表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/168

災厄を鎮め、そして──

4月はできなかったけど、5月中の二回目の更新ができたヤッター(もうすぐ5月終わるの早すぎません?)


「……この程度の災厄では、大して力を見せんか」


 屋上から一連の様子を見ていた女は、言葉とは裏腹に、さしたる落胆の様子を見せることなくそう言った。むしろ「これくらいしてくれないと困る」とでも言いたげな様子だ。


「所詮は────。戯れにもならんのが道理だ。興が乗ればもしやとは確かに思いもしたが……まあ、高望みだったな。加えて、月では神格が不安定というのが現状か」


 さて、と女は戦場に背を向け身を翻した。


「加えてゾーイ。アレを【絶月(ナハト)】の一人と認定こそしたが、まだまだ発展途上。(つたな)い舞を見せられてもつまらん。……一度、鼠の様子でも見てくるか」


 そして、女はその場から消える。それから暫くして、都市に人々の姿が戻り始めた。


 §


「よし、無事に任務完了ね。……まあ一応、助かったしお礼を言っておくわ。ありがと」


 巨人が倒れ、その姿は霞となって消えていく。災厄の終わりを確認したゾーイは、少し離れた位置で佇むジルに礼を告げた。彼女を知るものが見れば、驚くかもしれない光景なのだが、それを知るものはこの場にはいない。


「……貴様。礼を言えたのか」

「あんた友達いないでしょ」


 失礼な物言いをするジルに、間髪入れずに言い返したゾーイ。それを嘲笑うかのように鼻で笑い、ジルは言う。


「ふん。私が助力しようがしまいが、結末は大きく変わるまい。その程度で謝辞を受けるほど、厚顔無恥ではない。……加えてアレを処理するだけであれば、貴様だけでも事足りただろう。貴様の性格であれば、都市への被害如き、ある程度は許容すると睨んでいたのだがな」

「面倒だけど、流石にそういう訳にもいかないわよ。始末書じゃ済まないし。何より……なんか負けたみたいで、ムカつくわ」

「……ほう」


 ジルからゾーイに向ける目の色が変わる。それを察したゾーイはガシガシと頭をかくと、話題を変えるように。


「……ところで、災厄を見て何か感じたかしら?」

「あるにはある。……が、今は待て。今抱いた所感など、所詮は一例。加えて、得られた情報は断片だ。私と違い、頭が筋肉で形成されている貴様では、下手に知識を得ると明日明後日の方向へと暴走しかねん。それはそれで愉快ではあるが、望む方向には進まぬだろう。それは私とて、本意ではない故に」

「今からあんたをぶっ飛ばしてもいいかしら?」


 §


 災厄退治が終わり、空気が変化する。それを感じ取った俺は内心で僅かに息を吐き、姿勢を楽に──当然、他人からは分からない範囲で──した。


(……こんなものが一定の頻度で発生するなんぞ、危険極まりないな)


 仮に大陸で災厄が発生すれば、大陸最強格が出張らなければならないというのが俺の見解である。逆にいえば、大陸でも災厄の対処自体は決して不可能ではないということだが。


(まあ、大陸最強格なら問題なく災厄への対処は可能だろう。【レーグル】も、火力をどうにかできれば可能か? どちらにせよ、周囲への被害を無視すればという前提だが)


 とはいっても、大国の最終兵器が動かなければ鎮圧不可能な災害が定期的に発生するなんて事態は、大陸の住人にとっては悪夢以外の何者でもないに違いない。加えて、大国の精鋭部隊でもなければ大陸最強格が来るまで持ち堪えることすら厳しいだろうしな。仮に災厄が大陸で発生すれば、理不尽的な死が隣り合わせの生活の開幕というやつだ。


(まあ、そんな仮定は今はいい。俺が目を見張るべきなのは、月の世界の性質と災厄の存在。これらの関係性から見えてくるものがあるということだ)


 月の世界は広大であるが、その絶対的な頂点として位置するのはマーニ唯一人。そして古今東西、力を誇る王に求められるのは常勝無敗である。敗北はカリスマを翳らせ、民衆への不満を爆発させる要因になるからだ。


(つまり、災厄による被害が少しでも発生すれば、マーニに対する不満が生じる余地が出てくる訳だが)


