第三十五話 ひさしぶ……。どうしたんだその腕?
新章第九話。
楽しんでいただければ幸いです。
数日ぶりの冒険者ギルドだぜ。ここ数日は塩の生産とか納品という商人ギルドの仕事で忙しかったからなぁ……。確かに実入りも大きいけど、寿買頼みの商売はやっぱり不健全な気はするんだよね。
そういえば指輪の一件以来、ヴィルナが俺に近付いてくる女性に対してあからさまに威嚇行動をとるようになった。白うさぎ亭のリタをはじめ商人ギルドのパルミラにまでもね……。で、彼女たちは俺やヴィルナの指輪を確認すると何か凄い納得した表情で生暖かい眼差しを送ってくるんだけど……。あれなんなの?
「ようルッツァ!! ひさしぶ……。どうしたんだその腕?」
ルッツァの左腕は前腕の真ん中あたりからバッサリと切り落とされ、布で強引に縛り上げられている。まさかこいつが不覚を取ったのか?
「おう、クライドか。ようやく顔を出しやがったな」
「商人の仕事が忙しくてな。で、その怪我は?」
「あのガキどもさ。よりにもよって東の森に剣猪を狩りに行きやがってな、罠仕掛けて剣猪を吊り上げたまではよかったらしいんだが……」
「仕留める前に他の剣猪が襲い掛かってきたらしくてな。吊るし上げていた剣猪も地面に落として、二匹同時に正面から戦う事態に陥ったんだそうだ。で、運がいいのか悪いのか、ちょうど東の森で剣猪の討伐をしてた俺たちの所に逃げてきやがってな……」
あいつらか……。他の冒険者に迷惑かけるんだったら、冒険者になんてなるんじゃねぇ!!
「あのガキどもは?」
「何とか助けられたのはオルネラって女の子だけだった。後の三人は遺体すら回収できなかったよ……。まあ、持って帰れなくはなかったんだがな。とてもじゃないが家族にゃ見せられない状態さ」
ったく、だからあれだけ止められたんだろうが。俺みたいに反則級の武器でもなけりゃ、普通は罠と近接戦闘しないで済む武器……、弓か何かで武装するのが普通だ!! あんな体と木刀モドキで剣猪がどうにかできると思ってたのか?
「ルッツァの腕はその時……、オルネラって子を助ける時に角でやられてね。普段だったらこんな事は無いのに……」
まあ、足手纏いがいると隙がでかくなるからな。おそらく仲間三人失ってパニック状態になった女の子庇って、思わず左手でガードしたんだろう。というか、剣猪の角ってそこまで斬撃能力があったのか? あいつ確か特殊素材の小型盾を左手に装備してたはずだろ?
「まさか牙で盾を砕かれた上に、角の斬撃まで来るとは思わなかったからな。あの盾で防げるって思ってた俺の油断だ」
「……それで、お前はこの先どうするんだ? その腕で冒険者を続けるのか?」
「この歳になっちまったらもう再就職先なんてねえしな。俺が魔法使いだったら割と再雇用先があるんだけど……。今まで貯めてきた金でなんとかするさ」
流石にルッツァでも片手が無いと冒険者家業は厳しいか……。
ん? 四肢の欠損? そういえば再生の秘薬があったな。 ……あれって飲み薬だよな? で、実際に四肢の欠損状態になったとして、どんな感じで再生するのか知っておくのは悪くない。それと再生速度も知りたいしな……。
「ルッツァ、ちょっとこれ飲んでみないか? ああ、金はいいぞ」
「ん? ああ、傷薬か? って、瓶がでかいな。いいのか? 傷薬もたけえだろ? まあ完全に傷も塞がってないし、ありがたいのは間違いないが」
「色もちょっと変わってるよね、傷薬ってもう少し濃い緑色してるよ?」
ダリアは傷薬を知ってたみたいだ。……その薬は傷薬じゃないしな。ホントの事を話したら飲まないだろ?
