第二十二話 この町には治安維持の衛兵とかいないのか?
連続更新中、今日は少し短めです。
楽しんでいただければ幸いです。
敵もさるものというか、ミケルが言っていた商会の手下と思われる男が白うさぎ亭へ乗り込んできた。正確には手下というよりは雇った無法者といった感じか? 商会に所属する身内だと後でこんな行為がばれた時に面倒だからな。
しかし、ミケルが来たその日のうちに来るとはな……。あいつらの仲間がミケルの後を付けたのか、それとも別の情報源があるのかは知らないけど、大した奴らだ。
「ここにクライドという奴が泊まっている事は分かってるんだ!! このまま出さないつもりなら、こっちにも考えがあるぞ!!」
あれだけ騒がれたら二階に泊まっている俺にも馬鹿が押しかけてきたのが手に取るようにわかる。一応腰のホルスターにトイガンをセットして、何かあったときの為に階段の陰から様子をうかがう事にした。
乗り込んできたのは三人組の男。ちょっと体の線が細いリーダー格と、ガタイのいいデブ、なんで連れてきたのかわからないチビの三人組だ。
あのチビが魔法使い……には見えないし。もしかしたらああ見えて機転が利くようなタイプなのかもしれない。その確率は万馬券以上だと思うが。
「お客様の情報は教えられません。それにもし仮にうちに泊まられている方だったとしても、約束も無い方の質問に答える必要はありません」
ああ、一応商人ギルドの件は俺もあの受付に伝えてたし、朝の話し合いの後に聞いたらどうやらパルミラは彼女のいとこで、パルミラが俺にここを薦めた理由も今はこの白うさぎ亭が暇な時期だからという事らしい。
当然顔見知りだし信用できるので今朝取り次いでくれたようだが、ミケルがパルミラを連れてきた理由というのはその為という事だな。もう一人のフィオーレは美人局というか、俺を釣る為の餌だったっぽいが。そんな事より、今はあの下種どもをどうするかだが。
「仕方がねえな。おいボルセ、この女に少し痛い目をみさせてやれ」
「わかりやした。へっへっへ……、おいホセ。この女を押さえろ」
「ふははっ、強情なお前が招いた結果だぜ……」
力ずくってわけか、感心しない商会と下種どもだな。この辺りで止めておくのが得策か。俺の我慢もそろそろ限界だしな。
「おい!! ずいぶんと躾がなってない野良犬が騒いでるみたいだが、どこの森から迷い込んできたんだ?」
「なんだと!! 貴様……。ほう……その恰好、もしかしてお前がクライドか?」
「少しは頭が回る野良犬だな。お前が何の話をしに来たのかは知らんが、そんな行動に出る奴と取引する奴がいると思うか? 用件は聞く必要もない、とっとと帰んな」
どんな商会かは知らないが、こいつらをよこした時点でお里が知れる。
紳士的に話し合いを持ち掛けてくれば、俺としても少しくらいは便宜を図ってやってもよかったんだが。
「力ずくで攫ってもいいんだぜ? おい。多少痛い目に遭わせてもいいが、殺すなよ。腕か足の一本位なら構わねえけどよぉ……。隣の女もついでだ。あんないい女は後でたぁっぷりと可愛がってやらねえとなぁ……。うひょっ、うひゃひゃひゃひゃっ」
「死なねえ程度に痛めつけてやるよ」
「覚悟するんだな……」
いやまあ、デブとチビがなんか勝ちを確信して向かってくるけどそこまで強そうに見えないんだけどな? それに、こっちも二人なんだが……。こいつら馬鹿じゃね?