 災厄を前にしても、喫茶店にいた人々に不安は見て取れなかった。それどころか、命の危機を感じている様子もなかった。つまりこの都市──世界は、災厄という脅威があろうとも好ましい形で成立している。成立できている。それが意味するところは、即ち。


(マーニは、人を守護している。もとい、人に寄り添っている? 少なくとも、人に寄り添っているという体裁は整えているということか? 災害への対処は完璧にこなしているし、こなすためのの備えも万端。戦力面もそうだが、世界を守護する手筈が環境から整えられている。そしてそれを、長い歴史の中で築き上げ、信頼の構築も済ませていると)


 あくまでもこの素直に状況を受け取った場合は、だが。それこそ、マーニに対する絶対服従の洗脳が為されているのなら、被害の有無は関係ないだろうしな。「弟が災厄で死んだけど、そんなことよりもマーニ様が大事です!」みたいな世界である場合、俺の推測は当然破綻する。そして悲しいことに、教会勢力を参考にすれば、可能性としてはこちらの方が高そうなのがなんともいえない。


(いやだが、教会でもソフィアという例外がいるからなあ。グレイシーは例外すぎるから別枠としても。……教会よりは人々が自由そうなこの都市でマーニの信仰を確たるものにするには、信仰の根拠となるものが必要なはずだ。教会勢力にしたって、神々への信仰の本質はその先にある人類の救済だろう。その為に必要な犠牲はドン引きするレベルで払うってだけで)


 つまり、マーニも現在進行形で一定以上は人々に寄り添っているはずなのだ。少なくとも、完全に見捨てていたり、「不要だから滅ぼすわ」なんて認識ではないだろう。そこが、住人から向けられるマーニ神政への信頼の根拠となっている。マーニの本心はどうあれ、そういうことにはなっているのだ。


 勿論、住人の中には信仰そのものが目的にして絶対という連中もいるにはいるだろうが、全員が全員そうではないだろう。少なくとも、ゾーイは違う。それは彼女の行動や発言から明らか。都市を脅かす災厄に対処する側であるにも関わらず、災厄を疑問視している。これは、教会勢力ではあり得ない傾向といえた。ゾーイが神と直接ご対面していないが故のことかもしれないが、だとしてもゾーイの存在は俺の仮説を補強する材料としては機能している。一般人よりは神に近い立場だろうからな。

 

 故に、全員が信仰主義ではない。……ないよな?


(だがまあ一応、この世界の住人全てが頭キーランの可能性を考えてみるか)


 ……。

 …………。

 ………………ふむ。最悪の推測が成立した。そしてこれが真だった場合、俺の取れる手段は限定的すぎるし、遅いか早いかもあまり変わらん。一度忘れよう。


(月の世界の性質と災厄の存在の関係性から推測できるものに関しては、あるいはもう一つの可能性もある。そして、それが絶対に無いとは言えない訳だが……この場合、先にある目的(・・・・・・)が見えんな。加えて、この可能性の場合、やり方が回りくどすぎる。マーニが直接動けばいいだろうに)


 あるいは、ここに俺が拉致された意味があるのかもしれないが……いずれにせよ、断言するには情報が足りないな。とはいえ、可能性を思考の片隅に入れておくことは大事だろう。それが決して不可能な可能性でないことだけは、俺の持つ情報からも判断できているのだから。可能性さえ洗い出せれば、あとは証拠を集めて絞っていくだけだ。


(それにしても、マーニやその眷属は俺の前に現れず、そしてこれから現れる様子もなしか)


 考えられる理由としては、"連中にとって不都合な行動ではないから放置されている可能性"と、"そもそも連中から捕捉されていない可能性"。そして"補足はされているが連中にとっての接触条件を満たしていない可能性"。"そもそもジルの存在がどうでもいい可能性"。これら大きく分けて四つの可能性が最低限存在する。


(ふむ……)


 ゾーイ曰く、俺は災厄から現れたという。


 そして災厄の規模感と、それに対する人々の動き、そしてこの世界の対処方法は、今現在見ることができた。俺が有する情報から立てられる仮説も加味して、可能性を絞ると──


(……三番目、か。不用意な行動次第では死が待っているかもしれんが、一定の線を踏み越えなければまず安全。好ましい形ではあるが、厄介でもあるな。……問題視すべきは、その一定の線が不明なことと、俺とマーニの利害が一致するかどうかか。だがいずれにせよ、マーニとの力関係を対等にしなければ話にならんし──)


