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魔術大国上層部の思惑

前話ですがちょくちょく修正しました。

以下は修正点です。

・教会勢力に関して触れてた箇所を消去

・エミリーによる謝罪を受けた結果の追加


以上です。結果とか話の内容は特に変更ないので、ご安心ください。

 氷の魔女。


 その性格は冷酷無比。

 なんの感情も示さないその少女は魔術大国多くの魔術師達の夢である『禁術』を習得した際にも何の喜びも抱かず、それどころか「……この魔導書を書いた人物は頭がおかしい。不愉快」と『禁術』を編み出したとされる存在に対して術式の不完全さを嘆き駄目出しまで行なうという伝説を生み出した。


 その駄目出しを聞いた周囲の魔術師達は傲岸不遜な言動をとる『氷の魔女』に対して不満や怒りを───抱かなかった。


 むしろその逆。

 禁術ですら通過点でしかないと言わんばかりの魔女の言葉に、誰もが感動の涙を流したのだ。


 そしてそんな魔女に続けと。

 魔道を歩む者にとって禁術は通過点に過ぎないのだと。

 そもそも魔術の為なら廃人になろうと構わないと。


 そんな感じのノリで禁術を閲覧する魔術師が、氷の魔女を間近で見た魔術師達から続出した。上層部は泣いた。


 勿論魔術大国の国民とて、一枚岩ではない。

 単純に研究が好きな奴だったり、入門魔術をこよなく愛しすぎたが故に入門魔術以外の魔術を身に付けない者だったり、新術開発以外には興味がない魔術師だったり、魔術で建造物を破壊するのが好きなヤベエ奴だったり、魔術によって世界の根幹を明かそうとする者だったり、魔術師の肉体そのものに興味関心を持った結果廃人化した魔術師の肉体を購入して研究しまくってるやべえ奴だったりと様々だ。


 そんな連中は禁術には興味ないので、全員が全員そう廃人になりに行くわけではない。


 とはいえそれでも禁術を閲覧する魔術師の数は決して少なくはないし、明らかにやべえ案件なので他国にその情報は普通に広まった。


 ちなみにソフィアが『天の術式講座』の最中にさらっと言っていたが、禁術の使用者が出た事を察知した教会勢力が魔術大国を調査したものの、廃人化する事を理解しているにも関わらず笑顔を浮かべて魔導書を開き、そのままバッタバタ廃人化していく連中を見てドン引きして退散したらしい。


『……魔術大国。彼らの思考は、よく分かりません。魔術の為なら廃人になるなど……神の為ではなく、魔術などというものの為など……私には理解しかねます』


 健常者から見れば大差ねえぞ、という言葉を言わなかった俺は間違いなく優しかった。優しかったのかな……。


(まあそれはそれとしてだ……)


 現在俺は頭を抱えていた。

 その理由は当然、クロエという少女を取り巻く周囲の勘違いという環境にある。


 冷酷無比? 誰だそれは。


 魔導書を書いた人物に対して「頭がおかしい」と駄目出しが出来る偉大な人物? それは狂信者相手に「頭おかしい」と思った当たり前の思考から来るものだ。


 何の喜びも抱かず? 表情筋が皆無なだけだ。聞けば普通に「嬉しかった」と言ってたぞ。


 人の目に触れない森の奥深くで新たな禁術開発? 森の深くに住むのが落ち着くからなのと、そもそも研究自体そんなにしてないらしいぞ。


(なんなんだろうか。なんなんだろうかこの……この気持ちは……)


 アニメでは勿論、この世界に来てからも全く知ることのなかった魔術大国の一面。それに今、俺は直面している。

 普通なら勘違いを訂正するのだろうが、クロエの場合そもそも気付いていないせいで勘違いが加速している。

 しかもクロエは魔術大国の魔術師として外れた行動をとることも特にはないので、誰も勘違いに気付く事はない。


 そして当たり前の事すぎるが故に、誰もそれに対して特に議論も交わさないので他国にその情報が回る事もない。

 アニメはアニメで別に『氷の魔女』は主人公でもなんでもないので、わざわざ焦点に当てて描写される事もなかった。


(なんという悲劇だ……)


 まさかこんなアホみたいな話があるとは思わなかった。

 別にどうでも良いといえばどうでも良いのだが、何故だろうか。自分と似たような境遇に思えなくもないので同情心が湧いてしまう。


(まあだからといってどうする事も出来んが……)


 せめて、せめてものの情けだ。

 俺くらいは、俺くらいはクロエと仲良くしてやろう。

 

「……? どうしたの、ジル」

「……なに、少しばかり私の行動に修正を加えただけだ」

「?」


 そんなこんなで、俺とクロエはとある研究機関の応接間に通されていた。

 この研究機関ではかなり特殊なものを取り扱っているらしい。具体的にどういうものを扱っているのかクロエに尋ねてみると、「知らない」という素敵な返事が返ってきたので何も分からないが。


