第三十一話 ルッツァ。何かあったのか……
新章第五話になります。
楽しんでいただければ幸いです。
ニドメック商会が雇っていたチンピラを衛兵の詰め所に引き渡したところ、あの三人組は大銀貨五枚に化けた。
ブランに大銀貨を三枚渡してるから二枚分しかもうけが無いが、ブランが立ち直って立派な商人になる事を祈ってこれで納得しておくか。
「少し遅くなったが冒険者ギルドに行くかな」
「そうじゃな。明日からはしばらく商人ギルドと話があるとか言っておったし、どんな依頼があるか見るだけになりそうじゃが」
昨日の夜、商人ギルドのパルミラが白うさぎ亭で晩飯を食べに来たんだが、その後で俺たちの泊まってる部屋を訪ねてきたんだよな。
どうやら塩の増産を望んでるというか、俺があとどのくらい塩を持っているのか探ってるような気はする。何処かから入手しているんじゃなくて、馬鹿でかいアイテムボックスの中から探してるような印象にしているからな……。実際にはほぼ無限だと思うけど。
よしっ、ようやく冒険者ギルドに付いた……。ん?
「悪い事は言わん、冒険者になるのはやめとけ!! そんな考えで冒険者なんかやってたら、あっという間に死んじまうぞ!!」
ルッツァの声が入り口まで聞こえて来たんだが、またあいつ割と失礼な親切心で要らんお世話を焼いてるのか?
「リーダーの言う通りだよ。あんたらのその恰好で討伐任務なんて無茶だって」
「うるせえな!! ちょっといい武器持ってるからって、俺たちの装備にケチ付けるなよ!!」
「そうよ!! これでもちゃんと戦えるんだから!!」
ダリアも一緒になって止めてるなんて珍しいな。で、続いた声がなんだかすげえ甲高いんだが、もしかしてガキが冒険者に登録しに来たのか? って、子供に登録料の五百シェルは安くねえぞ?
「よう!! ルッツァ。何かあったのか……って、ずいぶん小さいな。こいつら幾つなんだ?」
ルッツァたちの前に居たのは小学生くらいの子供で、男の子二人に女の子二人。手にはそれぞれ棒切れ? 木刀モドキみたいなのを握り、防具は何も身に着けていない。
あれだ、ネトゲとかソシャゲの初期装備でもこれよりましなんじゃないかって格好だ。俺の装備も結構軽装だけど素材の性能は段違いだぞ?
「さあな? お前ら、パパかママにお小遣い貰って冒険者登録ってのは感心しねえぞ」
「俺たちは全員もう十二だよ!! 冒険者ギルドには年齢制限なんてないし小遣いで登録に来たりしねえよ!! ここは持ち込めば買取だけはしてもらえるから、色々納品して登録料を稼いだんだぞ!!」
その割にこいつら初めて見たんだけど、いつ納品に来てたんだ? いつもここの食堂で飲んだくれてるルッツァの奴が、納品に来ていたこのガキどもを知ってるかどうかは知らんけど。まあ、納品に来るだけなら気にもしないか。
「私たちはどんなにつらい日でも森に行って、買い取って貰える薬草とか木の実なんかを集めて全員分の登録料を稼いできたんだから!!」
へえ、冒険者じゃなくても納品はして貰えるのか……。それだと冒険者ギルドに登録するメリット無くない? 別にランキングとかないみたいだし。
それとこいつらは採集目的とは言え、毎日森に行って帰ってこれる実力はある訳か。子供なのに大したもんだな。
「登録をされていない方の納品額は半額になりますけどね。討伐した魔物の素材などの買い取り額も半額ですので、余裕がある方には先に登録をお願いしています。この町は冒険者の数が少ないので、こうでもしないと素材が不足したりするんですよ……」
答えてくれたのはここでおなじみのニコレッタ。それにしても半額って……、えぐいな。まあ登録せずに報酬がもらえるメリットと引き換えだったらそんな物か? それでも割とギルドにボられてる気がするんだが。
「子供でも野草とかだったら頑張れば集められるって事か……」
「子供じゃねえよ!!」
「あのな、子供って言われて気にしてるうちはまだガキなんだよ。俺はリーダーみたいな歳まで我慢しろとは言わねえし、冒険者になるなってまでは言わねえ。でもな、せめて受ける依頼はこの辺りの採集依頼にしとけ。なっ」
いやラウロ、後ろ、後ろっ!! ルッツァとミランダが鬼の様な顔してるぞ……。老け顔で俺よりちょい上くらいに思ってたけど、あいつもしかして俺よりかなり年上だったりするのか?
