学校生活と思いきや
睡眠時間の確保が大切だということを、私はこの1ヶ月で学びました。Twitterでは報告してましたが、年末に投稿するぜ的なテンションだったのに更新大幅に遅くなってしまいすみません。
いうて完全回復はしてない気配があるんですが、様子見ながら更新していきます。
〜前回までの雑なあらすじ〜
教師になったジル様が信仰される
ジルの授業が始まってから、二日の時が経った頃。
「……大人気教師のようね」
「この私の授業を施された以上、賛美の百や二百あがるのは至極当然だろう。尤も、俗に言う人気とは些か異なる方向性のようだがな」
「…………超優等生のようね」
「それもまた、当然の事。しかし先程から随分と、言の葉を発するまで間があるように見受けられるが? どうした、貴様の想像と合致せぬ点でもあったか?」
「………………そんな訳ないじゃない」
「然様か。ではな社会不適合者。私は次の授業の準備に取り掛かるとしよう」
「ちょっと表に出なさい」
「思春期というやつか。難儀だな貴様も」
「あんたも社会不適合者のはずよね? 喫茶店にしろ学校にしろ、普通に考えておかしいわよね? あり得ないわよね? あんな態度、どう考えても首よね? 常識的に考えてあり得ないわよね?」
「社会不適合者である貴様の常識が世間一般のそれと合致する事を前提で物申すとはな。貴様の考える常識とやらが小さかっただけとは思わんのか? あるいは……この短期間で笑いの琴線を捉えたか、ゾーイ」
「表出ろ」
ジルとゾーイ。
この都市の管理人であるシャロンが、最近になってよく顔を合わせる二人。というか、ほぼ毎日顔を合わせている二人と言っても過言ではないだろう。
両者共に相当な実力者であり、【絶月】と都市管理人を兼任しているシャロンとて、そう簡単には御せない存在だ。実力自体もそうだが、強烈な自我や価値観を縛ることができないという意味でも。
されどそんな二人に対して、シャロンは特に罰則を設けるつもりはなかった。
(なんだかんだで仲ええな。根本的な価値観的なもんが近いんやろな)
悪友という言葉が近いだろうか。二人同時に否定してくるのは目に見えているので、心の中でしまっておく。いや二人どころか、何故か全身黒一色の不審者がこちらを睨みつけてくる様子が頭の中に浮かんできた。疲れているのかもしれない。
「社会不適合者ではないと申したくば学校に通えば良かろう。貴様の齢であれば、本来は通うものだろう?」
「行く必要がないのに行く訳ないでしょうが。てかそういうあんただって普通は教師じゃなくて学生という立場の人間でしょ。教師にしては若すぎるわ」
(まあせやなあ。知識面とか頭脳面は卓越しとるけど、精神年齢的な部分がなんか歪な気するんよなあ)
ゾーイの言葉に、内心で頷くシャロン。
(けど、ジルの兄ちゃんから”迷子を導いてやる”って、教師になることを提案してきたんよなあ。あっちでは当たり前なんかなあ。仮にほんまに記憶喪失なんやとしたら生来の性格と、記憶がないが故に出てきた大胆な提案って線もあるんやろか……それともあっちやとジルの兄ちゃんくらいの歳から働くのがスタンダードで、無意識下でそういったもんを提案したとかそんな感じなんやろか。……いや、けどなあ)
二人の子供のようなじゃれ合いを眺めながら、シャロンは思考を巡らせる。
シャロンはこの世界──月郷の頂点から直々に、一都市の管理を任されている立場の存在だ。立場上、災厄の対処を任されている【絶月】よりも多くの情報を有しているが故に、彼女の推測はゾーイのそれよりも精度が高い。
(あと正味、教え方とかは上手いけど教師になるための教育を受けたとかそういうのが体に染み付いてる訳ではなさそうっちゅうか……。いや、こっち基準で考えたらあかんのか。あっちやとジルの兄ちゃんみたいな教師像が普通で、それが染み付いてるってだけなんかもせん訳で……。んでもって記憶喪失が嘘やった場合は……あかん。混乱してきたわ)
ゾーイは知らぬことだが……シャロンは薄々、ジルがどこからやって来たのかを察している。察した上で、そのことについて触れるつもりは全くなかった。
(悪いなゾーイ)
ゾーイはジルの記憶が戻ることを望んでいるのだろう。より正確にはジルの記憶から得られる情報を、だろうか。
