放蕩王子の成れの果て
「行き遅れ令嬢はおひとり様を満喫したい」の王子様目線を書きたい!と思っていましたが、
side王子の流れで書くのは初めてなのでなかなかうまくまとまらずようやく書き切れました。
シャルロットの話では婚約破棄からのざまぁがありましたが、こちらにはその話はありません。
代わりに、ルイがどんなことをしていたのか少し小出しなネタだしをしています。
ブクマ・感想など、大変励みになっております。
「お兄様、またお出かけですの?次はいつ帰ってきてソフィアと遊んでくださるの?
エドお兄様がいないとソフィアは毎日が楽しくないんです。」
この王国の末の妹姫のソフィアが、エドワード第三王子の出立の際に目にいっぱいの涙をためて上目遣いでうるうるとさせながら声をかけた。
ソフィア王女は、柔らかなふわふわとした金髪が太陽の光をキラキラと反射して愛くるしさ満開である。お目目キラキラ、少女漫画から飛び出してきたような王女様が愛らしく兄を引き止めているのだ。
「うぐっ、、、
…ごめんな、ソフィア。今回の視察は近場でそんなに長くは行かないから、帰ってきたら一緒に遊ぼう。
不在の間、よくよくお勉強を頑張るんだよ。」
そう言ってソフィアの頭を柔らかくぽんぽんとしてエドワードは馬に跨った。
しばらく馬を駆けていると隣に自分の護衛騎士のフィリップが近づいてきてエドワードに話しかけた。
「あのように、妹姫を無下にされて。幼い姫様がかわいそうでしたよ。」
「あのな、フィリップ。
言わせてもらうけど、僕だってまだまだ子どもなんだ。
今のうちに何とか自分の国内での立ち位置をしっかり考えないと兄上たちが僕のことをどう処遇するかも分からない。
今はとにかく、自分がこの国でどう自分のバリューを出していくのかで精一杯なんだ。
ソフィアのことに気を配ってやれるほど、まだ自分の政治基盤がしっかりしていないんだよ。」
「はぁ…誰からそういう言い方習ってくるんですか。可愛げのない。
そう言ったって、結局姫様のおままごとに付き合うのが嫌なの、見え見えですよ。
あんなに可愛らしいのに。御可哀想に。」
「そういうならお前が一日ソフィアのおままごとの相手してやれ。」
「うぐっ…」
「ほらみろ!
お前、この間俺がネバーエンディングおままごとに付き合ってたの見ただろ。
ソフィアの、役の求めるクオリティ高すぎて、劇団員じゃないんだから応えられねぇっつの!
なんだよ、”オネェの方はそのような乱暴な言葉遣いはしないんですのよ”って。
どっからオネェの存在知ったんだよ!誰だよ王女にオネェ教えたの!!」
まだ15歳のエドワードは自分より少し年上の護衛騎士と気のおけない会話を楽しみながら
国内視察のため、北部のアルトワ男爵家領地に馬を走らせていた。
+ + + + + + + + + +
この王国には、三人の見目麗しい王子と一人の王女がいる。
つい昨年、第一王子のジョージはようやく成人になり、同時に長らく婚約していた公爵令嬢との結婚式が国を上げて華々しく行われた。
成人の儀、結婚式、立太子の礼と、3つの大きなイベントがあって全国的に祝賀ムードに包まれた。
立太子した王太子の夫婦仲も良好で、新婚の二人にいつコウノトリが赤ちゃんを運んできてくれるか、などと言った賭け事が国民の間で流行っていた。
第二王子のウィリアムは兄のスペアとして何かあったときにと帝王学も一通り学ばされていたが、この結婚式を以て一旦は教育も一段落ということになった。今まで押さえつけられていた分、ウィリアム王子は早速に羽を伸ばして自由を満喫していた。
第三王子のエドワードは流行病などに備えて、第三王子ながらウィリアム第二王子と共にスペアとしての帝王学を学んでいたが、ウィリアム王子以下同文よろしく帝王学は途中であったが終了した。
父王と王太子との話し合いで、今後はスペアというよりもいかに王太子の治世を支えていくかにフォーカスした行動に切り替えた方が良いだろうということで、見聞を広めるために国内外問わず色々なところに出かけるようになった。
エドワードは父王と王太子と話したときのことを思い出した。
「ジョージ、立太子おめでとう」
「ありがとうございます、父上」
「ジョージも無事王太子になったし、エドワードの帝王学は終了して良いぞ。
今後はタイミング見て王国のためになる婚姻を結ばねばな。
いやー、若いっていいなぁ。夢いっぱいだな。」
「エドワードが羨ましいな」
「とりあえず、色々勉強するために色んなところを見てくるといいんじゃないか?
今後の身の振り方を考えるきっかけになるだろう」
「エドワードが羨ましいな」
「あちこちに子種播いてくるんじゃないぞ。ウィリアムじゃないから心配していないが。」
「エドワードが羨ましいな」
ーーーとりあえず色んなところ見にいくといいんじゃないか、とか、大雑把すぎね?