後できっついお説教確定のラウロが叩いてる依頼書は野草の採集系で、しかも期限なしの物ばかりだ。酷い失言があったが、いい依頼を薦めるじゃないか。
あの辺は集める数が多いから割に合う仕事じゃないけど、討伐依頼を受けられない奴らはあの辺りの依頼を熟していくしか金を稼ぐ手段が無いのも事実なんだよな。何処かで森桃の木でも見つけりゃいいんだろうけど、南の森以外で未発見の森桃の木なんてないらしいし。
「そんなの今までと変わらないじゃないか!! 俺たちは稼がなきゃいけないんだ!!」
「それで死んだら全部終わりだろうが!! お前らの装備でどんな魔物が狩れる? 精々灰色狐か大兎が関の山だろう?」
それ魔物じゃなくて、獣だよな? 灰色狐は普通の狐だけど割と狂暴。毛皮がかなり高く売れるらしく、剣猪や突撃駝鳥を相手にできない冒険者に人気の獣。大兎は超大型の兎で肉が食用になるし毛皮もそこそこ高く売れる。ずんぐりとした可愛い外見をして動きは鈍く、物凄く狩りやすいんだけど殺した時の罪悪感が半端ない。少なくとも俺はこいつを狩るのは遠慮したい。
もしかして、冒険者って討伐対象は全部魔物扱いしてんのか? 剣猪や突撃駝鳥みたいな一応は魔物と、野生動物の獣って全然強さが違うぞ?
「一匹だったら剣猪でも狩ってやる!!」
「お前なあ、何処に罠とか隠し持ってるんだ? そんな装備で剣猪の突撃を喰らってみろ。よくて即死、悪けりゃ死んだ上に死体だってまともな形で残りゃしないぞ」
「そっちの真っ黒なおっさんだって似たような装備じゃないか」
ん? このガキもしかして俺の方を向いておっさんとか言ったか? まだ二十七の俺の事を?
「クライドは冒険者になってまだひと月も経ってねえのに、その装備ですでに剣猪を十匹以上、突撃駝鳥も五十以上仕留めてるんだぜ。討伐数からいえば十分ベテランの域だ」
「嘘だろ……、俺たちが子供だと思って馬鹿にしてんのか? そんな奴いる訳ないじゃないか!!」
そんな奴がここにいるんだけどな。使ってる武器は多分お前らの木刀モドキとはくらべものにならない代物だが。
まあ、この服は鎖帷子以上に斬撃に強いし見た目通りの性能じゃないけど、それを知らなけりゃそう思うよな。
「本当の話だ。今はルッツァやラウロの話を聞いて、おとなしく採集依頼でもしてる方が利口だぞ」
「知らねえや!!」
「ディーノ。受けたよ」
もう一人のガキがこっそりどれか討伐依頼を受けたらしい。期限付きじゃないだろうな?
「よっし!! それじゃあ行こうぜ!!」
「おい!! 待て!!」
あいつらもしかして今から森に行く気なのか?
っていうか、今から森に向かって剣猪見つけてから討伐して、今日中に帰ってこれると思ってるのか? もう昼過ぎてるんだぞ?
「あいつら、どの依頼受けてった?」
「多分この依頼だね。期限なしの剣猪討伐、頭数制限も重量制限もないから、小さいやつ見つければいけると思うんだけどね」
「そんなに都合よくいくと思うか? 生きて帰ってくりゃいいんだが……」
「俺たちがあれだけ止めたにもかかわらず受けちまった以上仕方がないさ。冷たいかもしれないけどな」
ラウロの言う通り、あのガキと俺たちは同じ冒険者であるだけで、俺たちは親でも保護者でもないんだ。奴らが本気で行くつもりなら止める権利すらありゃしない。
「あいつらには高い授業料になるだろうが、できるだけ安く済ませてほしい所だな」
「そうだな」
怪我で済めばいい方だろうけど、そこまで甘くないだろう。
命の取り合いってのはいつでも真剣勝負だ。子供だからって手加減して貰えるほど甘い世界じゃない。
結局、この日はルッツァと酒場で話をしただけで、討伐依頼を受ける事は無かった。
街道に出没していた突撃駝鳥を俺が討伐したので、依頼料の高い討伐依頼が無くなったってのも大きいんだけどな。平和な町ってのは悪くないけど、冒険者稼業だけやってると辛そうだなって思えちまったぜ。
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