 おそらく三番目の可能性だろう、と俺は改めて結論付ける。災厄退治に加担する前からこの可能性がそれなりに高そうだとは思っていたが、今となってはこの可能性が最も高いと踏んでいる。……まあ、もしもマーニの災厄に対する認識が──


(……いや、構うまい)


 それについては、仮にそうだったとしても、俺が関与する理由がない。そこまでお人好しにはなれんし、なる気もない。それよりも、俺が為すべきことを考えるとしようか。


(ステラ達の居場所の特定と、マーニの目的や思想の把握。大陸への帰還方法の捜索。大陸との連絡方法の確立。月の戦力を──)


 やるべきことをリスト化していく。リスト化していくが、一気に複数片付ける手段があればそれが手っ取り早いだろう。俺も少々、大きく動くとするか。


「ゾーイ」

「? どうしたの、改まって」

「仮に貴様が無様を晒し、私を抱腹絶倒に追い込んだとして──貴様が始末書とやらを提出する先は、どこだ?」


 §


「そっか。このイケメンくんがゾーイと協力して中位災厄に対処してくれたんか。それは何よりやけど……どこの誰や? 【絶月(ナハト)】にも【三煌士(グランツ)】にも、こんな奴おらんで?新しく認定された奴がおるなんて通達も、特に降りてきてへんねんけど」


 資料を片手に映像を見た人物は、そう言って首を傾げる。記憶を幾ら漁れど、謎の青年の正体を掴めない。


「そもそも、こいつはほんまに最初から現場におったんか? いきなり出てきたとかやなく? その場におんのに映像からでも認識できへんとなると……どんな隠密能力やねん。映像を巻き戻しても、戦闘が始まる瞬間までこいつの存在を知覚できへん。透明化の【贈物(ギフト)】の類も無視して、映像として投影されるはずやのに。前回の映像が壊れて使い物にならんくなってたんにも、なんか関係があるかもしれへんな」


 面白い、とその人物は口角を上げた。


「私は、この都市の管理を任されとる。住人の顔と名前と出生日は全て記憶してるし、【贈物(ギフト)】も把握してる。他の都市から派遣された人員やったら事前の報告があるし、仮に無くても把握できる。そんな私が捕捉できてへん奴ってのは、ぶっちゃけアウトや」


 つまり、正規の手段でこの都市に来訪した者ではないのだろう。それを異常と認識して──「けど」と言葉を続ける。


「私が把握してへんとしても、マーニ様がこいつを把握してへんことはあり得へん。にも関わらず私の手元に情報がこやんってことは……つまりそういうことやろなあ。それがこの世界の──マーニ様のご回答って訳や。なら、今すぐに(・・・・)こいつの排除に動くのは得策ちゃうわ。ゾーイと争うのも、面倒やしな」


 都市の人間全てを記憶している自身の脳裏に、該当の人物が浮かばない。それは即ち完全なイレギュラーが起きていることを意味しているのだが──しかし、そのイレギュラーを瑣末ごととして流した。この状況は、神にとって既定事項であると理解しているが故に。


「災厄を前にして行動できる。災厄に抗う術がある。盾系の【贈物(ギフト)】とかいうどの都市でも重宝されそうな人材。管理人としては、彼を雇いたいって気持ちもあるんやけど……こんな貴重な人材。どの都市から来たんや?」


 映像を拡大化し、謎の青年をジッと眺める。暫くそうしていた管理人はやがて首を振ると、ポツリと呟いた。


「……これも役割か」


 自らの思考や行動さえも、神にとっては想定の範囲内。それを、管理人は理解している。だからこそ、管理人はフィルター無しに不審な青年を評価できるし、


「けどまあ。ここは仮にも、私が管理を任されてる都市や。──ならば一度は対面して、彼と直接話をすべきだろう」


 思うがままに、行動をとることもできる。一瞬だけ空気を尖らせた管理人は、ニヤリと不敵に笑って。


「上位災厄が出たら私も災厄対処に動く必要がある思ってたけど……こいつがおるならその必要もないやろ。最近の災厄は病の原因とかやなく、単純に分かりやすく規模がでっかいもんばっかやし。まあけど、この規模が続くとなると隔壁の改築は必要かもせん。今度の会議で、提案してみよか」


