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第二十六話 これで今回の一件は完全決着だ

この話で第一章は終わりになります。

楽しんでいただければ幸いです。




 塩の納品から一週間後。塩の売価を十倍に引き上げたニドメック商会は窮地に立たされているようだ。


 塩の生産が落ち始めた半年ほど前から今日まで、今回の塩の価格引き上げの為にすべての商会を回って塩を集め続け、最終的には馬鹿げた価格で大量の塩を仕入れていたらしいが、その行為が完全に裏目に出た形になっている。


「自業自得とはいえ、あいつらの破滅は完全に見えたな」


「愚か者の末路にはお似合いじゃろう。分を超える何かを求めれば多くの者は破滅するものよ」


「最後の悪あがきも、商人ギルドに完全に読まれてたしな」


 各商会に徹底された購入量の制限、そして購入者がニドメック商会と関わりがあると知れたら販売の禁止が言い渡される。今後の事もあるので奴らの味方をするものはほとんどおらず、今まで奴らとつるんで稼いでいた奴も今回の一件で完全に見限った。


 領主の動きも商人ギルドの予想よりはるかに早く、何の断りもなく領内の塩の価格を十倍に引き上げられた事で頭に血が上った領主から即座に派遣された兵がニドメック商会を見張り、商会員の移動まで制限されている状況だ。


 まあ、塩の値を勝手に十倍に引き上げるという事は、それを買う兵の首も絞める行為だし、下手をすれば自分の領内で暴動が起きていたのかもしれない訳で、領主が激怒するのも当然といえば当然だ。


 領主と商人ギルドから派遣された職員がニドメック商会を調べ上げたら、今まで散々やらかしてきた悪事の証拠が出るわ出るわで、証拠や商会の資金などは即座に没収、ニドメック商会の倉庫の奥に積み上げられていた大量の塩も当然すべて領主に没収され、商人ギルド経由で適正価格での販売が行われている。


 とはいえ、砂の混ざった塩に今更高値を付ける者などいない為、二束三文で叩き売られているらしい。


「しかし、なんであいつらはいきなり塩の価格をいきなり十倍に引き上げたんだ? もっとやりようがあっただろうに」


「タイミングじゃそうな。それに、十倍に引き上げた後、商人ギルドと領主に交渉の場を設けて最終的には五倍程度で買い取らせる算段だったらしいのじゃ。塩の流入量が下がり始めた時から今回の価格引き上げを企んでおったそうじゃが、ソウマがここにいた事ですべてが破綻したわけじゃな」


「へぇ、よく知っているな。どこで仕入れた情報なんだ?」


「ここの看板娘のリタじゃ。先日の件を気にして訪ねてきたパルミラから、今回の騒動の顛末を聞いたそうなのじゃ」


 パルミラは商人ギルドの職員だろうけど、何でそこまで知ってるんだ? もしかしてニドメック商会にガサ入れした職員の中にパルミラもいたのか?


 今までも評判は最悪だったけどそれでも商売は出来てたのに、今回の件で町の住人にも領主にも相当恨みを買ったそうだし、やっぱりニドメック商会はもう完全に終わりだな。


 ん? ドアがノックされた? 今日は誰とも会う約束はしていないんだが……。


「すいません、あの、クライドさんにお客様がお見えになっているんですが」


「俺に客? 商人ギルド関係ですか?」


「いえ……、グレートアーク商会のスティーブンといわれる方なんですが。お会いになりますか?」


 グレートアーク商会って、ニドメック商会のバックじゃないのか? というか本当に俺の方に接触して来やがった。


 穏便に今回の件で話し合いに来た? ありえない。まあ、少なくとも世間話をしに来たんじゃないのは確かだよな。


「どうするのじゃ? 追い返すのも手と思うのじゃが」


「いや。会おう。向こうの考えも知りたいし、それに逃げたところで俺たち位すぐに捕まえるだけの力を持ってるだろ」


 あれから割と詳しく話を聞いたが、明らかな犯罪行為を行っているニドメック商会と違って、グレートアーク商会がしているというのは単に規模がデカい商売だ。まあグレーゾーンの商売も多かったが。


