第百四十五話 遠くに行くには必須だったんでな。ブレイブサンダーみたいなバイクもあるぞ
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楽しんでいただければ幸いです。
北の荒れ地、といっても割と遠くまで魔導車で走ってきたから周りに迷惑はかけない筈だ。
開拓して農地にしてる場所もすでに多く、さらに言えば牛が放牧されてる場所も多いからそのあたりまで考えないといけない。その為に特訓するには割と離れないと邪魔になると判断したんだけどね。
「こんな便利な車まで持ってるのか?」
「遠くに行くには必須だったんでな。ブレイブサンダーみたいなバイクもあるぞ」
「なるほどな。それで俺にも移動手段としてアレをくれるっていったのか。この世界に飛ばされてもう十五年以上になるが、アレをこの世界で走らせられる日が来るとは思ってもみなかった」
「旅が楽になるというか、ここからマッアサイア辺りまでだったら余裕で日帰りもできるしな。この辺りじゃ売ってない海産物が食いたくなった時に便利だぞ」
「そりゃいい。お前が王都から帰ったら、日帰り繰り返してマッアサイアで海産物三昧だな」
雷牙も海産物大好きだからな。
あそこでサザエのつぼ焼きとか適当に食べたら帰ってくるんだろう。
「この辺りだった迷惑掛からないし、この辺りでいいか?」
「ちゃんといい場所を選んだな。ちょっと大きめの崖が近くにあって、後は周りが見通しやすい荒れ地。そこまでやる気は無いんだぜ」
「そのセリフ、何度も聞いた記憶があるぞ。俺以外のブレイブ相手でな」
シリーズで何度かあった恒例のイベント。
第二シリーズのファイティングブレイブ、戦場戦司を鍛える為に行った特訓はあまりにも有名で、その後のシリーズでのヤバい特訓メニューは全部封印されたという曰くつきだ。
何をやったかって? このご時世に崖から岩を落としたり、ブレイブサンダーで追っかけまわしたりしたのさ。
「変身前の状態で組手、その後は変身して模擬戦だ。結局これが一番だな」
「どうしてその結論に最初から辿り着かなかったのかが疑問だ」
なんで崖から岩落とすの? 後の話で助かったけどさ……。バイクで追い掛け回す特訓も後の話で役に立ったけど。
最終的に普通に組手する特訓が平均して視聴率高い事に気が付いて、後のシリーズはこの流れなんだよな。
ブレイブシリーズだと、敵に悪のブレイブだとかブレイブモドキとか偽ブレイブとかが一切出てこないのも大きいんだけどね。
「この辺りでいいな。普段はそんな恰好で冒険してるのか? 真っ黒というか、特殊部隊っぽい姿だな」
「基本はこの装備だね。雷牙はこの世界で割と一般的な革鎧か?」
「材質は相当凄いけどな。さて行くぞ!!」
はやッ!! ちょ……、俺動体視力はめちゃくちゃいいのに、蹴りとか拳がほとんど見えないんだけど?
最初に来るコンボがこれって知ってなけりゃ、いきなり気を失ってもおかしくないぞ。
「あっ……ぶねぇ!! 実際体験してみるととんでもないな」
「とんでもないのはてめえの方だ。初見でこれを躱したのはお前が初めてだぞ?」
正面から高速の拳、間髪入れずに膝蹴り、流れるように蹴り三連発、体勢を崩したところにトドメの回し蹴り。
毎回特訓で最初に雷牙がかまして来るコンボだ。モニターの前だと何であれが躱せないんだとか思ってたけど、当事者になって初めて分かった。これ情報なしでの初見で躱すの無理だ。
「そのコンボは右に僅かに隙があるんだ。そこを押さえてればギリギリ対応が可能さ。手加減してる今の速度だったらの話だけど」
「ほんとに不思議な奴だ。初めて組み手をしてるのに、何度も手合わせがある物言いをしやがる」
「そのあたりの絡繰りはそのうち話すよ。驚くかもしれないけどな。それで次はこっちの番だな」
「いい動きだが、あまり実戦経験はないな? っと、あぶねえな」
「相手の手を掴んで投げ技に繋げるコンボ。掴まれそうになった時の返しや殴られそうになった時の得意技だったよな」
「その技まで覚えてやがったか。ちょっと詰めが甘いが」
そりゃテレビシリーズで何度も見てるからな。実際に使えるようになるまで練習もしたし。
忙しかったけど、今思い出せばあの頃も楽しかった。
っと、特訓の続きだ。
「逆に投げられたか。いってぇ~っ!! 流石本家本元、俺なんかとは技の切れが段違いだ」
「キッチリ受け身取ってやがるな。今ので気絶しねえのも凄いぜ」
「この装備のおかげだ。普通の格好だったら絶対に気を失ってただろう」
雑魚戦闘員を素手で倒す奴だしな。
正直、雷牙の実力があれば、剣猪辺りでも素手で殴り倒せそうだ。しかも楽勝で。
「だろうな。お前は氣の扱いが下手だ。氣を自在に使いこなせるようになれば、こんな真似だってできるんだぞ」
雷牙が掌に黄金色の光を集めてそれを……って、その光で岩を破壊した? なんだそれ? そんなの劇中で一回もやらなかったぞ?