「それじゃま、ありがたく飲ませて貰うか……、甘っ!! まあ無理すりゃ飲めなくない……っ!!」
「なにこれ? 傷に光が集まって……。うそっ!!」
薬を飲み干した途端、切り落とされた左腕の欠損部位に光の粒が集まって、根元からゆっくりと欠損部位が再生していく。おおっ、あんなふうに再生するのか。なんかこう、特撮とかアニメとかのワンシーンみたいだな。あの再生速度だったらいざってときに十分役に立ちそうだ。
「あの光はこの世界に満ちておる魔力じゃな。それも神聖な力を感じるのじゃ。薬を飲んだ人間の魔力か氣も触媒にしておる可能性はあるの」
「なるほど、あれは周りの魔力を触媒にして四肢を再生させるのか……。光が全身に纏わり付いてるし、他の傷も治ってるぽいけどな」
「ちょっと待て!! 四肢の再生って。あれ傷薬じゃねえだろ?」
ラウロの奴が驚いてるみたいだが、傷薬で腕が生えてくる訳ないじゃん。
「再生の秘薬だ。あの状況で傷薬なんて気休め程度にしか役に立たんだろ?」
「再生の秘薬だ……じゃねえよ!! 再生の秘薬がいくらすると思ってんだ!! 最低でも五十万シェル、王都に持って行けば百万シェル以上は確実だぞ」
他の冒険者も驚いてる。この辺りだと再生の秘薬を使ったのも初めてかもしれないな。
「ルッツァの腕が治ったのは嬉しいけど、私たちそんなに持ってないわよ」
「金は要らないって言ったろ。ルッツァは人助けで腕を失った。俺は人助けでルッツァの腕を元に戻した。ただそれだけの事さ」
しかし一本百万シェルか……。塩売るより再生の秘薬売った方が稼ぎがいい気はするな……。材料費はそんなにかかってないし利益率は多分一番高いはずだ。
「ただそれだけって、お前って奴は……。これは借りとくぜ。すまねえ、これで冒険者を続けられる」
「いいって事さ」
ある意味人体実験だったからな。ん? なんだルッツァの奴アイテムボックスに手を突っ込んで……。
「そうだ!! 金はいいって事だが、代わりに俺が昔手に入れた珍しい物をやるよ。といっても、この魔道具は俺も使い方が分からないんだがな」
「別にいいのに。へえ、ずいぶん小さいな……って、これ!! ライジングブレイブのチャージチップじゃないか……。この刻印はフィニッシュブロウチップ。まさか」
セットアップ用のチャージチップ。まさかこれ、本物か? グッズのマークは無し。その代わりに本編通りにブレイカーズのマーク入りって……。この感じからすると、第五世代の必殺技ライジングブレイクのフィニッシュブロウチップ……。背中に冷たい汗が伝うぜ。これがここにあるなんてありえねえ。絶対にな。
「こ…これ、どこで手に入れたんだ?」
「ああ、八年位前にオウダウの雑貨屋で見つけてな。魔道具っぽいから買ったんだが、使い方も何もわからなくてそのままアイテムボックスの肥やしになってたのさ。クライドはそれが何か知ってるのか?」
「知ってる……、けど、これは存在するはずないんだ。少なくとも、ここには」
この世界はあのライジングブレイブシリーズの世界じゃない。少なくともあのシリーズにこんなファンタジーな世界が舞台の作品はないし、そんな事がある訳がない。
でもそれじゃあどうして? ここが普通の異世界だったら、こんな物が存在している訳ないじゃないか。
なんなんだよこの世界? ここは本当に異世界なのか? そもそも俺の使ってるあの力もいろいろおかしすぎる。
「よかった。それじゃあ、それはやるよ。本当に助かった、またな」
「ああ……、じゃあな」
この世界、……ここが何処なのか、調べる必要まで出てきたな。
魔物と戦う剣と魔法のファンタジー世界ってだけじゃ終わらなそうだ。少なくとも、こんなものが存在する位には……。
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