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第十一話 変な腹の探り合いは無しで少し話をしないか?

毎日更新。

楽しんでいただければ幸いです。



 割とふかふかなソファーっぽい椅子に腰を下ろして、同じ様に目の前でくつろいでるこいつに視線を流す。


 今からアイテムボックスとかでいろいろしないといけないが、その事でこいつと幾つか話し合っておかないといけない事があるしな……。


「さて。無事に宿も確保できたし、変な腹の探り合いは無しで少し話をしないか?」


「ほう。何かあると思っておったが、おぬしからそれを切り出してくるとはの」


「何かあるのはお互い様だろ。で、ヴィルナが何でそんな姿をしているのか聞いていいか? というか()()姿()()()()()()()()()?」


 こいつの気配が一瞬で変わった。


 今までは抑えていたのか、ピリピリと突き刺さるような殺気まで感じる。


「ま、そんなに殺気立つな。本来は別にそんな細かい事はどうでもいいんだ。あの時の呟きも聞こえちまったし、噂みたいな事は無いと確信はしてる」


「……わらわの事を、信用してくれるのか?」


「噂通りの大喰らいなら、あんなところで腹減らして行き倒れちゃいないだろ?」


 大喰らいの竜がわざわざ人の姿で行き倒れる……。あれって割とシュールな場面だったんだよな。


「わらわは()()()の奥に住み、森の恵みを喰ろうていたのは確かじゃ。元々あの森には獣が少なくてな、わらわが食べていたのは木の実がほとんどじゃが」


「ん? あの森には割と果物とかが多かったぞ。あれだけ生ってれば、割と小動物がいそうなものだけど」


 俺が採集した物の中にも、モモとかブドウとかの果物が結構な量で存在する。


 あれだけ森の恵みが生るなら、鳥だけじゃなくてリスとかの小動物がもう少しいないとおかしい。


「あの馬鹿竜が十年前にやらかしたせいじゃ」


「あの馬鹿竜?」


 馬鹿竜と聞いて一瞬何処かの国の干しダラかと思ったけど。なるほど、馬鹿竜ね。()()()竜がいるって事か。


「うむ。あの槍を持った男どもが話しておった竜、あれはわらわではない。その竜は別に存在しておってな。あやつは十年ほど前にあの森で暴れまわって、目につく生き物を悉く食い尽くしたのじゃ。森の獣を粗方食い尽くした後でさらに南の森に向かったみたいじゃが、あれ以来奴の匂いが滲み込んだ場所には小さき獣すら近づきはせん」


 におい? ああ、尿とか分泌物の事か?


 人間には感じなくても、動物はそれを敏感に感じ取って危険を回避してるんだろう。肉食獣の排泄物で鹿よけしてる話を聞いた事があるけど、あれの超強力バージョンか?


 まあいいや、小動物とかがいない理由は分かった。鳥は飛んで逃げれるから集まってた可能性が高いな。……そんな事よりもだ。


「なんであの森から出てきたんだ? しかも、あんなところで行き倒れてたし」


「いくら好きとはいえ、果物ばかり食っておったら流石にわらわも体がもたないのじゃ。それで何か手ごろな獣でもおらんかと思って森から出たんじゃが、空腹には勝てなくての。少しばかり寝ておったらおぬしが声をかけてきたという事じゃな」


「あれ、行き倒れてたんじゃなくて、もしかして寝てただけか?」


 呼吸が浅かったのは単に寝てただけか。


 まあ、ぱっと見で素人は死んでるか寝てるのかなんて即座に判断できないよな。


「おぬしを喰ろうてもよかったんじゃが、見ず知らずのわらわを心配してくれるようなお人好しを襲う気にはならんでな。まあ、そのおかげであんな美味い物を食えたことじゃし」


「俺はあの時命拾いしてた訳か。誰彼構わず助ける訳じゃないが、この世界で初めて人と出会ったと思っていたからな」


「うむ。少し前もそんな言葉を口にしておったが、この世界とはどういう意味じゃ?」


 アイテムボックスの事もあるし、ヴィルナには俺の事情を話しておいた方がいいかもしれない。


 それにヴィルナが人の姿に化けた竜だったら、それなりに力を持ってると考えて問題ない。味方にできれば心強いし、この世界で一緒に行動できる誰かがいる事も喜ばしい事だとおもう。