「お待たせしました『氷の魔女』殿とそのお弟子殿」


 暫く待っていると、白衣のようなローブを着た小太りの中年男性がいそいそとした様子で入ってきた。

 その男性を見たクロエは軽く頷くと、俺の頭の上に手を置いて口を開く。


「新しい弟子、ジル。(ステラが言うには)とても才能がある」

「!? それは……凄まじいですね」

「……」


 一言足りないと言いたいが、まあ『氷の魔女』の弟子という立場になるんだからナメられないという意味では問題ないか。

 肉体の幼さもそうだが、ここに来るにあたって魔力量を抑えているので他者からは侮られやすい。


 なのでまあ、俺の強さを勝手に上方修正して想像するのは全然ウェルカムだ。


 畏怖の念が篭った視線でこちらを見てきた小太りの男性がその後暫くクロエと会話を交わすのを、俺はなんとなしに眺めていた。


 ◆◆◆


 ───かの『氷の魔女』が他国の子供を弟子にとった。


 その情報は、当然ながら魔術大国の上層部も掴んでいた。


「その子供の外見的特徴は?」

「銀髪に青い瞳を持ち、無表情の超然とした子供と聞いたぞ」

「無表情……となると『氷の魔女』と似通った性質を有しているのか?」

「そこまでは分からないわよ」


 魔術大国上層部。

 彼らは魔術大国において異端な価値観を有している人間達だ。

 それ故に権力を欲するし、財力を欲するし───他国に侵略する為の武力を欲する。


「しかし子供だろ?」

「他国の子供だから良いんだ。子供は染めやすい。早めに手を打たなければ、この国の魔術師と価値観を共有しかねんが……」

「いやいくら子供とはいえ、十を超えているならあの異常な価値観に染まることはないと思うぞ」


「『氷の魔女』がとった二人目の弟子だ……間違いなく、超級魔術を越えて特級魔術に至る才能はある」

「唯一無二の弟子であるステラとかいう少女は、まだ超級魔術止まりと聞いたが?」

「超級魔術を無詠唱で行使可能な時点で鬼才だが?」

「そもそもあの年齢で特級魔術に至る訳がないだろ。そもそも至った人間の数を考えろ。……氷の魔女が異常なんだ、至るにしても普通は爺さん婆さんの年齢になってからだぞ」


「なら、その子供とやらも特級魔術を習得するのはまだまだ先ではないか?」

「大局を見て物事を考えるべきよ。目先の利益にばかり目を向けたら、後々損するのは私達」

「その通り。これはあくまで未来への布石であり……投資だ」


 だが、この国で他国に侵略出来るような武力は悲しい程に手に入らない。

 何故なら他国に絶大なアドバンテージをとれるであろう超級魔術の使い手は、誰一人として他国への侵略などに興味を持たず、研究に没頭するか特級魔術や禁術を見据えるから。


 加えて上級魔術の使い手も殆どが似たような感じで、中級魔術止まりの中年連中がたまに志願するくらいだ。そんな戦力で他国に侵略したところで、なんになるという話である。


「特級魔術の使い手が国の駒となれば、特級魔術を修めたい魔術師達が釣れるだろう」

「そう上手くいきますか? 侵略に時間を取られるくらいなら独学で───とかいうのがオチでは?」

「そうなるかもしれんが、しかし特級魔術の使い手が駒になる時点で十分すぎるだろう」

「『氷の魔女』の名を他の列強国からの侵略への抑止力に使いつつ、その子供を遊撃兵のように扱う訳か」

「特級魔術の使い手を二人抱え込んだ時点で、小国であれば属国になる事を希望するかもしれないわね」


 そんな彼らにとって、他国出身の優秀な術師という存在は是が非でもこちら側に引き込みたい存在なのだ。

 とはいえ、他国の術師の多くは「魔術大国の魔術師達は頭がおかしいから……」とスカウトを拒否するので引き込めた試しは皆無だが。


「特級魔術の使い手を二人も抱え込めば、我が国が頭一つ抜けるのではないか? 他の列強国が連合を組む可能性は?」

「あの『龍帝』が連合を組むような(たま)か? 大陸の支配を目論んでるんだぞ」

「『人類最強』を擁しているあの国はあの国で、完全に鎖国しているから連合を組むとはあまり思えん」

「あの国は何故鎖国を始めたんだ?」

「なんだったかしら……確か『神の力』とかいうものの解析を始めたとかなんとか……」

「『神の力』? オカルトか?」


 故に、彼らはジルという存在を欲する。

 他国の魔術師で、幼く、才能を有している存在を。


「哀れな事だな。神なんて存在しないと、この国ではとうの昔に証明されているというのに」

「人間ではどうしようもない災害を神の怒りということにしていた、という説だったかしら」

「太古の昔は、魔術なんてものが無かったらしいからな。未知を神と名付けて、既知の存在という事にして恐怖を誤魔化していたのだろう」

