第二十七話 魔物の方はやっぱりもう少し強いのか?
ここから新章突入になります。
楽しんでいただければ幸いです。
ニドメック商会の騒動が収まってはや二週間。俺はヴィルナとの約束通りに冒険者として本格的に活動を開始して順風満帆な日々送っている。装備も新調し、上着もズボンと同じ完全防刃仕様の特殊素材のシャツに変えたので見た目以上に超強力だ!! アーマーなんかも全部買い直したら、結果的に装備が黒一色になっちまったけどな!!
これだけの装備でやっている依頼……。言っておくが、冒険者としての活動といっても、採集依頼や納入依頼なんかじゃないぜ。
今受けている依頼は討伐任務で、ここ数日の討伐対象は街道で暴れまわる突撃駝鳥。まあ正確には暴れているというか、こいつらに言わせれば走りやすそうな街道を気持ちよく走り回っているだけなんだろうが、あんなでかい鳥が道でかけっこをしてちゃ、商隊や荷馬車が街道を安心して通れないので冒険者ギルドに依頼が来たって訳だ。
「よし、ヴィルナ、あいつらこっちに来たぞ!!」
「今回の数はニ十羽ほどかの、楽勝じゃな」
俺が手にしているのは最近のメインウエポンのX十七式小銃。あの騒動の時には欠片も役に立たなかったこれが、今となっては討伐任務にはなくてはならない存在だ。
弾代はかかるがそれに見合った威力だし、六百発入るマガジンをセットしているので余程の事が無ければ弾切れの心配がないのも大きい。何より近接戦闘をしなくて済むというのが最大のメリットだ。ゲームじゃあるまいし、あのショートソードがあっても斬り合いなんてまっぴらごめんだからな。
「よし、俺はいつも通り正面から仕留める。群れから逃げたやつの始末を任せた」
「了解したのじゃ!!」
爆走する突撃駝鳥は砂塵を巻き上げながら俺の方に向かってくる。その突撃を見せれば普通の冒険者は馬鹿正直に真正面から戦おうなんてしないんだろうけど、俺に対してそれは無謀だぜ!!
素材の買取などを考えると突撃駝鳥の頭か足を狙うのが最も効率がいいんだが、足は激しく動いているので狙いにくいし、あまり動かない頭も確実に狙うには小さすぎた。その結果普通に胴体を狙うのが最も効率的であると理解したわけだな。まあ、頭を狙えない俺の腕が悪いってのが大きいのは十分すぎる程に分かってる。
「うりゃあぁぁぁぁぁっ!!」
銃口から放たれた特殊BB弾は突撃駝鳥の身体に当たって閃光と共に大きな穴を穿ち続ける。貫通力は無いがストッピングパワーは超強力で、数発も当たれば流石の突撃駝鳥も生きてはおらず、当たり所が悪ければ当然のように一撃死。割と丈夫で死なないと評判の突撃駝鳥が弾を喰らって次々と地面に横たわっていく。
そして群れから離れて逃げようとした個体はヴィルナが斬り刻み、戦闘開始からわずか数十秒で街道を荒らし続けた突撃駝鳥をすべて始末できた。といってもこいつらはただ単に走り回ってただけみたいんなんだが、何のために走っているのかは知らない。
「よっしゃぁ!! 楽勝だな。まあ、こいつらは魔物とかじゃなくて厳密にはただの野生動物らしいけど、魔物の方はやっぱりもう少し強いのか?」
「突撃駝鳥や剣猪は一応魔物じゃぞ? 強いかどうかは魔物化した個体次第じゃな。竜など一部の種族を除いて、殆どの魔物は獣が体内に魔石や魔素を取り込む事で変異した存在じゃからの」
魔石? 魔素? なんだそりゃ?