「へ? 何、今の?」
「氣で作った弾。俺たちは氣弾って呼んでいる」
「俺達? ああ、戦場戦司達も使えるのか」
「本当に俺たちの事を知ってるんだな。もしかして、あいつもこの世界にいるのか?」
「来てくれてたら心強いんだけどね。多分来てないと思う。でも、ライジングブレイクのフィニッシュブロウチップを売った誰かがいるはずなんだ」
「アレを売る奴なんていないだろう? そんなブレイブなんていない筈だ」
「一人だけ心当たりがあるけど。まさか来てないだろう」
九代目レッキングブレイブ土方建蔵。建築会社の社員で破壊重鬼サラッチに会社を潰されたのがきっかけでブレイブに加わったメンバー屈指の変わり者でお調子者。
あいつだったら金になると分かると使用済みのチップ位売りそうだ。
「俺の知らないブレイブにいるのか? そんな奴が?」
「もし、出会ったら間違いなく喧嘩になると思うんだけど、お手柔らかにな」
本編でも一度大ゲンカしてるしな。
「さて、準備運動はこの位でいいか?」
「変身するのか?」
「いや、お前は氣の扱いが下手過ぎる。そのままじゃ、強化フォームを手にしても使いこなせないだろう。それだったらベーシスフォームの能力を最大限に引き出す為に、このまま組手を続けた方が有意義だ」
「氣を使いこなす特訓か。……わかった。それでいこう」
「それじゃあ、軽くな」
……軽くって言ったよね? 間違いなく言ったよね? なんで蹴り食らった直後に再生の秘薬が作動してるの?
【そのまま放置する場合、回復に時間がかかると判断しました。体内の魔力が高い為、再生時間はほんの数秒ほどです。また、使用された再生の秘薬は装備に補充されました】
……再生の秘薬の製造量が凄まじいな。
これ放出したらいろいろヤバい気がするぞ。っと、今は特訓中!!
「って!! 全然軽くないだろ!! 普通の奴だったら入院コースだぞ」
「……骨にひびが入る可能性のある蹴りだったのは認める。お前に氣を使ったシールドの必要性を教える目的だったんだが、今何をした?」
「この装備の特殊能力だ。戦闘不能になるとヤバい立場だろ? だから可能な限り即座に戦いに戻れる状態になれる仕組みだ」
「いい心構えだ。誰かを護るってのはキレイゴトじゃないし、絶対に立ち上がらないといけない時もある。その時に備えるのは間違いじゃない」
「俺の場合は変身時間に制限まであるし、再変身にクールタイムまであるからな。この装備でも戦えるようにしておきたいからね」
でなけりゃ暴君鮮血熊の討伐時に変身してたよ。
アレが最後とは限らない状況だったし、万が一を考えたら軽々しく変身できなかったしな。ヴィルナを守る時には躊躇しないけど。
「氣を一定レベルまで鍛えると、変身時間の制限は無くなるし、再変身も即座に可能になるぞ」
「マジか!! という事は」
「お前の場合、フォームよりも氣の強化が先なのさ」
氣の強化って何やるんだよ?
「これをお前にやる。この懐中電灯は氣を使って光るんだが、光らせるのにはコツがある。それをうまく使いこなせるようになれば、氣の使い方は格段に上手くなるし、体内の氣の量も増やせるんだ」
「便利な懐中電灯だな。……豆球レベルしか光らない」
「今は下手だからさ。氣の流し方や扱いを覚えろ。それが出来たら次の段階に進むぞ」
朝から特訓してたんだがこの辺りで休憩にって事なった。
そろそろ昼だけど何がいいかな?
……そうだ、アレにするか。俺もこの世界に来て食べてないしな。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。
体調はあまりよくはありませんが頑張ります、この作品を楽しんでいただければ幸いです。