「今じゃ雷も暴風も何もかも、大抵は魔術で再現出来る。といっても、一人で全てを操る事は不可能だが」


「『あえて神という存在を定義するならば全ての魔術を操る者であろう』だったか」

「そんなバカげた存在、いる訳がないから無効だな」

「あの『氷の魔女』でさえも禁術の全てを習得出来た訳じゃないし、火属性の術の行使は不可能と聞く。そんな存在がいたとしたら、それこそ『神』なんてものくらいだろう」

「全ての魔術を操るって、理論上はこの世界の法則の全てを操る事だものね」

「その理論を逆手にとって大人数で術を並行して発動する事で、世界の法則を操り真理に至る事を目的としている研究機関があったような……」


「その研究機関に禁術はおろか、特級魔術を使える人間がいない時点で論外だがな」

「そもそも再現や観測が出来ていない事象が幾つもあるから、ほぼ机上の空論という結論を別の研究機関が出していただろう。第一事象一つにしたって観測してから数式に当てはめるまでに必要な時間がだな……」

「それらの事象のピースを埋める手段の一端が禁術に違いないといった仮説もあるが……」

「話が脱線してきたぞ」


 とはいえ、困難である事は彼らも重々承知している。

 しかしそれでも、彼らは欲しているのだ。

 俗物的であるが故に、彼らは自分達の立場を優位にするものを手に入れたくて仕方がない。


「しかし、『氷の魔女』の弟子とやらをこちら側に引き込むのは困難ではないか? その弟子も、『氷の魔女』の名声を知るからこそこの国に来て弟子入りしたのだろう?」

「他国の人間なんですから、禁術の魔導書で釣れませんかね?」

「それで釣れるのなら元よりこちら側に引き込むのは不可能だろう。魔術の為に廃人になるようなイカれた価値観を持っているのだから。冗談でも笑えない」

「子供であるが故に、金や女で釣るのは難しいだろうな」


「拉致で良くないか?」

「『氷の魔女』に殺されないかしら」

「アレが他者に情を持つような女か? 弟子を凍結させたりする輩だぞ? 拉致される程度の不出来な存在なら必要ないと言うんじゃないか?」

「仮に情があったとしても、足が付かなければ問題ないだろう。外部の人間を雇って、その子供の顔を変えて記憶も消せばいい」

「そんな上手くいく訳がない。やめておけ。物語とかだと、それで死ぬのがオチなんだ」

「……一度三十分ほど休憩をとる。各々、何かしら考えておけ」


 そう、彼らは俗物的だった。

 全員が全員、俗物的な人間だったのだ。

 故に───







(……特級魔術に至るかもしれない弟子……か)


 一人の年若い男が、壁に背を預けながら思案する。

 男の脳裏によぎるのは先日接触してきた『魔王の眷属』などという輩を名乗る胡散臭い青年と、青年の扱った『呪詛』と呼ばれる未知の力。


『いやはや貴方様であれば、この国を手中に収める事も可能でありましょう。さすれば大国の覇者になるやもしれませんぞ。何、頂点に立つのに必要なのは何も武力だけではありません。貴方様のような賢しい存在こそが、頂点に立つに相応しい。私はそう思ったからこそ、こうして貴方様への助力を願っているのです』


 男は自身の未来を思い描く。

 特級魔術の強大さは、過去の歴史と『氷の魔女』が証明している。大陸の端で特級魔術を定期的に放つ『氷の魔女』の様子を一度だけ直接目撃した事があるが故に、あの力の持つ魅力に溺れている。


 そして『呪詛』という未知で異質なあの力────


(俺だけが、その弟子とやらを手に入れちまえば……この国を───)


 男は俗物的な人間だ。

 野心を持ち、欲をかくどこにでもいる人間。

 故に、欲をかいて自分本位となるのは、当然のことだった。


・魔術大国上層部

 キリッとした様子で会議しているが、各人のテーブルの上には胃薬が置いてある。

 もしかすると魔術大国に革命を起こせるかもしれないので、かなり本気で取り組んでいる。

 上層部が革命を起こす国ってなんだろうね……。




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― 新着の感想 ―
[良い点] クロエの誤解の半分はステラのせいで草 [気になる点] ちょっと勘違いしてたかもだけど、禁術=特級魔術なんです? 禁術>特級>超級かと思ってました
[一言] >『あえて神という存在を定義するならば全ての魔術を操る者であろう』 あっ(察し)…はてさて何処まで逝っちゃうんでしょうかね?(汗)
[良い点] 限りなく地獄に近い魔術大国 [一言] 『あえて神という存在を定義するならば全ての魔術を操る者であろう』か……。良い予感がします。
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