  §


「マーニ様。ビルからの報告ですが──」

「いや、必要ないよ。彼女には申し訳ないけど……彼のことなら、僕も分かっているからね。彼女の所感は、少し辛口だろうし」

「ハッ! ……オマケの方はいかが致しますか?」

「死にそうでないなら放置で構わないよ。流石にそこまで柔じゃないだろうし。……彼らに関しては、僕自身はそこまで興味ないかな」

「承知いたしました。では、そのように」

「相変わらずだね」


 かしこまる男に苦笑を漏らし、マーニは「さて」と呟いた。


「少しは観光でもして欲しいというのも本音ではあるけれど……暫くは災厄の対処を頼むよ、後輩くん」


 §


 ──そして、とある都市にて。


「はい。今日の分のお水だよー」

「ありがとうございますステラさん。私のお野菜も出来ましたよ」

「……いやあ、何回見ても分かんないや。自然を創造するって普通にびっくりだよ。操るなら分かるんだけど」

「いえいえ、それほどでも──っと、セオドアさん。お肉のご準備は?」

「まったく。本来私の魔獣は、食用に遺伝子改良を施すものではないというのに……」

「でも、セオドアくんとしても美味しい方が良いんじゃない? ていうか、フィールドワークの時とかに便利じゃん? 食用の魔獣も作っておいて損はないと思うよ」

「私はさほど食に興味がないのだよ。端的にいって、味の向上如きにわざわざ時間を割くほどの意義を見出せない」

「あー、それは分かるよ。ボクも、食べないと死ぬから食事の時間を割いている訳だし。でもさ、わざわざ時間を割く必要がある物事なら、少しでも幸せな方がいいよ。きっと」

「……参考程度には頭に入れておこう」

「ふふっ。ではお料理を始めるとしましょう。……すみません。火をお願いします」

「ええ。頼みましたよ、ファヴニール」


 とある団体が、身を潜めながらサバイバルを行なっていた。


「それにしても、オウサマはどうしてるかなあ……」

「それを確かめる為にも、今は身を潜める時期です。……幸いにも、我々にはセオドアさんの魔獣がいる。──そして何より、自給自足ができる。これは、未知の世界に放り出された我々にとって、非常に大きなアドバンテージですから」


 その中で、人類最高峰の頭脳を有する賢者は言う。


「この世界が遺跡にいた女性となんらかの関連性があると見て……我々は慎重に行動する必要があります」

「でも、慎重にしすぎたらそれはそれでダメじゃない? 慎重といえば聞こえはいいけど、これを続けるのは正直、現実逃避に近いと思う。もしもこれを一生続けるつもりなら、悪いけど、ボクはオウサマを探しに行くかな」

「……ええ、その通りです。ですから──」


 直後、彼らの耳朶を打つ轟音。それを受けた賢者は目を細める。細めて、口を開いた。


「ですから、接触する時期と相手を見定めれば、動きます。一番最初にジルと合流できるのが望ましいですが、あまり悠長にしてもいられません。これは国どころか──大陸の危機かもしれませんからね」

矛盾があれば修正します。

前回と合わせて15000文字くらい。4で割れば3700くらいの文字数なので、週一更新もできなくはないとなんとなくは思うけどうーん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] マーニさんのジル様に対する、かわいい子・気になる子という感じが伝わって来て、マジジル様神! 今日のジル様も、マジ麗しい… [一言] 投稿ありがとうございます!
[良い点] 全員頭キーランは草 [一言] 肉体の影響があるにせよやっぱりジルの中の人相当頭いいですね。 惜しむらくは頭よすぎてわたし程度にはどんな推測してるのか全く分からないってことですが。  別の都…
[良い点] 行方不明になったシリル達が心配でしたが、なんやかんやでうまいことやっているようですね。 中でもセオドアの万能性は異常だ・・・! ぶっちゃけ、その気になれば火をおこしたりきれいな水を出す魔獣…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