第二十五話 ああ、気にしないでください。些細な事ですよ
本日更新分で第一章の連続投稿終が終わりとなります。
第一章最終話の更新は十一時です。
楽しんでいただければ幸いです。
翌日の夕方。商人ギルドの倉庫内には俺とヴィルナ、それにミケルとギルマスのダニエラの四人が揃っていた。後、何故かパルミラもいるから倉庫にいるのは全部で五人だ。ただのいち職員に過ぎないパルミラがなんでいるの?
昨日まで倉庫にはいろいろな商品が保管してありそこまでスペースは空いてはいなかったが、今日の為に幾つかの商品を倉庫の隅に移動させて広いスペースを確保したらしい。あ、あの端に積んである大量の毛皮ってもしかして……。
「それで、塩の方ですが……」
「はい、必要な量を確保できました。これは見本ですが……」
アリスパックからニ十キロ入りの塩の袋を取り出した。あの後に気が付いて見本用にもう一袋つくったんだよな……。
三十キロが重すぎるのか、完成した加工塩の袋にはニ十キロの塩が詰められており、この世界の文字で塩ニ十キロとデカデカと印字されていた、いい仕事だよ。大量に購入したからかもしれないが、ホントにサービスがいい事だぜ。
「これは……紙ですか? こんな立派な物に入れられるとは驚きです。中の塩も混ざり物の無いきめ細かな良い塩ですな。すごいですよクライドさん!! この品質ですと、絶対にニドメック商会の扱っている塩には負けません!!」
「ああ、あんな商売をする奴らですし、あいつらはやっぱり塩に砂か何かを混ぜてますか?」
「かなり割合は少ないですが、混ぜているのは間違いないでしょう。あのレベルの砂は混ざっている事もありますが、偶然というにはあまりにも多すぎますので」
やっぱり砂を混ぜて嵩増しさせて売っていたか。あんなアコギな売り方をする商会が、まともな商いしてる訳ないもんな。
あと、流石に今回の納品をする上で俺の能力についてもある程度は知られてしまうだろうな。
まあ収納能力のアイテムボックスの件だけは仕方ないとあきらめる。頭の中で操作できるようになったし、この世界のアイテムボックスとそこまで変わった事は無いだろう。
「しかし、お主は塩を持ってきたといっておるが、これ一袋では話にならんぞ?」
「まあ、御察しの通り俺はアイテムボックス持ちですよ。でなければ、あの量の塩を持ち運んだりできません」
「それは凄いですね。アイテムボックス持ちの行商人は希少ですが、どこの商会でも引く手あまたですよ。もしこの町で腰を据えて活動される場合は、信頼できる商会を紹介できますが」
何の冗談だよ。しょうかいかぶりも含めてな。
どこかの傘下にはいったら、使い潰されるだけに決まってるじゃないか。やるんだったら自分で旗揚げするさ。
「商会という事でしたらそのうち自分で立ち上げますよ。それに冒険者でもありますから、商人ばかりしていられませんし」
「いや……勿体ない。クライドさんが冒険者稼業で怪我などされたらこの町、いえ、この国の損失ですよ」
「無茶を言うでない。男にはな、賭けるべき時と場所があるもんじゃ。生涯を冒険者で過ごすもの、商人として過ごすもの、幾つもの道を行き、その多くで足跡を残せる者もおる。おそらくクライドは最後の道をゆける者じゃろうて」
「ギルマス。クライドさんを呼び捨てはどうかと思いますが」
「ああ、気にしないでください。些細な事ですよ」
あんな爺さんだったら呼び捨てにされてもそこまでいやな感じがしないのは不思議だ。
流石にミケル位の歳だと微妙だけどな。
「それでは塩はここにお願いできますか? で、どの位の量が用意できましたか?」
「いくらで買い取っていただけるかも重要なのですが……」
原価を割ることはまずないだろう。
しかし、それでも安値であれだけの量の塩を売るわけにはいかない。取引で大赤なんて叩き出したらあのクソ商会に負けた気分になるしな。
「一袋ニ十キロ入りですよね? 今回は緊急時なのであまり値が付けられないのですが、一キロ五十シェルで一袋千シェルでいかがでしょうか?」
「緊急時です、こちらも無茶は言わずにその値で卸しましょう。三百袋まで用意できますよ」
「さっ……三百袋!! この袋分の塩三百袋ですと合計六千キロですよ!!」
「ほほう、それだけあればニドメック商会の市場を完全に潰す事が出来そうじゃな。買い取り額は三十万シェルか。まあ、払えぬ額ではないが、最低でも大銀貨の支払いになるぞ」
六百万円分の銀貨を前回受け取ってるから仕方ないのか? まあ、そのうち二百枚は既に突っ込んじゃいるけど……。
それに早い段階で寿買での大銀貨の価値を調べておく必要がある。