 傘下の商会が潰された件で言いたいことがあるかもしれないが、こっちも言いたいことは山ほどあるからな。


「では、先日の部屋を用意しておりますので、そちらにお願いします」


「分かりました。それじゃあ、行こうか?」


「護衛は任せておくのじゃ。なに、怪しい動きをすれば即座に切り捨ててやろうぞ」


「頼りにしてるぞ」


 俺も腰にトイガンを下げてるし、いざという時はあの剣もある。大人数で押し寄せてきても例のトイガンも使えるように準備済みだ。


 これだけの武器を揃えていれば、一方的に攻撃される事は無いだろう。



 ◇◇◇




 例の部屋に出向くと、そこにはリタにスティーブンと名乗った男と、もう一人女性が座って待っていた。


 周りにも怪しい気配は無し、どこかに何か潜ませてるかと思ったけど、本当に何もなさそうなのがかえって不気味だ。


「初めまして、私が鞍井門(くらいど)です。彼女はヴィルナ」


「よろしくなのじゃ」


「俺はグレートアーク商会で頭をしてるスティーブン。こっちは秘書で副頭取のリリアーナだ」


「よろしくお願いします」


 驚いた。こいつがグレートアーク商会の頭?! どうしてそんなやつが直接乗り込んでくる?


 考えろ、グレートアーク商会がニドメック商会に卸していた商品と、奴らの関係を……。


 奴らが扱っていた商品は砂糖? ……なるほど、そういう事か。


「私を訪ねてきたって事は、ニドメック商会の一件。それで間違いないですね?」


「ああ、その通りだ。あの馬鹿……、ニドメック商会の頭であるダルダーノは塩の独占と不当な価格の吊り上げの罪で処刑が決まった。まあ、妥当な処分だと思うが、その件でな……」


「いずれ裏切る手下でも、傘下にいるうちは身内って事ですか?」


 スティーブンの表情が変わった。


 なんだろう、怒っているようにも笑っているようにも見える微妙な顔だ。


「いずれ裏切る……、か。どうしてそう思った?」


「砂糖ですよ。ニドメック商会は俺を攫ってでも砂糖の入手ルートを確保しようとしていた。グレートアーク商会から特別に砂糖を卸して貰っていたんだったら、これは重大な裏切り行為だ。ニドメック商会がグレートアーク商会に筋を通すならば、たとえそれがタダで道に落ちていても……、それこそ砂糖がなる木を何処かで見つけたとしても、()()に手を出すような真似はしてはならない」


「まあ、そういうこった。奴らは俺を裏切って禁断の果実に手を伸ばしちまった。だがまあ、砂糖の入手ルートは限られているからな。こんな物を見つけりゃ、よからぬ事を考えるだろうぜ」


 スティーブンがテーブルに置いた包みの中には俺が売った飴が二種類、五個ずつ並んでいた。


 何処から幾らで入手したのかは知らないが、これを簡単に手に入れられるルートや伝手を持っているって事だな。


「それはただの飴ですよ。野心を抱く者には、黄金に見えたのかもしれませんがね」


「そういう事だ。まあ、あいつはこれの存在を知り最後のタガが外れた。もう少し慎重に事を運び、塩を武器にこの町を支配する予定だったみたいだったが」


「あんな雑な計画、すぐに破綻しますよ。他の商品でしたらともかく、塩は生きていく上で必要不可欠な物。本当に窮地に陥れば領主の兵が今回の様に乗り込んでくるか、市民による倉庫の打ち壊しが行われただけですよ」