 その為にはある程度こちらも誠意というか、秘密を明かしておく必要があるんじゃないの? 人として。


 まあ、ヴィルナが人である可能性はほぼゼロだがな。


「俺はこの世界の人間じゃないんだ。だれが何の目的で俺をこの世界に引き込んだのかは知らないし、俺が元の世界に戻る方法も知らない。この世界にこの世界の金も何も持たされずに、あの森のどこかに急に放り出されたってところさ」


「ひ弱な人間がそんな状態でよく生きておったな。あの森から抜け出すのでもひと苦労じゃぞ」


 こうして思い返してみると、ほんとによく生きてたな。


 運よく廃村方向に歩いていたからいいものの、逆に向かっていたら最悪最深部まで突き進んで竜の胃袋の中って可能性すらあったわけだ。


「森を彷徨って廃村まで辿り着き、そこから適当に道を歩いてたらヴィルナに遭遇したって訳だ。流石にあの出会いを運命的とは言わないが、まあ何かの縁なのは間違いないだろう」


「しかし、金が無いという割にソウマは水や食べ物は持っておったが、あれはどうやって手に入れたのじゃ?」


「まあ、そのあたりは秘密があってな。ヴィルナ、この世界にアイテムボックスとかいう能力を持った人間や存在はいるのか?」


「アイテムボックス? そうじゃな、何もない空間に手を突っ込んでいろいろとモノを取り出す人間はたまに見かけるの。人間のあれは魔法の類だと思っておったんじゃが」


 この世界の他に人間にもアイテムボックス持ちはいるのか。


 でも何もない空間に手を突っ込む? それって俺のアイテムボックスと明らかに違うよな?


「俺もそのアイテムボックスが使えるんだ、食べ物なんかはそこから取り出した。俺のアイテムボックスは今聞いた話とは少しばかり違うみたいだけどな。それより、この世界には魔法とかあるのか?」


「魔法はあるぞ。そもそもわらわがこの姿をしておるのも魔法の力じゃ、他にも火を作り出したり水を作り出したりする魔法も存在するし、わらわも使えるぞ」


「へえ……。魔法があるのか。ちょっとワクワクするけど、今は魔法があるって事が分かっただけでいいかな」


 魔法を使えるようになれば心強いけど、使えるようになるかわからない力の為に割く時間はとりあえずない。


 その前に持ち物チェックと、飴なんかの追加作成が先だ。


「これが俺のアイテムボックスなんだけど、ヴィルナってこれを認識できるか?」


「ん? おぬしは今、何かしておるのか? 目の前に指を突き出しておるだけではないか」


 なるほど。


 この世界の人間にこの画面は認識されない事が分かったのは大きい。ヴィルナは人の可能性がほぼないけど、人以上の存在に認識できないとなると、まず大丈夫だろう。


「見えないなら問題ないけど、こうやって俺が目の前に指を動かしてる時は何かをしてるって事だから、構わずにそっとしておいてくれると助かる」


「うむ。ソウマがおかしくなったという事でなければ構わないのじゃ」


 おかしくなんかなってないっての。まあ、こうして何もない空間に指を動かしてたら、おかしな人間だと思われても仕方ないんだけど。


「それじゃあ、とりあえず話し合いは終わりだな。ヴィルナ、これからよろしく。俺はこのままいろいろやる事があるけど、ヴィルナはどうする?」


「わらわは隣の部屋にあるあの柔らかそうな寝床で少し寝ておくのじゃ。腹も満たされた事じゃしな」


「晩飯の時間には起こすから、それまでゆっくり寝てるといいぞ……。ってもうあっちの部屋に行ったのか。まあ、隣の部屋とはいえ無防備に寝るって事は相応に信用されてるんだろう。そこは裏切らないようにしないとな」


