あまり役に立たないんじゃないか?
【モリヨモギ:薬草、食用可、無毒、傷薬の材料の一つ】
【猫牙蔓の実:薬草、食用不可、傷薬の材料の一つ】
「野草系は割と当たりだったみたいだな。一応燃えるかもしれないフォルダ内の野草類もこのまま回収しておこう」
傷薬の材料だったら売れるかもしれないしな……。ん?
何かポップアップ? 寿買アルティメット関連情報サービス?
「なになに……、【お得情報!! 今、寿買ライブラリープレミアムに加入されると、特殊な書籍の閲覧と使用が可能になります? このボタンを押すと三十日お試し期間が開始されます】……だと?」
アルティメットの他にも有料サービスがあるのか……。
で、その寿買ライブラリープレミアムってなんなんだよ?
今回はとりあえず三十日ほど無料らしいけど、面倒な機能は必要ないんだよな。
ライブラリーって事は図書館? 本を読むのも暇つぶしにはなるが。
「とりあえずお試しとやらに手を出してみるか。無駄な機能だったら更新しなけりゃいいし……」
お試し開始を押すと、【寿買ライブラリープレミアム】ってアイコンが作成された。その上にでっかい輪っかが表示されて、そこが少しずつ緑色に染まっていく。
ああ、パソコンとかでアプデとかするとよく見かけるあれか……。
【ただいま機能を追加しています……、各ボックスとのオートリンク作動……】
オートリンク?
なんか本を捲ってるアイコンが延々と動いて……。
【調合が容易なアイテムが検出されました】と表示された。
調合が簡単なアイテム?
【※収納ボックス内にあるモリヨモギ、猫牙蔓の実、キズチチタケと、砂糖、精製水、瓶(二百ミリリットル)があれば【調合】機能で傷薬の作成が可能です】
なぜに砂糖? それに精製水じゃないとダメなのか? 一応薬だからその辺が厳しいんだろうか?
いやいや、っていうかそれより何この便利機能? 寿買ライブラリープレミアムのサービスなのこれ? サービス良すぎじゃない? 錬金術系なこの機能ってどう考えても図書館じゃないよね? でもまあ、今はこの親切機能のお世話になるか。
瓶……、寿買を見たら一番前のお勧め商品にコルク製の蓋つき瓶(十本セット千円)と砂糖(一キロ二百円)、精製水五百ミリリットル(十本セット二千五百円)が売ってるよ。
「商売がうまいな。しかし、この機能は凄く助かる。お試し期間が過ぎたらすぐ本契約しよう」
残金から三千七百円を払って瓶と砂糖と精製水を購入。
宅配ボックスから今買った商品を選択して、モリヨモギなどと一緒に全部【調合】ボックスに突っ込んでみた。
調合中という表示と、パソコンなどのロード画面でおなじみのサークルが動き始める……。
しばらく待つと、【調合完了】と表示され、調合ボックスから材料が消えて代わりに収納ボックスに【調合素材】と【調合完成品】というフォルダが出来た。ご丁寧に二つのフォルダに【!】マークまでついている。
「収納ボックスの調合完成品フォルダ内に傷薬が十本出来た……。鑑定っと」
【傷薬:軽度の傷を即座に治癒可能な薬。飲む場合は全身に僅かな回復効果があります。直接傷にかけた場合は軽度までは即座に治癒可能】
飲むより傷にかける方がメインっぽいな。
材料に砂糖が必要なのは、もしかしてこれ苦いからなのか?
