管理人会議 中
思ってたより文量が多くなってしまいましたし、お待たせさせてしまいました(土下座)クソ雑魚作者です。すみません。
基本的に後から修正はあまりしたくない人間なのですが、今話と前話って色々調整が繊細な部分で、後の話との矛盾が生じてきそうだったら修正するかもしれません。その際はお伝えします。すみません。
その青年の登場で室内の温度が下がったと、冗談抜きに管理人達は思った。
「……」
視線だけで、銀の青年は周囲を見回す。
五人の管理人と、【三煌士】。何より月郷の主たるマーニがいる状況だというのに、恐ろしいくらいに彼は自然体だった。気負うものなど何一つとして存在しないと、その姿は雄弁に語っている。
「……ふん」
冷然かつ超然とした空気を纏い──後に続いて入室した二人よりも自分の方が偉いといわんばかりの態度で、彼は口を開いた。
「初めは興味などなかったが……成る程。此奴らが各都市を統べる管理人か。くくっ、シャロン。貴様の同僚には、愉快な雁首が揃っているようだな? 類は友を呼ぶらしい」
「うちをこいつらと一緒にせんとってくれ」
「ある意味では似たようなもんでしょ」
「然様。シャロン……貴様は自己を見る眼が曇っているのではないか?」
「いやいや、んな訳ないやろ。曇ってんのはジルの兄ちゃんとゾーイの方──」
第四都市管理人のシャロンと、第四都市に棲まう【絶月】ゾーイ。常人では決して制御不可能──それこそ完全に制御できるのはマーニくらいだろう──な二人と、良好な関係を築けている。少なくとも、この場にいる者にはそう見えた。いやなんなら、手懐けていると思った者すらいるかもしれない。
「ほう、異な事を言う。私の審眼は貴様も知っていように。貴様の思惑通り、あの小童どもを指導してやっている実績こそが全て」
「……なんも言えん」
あまりにも不遜。
自らが上に立つ存在であることを信じて疑っていない姿。
【絶月】も相当に我が強い集団だが、それを踏まえても青年の態度には強烈な印象を受けるものだった。それこそ、自分達と同格であるシャロンより立場が上の存在に見えてしまう。
(……うひゃー。マジぱねーって感じ。うちの都市に欲しいなあ)
(妾を相手に頭が高いと言いたいが、むう)
(これは、高揚か……? 間違いなく、プラスの感情。だが、その事実を不快だと思う私がいる。なんだ、この感覚は)
(クハッ。イイ感じにイカれてやがるな。どんな鍛え方だよ)
(新しい【絶月】の方なのかと思いましたが……違いますね。外観的には近く思いましたが、本質が異なるようです)
各々、微妙に感想は異なる。だが、それでも最終的な結論は同じだった。
彼らは、本当に薄らとではあるが理解している。理屈だとか、道理だとか、常識だとかを除外したモノで、彼らの中にはとある共通認識が生まれていたのだ。
即ち目の前の青年は、自分達とは異なる世界に立っていると。
非常に、非常に不敬な考えであると内心思いつつも、しかし思考の片隅で思わざるを得ない。
目の前の青年は、これまで見てきた中で最もマーニ様に近──
「尤も、貴様が言いたい事も分からん訳ではない。……くくっ、随分とまあ妄想癖の強い連中が集ったらしい。他都市の情勢すら満足に把握できん内から評価を下すとはな。月郷の主──マーニの任命した管理人が聞いて呆れるというもの」
──一瞬にして、思考が切り替わる。
酷薄な笑みを浮かべた青年が言葉を終えるより早く、その三人は動いていた。
カミラが横から青年の喉元に煙管を突きつけ、セシルが青年の背後を取り、アリアが真正面を陣取って対峙する。いつでも殺せる……そういうポジションだ。
「……マーニ様を呼び捨てにするか」
「第四都市で新たに生まれた……もとい前例はないが覚醒でもした【絶月】候補なのじゃろうがのう。少々、度が過ぎているのではないか?」
「シャロちんさー。いくらなんでもコレはないでしょ。管理人としてどうなのー? 内面で思う分には咎めないけども、それを外に出したらダメでしょ。管理人なら、ちゃんと躾けしとかないとさ。優しさと甘さは違うんだよ? 私が引き取ろうか?」
三人の圧力で空間が軋む。
マーニを呼び捨てにされた時点で、彼らのあらゆる思考は憤怒に塗り潰されていた。即殺害に移っていない時点で、温情も温情な対応と言っても過言ではない。
とはいえ、
「やはりくだらんな」
そもそも彼らでは、青年を殺すことなど不可能なのだろうが。
「──!」
「……ふむ」
「えー、めんどー」
三者三様の反応を示し、三人は少し離れた位置に移動していた青年を睨んだ。
