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第十九話 本当に強かったんだな。動きがほとんど見えなかった

連続投稿継続中

楽しんでいただければ幸いです。



 石胡桃(いしくるみ)が採れるという東の森。


 俺がこの世界に送り込まれた時に居た南の森が密林だとしたら、この東の森は日本の一般的な山というか、割と綺麗に整備されている森といった所か。こんな感じだったらもう少し楽だったのに……って、ここには剣猪(ソードボア)がいるから安全な場所だとそいつがいる可能性があるな。ヤッパダメダメ、あの森だったことも結果オーライさ。


 この森に入ったばかりの場所は割と開けているので、剣猪(ソードボア)が近付けばすぐに気付けるだろう。いきなり襲われると怖いしね。


「この辺りの木は等間隔で伐採されてるし、野草は採り尽くされてるな……。木の枝すらほとんど落ちてないぞ」


「浅い場所までならば煮炊きに使う薪を採りに来る者がおる位じゃ。この辺りまでは流石に獣も寄り付かんからの。人の縄張りに入り込むほど獣も馬鹿ではない」


「森であっても人の領域というか、まだここは森の獣の縄張りじゃないって事か。まあ、今から俺たちはその獣の縄張りに入り込む訳だけど」


 日本でも市街地まで野生動物が下りてくる理由の一つに、こういった境界があいまいになってる部分もある。


 お互いのテリトリーに立ち入らなければいいのに、お互いが無意識に双方の領域に足を踏み込むから悲しい事故が起きるんだよな。まあ、餌が無くて山を降りてくる場合はどうしようもないが。


「確かに石胡桃(いしくるみ)が生っておるのはこの森のかなり奥……。当然、獣の縄張りじゃ」


「不幸な出会いが無い事を祈るだけだ。お互いにとって……な」


 猪には猪の言い分があるだろうけど、そこに俺たちの必要な物がある以上、はいそうですかとそれを聞いてやれるほどお人好しじゃない。


 出会えばどちらかが引き下がるまで命のやり取りさ……。


 とはいえ、今はピクニック気分というか、ヴィルナと他愛のない話をしながら森の奥へと進んでゆく。奥へ進むほど木の密度は増して野草の数も桁違いに多くなったけど、それでも最初に送り込まれた場所よりはましだよな。


 ヴィルナにいろいろ聞きながら野草なども採集するが、この辺りにはまだ収穫ができるような石胡桃(いしくるみ)は生っていない。


「野草ゲット!! と……、そういえば、この森で一番厄介なのは剣猪(ソードボア)なのか?」


「詳しくは知らんの。わらわとて何でも知っておる訳ではないんじゃ」


「ま、そりゃそうか。例の竜がこの辺りの最強として、竜以外で強い獣か魔物ってなんだ? あの町周辺でいいんだけど」


「強い魔物……、十年ほど前は北の森に黒色鮮血熊ブラックブラッディベアが出現して大騒ぎじゃったと聞いたの。最近の事は知らんが」


 黒色鮮血熊ブラックブラッディベア……、熊もいるのか。


「後は西の森の奥に森獅子(フォレストレオ)がおる位じゃったかの。奴らは南の森に寄り付かん時点でお察しじゃ」


「竜がいたら逃げるレベルか……。むしろ熊やライオンが逃げ出すレベルって、やっぱり竜は凄いんだな」


「個体差も大きんじゃが……。それよりもじゃ、あの剣猪(ソードボア)はこっちに気が付いたようじゃな」


 俺たちのいる位置から五十メートル? そこに見える剣猪(ソードボア)(サイ)(いのしし)を足したようなフォルムだな。というか、どう考えても猪ってサイズじゃないぞあれ!!


 その場所で剣猪(ソードボア)が前足で地面を掻いていた。あれって確か猪の威嚇行動……。


 やっぱりこっちに突撃してきた!! 森の中なのにあの巨体でなんて速度だ……。


無衝炎斬(ブレイズ)!!」


「まあ見ておるのじゃ。ここはわらわが……」


「え? 消えた? っ!! 急に血の匂いが!! ヴィルナは猪の周りを斬撃を加えながら高速で舞っているのか?」


 俺の隣から消えたヴィルナが突進してくる剣猪(ソードボア)の周りをふわりと舞い、そして何度か軽く手を払っただけで剣猪(ソードボア)は斬り刻まれながら地面を転がった。その瞬間辺りに巻き上げられた腐葉土の匂いと。濃厚な血の匂いが辺りに漂いはじめた。