ゾーイは己が月郷と馴染まないことを理解しており、それ故に民衆が気にしないような点を気にしている。気にしてしまう。そういった性質上、ジルという一種の特異点を注視するのは必然だろう。
だがシャロンはジルの記憶が戻るように動くつもりはないし、記憶喪失の真偽を確かめるつもりもない。それどころか、ジルの記憶の一部を完全に封印する心算ですらある。
ゾーイの目的とは相反するだろうが、シャロンはそこを違えるつもりはなかった。
(ま、ジルの兄ちゃんを悪く扱うつもりはない。それが悪くない落とし所のはずや……マーニ様からも接触されてへんしな)
ジルが受け持ったクラスの様子を脳裏に浮かべる。
彼らは劣等感や卑屈感から、自分達の存在意義すら見失いかけていたが──ジルの存在により、それは改善されている。たった二日の交流でこうも改善されるとは、と理事長を務めるシャロンとしても驚嘆の一言だ。
(うちやから絶対無理ってのは分かってたけど、若干悔しいわあ)
そんなことを全く思わない訳ではないものの、子供達が元気になってくれていることの方が素直に喜ばしい。
他人と少し違うなんて理由で、排斥される必要なんてないのだと、そういう風潮を作る一助になってくれると思うから。
「てか体育で間違って生徒を殺さないようにしなさいよ。あんた馬鹿力なんだから」
「殺す訳がなかろう」
願わくば、ジルと敵対しない未来を──
§
ゾーイと会話の応酬を終え、グラウンドに到着すると同時にチャイムの音が鳴り響く。
既に生徒達は全員集まっており、軍隊のような見事な集団行動を披露して俺を待っていた。もう少し緩い感じでやれないものかとは思うものの、まあ、彼らが好き好んでそうしているようだから何も言うまい。
「……では、始めるとしようか」
さて、そんなこんなで体育の授業である。
これが正直、俺としては難易度が高いと思う授業であった。
(体育はトップクラスに意味が分からん。よって今後の指針を定めるためにも、初回は身体測定で済ませるのが無難)
他の授業──座学に関しては、大学の講義の模様をある程度参考にできた。しかし体育に関しては大学で履修していなかったので、完全に未知の世界。果たして漫画やアニメ、ラノベの知識を総動員してどこまで対応できるのかが疑問だ。
(スポーツ系漫画とかだと、漫画的表現の一環として現実より誇張して描写されている部分が多いだろうからな。サッカーで40点を取得したり、バスケで相手の得点を無失点に抑えたり、テニスで謎の特殊能力を使ったりするのは……多分普通ではないだろう)
なんて思っていたんだが。
「シュールの砲丸投げ。炎を纏ってるぞ」
「炎でドンドン加速していく。派手ですげえなあ。流石プロ予定」
「だな」
記録を取る俺の視線の先。そこでは、自己紹介時に「球技が得意」と発言していた男子生徒──シュールが炎を纏った球を豪速で放つという非現実的な光景が繰り広げられていた。
グラウンドの地面が捲れ上がり、余波で生徒達の髪やら体操服やらがはためく。
(……いやまあファンタジー世界だしな。体育で謎の特殊能力を使ったりするのは全然あり得るか。うん)
などと遠い目を浮かべてしまいそうになりつつも、俺は今の光景に若干憂鬱な気分を抱いてしまう。
(今の炎、ゾーイと同じく【加護】に似たようなものだな……)
ジルの分析力が物語っていた。
シュールが放ったアレは、ゾーイが用いていた異能と根本が同質なものであると。
ゾーイは【絶月】という特別な立場にいる存在だった。だから、そんな彼女が【加護】と酷似する力を使えるのはおかしくはない。
だが、ただの一学生も同じ力を使えるとなると話は別だ。月の全住民が【加護】と似たような力を与えられている可能性──そんな笑えない可能性が、真を帯び始めてしまう。
(だが同時に、何故これほどの勢力が原作では登場しなかったんだ? という疑問も湧くな……)
文明力という面でも戦力という面でも、月の世界は優れている。
文明という側面に関しては大陸は言うに及ばず、教会や海底都市すら超えている──現代に近いという意味なので、ファンタジー的視点だと話は変わるかもしれないが──という領域だ。神々が降臨する際に、月の勢力が出て来なかったのは何故だ……?