「試しに使うのはもったいないな。これの効果次第じゃ元の世界に持ち帰ったら凄い事になりそうだ」
かけると即座に傷が治る薬……。いろんな状況で活躍しそうだ。
それに元の世界に戻れないとしてもこれをどこかに売れば、この世界の金が入手できるかもしれない。
チャージしている残金はもうわずか一万九千五百円。
手持ちの現金以外でこれを増やせるんだったらその方がいいし。
「他に何かよさそうなものは作れないかな? できれば低コストで売れそうな物で実用的な物……。飴系かな?」
べっこう飴だったら原材料は砂糖と水だけで出来るはず。
ドライフルーツを刻んで入れれば楽しめそうだし、カキ氷用のシロップを少し入れれば色もつけられるしな……。
分かりやすいように収納ボックスに【飴】フォルダを作成して、傷薬で使った砂糖の残りとペットボトルの水一本を入れ、調合ボタンを押してみる。
【※調合結果予測:大きなべっこう飴が作成できますが、型、シロップ、果物などを追加しますと、より使いやすいサイズで美味しい飴が作成できます】
「果物か……、今は屋台で売ってるリンゴ飴とかあれ系が出来ても困るんだけどな……、高く売れるだろうけど。まあ、確かに、型が無いと一キロ近いべっこう飴の塊が出来上がるかもしれないし、流石にそんな大きさの飴が入るようなでかい口は持ち合わせていない」
もしかして、ドライフルーツとかの材料は刻んだものを用意したほうがいいのか?
そこまで加工されて出てくるほど甘くないだろうし……、って、電子レンジとかの電化製品や調理器具も無しに飴を作ってくれるのはもの凄く助かるが……。
「流石。おすすめ商品の一番前に耐熱性の型が並んでる。あと、百均レベルの包丁とまな板……。今回はシロップは見送るか」
いや、この対応の速さはおかしい気はするが、助かるといえば助かるんだよな。
このアイテムボックスを通じてどこかからか俺の事みてんのか?
「お、この業務用ドライフルーツミックスだったら刻まなくてもよさそうだ。包丁もあれば便利なんだろうけど、今は買わなくていいんだったら節約したいし……」
表示されてる型と業務用ドライフルーツミックスで二千円……。
それを購入し、飴フォルダに突っ込運で調合ボタンを押してみる。
【※ドライフルーツ入りべっこう飴が作成可能です。作成しますか?】
「ここで作る以外の選択肢はないよな。ドライフルーツ入りの飴だったら緊急時の保存食としても優秀だし。よし!! 作成開始……」
サークルが表示され、十分ほどで【調合完了】と表示されて、今回は【調合素材】と【調合完成品】のフォルダは作られず、【飴】フォルダ内に完成品と材料の残りが表示されていた。なるほど、個別にフォルダを作ってそこで調合すればいいのか……。
「えっと、完成したのはドライフルーツ入りべっこう飴ニ十七グラムが三十六個か……。ドライフルーツはあまり使われてないからまだ大量に作成が可能だな。追加購入で必要なのは砂糖のみか……」
砂糖は一キロ二百円。
残高は一万九千五百円。
約一割の二千円で十キロ……、十キロ使えば、かなりの量が作成できそうだよな。使用してるドライフルーツは一個で約二グラムだから一袋で五百個までは作成可能なはず。
「よし、砂糖追加購入&べっこう飴追加作成!!」
新しくべっこう飴フォルダを作り、飴フォルダから完成品を取り出してそこに移す。そして購入した砂糖と一応念の為に水をもう一本追加して再びべっこう飴を追加作成。
さっきと同じようにサークルが表示されたけど、進行具合を示す緑色の線が全然進んでいかないな……。
二時間経過。画面にようやく【調合完了】と表示され、飴フォルダの中にドライフルーツ入りのべっこう飴が完成した。
「砂糖十キロで四百個か……。勢い余って作りすぎた気はするけれど、べっこう飴だったら邪魔にはならないだろう」
完成品をさっきのフォルダに移動して、これで合計四百三十六個。
このままだと売りにくいので寿買で見つけた白くて小さな布に六個ずつ梱包したらその包みが七十二個できた。端数の四個を分かりやすいように違う色の布で包んで用意し、これをとりあえず試食&試供品にしてみるか。
残金は一万七千三百円に減ったけど、最悪残りの現金をチャージすればいいし……。
この世界の金を入手するために手札は少しでも多い方がいい……。
読んでいただきましてありがとうございます。