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第十話 大丈夫、同室で問題ないですよ

二回目の更新は少し短めです。

楽しんでいただければ幸いです。

ブックマークありがとうございます。



 しかし、この辺りの屋台はどれもこれも食い物屋ばかりだ。どの店にもそこそこ客がいるって事は、この通りがわざと食い物系の屋台で統一しているのかもしれないな。


 肉とか野菜なんかの素材やほかの雑貨を売ってる屋台がこの通りに無いのは、おそらく出せる屋台の区画が違うからなんだろう。


「あの角でキッチリ屋台が途切れているところを見ると、この辺りで屋台を出せる区画は百メートルくらいか。その少ない区画をあの数の屋台が奪い合ってる訳だ。そりゃ料理を売る出店以外は追い出されるよな」


 材料というか雑貨というか、野菜とか他の物はまた別の通りで売ってるんだろう。飯屋がずらっと並んでる所で一ヶ所だけ野菜とか売っててもそりゃ売れないだろうし。


「と、露店を眺めながら歩いてたら宿屋を見逃すところだ。白い兎の看板……。ここに泊まるの?」


「相変わらずここは立派じゃな。少しどころか相当に周りから浮いておるわ」


 この辺りの建物は割と造りがいいんだけど、この白うさぎ亭はその中でも群を抜いてというか、この世界こんな建物建設できる技術があるの? それ位に衝撃的な建物だった。


 他が精々二階建てなのにこの白うさぎ亭だけ四階建て。しかも現代にあるビルみたいにしっかりした造りだ。窓にはすべてあの板ガラスのような物がはめ込まれている。


 これ、外装がコンクリだよな? もしかしてこの立派なビル全体が鉄筋コンクリート? 俺の他に元の世界からの転移者がいて、そいつが設計と施工したとか?


「ここを知ってるのか? もしかして泊まった事があるとか?」


「わらわがこの町の宿を利用した事は無いの。以前ここを通りかかって知っておっただけじゃ」


「そういうことか、ここ目立ちそうだしな。まあいい、ここに泊まればまたいろいろ分かるだろ。それに、これだけ立派な宿だったら虫とか盗難とかいろいろ心配しなくてよさそうだ」


 寝てる時に顔に虫が落ちてきたりすると怖い処の話じゃないしな……。しかもここは異世界。どんな虫がいるのかすらわからない。


 入り口も何というか、見た目も綺麗だけど頑丈な扉が取り付けられているし、中に入るとほんとに現代ホテル風の内装が広がっていた。観葉植物の配置とか……って、この世界にこんなもの飾る風習があるのか? やっぱりこの建物の中だけおかしくね? あ、床は大理石っぽいけどなんか違う感じだな。


 正面が受付で、向かって右手が食堂、左側に幾つかの店が併設されてる。


「いらっしゃいませ。お泊りですか? それとも、食堂や店などをご利用ですか?」


 受付の女性が笑顔で話しかけてくる。ああ、泊まらなくてもここの食堂とか店の利用が可能なのか。


 まあ、こんな規模の宿屋が宿泊客だけ相手にしてたらやっていけないよな。


「何日か泊まりたいんですが、空いてますか?」


 都合よく連泊できればいいんだけど、満室の可能性もある。


 問題はこいつをどうするかだな……、同室? 二部屋分払うのは結構痛手になりそうだけど。


「はい。ご宿泊の場合はこちらの宿帳にご記入していただくことになっています。一泊百シェル。お連れ様と同室ですと料金は変わりません。食事は別料金になっておりますので、一階の食堂をご利用いただくか、外に食べに行かれる事となります」


 羊皮紙の宿帳か……。というか、この宿ってやっぱたっけーな。こいつと同室でも一日百シェルもかかるという事は、今回の稼ぎを全部突っ込んでも九十日しか泊まる事は出来ない。まあもう既に六十シェル使ってるから、八十九日がマックスだけど。


 こいつの部屋を別にしたらその半分、四十日位で完全に金が尽きる事になるな。しかもその場合、寿買(じゅかい)にこの世界の金でチャージできないから、ジリ貧状態は変わらなくないか? やめやめ、こいつと何かある可能性は低い、とりあえず同じ部屋に泊まるって事でいいだろう。