「ヴィルナ。殺すのは無しだぞ」
「ソウマこそ大丈夫なのか? で、どっちがいいのじゃ?」
流石にこの程度の奴らだったらどっちでも構わないんだがな。デブの方が少し強そうだし、こんなデカブツをヴィルナに任せたらうっかり殺してしまう可能性もある。何せ猪によく似てる不細工な面だ、この前の技で斬り刻みやすそうだからな。
「じゃあデブを俺が。余り物で悪いがチビを頼めるか?」
「ほう…、お手並み拝見じゃな」
「何くっちゃべってやがるんだ!!」
「なめんなよ!!」
都合よく俺にデブ、ヴィルナにチビが向かってきた。まあ、何も知らなければか弱そうなヴィルナの方にチビを仕向けてくるんだろうけど……。知らないって怖えよな。
身体がでかい奴っていうのはそのアドバンテージを生かせば強いが、なまじっかそのパターンで勝てる事が多くなるから割と隙もでかい。それに動きも遅いし……。少しなまってるとはいえ、流石に俺の敵じゃねえな。
「もう少しダイエットして来な。……っと!!」
「がぁあっ!!」
油断していたデブが無造作に俺の襟首を掴もうとしてきたので、その手を逆に掴んで投げ飛ばしてみた。ここの床は堅いから背中から叩きつけたけどそこそこダメージが入るだろう。まあ、トドメに腹に膝も落とさせてもらうが。
ほほう、アレを喰らっても気絶はしていないようだが、これだけダメージを受ければしばらく戦力にはならないぜ。しばらくそこで蹲っててもらおうか。
「なっ!! なんだと!!」
「ほれ、これもおまけじゃ。この者を連れてとっとと立ち去るがよい」
ヴィルナも一瞬でチビを無力化した。ヴィルナがあのチビに放ったのは軽い打撃だったけど、その一撃でチビは完全に白目をむいている。ご愁傷様。
まあ、ヴィルナと戦って命があるだけで感謝して欲しい位だ。
「という事だ。何の交渉か知らんが完全に決裂したな。もう二度とその不細工なツラを見せないでくれるとありがたいんだが」
「クソっ覚えてやがれ。ニドメック商会を敵に回してこの町で商売ができると思うなよ!! おい起きろ!! お前はそこで寝てるボルセを担げ」
「いててて……。わ…わかりやした」
リーダー格の男はデブに蹴りを入れて無理やり立たせると、そいつにチビを背負わせて急いで白うさぎ亭から飛び出した。
なんというか、徹頭徹尾三下の雑魚っぽい行動だったな。
「すまない。俺が泊まってたせいで迷惑をかけたな」
「いえ、私こそ何もできませんで、お客様であるクライドさんにご迷惑をおかけしてしまいました。こういった事はうちが対応しないといけない事なんですが……」
「治安の良さそうなこのあたりで、あのような事が起こるのは滅多にないんじゃろう?」
「はい。ここに白うさぎ亭を建ててからおそらく初めてですね……。以前にあんな事があったなんて聞いた事も無いですし」
あんな事とは、暴漢が押しかけてくる事だろう。
というかこの辺りの警備体制はどうなっているんだ? そこまで長くはなかったとはいえ、衛兵か何かがきてもおかしくはないと思うんだが。
「この町には治安維持の衛兵とかいないのか?」
「いるにはいるんですが、大商会の周辺とか貴族が多い場所の巡回しかあまりしていませんね。うちがあるんでこの辺りは割と見回っていると思いますが、今日はたまたま運が悪かったというか」
「流石に交番というか衛兵の詰め所とかはないのか……」
日本の交番システムはかなり優秀だからな。
この町を治めている領主がどれくらいの規模で兵を抱えているのかは知らないが、この割と大きな町の隅から隅まで衛兵を配置するのはいろいろ無理があるだろう。
「それより、ソウマもやるではないか。惚れ直したのじゃ!!」
「相手も油断してたからな。何をしてくるかわからない相手にあの動きは無い。そんな事よりあいつらニドメック商会とかいってたな。ちょっと商人ギルドに行ってミケルに奴らの情報を貰おうかとおもうんだが」
「それは良い手じゃな」
「少し後……、行くのは二時間後だな。ちょっと考えがあるんだ」
今からあのイチゴ飴を追加で調合すれば、二時間で必要量はそろう。
先に商人ギルドに全部引き渡してもいいし、半分だけでも卸せばある程度の資金は確保できるからな。
売られた喧嘩は高値で買ってやるよ。その為にはあいつらを叩き潰す軍資金が必要だろう。
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