せめて何のためにって目的設定してくれよ。しかも見てくるといいんじゃないかって自分で言いながら訪問先の選定・調整全部自分でやらなきゃいけないから実質フワッと言っただけだし。
あれ、絶対翌日覚えてないやつだよな…
思い出すだけでも白目を剥きそうな会話だった。
特にジョージが王太子でこの国本当に大丈夫なんだろうかと激しく思った。
末の妹姫はまだ少し幼さ残る可愛い娘で、その愛くるしさで人々を癒していた。
ーーー唯一の王女だから、近隣諸国との情勢が悪ければ外国への同盟の証として嫁いでもらうし、
諸外国との関係が良好なら国内貴族との勢力抗争の要石として政略結婚してもらう。
女の子は可愛くてあまり政治に口を出さない方が愛されるから、そのような心算で教育せよ。
そう父王が決めた方針でソフィアは、もう12歳なのに少しふわふわしたところが残る可愛らしい美少女として蝶よ花よと育てられ、ゆったりとした時間の中で生きていた。
公式行事への出席や慰安のための国内訪問など、王女としての役割はきちんと果たしているが、如何せんバリバリ系ではないのでどこかふわふわとしているのだ。
12歳になってフィリップはじめ、同世代の男性の「守りたい女性No.1」を今年は勝ち取った。
そして、これから当面はそのNo.1の座を本人の自覚なしに維持し続けるだろう。
ーーーでも、王女として外国に嫁ぐとなったらそれじゃあマズいだろうよ。
ちゃんと政治情勢を読んで、問題解決や国を運営する視点を持たないと、
ソフィア自身がお飾りでよろしくない輩に周りを固められてヤバい王妃になっちゃう。
だから、ソフィアが困らないで幸せになるためにやんわり「勉強するんだよ」としか言えないんだけど…
父王は、王女へまさに「スポイル」というに相応しい扱いをしていた。
たっぷり愛情を惜しみなく注ぎつつ、一方で冷徹に「駒」としての存在意義を明確にして
かつ一定の人間には公言に近い形で意思表示しているものだから、教師陣も積極的に高等教育を授けるのが憚られている様子がひしひしと感じるのだ。
ーーーいや、どう考えてもヤバいだろ。何考えてるんだ、親父は…
はっ、人のこと考えている場合じゃなかった!まずは俺は俺のことだけ考えなくっちゃ!
俺はとりあえず他人がどうであれ、まずは自分がしっかり生き残って排除されないようにしないといけない…
+ + + + + + + + + +
エドワードの人生は第三王子に生まれついたからと言って決して安泰なものではない。
それまでスペアのスペアとして、毎日を忙しく過ごしていたのである日突然「おしまい!」と言われて時間ができても、友人がその時点でいないのだ。
何をして過ごすという目標もない。
途端に自分が空っぽに感じられて、父王の適当な言葉だと分かってはいたけれど、がむしゃらにどこかに行きたくて出かけていた。
このまま王子という立場で、いずれ兄たちを支えるということが一番現実的なのだが、
気をつけないと、結婚相手によっては兄を凌ぐ勢力になり得ることもある。
王子たちの立場が外戚によって均衡が崩れると、勢力争いが好きな貴族に無駄に担がれてうっかりクーデターにでもなったら本当に馬鹿馬鹿しい。
処刑台まっしぐらも良いところだ。「まっしぐら」が許されるのは猫だけだ。それもご飯に向かって。
そこで、エドワードはいずれどのような形かは分からないけれど、もし領地を持つことになるのであれば、領地を豊かにし、領民の生活をいかに楽に、幸せを感じられるようにするか、という方向性で人生を考え始めるようになった。
んー。領地経営つっても、うまく行ってる領地もあれば、失敗している領地もあるよなぁ。
まずは、近場の領地で話題になっている領地を見学(=視察)させてもらうかなぁ。
適当に始めた見学は、本当に面白いことばっかりだった。
訪問したアルトワ男爵領は、聞くと領地で得られる資源が少ないながら、資源に頼るのではなく尖った技術力を持つことに選択と集中をしたのだということだった。
「手前味噌でございますが、我が男爵領では特に紡績が盛んで、
関連して服飾に関する高い技術力をもつ職人が数多く集まる街をいくつも抱えております。
レースやリボン、特殊な生地素材やボタンなど、周辺素材についても
王室でも御用達なものを生み出す技術力を持つ職人が、日々技術力を高めるように切磋琢磨してございます。」
なるほどなぁ。
いずれ自分の領地を持つとしたら何か尖った技術を極めていくのも良いかもしれないーーー
そう思って、高い特化した技術力を持つ領地に訪れて、スペシャリストを選んだ経営方針についても知りたくなって、じゃああそこ、じゃあここ、ととんとん拍子に貪欲に学びに行ったのだった。
最初に良い領地に当たって興味を持てたのが本当に幸運だったとしか言いようがない。
次第に行く範囲を伸ばして、本当に国境沿いの辺境伯の土地まで、全国津々浦々色々な場所に視察に行っては勉強した。
可もなく不可もなく、中途半端な領地経営というところが大部分だったが、それはそれで一定の安定した経営スタイルとして参考になるのだった。
若さを最大限に生かして、今面白い!と思えることをどんどん調べて、点と点をたくさん作って行った感覚だった。
国内各地の領地視察を行って、国内の産業の特色や技術力の独自性を見ながら
どのように生産力を上げるのか、ブランドを作るのか、といったことを学んでいった。
学んだことを、王族の立場としてフィードバックして色々な施策もちょっとずつ口出しできるようになってきた。
そのうち、思い切って海外の視察もしたくなって父王にお願い(おねだり?)してみた。
「国内のブランドを交易に活かして両国の経済的な繋がりを強化したいんです!