(実はオーディンの後に裏ボスとしてマーニが出てくるのか? ……いや、裏ボスにしては弱いか?)
全住人が特別な力を使えると聞けば聞こえは良いが……魔術大国も似たようなものと言えば似たようなものだろう。
シュールの放った豪速球は、精々が上級魔術より少し強い程度──いやまあ球技で扱われる威力と考えると意味が分からないし、それだけの火力があってこの程度の被害なのも意味が分からないのだが──だ。住人全員が能力者だとしても、その性能はピンキリ。加えて、全員が戦闘に特化している能力という訳でもなさそうだ。
ゾーイは上澄で、実戦投入可能な実力者はそこまで多くない……というのは希望的観測が過ぎるか?
(しかしまあ、全員が【加護】に類する力を有していて、将来が決まっているかのような状態ときたか。……これで分かったな。この世界の構造の一つが)
称賛と侮蔑が同時に湧き上がるという貴重な体験を得つつ、俺は内心でため息をつく。
……まあ、この辺は一度ご本人に確かめたいところだな。そしてそのためにも、やはりゾーイは完全にこちら側に付けたい。
(学生達を通して、ゾーイへの理解も深まった。間接的なシャロンへの好感度上げも順調。学生達からの信仰心も何故か得られている。……そうだな。今後一年分の成長を予測した生徒一人一人のカリキュラムは組んでやりつつ、そろそろ次の段階に移っても良いかもしれん)
俺が思考をまとめた、まさにその時だった。
『南地区9A区域前線にて、災厄が発生しました。繰り返します。南地区9A区域前線にて、災厄が発生しました。近隣住民の皆様は、各自避難yyyyyyy──』
この世界に来て、二回目の警報。
だがその警報は、前回と少し異なる様相を見せた。途中でノイズが走り、突然空が暗くなる。
「南地区9Aって……」
「す、すぐそこじゃ……」
ざわり、と不安な様子を見せる生徒達。
喫茶店にいた客達とは異なり、彼らは不安を抱いている。この辺の差異も──なんて、今はそんなことを考えている場合ではないか。
「貴様達、疾く失せろ。放送は狂っているようだが、避難経路は覚えていよう」
「せ、先生……?」
「ジル様は……」
資格を持たない者は、災厄と相対しただけで死ぬ可能性がある──というシャロンの発言を思い返す。そして、今の俺は教師という立場についている。
プライドがエベレストよりも高い位置に存在するジルが、戯れとはいえ生徒を守護する教師という立場についているのだ。
で、あれば。
「私は災厄を、処理してやろう」
生徒達を守るくらいは、しなければな。
§
「マーニ様。これは……」
「ああ、上位災厄。それも、かなりの上澄だよ。単純な物理的破壊力だけ見れば、ね。分かりやすい脅威じゃないか」
「あの都市の【絶月】は新人と、現役引退したシャロンでしたよね。正直、危険では?」
「大丈夫だよ。そっちはそっちで対応しているから。……まあ、彼女の判断次第ではあるけども」
「よろしいので?」
「構わないよ。悪い結末にはならないと確信があるのだから」
目に映る光景を見ながら、マーニは笑う。都市の一角を容易く破壊した災厄を前に、心底楽しそうに笑っていた。
「魅せてくれよ、後輩くん」
§
「ゾーイ!」
「分かってるわよ」
「すまん! 住民の安全確保次第うちも合流する!」
「期待せずに待ってるわ」
シャロンの言葉へ気怠げに返し、ゾーイは理事長室の窓から外へと飛び出した。肌を指すような感覚──間違いなく、中位災厄で収まる規模のものではない。
(一人じゃキツいかしらね……最初から奥の手を切っておくべきか)