先程まで自分達が捉えていたのは残像に過ぎなかったのか……それとも、目の錯覚でも利用されたのか。
いずれにせよ、物理的に害することは不可能に近いだろう。
その事実に、三人は大なり小なり苦い表情を浮かべていた。
「……クハッ、くだらねえ。無様だなテメェら。喧嘩っ早いにもほどがあんだろ。しかも釣られるだけに飽き足らず、見切られもしてんじゃ世話ねえよ。……焼きが回ったらしいな」
「悲しいことです。仮にも私と同じく各都市の統治を任せられし方々が、まさかこのような醜態を晒すとは……。そもそも、話の流れからして上位災厄を単独で鎮めたのはこの方でしょう? 皆様ではどうしようもないかと」
そしてグレッグとグラシア。
この二人は青年の言葉に怒りを見せなかった。
いやそれどころか、グレッグに至っては笑みすら零している。
「ま、こいつはとんでもねえ上物だ。今まで伏せてたってのは大したもんだよシャロン。少なくとも、俺じゃこいつには勝てん」
「……本気ですか?」
「本気も本気だ、グラシア。第一都市で俺に勝ち目はない」
グラシアが怪訝そうな様子を見せる間も、グレッグはジッと青年を見続けていた。その奥底を、掴むかのように。
(今こうしてる間にも自分で自分の筋肉を破壊し、再生させ続けてやがんな。しかも、そのやり方が現実的じゃあねえ。ビルも自分に高重力を掛け続けることで常に鍛えてやがるが……どっちもイカれてるな。んでもって、こいつの場合はおそらく第三位に匹敵する頭脳もあると)
少なくとも、能力による強化を考慮しない単純な肉体スペックならヒューキや第一位をも超えているだろう。そういう見立てを、グレッグはつけていた。
(問題は、どうして今の今まで存在が秘匿されていたのかだ。もしも以前からこれだけの実力があったってんなら、シャロンといえど隠し切れる訳がねえ。つまりその場合、マーニ様の思惑も絡んでるってことになる。──腑に落ちねえな)
それこそカミラの場合は「最近急成長、覚醒したのだろう」と推測しているらしいが──
「……あんまジルの兄ちゃんをジロジロ見んなや。不躾な視線を送り続けるんなら、シバかれたって文句は言われへんで?」
「オイオイ物騒だな。俺はお前の虎の子を評価しているからこそ鑑賞してるのさ。これには『流石はシャロンだ』って意味も込めてるぜ? 最も人口が多い都市の特性を活かして、順調に人材を育成できてるじゃねえかってな」
どうやら青年の名前はジルというらしい。
ビルと似た名前で似た雰囲気、傲岸不遜のはややこしいので改名を勧めたいが。
「『流石はシャロン』? どうやか。どうせうちがおらんからって好き勝手言うてたんちゃうか? 上位災厄で都市が半壊したとでも思ってたやろ? ジルの兄ちゃんは話の内容聞こえてたみたいやし、後で聞こか」
「私はシャロちんのこと悪く言ってないんだけどー」
「割って入るなアリア。テメェを評価してるのは事実なんだがな……まあ良い。それより本題に入りてえ。だろ、マーニ様?」
「そうだね。もう少しキミ達の交流を見ていても良かったけれど……頃合いかな」
マーニがそう言うと、シャロン含めた管理人全員が席についた。
ヒューキはマーニの側に立ち、ゾーイとジルは壁沿いで適当に立っている……と思いきや、ジルは余った椅子を拝借して堂々と腰掛けていた。「こいつ神経太すぎない?」という視線をゾーイが送っている。
「キミ達も後輩くんの実力はよく分かっただろう? 特にアリア、セシル、カミラ。彼が第四都市の上位災厄を鎮めた立役者だ。つまり、月郷になくてはならない貴重な人材と言える。未だに災厄の脅威は月郷を襲い続けているのだから、それを祓う人材は多ければ多いほど良い」
その言葉は、管理人達の中に納得を落とすものだった。
しかし同時に、ある単語に引っかかりを覚える。
「…………後輩くん、ですか?」
皆の心境を代表してか、グラシアは困惑の表情を浮かべながらマーニに問いかけた。それに気分を害した様子もなく、マーニは頷く。
「そう、後輩くんだ。だからと言うのもおかしな話かもしれないが、彼が僕を呼び捨てにすることは問題なくてね。キミ達への通達が遅れたことは謝罪したい。今後はスルーしてくれ」
マーニの言葉に逆らうような者は、この場に存在しない。
全員が頷いたのを見て、マーニは笑顔を浮かべて続けた。
「さて、後輩くん。自己紹介タイムをしよう」
§
悪くない状況だ、と管理人達を見据えながら思う。
管理人達の戦闘力や性格はおおよそ把握できたし、「マーニの命令だから」ではなく、俺自身の力の一端を直接理解させることで俺自身の価値を向上させることにも成功した。