だからいかせて(かつお金出して)欲しいです!」
と父王にそれっぽく言ってみた。
すると、意外と諸国に連絡を取ってくれてあちこち行きまくって結構楽しく過ごしてしまった。
長い時は2年ほど滞在した国もあった。
だって飯うまかったし。見るとこいっぱいあったし。
近隣諸国側からしても、俺様は王子様で、場合によっては自国の王族に取り込めるか
最悪でも王国の将来の高級官僚になるであろう人物なわけで?
売れるだけ恩を売りたいという思惑ももろ見えだったけどどんな国でも歓迎された。
出かける先々で、娘をもらってくれという話はよく出たが、下手に海外の要人と姻戚関係になると外交問題になりうるので丁重にお断りしつつ、今後の交友ということで友好関係はしっかり築いて、国交間の対等な交渉として関係を作った。
そうこうしていると、若い王子が教えを乞いに行くものだから諸外国の要人も満更でもなくすごく可愛がってくれて、いつの間にか太いパイプが出来ており、周辺国とも外交には「必ずエドワード第三王子がご同席」な感じになっていた。
友人の息子とか、遠縁の孫的な感覚で接してくれる人が多くて、俺が参加する時の外交会議はかなり友好的になることが多く、諸外国に牽制する必要はほぼなくなっていた。
外交は俺、地味系の施策も俺、結構色々若いなりに案を実現していて、これはこれで楽しいなって思える毎日を過ごしていた。
「エドワード王子は?」
「鳥の卵(=いつかえるか分からない)」
とまで言われるようになるまであちこちを飛び回り、王都を不在にすることが多かった。
エドワードはそれでも、父王に随時こまめに連絡をとっており、外交以外にも必要な仕事や軍事演習への参加などきちんと王族の役目は果たしており、成人式を迎えた際にはそこまで高い役職ではないが王宮内の外交部門の責任者に任命された。
成人の際に、父王にいずれ臣籍降下して王位継承に関わらない立場で王族を支えていくように、と今後の身の振り方を指示された。
エドワードはその時初めて、第三王子の地位に胡座をかいてぼんやり過ごしていなくて本当によかった、と思った。結果オーライということを心底実感した。
成人してからは社交会にもちゃんと顔を出しており、未婚の淑女とダンスを踊ることは多々あった。
けれども、自分を見つめる女性たちのギラギラした瞳に怯んでしまう。
中には実力行使で既成事実を作ろうと襲ってくる女性も決して少なくなかった。
そんな時は甘いマスクで「あなたとの夜を大切にしたいから」とか言って、相手の髪をひとすくいし、口付けて、「何か飲み物を取ってくる。酔いたい気分だ」とかなんとか言っちゃって切り抜けてやり過ごしていた。
あくまでも第三王子としてにこやかに、丁寧に、失礼なく、彼女たちの相手をしてやるのだった。
ここでうっかり相手をしたが百年目、指一本触れてなかったとしても朝まで一緒に過ごせば
「エドワードに孕まされた!」、と声高に言って結婚を迫ったり慰謝料を迫ったり、
まぁとにかくいいことには運ばないことは考えることだって嫌なくらいだが簡単に思いつく。
ていうか、そもそも誰一人として食指が動きません。て話です。
そんなこんなでエドワーの女性に対する苦手意識は高まっていく一方だった。
それに反比例して、特定の女性を作らず、婚約者も決めないエドワードの人気は鰻登りだった。
とは言え、正直、俺様が本気で好きになる女なんていないだろうから、どこかで手を打たないといけないかもな、なんて上から目線で人生なめていた。
+ + + + + + + + + +
エドワードが、諸外国も含めて色々と巡っている中で、最近話題に上がる領地があった。
それはシャティヨン侯爵の領地で、最近福祉に力を入れ始めて貧困層の経済格差の負のループをなんとか打開できないかというような施策を打っているという話だった。
このような領地経営の中でも福祉の充実などという地味な話題が上がるのはすごく珍しかったのだが、シャティヨン侯の長女が采配を振るっているともっぱらの噂で、「おひとり様」はただでは起きない、と評判だった。
「何、その”おひとり様”って。」
王都の城下町にお忍びで遊びにきて、パブに入った時にちらほら漏れ聞こえた遠い領地の話につい気を取られて聞いてしまった。
「あれ、オメェしらねぇのか。
しゃちよんとか何とかって領地のお姫様は、婚約者寝取られて婚約破棄叩きつけられて、キズモノってことで誰にも見向きもされねぇんで、おひとり様なんだと。
どんな女か知らねえけど、寂しいんだったら俺様が一晩お相手するんだけどなぁひひひ」
パブですっかり出来上がっている男が教えてくれた。というか何もわからなかった。
ーーーシャティヨン侯爵の娘というと、確か2年前のデビュタントで確かに会場の端の方で婚約破棄だのなんだのと言っているのを小耳に挟んだ気がするが、そうかあの娘が。
俄然気になってきたエドワードは、皿に残っていたハーブたっぷりのソーセージをガブリと平げた。
ガブガブとエールを飲んで、どんっ!と机にゴブレットをおくと