以前の経験を思い返し、ゾーイは最初からアレを使うべきかと一考する。前回はジルの手を借りたが、一応これは自分の職務だ。災厄処理を面倒に思っている身とはいえ、流石に本来無関係なジルの手助けを前提に作戦や行動を組み立てるほど終わった性格をしていない。
(ガラじゃないけど、しょうが──)
そこまで考えた時だった。
ゾーイの脳内に警鐘が鳴り響き、ほぼ直感のまま腕を交錯させて頭を守るような姿勢を取る。
──直後、ゾーイの腕に凄まじい衝撃が走った。
「っ、づう!」
地面に落下し、轟音を鳴らしながら激突。
小規模なクレーターが形成されるほどの衝撃が生まれたが、しかしゾーイは無傷だった。仰向けの状態から跳ね起きて、上空で佇んでいるミルキーホワイトの髪の女を睨む。
「……あんた誰よ」
「それを知る意味があるのか?」
こてん、と首を傾げる女。
ゾーイの額に青筋が立つが、それすらも気に留めた様子がない。
「そう。答える気がないなら遠慮なくぶっ飛ばして良いってことよね?」
「ぶっ飛ばす? その程度の甘い考えで、この俺に対処できると思うのか? 職務を全うする気があるなら本気で舞え、【絶月】」
「避難勧告が出ている状況で、こんなにも堂々と姿を見せる……案外、貴女が災厄の首謀者だったりするのかしらね? それとも、シャロンなんかよりとっても凄いお偉いさんかしら? 仮にそうだとしたら、災厄への対処より私の妨害を優先するなんて……マーニ様はそれはそれは素晴らしいお考えをお持ちのようね」
「ふん。笑わせるな。先の災厄如きすら単独で処理できんお前程度の人材が、今回の災厄に向かったところで無駄な死体が増えるだけでしかない。あくまでも俺は、犠牲者を出さんようにしてやっているに過ぎん」
「口だけはお上手ね」
謎の女と言葉を交わしながら「何者よ」とゾーイは内心で眉を顰める。
はっきり言って、実力が未知数だ。少なくとも、自分よりは格上。
なんなら彼女が放つ圧力。あれは、一度だけ見たことがあるマーニすらも超えているような──
「不敬」
重力の奔流が、ゾーイの全身に襲い掛かる。
周囲の高層ビル群が押し潰され、空間さえも捻じ曲がった。それほどの重力が、世界ごとゾーイを圧していく。呻き声をあげることもできずに、ゾーイの膝が屈してしまうのは必然だった。
「そこで寝ていろ。……さて、奴は──」
だがそれは、ゾーイが戦闘不能に陥ったことを意味しない。
女が半身をズラすと同時、彼女の横を砲弾のような勢いでビルが潰れて出来た瓦礫が突き抜けた。
(……ふむ? 肉体が潰れん程度に抑えてやったとはいえ、こうも速く重力に逆らえるだけの力を発揮するか。……あやつのことも考えると、少しは応じてやっても良いかもしれん)
チラリ、と女は眼下を見下ろす。
歯を食い縛りながらゆっくりと立ち上がるゾーイの姿を見て、僅かにその口角を吊り上げた。
「成る程、良いだろう」
重力の波を止め、女は地上に降り立つ。
「遊んでやる。お前とワルツをしてやっても良いくらいの気分くらいにはなったからな」
「どこぞの社会不適合者曰く、私って社会不適合者らしいわよ。そんな私のリズムにあんたは合わせられるかしら?」
「案ずるな。嫌でもお前が俺に合わせたくなる」
矛盾あれば修正します。
感想は体調が良くなるのでお願いします。
そして報告がめちゃくちゃ遅れたのですが、実はラノベニュースオンラインの2023年10月新作部門にて選出されてました。応援してくださった方々、誠にありがとうございます。
https://twitter.com/lnnews/status/1732639574952690134?s=46&t=9eQBxeQEb9srg2IBWwnnwA