 とりあえずアイテムボックスの収納ボックス内にあるアイテムの整理からだな。


 まず通勤に使っているカバン。クリックすると中に入れていた物がずらっと横並びに表示される。この中には筆記道具や三文判なんかの仕事で使う物が色々と入っていた。


 あちゃ~、最近いろいろ忙しくて綺麗に整理してなかったからまるで子供のおもちゃ箱状態だな。反省。


 コンビニでなんとなく買ったキャラ物とか、パチンコの景品とかゲーセンの景品が幾つか投げ込んであるし……。とりあえず【カバンの小物入れ】フォルダを作って要らない物は全部その中に突っ込んでおくか。……こうやってあのカバンが出来上がった気がするが、今は気にしない。


「これは役に立たない、これもダメ。こっちは……、おっ、納涼祭で当たった商品券だ!! そういえば近所だと使える店が少ないからカバンに入れたまま忘れてた。これはキープと……」


 カバンの中にはスマホもあるが、当然圏外で使えやしねえ。取り出してみたけど電池の残量も五十パー切ってるから、もう数時間で切れるな。もう一度収納っと。


 現金は封筒を調べたらまだけっこう残ってた。そういえば免許証入れの中に財布を無くしたり忘れた時用の緊急用の万札が仕込んであった。小銭までまじめに数えてみたら、現金の合計は十一万三百六十七円。これをどこまでチャージに突っ込むかは問題だ。


 後はクレジットカードと銀行のカード。銀行には結構貯金があるから、アレを使えれば当面金の心配はしなくて済むぞ。ただ、もし元の世界に戻れた場合に地獄が待ってるが。


「とりあえず、この商品券をチャージしてみる。いけるか?」


 【※チャージ完了しました】


 五千円の商品券だったけどチャージされたのは四千五百円か……。商品券は額面通りじゃなくて一割引きになるって事だな。もう二度と商品券をチャージする事は無いけど。


 元々の残高の一万六千二百円に四千五百円が追加されて二万七百円。やっぱりこれだと結構つらいな。


「この世界の銀貨を一枚……、百シェルの銀貨一枚だとどうだ? お……、一枚一万円? という事はあと八十六枚あるから八十六万円ある? 余裕……ってほどじゃないか。この世界の支払いにはこの世界の金が必要なわけだし、あまり突っ込みすぎるのも危険だ」


 現状役に立たないのはこの世界の金よりも元の世界の金……。元の世界の現金は五万残してあとは全部突っ込んで……、これでちょうど九万円。小銭は流石に突っ込まなかったけどな……。


 チャージしなかった千百六十七円分の硬貨は残りの五万円と一緒に封筒に入れてアイテムボックスに保管。


「後の持ち物は、ラム酒と特撮系のおもちゃ。酒を飲みたいところだけど、こんな世界で酔うのは危険だし、特撮系変身アイテムに至ってはこれで遊ぶのはかなり余裕が出てからだな。それにここでスイッチなんて入れたらヴィルナがびっくりして飛び起きそうだし、異音を聞きつけた従業員も飛んできそうだ」


 起動時の音もそうだろうけど、変身音声や変身時の光。あまり騒音の無いこの辺りだと、下手すると一階の受付まで音が響きそうだ。


 で、部屋の中に踏み込まれたら光や音を発する変身アイテムを身に着けた男が変身ポーズを決めていると……。当然ヴィルナも隣の部屋から駆け込んできてジト目で俺の姿を眺めているだろう。


 自宅が手に入るか、誰も来そうにない場所……、あの廃村の小屋でもない限りこれで遊ぶのは避けよう、うん。


「この変身セット。稼働前にいろいろ面倒な作業があるんだけど、あれもお預けだな。セットアップだけでもしたかったぜ」


 特撮好きの血が騒ぐというかアイテムボックス内にあるとはいえ、こういう商品を見たらテンション上がるよな。


 まあ、次。


「森の中で収穫した果物とかの中には食べられそうな果物も多かったけど、今は食べる必要もないか。あと傷薬以外にもなにか調合できたらいいんだけどな」


 モリヨモギとかはまだ大量にあるしな。


【調合レシピを検索しますか?】


 やっぱりどこかで俺の事を見てる? それとも音声認識だろうか?


 そのあたりは怖くて仕方ないけど、今はそんな事よりやらないといけない事も多いぞ。とりあえず実用的なアイテムが作れないかな? 収納ボックス内を全検索!!