 わずか一瞬ではあるが、少なくとも三十回以上は剣猪(ソードボア)の身体を斬り刻んでるだろう。なるほどね~、色々言うだけの実力はあるって事だよな。


「本当に強かったんだな。動きがほとんど見えなかった」


「まあ、森の獣程度こんなものよの。……ソウマにはわらわの動きが見えたのか?」


「少しだけな。しかし言うだけの力を持っていたんだな。流石にあそこまで強いと思わなかったぞ」


 流石に最強種族の一角だ。おそらくこの世界でも竜種がトップを争うほど強いんだろうからな。


「初見で僅かでも見えるソウマが異常なのじゃ」


「たまたまさ。で、その剣猪(ソードボア)はどうする? 持って帰るんだろ?」


「とりあえずわらわのアイテムボックスに入れればよかろう。冒険者ギルドに買い取らせればそれなりの金には変わるのじゃ」


 最初に出会った剣猪(ソードボア)はあっさり倒され、ヴィルナのアイテムボックスへと消えていった。


 血抜きとかしなくていいのかなと思ったけど、あれだけ斬り刻んだら血抜き云々とか言う話じゃないよな……。



 ◇◇◇



 さらに森の奥に進むと、石胡桃(いしくるみ)の木の数が今までとは比べ物にならない程増えてきた。これだけ群生してりゃ誰でも簡単に実を集められそうなのに、なんで誰もここに来ないんだ?


 ああ、やっぱりあの剣猪(ソードボア)が問題なのか? 突進の速度はかなり早かったから、よっぽど反射神経がいい奴じゃないと大怪我は避けられないだろうし。


「あっさりここまで来れたな。言うほど危険じゃなかったんだけど」


「あの獣が臆病なだけよ。その能力が低い獣は、何者かの餌になるだけじゃ」


 そういうものかね? 最初の一匹以降、この森で剣猪(ソードボア)には出会っていない。もしかすると、仲間の血の匂いを嗅ぎつけてさらに奥に逃げたのかもしれないな。


 この辺りに生えている木はどの木もそこまで背が高くないんで、枝ごと切り落とせば簡単に収穫できそうだ。木を蹴ってもいいかもしれないが。


「この辺りの石胡桃(いしくるみ)の木からは実が収穫できそうじゃな。今年は大豊作といってもよいほどじゃ」


「あの生ってる実のどの位まで収穫できそうなんだ? あと、収穫方法だけど枝ごとバッサリとか?」


「乱暴じゃな。そのような取り方をすれば、来年以降に実が生らぬではないか。こう……すれば簡単じゃろ?」


 つむじ風というか、ヴィルナを中心にして直径数メートルに渡って風が渦巻き、その風がまわりにある石胡桃(いしくるみ)の木の枝を激しく揺らした。木の枝が折れるんじゃないかと心配になったんだが、どうやらかなりしなりのいい木の様で、生っている木の実は落ちるが、枝が折れるという事は滅多になかった。


 っ……、確かにこの方法は石胡桃(いしくるみ)の木には優しいかもしれないけど、舞った木の葉がたまに顔とかに張り付くんだが……。あ……リスが飛んでる。ごめんな、木の葉と一緒に吹き飛ばされたのか……。って、顔にリスがっ!!


「終わったのじゃ。あとは落ちておる実を拾えば依頼は完了じゃな」


 一面に大量の石胡桃(いしくるみ)の実が落ちている、というか周りが石胡桃(いしくるみ)だらけになってるんだが……。あ、こいつを自由にしてやらないといけないな。


「お疲れ様。ほらお前もな」


 飛んできたリスを地面に下すと少しだけ俺達から離れ、その近くにあった大きそうな石胡桃(いしくるみ)を選んでおいしそうに齧り始めた。まあ、迷惑料代わりにアレ位はいいだろう。


「凄い量だな。何か袋に詰めないと持って帰るのが大変だぞ。麻バスケットかこれがいいな。こんな物に何かを突っ込むのなんて子供の時の薩摩芋掘り以来だ」


 一枚五百円の大きな麻製のバスケットが見つかったのでそれを二枚購入。ついでに丈夫そうでかわいい巾着袋も三百円で購入、これだったら硬貨を入れるのにちょうどいいだろう。