「よし、フィリップ。次はシャティヨン侯爵領で決まりだ!すぐに行くぞ!!」
とニンマリ宣言した。
主人の爽やか(?)な笑顔にウヘェとため息が漏れたフィリップは何も悪くないーーー
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
「エドワード様、軽く調べてまいりましたが、シャティヨン侯爵領ではシャティヨン侯の弟君が現在子爵としてシャティヨン侯不在の際には領地経営を担っているそうです。
噂は面白おかしく伝わるものですから、おそらくこのロベール子爵が実質の企画運用などを行っていると思われます。
シャティヨン侯爵の邸宅ではなく、ロベール子爵邸に直接向かいますか?」
「そうだな。ロベール子爵に聞けば実際のところが分かりそうだ。
そういえば、噂通りシャティヨン侯爵令嬢はこちらの領地にいるのか?」
「はい、どうやら毎日のように叔父のロベール子爵と街の商工会議所を訪問しているようです」
「は?」
自分の今まで出会った令嬢は、誰一人商工会議所にいくような娘はいなかった。
…気になる。
「…ロベール子爵に先ぶれを出しておいてくれ」
「は、畏まりました」
自分よりも8つも年下の女性が、領地経営なんてしているんだろうか。
なかなかどうして寡婦の社会的地位向上であったり、医療や教育機関の整備の充実など内容が結構しっかりしていたが、だからこそ実際は叔父の活躍のおこぼれではないのか。
…噂の令嬢に会ってみたい。
やがて、先ぶれにいかせていた使いが帰ってきたので早速に訪問した。
「エドワード殿下、このような極小の領地までお運びいただき恐悦至極にございます」
普段、王都に出ることもなく兄のサポートとして領地で田舎暮らしをしていたのが長かったロベール子爵は突然訪問してきたこの第三王子にひたすら緊張していた。
サロンでもてなされながら、エドワードは福祉施策に関しての探りを入れてみた。
「こちらの領地の福祉施策は全国にそのユニークな発想が評判となりとても有名になっている。
なんでもシャティヨン侯爵令嬢も商工会議所で奮闘されていらっしゃるとか。
私もぜひ参加したいのだが次回はいつ開催予定なのだ?」
ロベール子爵は、はっ、と時間を思い出した。
「も、もったいないお言葉、誠にありがとうございます。
い、今から商工会議所での定例会が開かれるのですが、話題に上がりました姪のシャルロットもそちらにおりますのでもしよろしければ殿下もいらっしゃいますか?本来高貴な方をお呼びする場所ではございませんが…」
「行く。
フィリップ、馬車を回せ」
フィリップに調べさせて会議は毎日開かれていると聞いていたので、エドワードはかぶせるように返事をした。
商工会議所では、殿下と呼ばせずミドルネームのルイ、と名乗るようロベール子爵に言付ける。
曰く、萎縮されずありのままのディスカッションを見たいから、と。
そこで出会ったシャルロット嬢はまさに掃き溜めに鶴だった。
想像していた以上にシャルロット嬢は若く、生き生きとしていた。
「あら、ロベール叔父様、そちらの方は?」
鈴を転がすような可憐な声でこちらをはっきりと見てくる。
なんて生命力に溢れた目なんだろうか。
「このか……」
「あぁ、ルイと言う。ヨーク公の親戚筋なのだ。今回は周遊していたところでシャティヨン侯の領地を通りかかったものだからご挨拶に伺ったら、子爵がちょうど仕事に向かうところだったらしくてな。
面白そうだからついてきたというわけだ。
しばらく邪魔するが、気にせず進めてくれ。」
シャルロット嬢に思わず魅入られていたが、はっと気がつき思わず被せる形で自己紹介した。
嘘は言ってない。
しかし、シャルロット嬢の表情が一気に怪訝なものになった。
「はぁ、ルイ様ですか。私はこちらのシャティヨン家が長女、シャルロットと申します。
既にお聞きお呼びかと存じますが、本日は商工会議所の定例会議を致しますのでお構いできないかと思います。もしよろしければ屋敷でお待ちいただけましたらお寛ぎいただけるよう準備させます。」
「それには及ばん。先ほども言ったがこの会議に邪魔する。気にせず進めろと言ったはずだ。」
ヤバい、わざわざ来たのに追い出されてしまっては元も子もない。
「王子」の肩書きがないからか、シャルロットの口ぶりこそ丁寧だが
”お前誰だよ怪しいな出てけ”と顔に書いてあるもんで追い出されたくなくて焦って強気に言ってしまった。
はっ……商工会議所のマイスターの皆様の目線が一気に悪くなった。やっちまったかーーー。
「…かしこまりました。それでは、ロベール叔父様、本日の議題から進めましょうか」
「そうですね。それでは、前回議題に出ておりました塩害被害の多い東地区の田園領地に関しての対策について調査結果が出た方はいますか?」
議題が始まってディスカッションでは次々に意見が飛び出してくる。
どうやらここにいて良いようで、ほっとこっそり息をついた。
そこに、シャルロット嬢が研究事例を出してきた。
「冬季に水を張ると、塩分が薄まって春になっても使えるという研究があるようですわ。