(何より、マーニとヒューキの許容値も更に一歩把握することができた)
少なくとも、呼び捨てにされたくらいでは動かない。それが確定したのは行幸だ。初めて呼び捨てにする際は「もしかするとヒューキは動く可能性が微粒子レベルであるかもしれない」と内心注意を払っていたが、杞憂で終わって何よりである。
(マーニの名前を使わずに呼び続けるのも限界だったしな、丁度良い機会を得られて良かった)
マーニをどう呼ぶかについては、俺の中で非常に悩みどころだった。
大陸でも一国の王相手には「○○殿」という呼び方をしている──一定以上の交友を積めば呼び捨てに移行しているが──以上、マーニをそう呼んだとしてもジルのキャラ崩壊にはならない。それこそ、シリル相手にも最初は「【龍帝】殿」と呼んでいたのだから。故に安全策を取るのであれば、「マーニ殿」と呼ぶのが無難な選択ではあっただろう。
だが俺は、この機会を利用してマーニを呼び捨てにすることにした。
理由は複数あるが、特別大きなものは三つ。
一つ目はマーニがジルに対して「先輩」として接しており、尚且つゾーイやシャロンの態度に対してマーニが咎める素振りがなく、ヒューキとのやり取りも気安いものに見えたからというもの。
これは少々意外だったが、どうやらマーニは他人からフランクに接してもらう方が好ましく感じる性質らしい。マーニに対して従順すぎる配下とすれ違った際は、どことなく“つまらない“といった雰囲気を漂わせていたことも、俺のこの見解を強固にした。ならば最上級のフランクさをプレゼントしてやっても死にはしないだろうし、マーニの中の許容値を把握するたまにも試してみるか……という結論に至ったのである。
(これでヒューキが厳格も厳格だったり、過激派だったなら当然やらなかった訳だが)
二つ目は──何も知らない管理人がマーニ を呼び捨てにされればどういう反応をするのか把握し、今後の行動指針としたかったからである。シャロンという前例がある以上、「管理人は一般人よりもマーニに対する絶対的な信仰心が薄いのではないか?」という仮説のもと、だ。
(マーニを呼び捨てにしたことで大きな反応を示した三人と、大した反応を見せなかった二人。この二グループを把握できたのは大きい)
後者二人に関しては、本心は不明だがマーニが絡んでいようが短絡的かつ狂信的な行動を取らない可能性が高いことが分かった。
逆に前者三人に関しては、マーニが絡めば思考が狭まる傾向にあることが分かった。とはいえその中でも緩急はあるようで、中でもアリアとかいう少女はその傾向が弱そうだったが。
(しかしまあ、管理人で動いたのは三人か。これを多いと見るべきか、少ないと見るべきか)
余談だが、取るに足りない挑発──妄想癖が強い云々──を混ぜたのは、簡易的な対照実験を行いたかったからである。おかげで前者三人に関しては本人に対する挑発には反応せずとも、マーニに関することであれば沸点が低くなることが分かった──単純に挑発には弱い訳ではないということ──のだからな。
そして更に言えばその辺りの背景を堅気に見えない青年……グレッグとやらは見抜いているようだ。
(戦闘力を分析する眼にも長けているようだし、この男については細心の注意を払った方が良さそうだな)
そして最後の三つ目は──挑発に乗った管理人を一蹴することで実力を分かりやすく示して理解させ、未知の実力者に対する管理人の反応を見たかった、というものである。その理由は当然、シリル達の所在を把握するためだ。
(シリルの実力はゾーイとほぼ互角だ。少なくとも、取るに足りない雑魚扱いはできまい。つまり俺と同じく、突然生えてきた強者枠に位置するはず)
類似するイレギュラーと二度直面すれば、基本的には何かしら反応を示すもの。反応を示さないとすれば、それは余程舌戦顔芸に長けているか、何も考えていないアホか、本当に何も知らないかである。
(誰も反応を示さない。もとい、全員が「どこから生えてきた?」で思考が止まっている。つまり、この場にいる管理人が管理している都市にはシリルがいない可能性は高い)
勿論うまく潜伏している可能性もあるのでいないと断定する訳では決してないのだが、こいつらが管理していない都市の中からシリル達を探す方が早そうだ。
そしてまあ、これらを踏まえて最終的な感想と言うと──
(流石にマーニから各都市の管理運営を任されている連中なだけはあるが……やりようはあるな。しかし同時に、油断ならない、か)
第一印象は「成る程手強そうだ」というものだった。
一筋縄ではいかなさそうな連中の集まり、とでも言えば分かりやすいだろうか。物語の章ボスを務めていそうな風格と、一癖も二癖もありそうな雰囲気を、全員が持ち合わせている。
