第十三話 ヴィルナの服ってそれしかないよな?
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楽しんでいただけたら幸いです。
少し早い晩飯を済ませてヴィルナと宿屋の部屋に戻ってきたぜ。
この昭和感漂う鍵を持っていると、なんとな~くテンションが上がるんだが気のせいか? 最近のホテルは基本カードキーだし、こんな鍵ホントに昔のテレビドラマでしか見かけなかったからな。
そういえば、昔勤めてた会社の社員旅行で泊まった旅館がこんな鍵だった気がする。あまり覚えてないけど。
こうしてみると、異世界に飛ばされてるっていうのに、なんだか割と昔からある観光地のホテルに泊まってる気分なんだよな~。というか、地方の旅館とかだったらまだこんな鍵を使っているのかもしれないけどね。
「さて、買わないといけない物を思い出したし寿買で探してみるか。ヴィルナの分も買わないといけないし」
思い出した商品。それは着替えとして必要な服や下着だ。シャツやパンツもそうだけど、俺は着の身着のままでほとんど何も持たずにこの世界に飛ばされてきたから、今着ている服以外の替えが無い。最低でも下着を数セットと、綿シャツとかズボンも何枚か欲しいよな……。
「ヴィルナの服ってそれしかないよな?」
「唐突になんなのじゃ? それは少し失礼じゃ、この形態の時用にいくつか服は持っておるぞ?」
「え? どこに? ……ああ、そういう事か」
ヴィルナが何もない空間に手を突っ込んで、何着か服を取り出した。なるほど、ヴィルナもアイテムボックスを持っていたんだな。
「ま、こういう事じゃ。この中に入っておるのは服や靴。ほかにも色々と入っておるが、金に換えられそうな宝石や硬貨などは持っておらんぞ」
「警戒しなくても金になりそうなものがあるなら出せとか言わないよ。そこまで切羽詰まった状況じゃないし、出会ったばかりのヴィルナにそれを言ったら俺は泥棒や強盗と変わらない。人としてそこに堕ちる真似は避けたいと思ってるしな」
「出会った時からお人好しだと思っておったが。なんかこう、ソウマはくすぐったい物言いをしおるの」
「人として当然な感覚だよ。困ってる人は助けてあげたい。人の物は奪わない。俺としては当然な事だけど、それが当然と思える世界で生きてこれたからね。この世界でそれが異常かどうかはわからない。でも、人として最低限のラインを割るつもりはないぞ」
ヴィルナの表情がなんか一段と穏やかになったというか、あれだあれ。野良ネコを拾って飼ってたら最初は野生バリバリで鋭かった目が、飼って懐いてくるとどんどん優しくなっていくアレ。あんな感じなんだよな……。
「ヴィルナの服が必要ないんだったら、必要なのは俺の分か。しばらくまたアイテムボックスで色々するから、先に寝ててもいいぞ」
「ではそうさせてもらうかの」
ヴィルナは先にベッドで横になる為に隣の部屋へと向かう。
こんな世界だと飯だけ食ってやる事が無いと寝るしかないのか。……秋の夜長で子作りが捗る訳だな。
【調合完了】
「ああ、イチゴ飴の作成が完了したのか。これもイチゴ飴フォルダに移動して【飴】フォルダに今度は業務用ドライフルーツを入れてもう一度調合だ!!」
これで追加で四百個できるし、前に作ったのもまだ結構あったから合計で在庫の総量は六百四十個。一個五十シェルで卸すことになるから全部売れたら三万二千シェル……、三百二十万円?
売るものは他にもあとイチゴ飴とかもあるし、この飴類を商人ギルドに安定して卸せる様になれば……。安定した生活というか、金を稼ぐのが元の世界より楽かもしれない。ここではワンミスで一撃死がある可能性も捨てがたいのもあれだけど。
「調合中でも寿買は普通に使えるみたいだな。えっと何から探すかな……。ん?」
【お買い得情報!! 寿買アルティメットでは会員様限定のタイムセールを開催中!! 衣服・食料品・調理器具・家電など……】
こいつ、絶対どこかで俺の思考読んでるだろ? なんで検索前にこんな情報が出てくるんだよ!!
まあ、タイムセール自体は昔から定期的にやってるし、たまたま偶然かもしれないけど……。ラインナップもよくやってるタイムセールによく似てる?
「こういったセールは安いからな。えっと……、お、パンツとかシャツが安い。シャツの色は黒とか濃緑? パンツはよくある意味不明なガラだな」
シャツもパンツも一枚百円!! あれか? 黒とかの単色だから大量生産された余り物? ガラパンはまあ、安いときはとことん安いし。
この際だからシャツとパンツは十枚セットがあるからとりあえずこれを選択。黒い靴下も百円か、チェック柄の綿シャツが五百円? ズボンは流石に千円位か。
靴下も十セット、シャツは四枚、ズボンは三本購入して……支払い合計八千円で残金が七万円。
「ズボンを買ったのはいいけど、これって裾とか大丈夫だろうか? 俺は裾合わせする技術なんてないぞ」
【※基準物がある場合、裾などをそれに合わせられます】
これで裾上げとかしなくても大丈夫なのか? ホント痒い所に手が届く恐ろしいアイテムボックスだ。
……とりあえず今履いてるズボンをアイテムボックスに収納して基準に設定。ヴィルナは隣の部屋で寝ているから大丈夫だと思うけど、一応見つからない様にこっそりとね……。
【裾の基準を設定しました。解除されるまでこの基準を使用します】
すぐに取り出してズボンを履き直す。パンツ姿くらい見せても構わないけど、変な誤解をされても困るし。
しかしこれ、助かるんだがホント謎の多いアイテムボックスだよ。オーバーテクノロジーというかこのシステムそのものが怖すぎる。
こんなのを全員が持っていたら、いろんな産業が壊滅させられかねないぞ。地元の本屋とか玩具屋の閉店とかそんなレベルじゃなくて、いろんな産業を潰せるレベルの話になりかねない。
「取り扱いに注意というか、この力は他人……、ヴィルナにも詳しくは絶対知られないようにしないといけないな。あの調合システムにしてもどこまで作れるのか知らないけど、銃刀法に抵触しそうな物も作れそうな気がするしな」
ナイフとかは普通に売ってるし、火薬だって売ってる商品を調合したら多分いろんな種類が入手可能なのは間違いない。
あの調合システムは傷薬とか作れる時点で薬事法とか色々すっ飛ばしてる筈。
傷薬も冷静に考えたら相当危険な代物だしな。傷が即座に治る薬って存在そのものが相当やばい。ってこういう時はあまり冷静になるときついぞ。突然こんな事態に巻き込まれたんだ、多少の事は目を瞑って貰わないとな。
「平和主義って訳じゃないけど、無用な混乱や戦争なんかが発生するのは避けたいからな」
だれが何の目的で俺をこの世界に送り込んだのかは知らないけど、何の説明もない以上ある程度は好き勝手にやらせてもらおう。
後はほかの売り物か。飴一本に絞ると、何かあった時に金を稼ぐ方法が無くなる。
「飴は嗜好品だろうし、他の安定供給可能な商品も考えておいた方がいいかもしれない。商人ギルドにもう一回行く三日後まで何もしないというのは時間の無駄だし、明日冒険者ギルドとか町をいろいろ回って情報の収集をするか」
調合したら売り物になる商品が見つかるかもしれないな。
後は魚とかの見かけなかった商品の状況。塩とか砂糖の供給状況とかか。
ま、考えるのは明日町に繰り出した後だ……。
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