時間がかかるプロジェクトになりますが、もし許されるのでしたらこの冬季に一部田園を実験地区に指定して検証したいと思いますがいかがでしょうか。」
「へーそんなやり方あるんか。」
「もし有効でしたら水をどうやって引くのかという懸念点はございますが、街道を新たに引くよりは楽に実現できますわ。」
「それは確かにコスト的にも良さそうだね。水を入れるだけで、塩害が回避できるならいいかもしれない」
「「「じゃあ、姫様の案でやってみようか」」」
「ありがとうございます。では、対象地区の方達との交渉内容やタイムラインを次回以降詳細詰めていきましょう。皆様にお力添えいただくと思いますがどうぞよろしくお願いいたします。」
シャルロット嬢は、よく領地のことを考えてさらに課題を解決するための研究もいくつも探していたことがわかった。
実行のための方針なども決めるだけの裁量がある中で、しっかりリーダーシップをはっきしている。
頑張っているシャルロット嬢を会議に参加するおじさんたちも暖かく見守っているのがよくわかる。
それだけで、エドワード改めルイはかなり目から鱗だった。
こんな風に、領地や領民を思って行動している年若い娘がいるとは正直思っていなかった。
ーーー正直、ゾクゾクっとした。
「では次の議題、現状の綿花栽培は全国でも一番の収穫高を誇っていますが、二次生産をもっと積極的にしたいと思います。こちらについて案がある人はいますか。」
「今、ボゾン家と契約してあちらで綿を加工して布にして販売しているので、同じように取り扱ってもらえる家がないか売り込みに行ってみるか」
「そうですね、それはいいかもしれません」
「綿花栽培をしている農家と、それを加工する事業者を自領内でももっと推進することはいかがかしら?
今まで以上に高級な綿布の製作に特化して、王都からデザイナーを雇い最先端のドレスも作るのです。
6次産業化すればブランド力も上がりますし、コストも安く利益率も上がるのではないでしょうか。」
「あー、なるほど、じゃあ新規取引先開拓と、新ブランド開発の二軸で行ってみましょうか。」
「それであれば、アルトワ家と交渉するといい。あそこは数はいないが装飾に関して高い技術力を持つ職人がいる街があったぞ。現在はこれといった大きな取引先があるわけではなかったから、このような機会があれば高い技術力を取り入れられると思う。」
それまでじっと聞いていたがつい思わず口を挟んでしまった。
皆、ぎょっとしてこちらを一斉に窺う。
「何だ?私が知っていることを言ってはいけなかったか?」
「いえ、流石周遊されているとおっしゃるだけございますね。アルトワ家は我が領地よりもかなり北よりであまり資源もない為今まで交流がなかなかなかった領地でございます。そのような情報も持っておりませんでした。感謝申し上げます。」
シャルロット嬢がしっかりと目線を合わせてお礼を言ってくれた。
さらに追加で意見を求めるものだから、何だかお礼が嬉しくなって次々にアドバイスしてしまった。
すると、
「よしっ、いいアイデアをいただいたし、こうしてはいられないわ。」
シャルロット嬢はさっさと出かけて行ってしまった。
その様子を暖かな目で見守る商工会議所の人たちを見て、あぁ、巷では口さがなく言われているシャルロット嬢が、ここでは愛されているのだなと思った。
それを確かめようとおじさん連中にハッパをかけてみたら、
「あの子は、弟のジョーン様を支えるんだ、というのがいつも口癖で。
結婚はしないで領民家族のみんなのために頑張るといっつも言っとりますわ。」
という答えが返ってきた。
「へぇ……まだ18か19くらいだと思ったけどそんな自分の結婚諦めてんの。」
「何でも、婚約破棄されて、旦那様が色々相手を見繕おうと手を尽くしてるんですが、捨てられた方のお嬢ってことで誰も婚約してくれないんだそうで。」
「それも随分前の話ではないか。」
「いやぁ、それが、当初探して方々に断られて、さらに行き遅れ感が出てしまったのと、年も重ねてしまったということもあってなかなか決まらないんだとか。
ご本人も、旦那様が頑張っていらして、それでも決まらないことをご存知で
その状況も嫌なんだとこぼしてましたよ。だから、私は一人でいいんだと、家族と一緒にいられればそれで十分なんだとおっしゃってました。」
ーーーそんなこと思っていたのか、あの娘は。
そんな素振り見せず、領地のことを考えて全力で頑張っているのに。
お嬢様のおままごとではなくて、ちゃんと毎日ずっと考えているからこそ出てくるアイデアを、大事にして助けてもらって形にしている。
自分の幸せは置いておいて。
そんなに自分を諦めてしまわないで欲しい。もっと自分を大事にして欲しい。
ルイは、なんとか守ってやりたいと思ってしまった自分に気がついた。
生まれて初めて、自分の身の丈に合わせつつも人生を切り開いて行こうという姿勢の女性に出会ったのだ。
絶対に手放してはいけない、と頭のどこかから囁き声が聞こえた気がした。
ルイはシャルロットの邸宅に滞在することにし、帰らなかった。