【※該当フォルダ内の調合レシピ候補が多すぎます。指定フォルダの中のアイテムを少なくして、もう一度試してください】


 ダメかよ。


 まあ前回は調合が簡単なレシピから材料を指定された形だしな。


 商人ギルドでの感触がよかったから、【飴】フォルダの中に砂糖とかを追加して、ドライフルーツ入りのべっこう飴を量産してみる?


 今作ってるものの他に、カキ氷用のシロップを使った飴と、他のドライフルーツを細かく砕いて混ぜた飴を追加で作ってもいいかもしれないな。


「ドライフルーツを砕く場合には充電式のミキサーが必要でこれが二千円か。でも充電しないと使えないよな」


 【※お得情報:収納ボックスの修復機能で充電が可能です】


 親切にありがとう。という事はスマホも一応使えるのか。電話機能やネット機能が使えないけどって、スマホがほとんど役立たずなのは変わらねえ……。


 まあいい、充電式アイテムの充電がアイテムボックスでできるのは朗報だ。


 このアイテムボックス。音声認識って事だったら、ほんとにいい性能だぞこれ……。


「ドライフルーツのイチゴは一キロ三千円。パイナップルとかの倍するのか……」


 作成数を考えたら十分に利益は出る。ドライフルーツ入りもいいけど、商品は多い方がいいだろう。


 砂糖二十キロとミキサー、それにドライフルーツのイチゴと前回のドライフルーツも追加してみる。あと型も三種類ほど追加。合計で一万二千円。差し引いた残金は七万八千円。


 最低でも元の飴は売れるだろうから、ダメだった場合は別の方法で処理するか。


「……ミキサーがもう充電されてる。届いた時点で箱から出されてたし、そのあたりもサービスなのかもしれないな」


 一応説明書はあるけど、注意しなきゃいけないのは掃除の仕方位か。


 ミキサーにドライフルーツのイチゴを入れて細かく砕いてみる。結構音がうるさいからヴィルナが起きるかと思ったが相変わらず隣の部屋で寝てるみたいだな……。食欲が満たされたから今はぐっすり寝ているんだろう。


 しばらくミキサーにかけるとドライフルーツのイチゴがペースト状になった。……こんな状態になるんだったら、もしかしてジャムか何かを使った方が早かったか? いやいや、生のイチゴやジャムだと水分がきっと邪魔になるはずだ。


 一キロは多いと思ったので、ペースト状にするのは百グラム程度にしてみた。これで失敗したら割と高いイチゴのドライフルーツも余るし目も当てられねえぞ……。


「出来上がりが予想できないから、とりあえず一キロだけ試してみるか。新しい【飴作成】フォルダを作って、そこにイチゴ飴用の材料を投入!!」


 待つこと十分。今回も三十六個のべっこう飴が作り出された。作成済みの飴は【イチゴ飴】フォルダに移動。これでどの商品の在庫があるのか把握しやすい。


 今回は少し違う型を使ったから星のような形の飴で、全体的にほんのりイチゴの赤い色が付いてるな。


「出来上がりは……、あまり酸味は無い。むしろイチゴの甘さとか香りが追加されていい感じに仕上がってる」


 調合システム恐るべし。


 これ一番いい仕上がり状態を予測して、その完成形に近い物を作り出してるのか?


 ペースト状のドライイチゴが全体に馴染むように混ざってるし、全部同じ様な感じに仕上げてあるぞ。


「とりあえず残りのイチゴも全部ペースト状にして、砂糖九キロと一緒にフォルダに投入!!」


 収納ボックスの修復機能を使ってミキサーの充電もしておいた。これで次に使う時も困らない。


 その後でアイテムボックスを閉じてとりあえず放置。二時間も付き合ってられないからな……。


「俺も少し寝るか。割と疲れたしな……」


 隣の部屋に行き柔らかいベッドに横になると、急激に睡魔が襲ってきた。


 横のベッドではヴィルナが気持ちよさそうに寝息を立てているな。まあこれだけフカフカのベッドには抗いがたいというか……。


 昨日からかなり歩いてるし、やっぱ疲れてるんだよな……。





読んでいただきましてありがとうございます。

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