「その魔石とか魔素ってなんだ? この世界にはそんな物が何処にでも転がっているのか?」
「ソウマもこの世界に来てもうひと月近く経っていよう。まだそんな事も調べておらんかったのか?」
質問を質問で返されたっ!! って、まあ確かにわからない事とかは割とヴィルナに聞いてるから仕方ないかな? だってこの世界の事は色々と詳しそうじゃないの。
「しかたないの……。この世界には魔力が満ちておるのじゃが、その中でも自然界に存在する魔力の事を魔素といい、それが一定の条件のもとで結晶化すると魔石に変わるという事じゃな。人の怨念や邪悪な存在から生み出されたものは禍々しき魔素となり、その禍々しき魔素により形成された魔石は特に危険なのじゃ。その魔石を飲み込んだり、禍々しき魔素を身体に貯め込んだ獣などが人間などに魔物と呼ばれるという事じゃ」
「魔素ってのは身体に貯め込むんだろうけど、魔石を飲み込んでもその……排泄されるんじゃないのか?」
汚い話だけど、普通口から飲み込んだ異物は下から出てくると思うんだよな。
「飲み込まれた魔石は大体胃袋に張り付いて同化しておる事が多いの。じゃから魔物は殺した後で胃袋をまず確認、無ければ心臓か脳の中に魔石があるのじゃ」
「魔素が溜まるのは脳か心臓って事か。その魔石を飲んだら人間が魔物に変わっちまうのか?」
「ふつうの魔素で作り出された魔石や、一度何かを魔物に変えた魔石は安全じゃな。禍々しい黒い波動を纏っておる魔石は危険で、赤く輝いておる魔石は浄化済みかの。あと、知力や精神力の高い人や亜人種を魔物化させるにはある程度……、拳程度の大きさは必要なのじゃ」
なるほど。もとになった魔素によって、魔石には浄化前と浄化後の二タイプが存在するって事と、生物を魔物化させるにはそれに対応した魔石の大きさってのがあるってことか……。やっぱり詳しいじゃない。
「魔素を取り込んだタイプと、魔石で魔物になったケースで変わりはあるのか?」
「魔素が集まりやすい場所に生息する動物で、初めから魔物化しておる種族はいくつかおるようじゃな。先ほども言ったが突撃駝鳥や剣猪も厳密にいえば魔物の一種といえるの。生粋の魔物種としてはスライムが特に有名で、コアを潰したと言われておるのは、魔石を取り出したという意味でもあるのじゃ」
ホントに詳しいな。もうヴィルナ先生と呼んだ方がいい位だ。
「怖いのは魔物化した動物がさらに魔石を飲み込んだ時じゃな。スライムですら様々な変化を起こすのじゃ。超強力な毒を持つスライムや泉の様な大きさに成長したスライムに滅ぼされた街の話まである程じゃぞ」
「取り込んだ魔石の魔力分だけ強くなるって事か……。突撃駝鳥や剣猪が強化された姿を想像すると、ぞっとするしな」
「そのような事があれば、一匹でもあの町を壊滅させるじゃろうて。それほどの力を秘めておるからこそ魔物は恐れられておるのじゃ」
凄いな魔物……。
今のこの装備があってもそのクラスの魔物には勝てない? いや、このトイガンがあれば魔物どころか例の竜もいけるんじゃないか? 一撃必殺のチャージモードもあるし。
「このトイガンの力があれば、魔石を取り込んだ魔物や例の竜にも勝てたりしないか?」
「そこそこ強い魔物は倒せるかもしれんが、魔石まで取り込んだ変異種のスライムやあの竜にはそれを使っても勝つのがまず不可能じゃな。大体ソウマの武器は基本的に人間向けの武器なのじゃ。人間の様にある程度理解力のある生き物であれば、その武器を向けられただけで戦わずに降参する事じゃろうし、戦った場合にはその弾が何処に当たろうとも致命傷じゃろうしな」
まあ確かにそういった面は強い。けどヴィルナの言い草だとそこそこ強い魔物には通用しそうなのか? で、竜には通用しない? なんで?
「魔物には通用しそうなんだよな? 竜ってそこまで強いのか?」
「手強い程度であれば、そこまで恐れられてはおらんのじゃ。生半可な武器ではあの竜に対抗などできはせん。その武器の攻撃は直線でしか飛ばんし、あの竜であればそれを向けられた瞬間に地面の砂や石を巻き上げて身体にあたるのを防ぐじゃろう。威力は異なるが魔法や弓も似たような物なのじゃ、その程度の攻撃が防げん竜など竜ではないわ」
「やっぱり無理そうだな。勝てそうだったら南の森に採集に行けるかなと思ったんだけど」
「やめておくのじゃな。もしあそこに人間の匂いを漂わせてあの竜を呼び寄せた場合、犠牲になるのはソウマだけではなくあの町の住人達じゃ。もし生き残れたとしても、惨劇を生んだ事実は生涯ソウマの心を蝕むじゃろう」
……そうなんだよな。でも、その言い方だとヴィルナはあの村の人を食べる気は無いって聞こえるし、さらに言えばあの町の人が犠牲になる事を心配してる?
やっぱりヴィルナはいい竜なのかな?
「そうだな。百パーセント勝てる力が手に入るまでは、あの森には近づかないようにするよ」
「それが賢明じゃな。あの竜に確実に勝てる力などそうありはせんと思うが」
そこまでなのか?
同じ竜のヴィルナとそこまで力の差がある竜? どれだけ強いんだよ……。
「まあいいや。あの鳥回収してさっさと冒険者ギルドに行こうぜ」
「うむ。あれだけあの鳥を買い取らせれば、しばらく困らないのじゃ!!」
いや、今でももう十分稼いでるだろ?
というか、今まで金に困った事って……、ああ、俺と出会う前の話なんだろうな。ヴィルナは寝てたと言ってたけどどう見ても行き倒れてたくらいだし……。
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