商工会議所の会議にもよく顔を出して、事務仕事を手伝うことで、現状のプロジェクトの進行を把握することができた。
ロベール子爵がやっていると思っていた領地経営は、シャルロットと最早半々の割合での負担に移行してきておりロベール子爵自身がシャルロットの存在意義を確立するためにサポートしている様子も度々垣間見えた。
だから、ルイがシャルロットの仕事を手伝い、侯爵家の執務室でシャルロットとよくプロジェクトの相談をする姿が当たり前になった。
「シャルロットはさぁ、本当に周りの人に愛されてるよね。」
「え、何ですの急に。」
「いや、そのまんまだよ。自分を受け入れてもらって、成長を見守ってもらっている。
なんかこういうの身に覚えがあるんだよなー…」
「結局自慢ですか。」
「当たり前だろ。ルイ様だぞ。」
「ハイハイ、あ、マリー、お茶にするから準備していただけるかしら」
「お前聞けよ」
「ハイハイ、ルイ坊っちゃま、お茶の用意をしていますから甘いもの食べて落ち着きましょうねー」
「ばあちゃんかよ!」
「…ルイ様。言い方。」
最後にフィリップが突っ込んでくる。
そんなこんなで二人の距離はどんどん縮まっていた。
ルイの持っている知識がシャルロットの背中を押し、
彼女が希望する「より良い領地」「より楽な領民の暮らしの実現」が一つ一つ、着実に形になっていく。
そんな二人の関係がすっかり心地よくなってしまった。
季節がすっかり巡って、いつの間にか冬になった。
ずっと温めてきた、塩害地区の実験田園に水を入れるプロジェクトを始めるというときに
治水に関するコミニュケーションミスを、シャルロットがしていた。
真っ青になったシャルロットはすっかり自分の準備や確認不足を認識して凹んでしまった。
もう、見ているのもかわいそうなくらい落ち込んでしまって、
怒り心頭の領民との調整も難航しておりシャルロットはすっかり参ってしまっていた。
「フィリップ。俺の使える個人財産を使って交渉するぞ」
ルイはフィリップを連れて治水を管理している実験エリアの地主と、近隣地域で水を引けそうな土地の地主に話をつけて、水を引くための工事のための費用負担と、水を分けてもらう地主に対しての褒賞を協議してお互いに満足いく着地点を探して話をまとめた。
本来は裏技だからあまりやりたくないが他でもないシャルロットが寝込んでしまっているのだ、背に腹だ。
ーーーふぅ、早く纏まってよかった。早く伝えてあげたい。
ルイは遠慮がちにシャルロットの部屋のドアをノックする。
そして、ベッドに伏せているシャルロットの隣に座った。
じっとして枕に顔を押し付けている。
柔らかな髪をそっと撫でて、優しく声を掛ける。
「シャルロット、あなたは本当に普段から頑張っているよ。
失敗は誰にだってある。
そのように泣いていないで。貴方が笑顔でいると皆惹かれて頑張れるのだから。」
こっちを見て欲しかった。
元気になって欲しかった。
すると、枕から顔をあげたシャルロットがびっくりしたような顔でこちらをじっと見て、
そしてポロポロ涙がこぼれ始めた。
ハンカチで目元を押さえながら、隠れるようにしている。
あぁ、そんなに落ち込まなくていいのに。思わずグイと腕を掴んで顔をのぞき込んでしまった。
「なぁ、そんなに落ち込まないで。元気を出して。」
そう声をかけたけれど、反応がない。
よく見ると、耳まで真っ赤になってプルプルしている。
「うわぁ……か、可愛い……
ねぇシャルロット、君は知っている?僕がすっかり君の虜になっているって。
好きだよ、シャルロット。」
思わず、愛を囁いてしまった。
もっとシチュエーションとか考えて伝えたかったけど、シャルロットが可愛すぎるのが悪い。
しかも、シャルロットは蚊の鳴くような声で、「わ、わ、私も……」と呟いて俯いた。長い睫毛にもともと真っ白な肌なのに真っ赤に染まった頬、それを見たら我慢できなくなってキスをした。
目をまん丸にして更に顔が真っ赤になるシャルロットが愛しくて、止められなくてキスしまくっていたら
部屋の扉の外で控えていたシャルロット付きの侍女に、その日は叩き出されてしまったのだった。
チッ、と思ったが、あそこで止めてもらわなかったら自制できた自信は正直ありませんでした。はい。
告白のタイミングを勢いに任せてしまったので、プロポーズはしっかりしたい。
帰りながらすぐに花を手配して、次の日、シャルロットに結婚の申し込みをした。
「あぁシャルロット。愛してるよ。君をグズグズに甘やかして僕なしでは生きられないようにしたい。
どうか、僕と結婚してほしい」
俺の本心からの言葉だった。
シャルロットは「はい、はい、もちろん!」と涙を流しながら返事をしてくれた。
やばい、可愛い。可愛すぎる。
シャルロットに悪い虫がつく前に急いで婚約して、最短で結婚しなくては。
「急いで貴方の父君に婚約のお許しを貰わなくてはな。」と言って、急いで出掛けて行った。
父王にも話さないと。
いずれは臣籍降下して公爵になることは決まっているが、それもこの婚約が無事結ばれれば具体的に進めよう。早いところシャルロットと田舎に引っ込んで甘々な毎日を過ごすんだ。