今回の支払いの件でミケルにざっと説明されたが、この世界全体の通貨基準はこんな感じだった。
一シェル=銅貨一枚=百円
十シェル=大銅貨一枚=千円
百シェル=銀貨一枚=一万円
千シェル=大銀貨一枚=十万円
一万シェル=小金貨一枚=百万円
十万シェル=金貨一枚=一千万円
百万シェル=大金貨一枚=一億円
日本円での価値は予測だが、この世界の通貨の価値からしたらこうなる筈だけど……。こればかりはチャージするまでわからない。
「出来れば半分くらいは金貨でお支払いできればと考えております。金貨二枚、大銀貨百枚でいかがでしょうか?」
「分かりました、それでお願いします。ではここに塩の袋を出しますね。あ、数えやすいように出しますので確認お願いします」
「了解しました。パルミラ、倉庫整理で雇っていた男を呼んできてくれないか?」
「すぐに呼んできます!!」
俺が塩をアイテムボックスから取り出して目の前に置いて、次々と出現するその塩を確認しているのがミケルだ。そして、呼んできた五人の男にその塩を移動させるように指示を出していたのはパルミラだった。
ミケル達が俺が出した袋を確認した後、呼ばれてきた男たちが指示通りに塩の袋を積み上げてゆく。ご苦労さん……。
……昔肉体労働系のバイトで似たような光景を見た事があるが、結構きついんだよな、あれ。
「……三百!! これで全部ですね。お疲れさまでした!!」
「お疲れさんっす。やっと終わったぜ……」
「どんだけでかいアイテムボックスだよ……、全員呼ばれたからすぐ終わると思ったんだがな……」
「あなたたちにも後で追加報酬くらい出します。さ、しばらく休んだらもうひと仕事ですよ」
「そんな~。今日はもうしまいにしてほしいぜ……」
汗まみれになった男どもは文句をいいながらも別の場所に向かっていた。まだ移動させないといけない商品でもあるのか?
と、積み上げられていた塩の袋の山を見ていたミケルが近付いてきた。こいつも完全に商売人の顔になってやがるな。
「ありがとうございます。では支払いはあの部屋で……」
「分かりました。よろしくお願いします」
その後、ギルマスの部屋で光り輝く金貨と二回り以上でかい銀貨を百枚受け取った。
これで三十万シェル、約三千万円か……。
「これだけ塩の量があれば、ニドメック商会が十倍で売ろうにも一粒たりとも売れないでしょう。それどころか奴らの倉庫に積み上げてある砂を混ぜた塩など、この先も売ることなどできないでしょうな」
「ひとつ心配な事がありますが、今回売り出した塩をニドメック商会がまた買い占めたりしないでしょうか? その位の資金は持っているでしょう?」
「そのあたりは考えがある。儂らもやられっ放しではおらんわ」
ダニエラの目が商人の目ではなく、狩人の目になっている。
今まで商人ギルドにも属さずに好き勝手やってきたであろう相手だ、この機会にキッチリ絞めて同じ真似をする奴が出ないようにしたんだろうな。
「飴の方は、また必要になりましたら連絡ください。しばらくはこの町で活動すると思いますので」
「はい、その時にはよろしくお願いします」
ミケルが差し出してきた手を握り返した。この世界にも握手の習慣があるんだな。
「心配事があるとすれば、グレートアーク商会が動いた時じゃな。奴らが動いた場合、最悪この町ごと潰されかねん」
「そんなに力を持っているんですか?」
「奴らの持つ資金力や軍事力はこの国……いや、周りの国をいくつか集めても及ぶ者がおらんじゃろう。もちろん国王様や領主様も含めてな」
たまにあるよな、そういう組織……。
大きくなり始めた時に対応を間違えると、もう手が付けられなくなるってパターンか……。
「……もし接触してきた際には、慎重に対応しないといけませんね」
「そうして貰えると助かる。奴らが接触してくるとすれば、儂らよりもお主の方が可能性としては濃厚じゃ。儂らなぞ奴らにとっては取るに足りぬ存在じゃろうて」
「情けない話ですが……、グレートアーク商会クラスになりますと、流石に商人ギルドでも相手にならないのです。まあ、他の非加入商会と違って、奴らは悪事にそこまで手を染めたりしないのが救いですね」
「あまり安心できる要素が無かったんですが……」
でかい組織だったら多少は合法スレスレどころか、確実にアウトラインに踏み込んだ商売もしているんだろうからな。
まあ、そんな相手について今からあれこれ考えても仕方がない。目の前に起きてる事を片付けるだけさ。
とりあえずあのニドメック商会は絶対にぶっ潰す!!
読んでいただきましてありがとうございます。