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第十二話 晩飯はあそこで食べてみないか?

毎日更新継続中。

楽しんでいただけたら幸いです。




 何かが頬を撫でている。ん? 割と柔らかい手でペチペチと叩いてるといった方が正確か? なんだよ、まだ眠いんだけど……。って、あれ?


「ソウマ。そろそろ起きるのじゃ」


「ああ、ヴィルナか。悪い、俺が起こすって言っててこのざまは無いよな。……で、俺はどのくらい寝てたんだ?」


 窓の外は赤く染まっている。


 何かの襲撃で町が燃えているのでもなければ、今は夕方って事だろう。


「もうすぐ日が暮れる時間かの。それで、飯は食べぬのか?」


「んっ……、そうだな。下に食堂があったろ。晩飯はあそこで食べてみないか?」


「もちろんそれでいいのじゃ。どんな食べ物が出るのか楽しみじゃな」


 温かいご飯っていいよな。


 この世界の料理がどんなものかは知らないけど、この宿屋の食堂だったら期待できるんじゃないかと思う。


 建物自体がこんなに近代的な造りだしな~♪


 階段を下りて食堂に向かうと、暇そうにしていたウエイトレスがすぐに近づいてきた。晩飯どきなのにこんなに客が少ないって割と問題じゃね?


「お食事ですか? こちらの席にどうぞ!! ……本日は当店自慢のおすすめメニューの鳥の煮込みがありますよ」


「あ……、ええ、メニュー表はありますか?」


「はい。これをどうぞ。今はディナーメニューになっています」


 このメニュー表、薄い木の板に横溝が掘ってあり、そこにメニュー名が書かれた板が差し込まれている。


 なるほど、食材の入荷具合でメニューを差し替えてるのか。よく考えられてるが、たぶんこれも十年前にここを建てた奴のアイデアなんだろうな。


 これだったら昼と夜で板を変えても、その日仕入れた食材のメニューだけ表示できるから無駄が無い。


 で、今日できるのは鳥の煮込みが五シェルで鳥モモの丸焼きが三シェル。鳥料理がお勧めみたいだな、おそらく大量に仕入れたんだろう。篭入りのパンが一シェル。他にも何点かあるけど魚料理は見当たらずに鳥料理が多いがどんな鳥か書かれてないぞ……。


「本日の鳥は大山雉(グレートファゼント)ですよ。一番上の煮込み料理がおすすめですね」


「えっと、鳥モモの丸焼きとパンをお願いします。ヴィルナもそれでいいか?」


「わらわは、出来ればこの鳥の煮込みも欲しい所じゃな」


 あのホットドッグを十本食える胃袋だし。どんなボリュームかは知らないけど、俺と同じ量じゃ足りないだろう。


「じゃあ彼女にはそれも追加で」


「えっと、その注文のされ方ですと、取り皿が一つでいいんですか? 鳥の煮込みですよ?」


「ん? ええ、彼女しか食べないので一つで大丈夫です。あと、飲み物は何かありますか?」


「アルコール類ですとライトブクが二シェルでエールブクが一シェル。ワインはコップが一シェル、壺入りが五シェルですね~。ワインですとコップよりも断然壺入りの方がおすすめですよ~」


 なんだよライトブクとかエールブクって!! 俺は謎のアルコール飲料に手を出すほどチャレンジャーじゃないぞ。


 ここは妥当にワインでいいな、この世界のワインがどんなレベルか知らないけど。問題はヴィルナがワインを飲めるかどうかなんだけども……。


「ワインは飲めるよな?」


「当然じゃ。この辺りは水よりもワインを飲む方が多いのじゃぞ。むしろワインは水がわりといった感じじゃ」


 生水を飲めない程水が悪いのか?


