第三十四話 作れと言われれば作るけど、六万キロの塩なんて何日かかると思ってるんだ?
新章八話になります。
楽しんでいただければ幸いです。
塩、人間が生きていくうえで絶対に欠かせない物のひとつ。暴動や戦争の原因にもなる戦略物資でもあるよな。
で、その塩の入手ルートをこの町に来てわずかひと月程度の俺に丸投げとか、あの商人ギルドや領主は何を考えてるんだろうか?
「作れと言われれば作るけど、六万キロの塩なんて何日かかると思ってるんだ? 前回の十倍。最低でも数日は調合が使えなくなる可能性もあるのか」
【調合で大量生産をしたい方に朗報!! ただいま寿買ライブラリープレミアムではファクトリーサービスを実施中!! 小規模、中規模、大規模、惑星開発レベルと、生産量に合わせたプランをご用意しております】
相変わらず恐ろしい対応能力だ。というか、最初に寿買って名前で出てきたけどこれの正体って絶対にネットショップじゃないよね? 少なくとも俺が元いた世界の寿買にはこんなサービスはない。というかあってたまるか!!
……最後の惑星開発プランってなんだよ? えっと……、ゼロが十三個? 年間十兆円? 国家予算かよ!! えっと、超大型工業機械から各種植物育成プラントまで製作&運営可能なのか? 本気で星を丸ごと開発する為のプランなんだな、恐ろしい。って各種植物育成プラントの製作&運営だけだったらどのプランでも可能なのか?
「でも当然惑星開発プランは却下だな、俺は十兆円も持ってないぞ。で、小規模でどのくらいのレベルなんだ? ……塩の生産力&加工量っと」
【ワンユニット辺りの加工量:小規模プラン、一日五十万キロ。中規模プラン、一日一千万キロ。大規模プラン、一日五億キロ。惑星開発プラン、無制限】
無制限ってなんだよ? 材料さえあればいくらでも作りますってか? うわ、試しに塩の作成方法見てみたけど、俺みたいな面倒な手段じゃなくて、海水から直接塩を作る事も可能なのな。生産してるからこれだと転売にならない訳だ。
まあ小規模で十分だよな。というか個人レベルで何させる気なんだこれ? 五十万キロだぞ? 多めに五グラムで計算しても一億人分の塩だ。
「値段は……小規模で年間一千万円。できる事から考えたら、それでも相当安い設定だよな。中規模が一億で、大規模が百億か……。今の資金が七十万シェルはあるから、七千万円か……。で、今回の塩代がたぶん三億。塩だけじゃなくて他の物も大量生産が可能なのはでかいしな。で、何種類くらい同時開発可能なんだ?」
【小規模、同時十種類まで対応。中規模同時三十種類、大規模同時百種類。惑星開発プラン百万種類】
流石の惑星開発プランも無制限じゃなかったか。小規模の十種類でも十分だな。今の所は塩、飴、回復剤の三系統だけだし、一日で必要量揃う。
「小規模プランを契約っと……。痛い出費だけど、これからいろいろ必要になった時に必ず役に立つだろう」
【小規模プランの契約に伴い、生産可能な物が追加されました。【紙】・【缶詰】・【瓶詰】・【洋菓子】・【和菓子】……………………………・【農作物】・【醸造物】・【工業製品】…………】
リストがものすごい高速でスクロールしていく……って、どれだけ生産可能な物が増えたんだよ!! 早すぎて何が追加されたか見えねえっての。つまりあれか? 工場で作るような商品が色々と追加されたって事? 生産力や加工量じゃなくて、これが本来のファクトリーサービスの機能なのか……。
「とりあえず塩の加工だな。業務用の食用普通塩を二千個、業務用うま味調味料のグルタミン酸ナトリウムを五千個、ミネラル成分豊富な粉末状の岩塩を五千個購入と後は紙袋。これで完成する加工塩が合計六万キロでかかる費用が千二百二十五万円」
三億円に化けるといっても、結構素材の代金も高いんだよな……。まあ、贅沢な考えなんだろうけど。本来は加工する手間賃とかいろいろあるんだから、そのあたりは気にしたら負けだ!!