 三日後に事態が好転する事を信じて、とりあえずここに泊まるとするか。


「大丈夫、同室で問題ないですよ。いいよな?」


「わらわは問題ない。しかしおぬしはそれでいいのか?」


「その程度には信用してるよ。とりあえず七日ほどを目途でお願いします。三日は確実にいますのでその分だけ前払いもできますが」


「七日ですね。この時期はお部屋も十分に開いていますので大丈夫だと思います。前払いも可能ですよ」


 前払いができるみたいなんで、とりあえず財布からピッカピカの銀貨を三枚取り出し、受付のテーブルの上に置いた。


 ここでも格好で俺の事を金持ちか何かと勘違いしているのか、ピカピカの銀貨が出ても不信がりもしやしない。


「銀貨で三百シェル、確かに受け取りました……。こちらがお部屋のカギになります」


 古いドラマとかで出てくるような長細い半透明な角棒の先に鍵が付いた物を渡された。おかしくね? ここ異世界だぞ。なんでこんな昭和のホテルの鍵みたいなのが出てくるんだよ? 別の意味でノスタルジーを感じちまうわ。


「……いいデザインの鍵ですね」


「はい! この鍵はこの白うさぎ亭を建ててくださった方からの贈り物なんですよ~。うちは客室が三十もあるのに、その部屋数分用意してくださって……」


「これを三十? へぇ、すごい人がいたんですね」


 この透明な部分、石でもプラスチックでもないような奇妙な材質だな。


 なんでできているのかは知らないけど、安い物じゃないだろう。ナニモンだよそいつ……。


「そうなんですよ!! もう十年前になるんですが、あの時の私なんてまだ小さな子供で……。あの人が今どこで何をしているのかは知りませんが、もし再会できたら私……」


 十年前か……。


 となるとこの近くにそいつはもういないだろう。この建物を建てたっていう奴の感覚が確実に昭和だから、確実に俺よりひと世代上だろうな。


「この鍵の数字が部屋の番号ですね。えっと二十五って事は二階の五号室ですか?」


「その通りです!! あれ? お客様ってうちのシステムをご存じだったんですか?」


 いえ、予想通りのシステムだっただけですよ。ホント、いやな意味での予想通りだけどな。


「なんとなくそんな気がしただけです。では」


 両側に階段があり、その階段が四階まで続いているみたいだな。この階段の感じって卒業してずいぶん経つけど、学校の階段をなんとなく思い出すような造りだ。階段もさっきの床と同じ材質で造られてるっぽい。これの材料も何を使ってるのかわからないんだよな……。


 オーバーテクノロジー? いや、この世界にも発明王みたいな変人がいるかもしれないし、結論を出すのはもう少し調べてからだな。とりあえず今やらないといけないのは、アイテムボックスの中身を全部調べて何があるのかを把握する事だ。


 そうだよ、現状何を持っているかの確認がまず必要だろ? 初日にこれを考えつかなかったのは多分、色々てんぱってて思考が定まらなかったからだろうか? こんな世界にいきなり投げ出されて冷静に判断しろってのは無理ゲーだしな。


「ここが客室か。鍵を開けてっと……、お、中からも鍵がかけられるな。この辺りは治安がいいって聞いたけど、これだけ厳重に対策されてたら諦めるかもしれないな」


「賊など、この部屋に足を踏み入れようものなら、生きて帰す事は無いの」


 こいつは軽く手を振っただけだが、まあ多分それでたいていの奴かコマ切れなんだろうな。


 お、ここの客室は一般的なホテルの部屋の二部屋分はあるな、というかこれアパートとかマンションに近い間取りじゃないか? 広すぎな気もするけどこの世界だとこれが普通なんだろうか?


 居室の他にもいくつか部屋があり、寝室にはベッドが二つ用意されていた。よかった、変な誤解されてダブルのベッドひとつとかいった部屋じゃなくて……。こんな寝心地好さそうなベッドってこの世界にあるのか?


 訳が分からない。まあ、この辺りも他の宿屋とかそのあたりの事情を調べたらわかるだろう。


 さて、すぐに持ち物チェックにはいらないとな……。


 と、その前にこいつと少し話し合う必要がある。もしかしたら長い付き合いになるかもしれないし。



読んでいただきましてありがとうございます。

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