当然、ちゃっちゃか婚約をもぎ取った後、いつ臣籍降下するかのタイミングは諸々政治的判断になるからすぐにではないので、シャルロットは一時的に「王子妃」になる。
だから、王都のタウンハウスに引っ越して花嫁修行と称して色々な妃教育を受けてもらった。
少しでも一緒にいたくて、毎日シャルロットの元を訪れては
「今日も美しいよ」
「毎日シャルロットを想っているよ」
「愛しているよ」
と、我ながら、女たらしのウィリアムが乗り移ったか?と思うほど愛を囁いても言い足りない。
とにかく愛しくて仕方なかった。
だが、ふとあるとき気がついた。
「シャルロット……?どうしたの?浮かない顔して」
「殿下……いえ、なんでもございませんわ。ご心配おかけしてしまいまして恐縮です。」
丁寧に答えるシャルロットに、思わす顔を顰める。
ーーーこれは、何かある。
でも、何かは言ってくれない。なんだろう。
「シャルロット……シャル。ルイと呼んで。君だけは、僕のことをルイと呼んで。
そして、領地にいたときみたいに話してよ。
あの、一緒に過ごした君に僕は惹かれたんだし、守りたいと思ったのだから。」
「ルイ……ありがとう。」
ーーー俺の気持ちはきちんと伝え続けよう。
この愛がシャルを守ることは間違い無いのだから。
それでも、王子妃として完璧に勉強をしていくシャルロットの準備が整っていくにつれて、なんだか元気がなくなっていくような気がする。
それでも、王子妃になれば大勢の人に傅かれ、文字通りお姫様になるのだ。
女性で喜びこそすれ、嫌ではないのではないか、と思っていた。
結婚式は無事に滞りなく行われた。
美しい春の良い日に、たくさんの花が城中に飾られ、街はお祝いムードに包まれ
美しい花婿と花嫁の新たな門出を誰もが祝った。
その日は美しすぎるシャルロットが眩しすぎて、他の人のことは何も覚えていない。
とにかく視界いっぱいシャルロットで埋めたかったし、実際美しいシャルロット以外自分が何を着ていたのかさえ覚えていなかった。
「シャルロット、今日はどんな日だった?」
結婚してからというもの、毎夜寝る前に、互いにどんなことがあったと話をする習慣がついた。
「今日はお茶会がありましたの。王太子妃や第二王子妃、あとはパドマ伯爵夫人やクララ侯爵令嬢がご参加されて、色々な噂話を楽しんでおりましたわ」
「噂話?女性の噂話は侮れないからな。
今日はどんな話だった?」
「誰それに子供ができた、子供たちがどんなに大変かというような他愛のないお話ですわ。」
「他には?下世話な話が好きなパドマ夫人がいたのであれば社交界の恋愛事情についても色々話が出たのかな。場合によっては弱みを掴むこともできるからその手の話も興味あるな。」
「まぁ、そうでしたの。
誰それはまた新しい愛人を囲っているらしい、あれこれは妻の方が若い恋人を作ったらしい、
と言った話題で盛り上がっておりました。」
シャルロットは、思い出すだけでもぐったりする、と言った表情を珍しく隠しきれていなかった。
シャルロットは、過去に初恋の婚約者に、不倫されて捨てられたことがある。
その手の話が好きでないのも頷ける。
僕はシャルロットが自分の隣にいてくれることで守れるとずっと思っていた。
結婚して、王子妃になれば色々な人に傅かれて高価なものに囲まれて美味しいものを食べて暮らせる。
多くの女性は責任の少ない王子妃の地位はとても魅力的だと恥ずかし気もなくルイに直接言ったものだった。
でも、シャルロットはそうではないのだと気がついた。
シャルロットはシャルロットの人生を生きている。
ずぶずぶに愛して僕なしで生きられないようにしたい、と言った言葉に嘘はない。
でも、こんな風に何かを諦めるような、初めて会った時のような生き生きとした表情が徐々に失われていくのは見ていられない。
僕の社会的立場に彼女を付き合わせて、やりたいことの機会を奪うのは守ってるとは言えない。
僕は、自分の人生に向き合っていたシャルロットが好きになったんだから。
無理に価値観の合わない世界で自分を押し殺すように、息を潜めるように毎日を過ごすなんて、
なんて拷問だろう。
そのことに気がついてから、随分と父王に掛け合った。
初めは遠慮がちに、最近では顔を合わせるたびに叙爵して欲しいと頼んでいる。
それでも、便利な「第三王子」を早々簡単に手放してくれなかった。
貴族社会は性や恋愛に対してかなりオープンな環境だ。
夜会に参加すれば、子供ができても相変わらずウィリアム第二王子は毎回違う夫人と手を繋いでこっそり小部屋に入るところを目撃する。
軽い恋愛を楽しむ貴族がかなり多いので、シャルロットには社交界はあまり得意ではなさそうだった。
うっかり、シャルロットの元婚約者にばったり出くわした夜会もあった。
あろう事か私と離れたタイミングを見計ってシャルロットを口説こうとしていたので、婚約解消の恩はすっかり消え去って不敬罪で夜会から叩き出し、ついでに社交界にも参加しにくい空気を作ってやったぜ。
ふん。