これで塩は明日には出来上がる。この他にあと九種類は生産が可能って事か。今売ってる他の商品が飴だけだし、お菓子類でも作るか?
【ファクトリーサービスの調合品に関しての知らせ。全ての材料を寿買で用意可能な場合に限り、完成品名を選んで必要個数を選択しますと生産が開始されます。例:薄力粉、バター、卵黄、砂糖で【バタークッキー】生産コスト一枚約八円。※梱包コスト別】
「これ、オプションで木の箱とかに入れたりもできるのか……。本気で工場なんだな……、今回も試しに二十枚入りの箱を五十程作ってみるか」
試しにしては多いってのは分かってるけど、商人ギルドだったら幾らでも買い取っていきそうなんだよな。ヴィルナとかこれ渡したら喜んで食べそうな気はする。試しにあとでひと箱渡してみるか?
お菓子系はこの町で砂糖が入手困難なうちはほぼ鉄板商品だろう。飴やクッキーに飽きられても他の商品を作ればいい訳だし……。
「砂糖が普通に入荷してる王都とかはどうなんだろう? この世界の料理がどんなレベルかは知らないけど、少なくとも元の世界のレベルって事は無いだろう」
色々な企業の努力の結晶と、工場による大量生産で安くておいしいお菓子が売られてるしな……。後は流通能力か、ん? 何か忘れてる気が……。最近暑いし、かき氷でも……!!
「アイスクリーム!! そうだよ!! ファクトリーサービスを使えば、器に盛られたアイスの生産とかもできるんじゃないか?」
【可能です】
問題はコストだ。それに輸送手段か……。飴やクッキーもいいけど、アイスクリームだったらホントに輸送手段がないと、すぐに溶けて終了だしな。
【アイスクリーム:業務用アイスクリーム原液※器代別】
いや、それはどうなの? 業務用アイスクリーム原液を加工してアイスにする訳だからありなんだろうけど、ちょっとずるくない? 一キロ三百円か……、これでアイス作ったらほぼ器代だよね?
「一枚五十円の安いガラスの器と原液十キロ……、これで八十個できる訳か。ひとつ約八十八円……。このうち五十円は器代だけどな」
アイテムボックス持ちか、俺がこのまま何処かに売り歩くしかないのか?
まあ、ヴィルナとかに食べさせるだけって手もあるけどね。
「予算があると、際限なくいろいろ作りそうで怖いな。まあ、この位にしてまた何か考えたら作ってみるか」
ファクトリーサービス。なんかまたひとつとんでもな力を手に入れた気はするな。
この力、本気で使ったら一人で国が作れるぞ? というか予算次第で星を丸ごと開発できそうだし……。
俺が自分の心をキッチリ制御しておかないと、世界を滅ぼす引き金にもなりかねない。ある程度は自重しないとな。
◇◇◇
二日後、無事に六万キロの塩の納入が終わった。朝から晩まで休憩を何度もはさみながら、塩をアイテムボックスから取り出し続けるという苦行の様な一日だったぜ。
あの塩の袋を運び続けたバイトの人は、ほんとにお疲れさん。って、バイトの中にブランの奴も混ざってたけど、ここで使ってもらえるほどには商人ギルドに信用されたのか? 塩の袋を真面目に運ぶ姿をみると、以前の腐ってた時期の姿が想像できない程だ。露店もいいけど、その行動もいい事だよな、商人ギルドに信用されれば、色々と仕事を回してもらえるようになるかもしれないし。
販売価格は四百万シェルなので金貨四十枚。四億円か……。商人ギルドが塩を前回より高く買い取ったのは、高く売れるからなんだろう。これだけ金があれば、無茶しなけりゃしばらくは安泰だな。
読んでいただきましてありがとうございます。