 他の商品……、代替えが可能な商品の値を吊り上げる場合はそうではないが、塩や主食である小麦類を買い占めたらどうなるか、馬鹿でもわかる事だ。


 日本でも昔、米の買い占めを行った際に打ち壊しが行われているし、買い占めていい商品とまずい商品の区別位はつけておくべきだ。


 どんなものでも買い占めは歓迎されない行為としても、最低限のルールってものはあるのさ。


「その通りだ。あのバカにはそこが分からなかった。本来ならば俺がこの手で始末しなけりゃならないところだったんだが、面白そうな状況を眺めてたら最終的にあんたの手を煩わせちまったな。で、今回の一件、これで手打ちにしてほしいんだ」


「こちらです。お納めください」


 差し出された大きな革袋に収められていたのは金貨だった。それもパッと見た限りでも百枚以上ある。日本円で十億以上をポンと差し出すのかよ……、流石は国以上の力を持つ大商会の頭だ。


「あの塩を入手したのはあんただろ? 何処から仕入れたか知らねえが、緊急時にあれだけの量を用意するのがどれほど難しいか、俺はよ~く知っている。商人ギルドからも貰っているだろうが、これはその塩の代金と迷惑料みたいなものだ。取っておいてくれ」


 迷惑料はともかく、塩の代金ね……。


 このままじゃこれは受け取れないな。


「受け取れません。あの塩は商人ギルドに適切な価格で販売した商品でそこで代金をいただいています。それに対して追加で何処かから金を貰うのは筋が通りません」


「迷惑料も含めてあるんだがな」


「でしたら、これを一枚貰ってもいいですか? あいつらにかけられた迷惑料ですと、これでも十分すぎます」


 袋の中から金貨を一枚だけ抜き出した。これでも一千万だし、今回の売り上げの三分の一の額になる。


 それに、今の俺の懐には、あの金貨の袋は重すぎだ……。


「それだけでいいのか? 迷惑料で袋ごと全部持って行ってもいいんだぞ?」


「十分すぎますよ。それに、今回の件で私もかなり稼がせてもらいましたので」


「フ……、はははははっ、こりゃいい。あんたはあのバカが敵う相手じゃねえよ。これだけの金貨を目の前にしても欠片も動じねえなんてな。普通の奴なら這いつくばってでもその袋を手にしようとするだろうに、あんたはそいつらとは器が全然ちがわぁ。それじゃあ、これで手打ちって事でいいな?」


 スティーブンは右手を差し出し、俺は何の疑いもなくそれを握り返した。


「それではこれで手打ちですね」


「俺がこの手に何か仕込むと思わなかったのか?」


「その時は私の人を見る目が無かったって事ですかね。でも、そんな筈がありませんし」


「本当に器のでけえ奴だな。気に入ったぜ、何かあったらグレートアーク商会を頼りな。いつでも力になる」


 そういうと軽く手を振り、スティーブンは秘書のリリアーナを引き連れてそのままあっさりと白うさぎ亭を後にした。


 なんというか、流石に大商会の頭だ。引き際も見事だし、器もでかいな。


「これで今回の一件は完全決着だ。明日からは冒険者ギルドで依頼を受けるぞ」


「待ってましたなのじゃよ。これでようやくわらわの力を存分に振るえるのじゃ!!」


 この一週間、血迷ったニドメック商会のチンピラが何をしでかすかわからないので、商人ギルドからの要請で白うさぎ亭に軟禁状態だったからな。


 宿の周りも商人ギルドが雇った冒険者の厳重な警備が行われていたし、その中にルッツァたちがいた気がしたんだが、見間違いだったか?


 軟禁中やる事が無いからいろいろ調合を試したり、商品を増やしているんだが冒険者をしている時に役に立ちそうな物もすでに多数ある。アレがあれば、今すぐにでも商人としても活動出来るぜ。


「とりあえず今日は休んで、明日から本格稼働だ!!」


 まあ、この一週間も休みみたいなものだがこんな時間から冒険者ギルドで依頼を受ける訳にもいかない。


 とりあえず明日、装備を整えて冒険者ギルドに向かうかな。




ここまで読んでいただきましてありがとうございます。

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