ある時、シャルロットが参加した茶会で若い男性を愛人としてどうかと紹介されたと聞いてから、煩わしい社交界での活動は最低限にした。本当にけしからん。もう一度いう。本当に本当にけしからん。
シャルロットは結婚した後も王族としての責務を果たそうと常に勉強を怠らなかったので、語学堪能で外交を一緒に担うことで社交界と一定の距離を保ち、精神衛生も随分良くなった。
そうして、なんとシャルロットの妊娠がわかった。
これから生まれてくる子供のこと、シャルロットの性格、気持ちを考えて、妊娠がわかったその日のうちに父王との謁見を申し出た。
「今回シャルロットが妊娠いたしました。
ジョージ王太子もウィリアム第二王子にもそれぞれ一人ずつ子供がおりますが、二人とも男児。
次世代のスペアも十分におりますれば、この度臣籍降下して領地を賜り、シャルロットの産む子供は王族として王座を争いうるのではなく、次代の王を支えていくという明確な立場を示したく存じます」
「うーむ…そなたの優秀な外交能力は王族として遺憾なく発揮してもらいたいものなのだが。」
「王族から離れても王族のためになるような外交はできましょう。
王がお望みであれば中央での権威的な地位は放棄し、外交に特化し、通常は領地にいるのでも構いません。領地で得た富のうち5%は次代の王族のために拠出しましょう。」
「ふむ。それは随分とそなたに厳しい条件ではないかの?それであれば認めてやることはできるが…」
「王族への忠誠を表明するには致し方ないかと思いますれば。
可能であれば、子供が生まれる前に早めに公表したく、承認稟議を回してもよろしいでしょうか。」
「うーむ。…よし、良かろう。」
ルイはシャルロットと一緒に歩む未来を考えていた。
手続きに時間がかかり、ようやく承認が降りた頃に結婚4周年の記念日が近づいてきた。
「フィリップ、湖畔の別荘にいくから準備してくれ」
「お!ようやくですか!」
「この日を迎えるのも長かったんだ。早く伝えたい…」
そうして結婚4周年の記念日に、ルイはシャルロットを連れ出して湖畔の別荘にきた。
こじんまりとした庭にテーブルを出してシャルロットを連れて妊娠中のシャルロットの体を労り抱えるように椅子までエスコートする。
シャルロットは喜んでくれるだろうか。
王子でいることで使える予算は大きい。
公爵になる自分についてきてくれるだろうか。
あぁ、それでも、シャルロットのあの生き生きとした目でもう一度私を見て欲しい。
「あのね。シャル。
君は、この四年間、本当によく頑張って僕の妃として隣に立ってくれていた。
毎日言っても足りないくらい、君のことを愛しているよ。
だけど、君は今、もっと幸せになる権利がある。
シャル。
君が嫌がらないことを祈るばかりだよ。
あぁ……本当に君のことになると緊張する。
ようやく、父上からお許しが得て、叙爵と領地を与えてもらえたんだよ。
君さえ良ければ、公爵領で公爵夫人として、そして王都や各地を放浪してしまう公爵のパートナーとして
僕たちの家族や、領民たちを一緒に幸せにしてやってくれないか?」
シャルロットは、目を大きく見開いて答えない。
どうなんだ?僕と一緒に支え合って生きていってくれるだろうか?
ずっと一人で頑張ってこなくてはいけなかった僕の人生に、隣に立って支え合っていける人がいるんだと知った。
その人をただ物理的に満たせば幸せになれるのではないという事を知った。
何がしたいかをきちんと話し合ってシャルの考えを大切にしたい。一緒に生きていきたい。
シャルロットは
「ルイ……私、私のことを深く理解してくれるあなたを愛してるわ。
ずっと一緒よ。」
そう言ってギュッとしがみついた。
「シャル。僕は君に恋をした。
そして、今、君を心から愛している。
君が心を自由に、嬉しい、楽しい、と思えることをして欲しい。
そして、君の隣にいて、もし違う方向だったとしても同じように前を向きながら手を繋いで人生をともに歩いていきたい。
愛してるよ。」
その後のルイの行動がいかに早かったかはお察しの通りである。
さっさと公爵領に引っ込んで、産まれた娘にデレデレになり、シャルにもデレデレ甘々な日々を過ごし、当然といえば当然なのだがシャルロットの考えた領地改善施策がバンバン出された。
「シャル。あのマエストロ、前から言おうと思っていたけれど近づかないほうがいいよ。
シャルの事ばっかり見つめてるもの」
「いや会議中プレゼンしているんだから当たり前でしょ!」
「そんなこと言うなら僕だって見つめてるんだから僕だけを見て」
「いやいやいやおかしいでしょ!」
「ふふ、真っ赤になってプンスカしてるシャルも可愛い」
「…ばか」
ぎゅ
今日も二人の甘々な会話に、周りの人はいつまで新婚気分なんだと総ツッコミしたのであった。
おしまい。
最後までお読みいただきましてありがとうございます。
よければポチッと評価を押していただけますと励みになります。
領地に行った後、ベタ甘な生活になるので、
その辺を膨らませたり、他の登場人物をもう少し詳しく書いてみたりしたいなと思っております。