 一つ分でも三十キロ入り米袋と同じくらいの大きさがあるから、依頼の量は十分すぎる位あるだろうな。問題は……。


「長時間屈んだまま実を集めるのはやっぱり腰に来るな。やっぱりこれ、全部回収するのか?」


「少しくらいは森の獣どもにお裾分けしてやってもよかろうて。それでも結構な量にはなるはずじゃ」


「何キロあるんだろうなこれ。これいっぱいにしたら十キロ以上ありそうだ」


 どこに隠れていたのか、大量のリスが周りで石胡桃(いしくるみ)を齧り始めた。まあ、俺の麻袋の中にまで手を出してこなければいいだろう。これは元々こいつらの食料だし。


 その後もしばらく木の実拾いに勤しんだが、適当なところで切り上げる事にした。依頼にあった石胡桃(いしくるみ)の数は十。その数十倍の数が入手できたけど、あまり多すぎたら値崩れしないかが心配だ。


 拾うついでに良さそうなモリヨモギを引き抜いたりもしたし、一日の収穫にしては十分すぎる量になっただろう。


「この辺りで帰ろうぜ、森桃はここでは収穫してないけど、前に収穫したのが結構あるしな」


「ほう、森桃を持っておるのか? 労働の後には果物がいいそうなのじゃ」


「この世界でもそう言われたりするのか。えっと、とりあえず一つでいいか?」


「おお、これはよく熟れたよい森桃じゃ♪」


 ヴィルナは俺が渡した森桃の皮を剥いて指を軽く振って綺麗に切り分けてひと切れずつ齧り、あっという間に皮と種だけ残して完全に食い切った。あれだけ綺麗に食べて貰えれば桃も本望だろうな。


 当然一つでは満足しなかったようで、まだ桃を欲しそうにしているが、流石にこれ以上森桃は渡せない。代わりに寿買(じゅかい)で訳あり桃が四キロ千八百円で売りに出されていたので、それを買って渡すことにした。これで残金は六万三百円……。


「ほら、森桃はあまり数が無いから、代わりにこれな……。俺の世界の桃なんだけど」


 森桃と同じように食べ始めたヴィルナだけど、一口齧ったところで目を開いて驚いている。そりゃ甘くて旨いだろう、訳ありの理由が熟れ過ぎて売れるギリギリの状態だったみたいだし。


「この桃はなんなのじゃ? 今まで食べた事が無い位に甘くておいしいのじゃが!! 匂いも……、まるで桃に包まれているような甘くて芳醇な香りなのじゃ」


 まあ、品種改良や品質管理もされてないような桃と、日本の農家の人が手塩にかけて育てた桃を同じにされても困るけどな。


「俺の世界で品種改良を重ねた桃だからな。あ、言っておくがその桃の種を捨てても同じ実がなる桃の木は生えてこないぞ。たぶんだけどな」


「それは残念じゃな。……すまんのじゃが、もうひとつ貰えんか?」


 あっという間に新しく渡した桃を食いつくし、上目遣いでそっと手を差し出してきた。


 結構な量を買ったから収納ボックスの中には大きな桃がまだ十個以上ある。


「こっちの桃だったらまだいくつか食べていいぞ。というか、ヴィルナのアイテムボックスって時間経過があるのか?」


「時間経過? アイテムボックスは基本、中に入れたら時間は進まんぞ? あと一定以上の大きさを持つ生き物はなぜか入れられんな。さっきの様に殺した獣や果物は入れる事が出来るが、生きたままではあの獣を取り込んだりは出来んのじゃ」


 なるほどな。そこは割と気にはなっていたんだ。この世界のアイテムボックスと俺のアイテムボックスは多分別物なんだろうけど、そのあたりは覚えておいた方がいいな。


 万が一どこかで同じようにアイテムボックス持ちがいた時に、話がかなり食い違うだろうし……。


 それにしても一定以上の大きさを持つ生き物か……。微生物や魚とかなら生きててもOK? そのあたりの基準は詳しく知りたいんだが。


「俺のアイテムボックスはそのあたりはどうなってるのかわからないな。まあいい、好きそうだから桃は全部ヴィルナのアイテムボックスに入れればいい。俺が食いたい時はまた探せばいいし」


「こんなにたくさん……。ほんとにいいんじゃな?」


「ああ、明日の取引が成功して安定した収入が見込める場合、今後は多少の贅沢は出来ると思うぞ」


 とりあえず今持ってる手札は飴が二種類と傷薬が二種類か。


 明日の結果次第だけどな。状況次第で他の商品を開発しないといけなくなるかもしれない。まあ、先方が飴を大量に欲しがれば、全てが杞憂で済むんだけど。



読んでいただきましてありがとうございます。

投入している残高が合わないのはシャンプーとかの代金分です。

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