 いや、水道の水を飲める日本が異常なだけで、おそらくこの感覚が普通なんだろう。


「壺入りのワインをひとつとコップを二つお願いします」


「合計で十八シェルになります」


「十八シェルね……、これで丁度」


「ありがとうございます。ご注文承りました~♪」


 何度見渡しても夕飯時だというのに客の姿は無しか……。


 値段か味、もしくはその両方が問題なのか。まあ、食べてみて不味けりゃ次以降は寿買(じゅかい)で済ませるかな。


「晩飯時はもう少し後じゃ。この辺りは日が落ちる寸前まで働く者も多い。もう少しすれば懐に余裕のある客が詰めかけてくる頃じゃな」


「なるほどな。俺ってそんなにわかりやすい顔してたか?」


「顔に出過ぎというか、わかりやすかったからの。あれだけ店を見渡しておれば、誰かに追いかけられておるか、それともこの店の様子を調べているかのどちらかじゃろう」


 ありゃ、動きが不自然だったかな。


 まあ、お上りさんみたいに思われてなければいいけど、あからさまにあちこち見渡すのは少し控えるとするか。


「おっまたせしました~♪ こちらが鶏もも肉の丸焼きとパンになります。で、こっちが鳥の煮込み。ほんとに器がおひとつでいいんですよね? 勿体ないな~、これってとっても美味しいですよ~」


「やっぱり鳥だけでも相当でかいな……。俺はこれだけで精いっぱいなんで大丈夫ですよ」


 日本でも鶏のモモ肉を焼いたのがあるけど、この大山雉(グレートファゼント)のモモ肉のサイズはその軽く三倍はある。


 昼に食べた肉串もそうだったけど、若干スパイシーな香りが漂うからこの町だと香辛料とかは入手しやすいのかもしれない。ちょっと形が違うけどナイフとフォークも用意されてる……、って、このナイフは料理用じゃなくて切り分ける為に用意されてる普通のナイフか?


 ヴィルナが食べている鳥の煮込みも少しおかしいサイズだ。四人用の土鍋くらいの大きさじゃないか? あれ?


 もしかしてこの世界の鳥の煮込み料理って、元の世界の鍋料理みたいにテーブルで一つ頼んでみんなで取り分けて食べる料理なのか? そういえば取り皿って言ってたしな……。まあいい、あれはヴィルナに任せて俺はこれを食べるか。


「皮はパリパリ。塩とスパイスはほどほどで割といい味付けだ。相変わらず塩は抑えられてるけど、代わりに他の調味料で味を濃くしてる感じだな」


「うむ。この鳥の煮込みもいい味じゃな。鳥はよく煮込んでおるので柔らかくて食べやすい。この鳥のモモも美味い!! 最高なのじゃ!!」


 ヴィルナも目の前に並んだ料理をものすごい勢いで食い進んでいる。昼にあれだけ肉串を食べたのに、まだあんなに食えるんだな。


 俺はまだ昼の肉串が腹にもたれてるから、これを完食できるか怪しい所だ。この焼いた鶏もも肉は贅沢を言えばもう少し塩味が効いていた方がいいけど、たぶん塩は高いんだろうな。というか、こんな高そうな宿屋ですら塩を抑えないといけないってどんな状況だ?


 この店の料理人が魚を毛嫌いでもしていないとすれば、こんな魚関係が壊滅的なメニューの状況を考えると、この町は塩が採れる海からはかなり遠いって事が十分に考えられる。この世界の流通形式がどの程度か知らないけど、高速で大量に輸送は出来ないんだろうしな。


 川魚もない所を見ると、川で獲れる魚も少ないのかもしれないのか。というか、海老とか蟹も無いって相当な気もするぞ。


「ワインは殆どアルコールを足したぶどうジュースだな。元々が酸っぱいんだろうから、割と好みの分かれる味だ。それに……これ水で割ってあるみたいだし……」


「水がわりと言ったじゃろ? どこで飲んでもこんなものじゃ」


 なるほど。本気で水みたいなものなのか。でもアルコール飲料……、まあ嘘は言ってないし。


 じゃあ、パンは……。かたっ! 割と堅いパンは好きだけど、ここまで堅いと顎が疲れる。味もまあ少しガマンすれば食えなくはないレベル? この店でこれか……。この世界のパンとかはあまり期待しない方がよさそうだ。


「ごちそうさま」


「美味しかったのじゃ」


 一応完食したけどあの鳥のモモ肉の量は多かった。ちょっと重くなったおなかを抱えてヴィルナと一緒に部屋に戻る。


 よく考えたら、まだいろいろ買わないといけないものがあったし、あとで寿買(じゅかい)で探さないとな。




読んでいただきましてありがとうございます。

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