特に注目すべきは、どこか昏い笑みを浮かべながらこちらを観察している堅気に見えない風貌の青年。先程も名前をあげたグレッグ。それと、聖母のような神聖な衣服に身を包み、静謐な雰囲気を纏っている美少女、グラシアだろうか。
この二人に関しては、シャロンと同等以上の戦闘力を有しているように見える。即ち、大陸最強格でも手に余る領域の実力者だ。
(そして確かシャロンは、唯一管理人と【絶月】を兼任している立場)
つまりこの二人は、【絶月】でないにも拘らず、【絶月】クラスの実力を有しているということになる。ならばこの二人は、「強いが災厄との相性が悪い」類の人間と推測するのが妥当だろうか。“災厄と対峙できる人間は限られる“という情報と、“ 【絶月】の主な役割は災厄処理“という二つの情報を前提に考えれば、かなり妥当な推測だろう。
(だが……)
グラシアが語っていた「まだ現役」発言を鑑みるに、この二人が元【絶月】という可能性もあるかもしれない。この場合、現役組と引退組の違いが気になるな。少なくとも、実力による交代ではあるまい。外見年齢が全員等しく若いため分かりにくいが、単純に世代交代か……それともあくまでもシャロンが兼任しているのは例外で、本来管理人と兼任することは難しいから解任されたとかだろうか。
(いずれにせよ、やはり月の戦力はかなり充実している。神の一柱が持つ総戦力という側面で見れば最高峰だ。マーニの思想や価値観次第にはなるが、月と手を組む価値は高い。もとい、手を組まないとヤバい)
大陸最強格以上の人員が複数存在し、成長性がある──少なくともゾーイには成長性がある──のだから、敵対するより手を組む方がメリットが大きいのは明白。というか敵対して総力戦になった場合の被害が甚大すぎるというか、現段階では勝ち目がなさすぎる。
教会勢力を動員すれば話は変わってくるのだが、教会勢力を対月の神で使えるかどうかは微妙の極み。マーニに関する情報が教会勢力にないとはいえ、直接対峙すれば「めちゃくちゃ神やんけ」となるのは必至だろう。
故に、俺がやるべきことは明白だ。
(──月を対神々勢力として抱き込む)
究極的にはマーニと手を組めるか否かが全てになりそうな話だが、しかしゾーイを始めとした一部人材に関しては引き込めるかもしれない。元よりシリル達を探すために他の都市への移動は望むところだったが、各都市にいる【絶月】を見定めておきたいところである。
そんなことを考えながら、俺は椅子から立ち上がる。マーニが自己紹介タイムをお望みであるが故に。
……とはいえ、実験しつつ布石は打たせてもらうが。
「ふん。既にシャロンの発言で名は知られているだろう。自己紹介など必要か?」
「言わんとしていることは理解するけど、キミの口から直接名前を讃えるのも大事じゃないかい?」
「……一理ある、か。仕方あるまい。此度は乗ってやる」
俺の発言と態度に、しかし誰も怒りは見せなかった。先程動いた三人含めて、誰もが俺とマーニのやり取りを静聴していたのだ。
その事実を頭の片隅に保存しつつ、俺は冷笑を浮かべて言い放つ。
「我が名はジル。記憶がない故意図は掴みかねるが、そこなマーニの後輩らしい。シャロンの都市以外は知らぬが先の不遜、余程の自負があるようだな。私の目に適うものかどうか、いずれ見定めてやろう」
『次に来るラノベ対象』エントリー受付中です。
明日の17時59分までとなります、よろしくお願いします。
https://static.kadokawa.co.jp/promo/tsugirano/
ラノベ市場エアプなので、つぎラノはこのラノで惜しくも落選した作品の中から選ばれるものだと思ってました。別でエントリーあるんですね〜。
こんなかなり雑な作者が書いてる作品ですが、ここの端っこに作品名が載るだけで作品の今後に影響大きそうなので何卒、何卒……。
(以下真のあとがき)
矛盾あれば修正します。感想はとてもお待ちしております。
久々に触れられた教会勢力。カレラハドウシテルンデショウネ。
当初考えていたより丁寧に書きすぎている感が否めない。なのでそろそろテンポを早めようと思います。ただ「雑!?」ってならない範囲で。まあそれが難しいんですけどね…。
そして書籍三巻のあらすじが公開されました。
犯罪者集団って書かれておりますが、別に『レーグル』みたいに大仰な連中じゃなくて、ただ賞金首として指名手配されてる野盗集団です。あれ、大仰?
https://gcnovels.jp/book/1774




