災厄退治
4月中に投稿したかったけど無理でした。8000文字超えました。
災厄。
この世界が創造された頃より続くとされる謎の現象。単純な出力であれば似たような被害を生み出せる人材はいるし、それを制圧できる人材だって少なくはない。にも関わらず、災厄に対処できるのは選ばれた少数精鋭のみに限られている。
その理由は単純明快。災厄は規模以上に、その性質が厄介だからだ。
「まあ、上位災厄とかになると話が変わってくるんだろうけど」
「? どうされましたか」
「なんでもないわ。さっさと引き継ぎを終わらせましょう」
災厄の対処方法は複数存在する──とゾーイは聞いているが、彼女の対処方法は至ってシンプルだ。
即ち、実力で捩じ伏せて、ぶっ飛ばす。
脳筋の極みだが、しかしシンプルイズベストの体現でもある。自らの実力に自信を有しているからこそ取れる対処方法であり、同類の大半はこうして対処しているだろうとゾーイもなんとなく思って──
(……いや、あいつは違うかもしれないわね)
あの堅物が災厄対処の役割を担っているのかまでは知らないが……と、そこでゾーイは思考を止めた。
「二連続で中位災厄ねえ。下位災厄なら、アンタ達に大半を任せられて楽なのに」
「いや、それは流石に……。さて、我々はここで失礼いたしますね。ご武運を」
「はいはい」
隔壁の内側へと立ち去っていく面々を見送ることなく、ゾーイは前方に目を向けた。向けて、隣に立っている青年に愚痴を吐く。
「……なんでそれでバレないのかしら。あの子達も、別に雑魚って訳じゃないんだけど」
「あらゆる生命は、自らの知覚範囲を超えた存在を認識できん。強すぎる光には、眼が灼けるのと同様にな。故に私がそこに在るだけで、有象無象の視界は閉ざされる。ただそれだけの事」
「嘘を吐くな嘘を」
まあいいか、とゾーイはため息を吐いた。ロジックは理解できなかったが、それでも青年の存在がバレなかったことに変わりはない。始めはしばき倒してやろうかと思ったが、一応指示を聞く程度のことはしてくれるようだ。やはり、なんだかんだで律儀ではあるのだろう。傲岸不遜ではあるが、しかし恩を仇で返すような真似は好まない性質に見える。一定の筋は通す、とでも言えばいいのだろうか。
「ふん。災厄か。この妙な環境も、災厄により引き起こされたものか?」
「多分ね。私達は、この暗黒を災厄の証として認識しているわ。前後の因果関係は特定できていないから、災厄によって引き起こされたと断言はできないけど」
「……未だに特定不可能、か」
そう。災厄については、非常に謎が多いのだ。それでも対処自体はできているから、実情としてはそこまで問題視されていないのが現状である。
「さて。では貴様の仕事とやらを見届けてやろう。場合によっては、私が介入してやっても構わんがな?」
「必要ないわよ。巻き込まれない程度に眺めてなさい。なんか分かるかもしれないしね」
「相変わらず豪胆な事だ。……まあ、余興にはなるか。構わん。貴様の好きにするといい」
そう言ったジルは少し後方に下がると、そのまま地べたに腰を下ろした。その所作にも気品を感じることができるのは、彼が持つ生来の気質によるものだろうか。
「……さてと」
気持ちを切り替え、ゾーイは視線を前方へと戻した。視界の中には存在しないが、中位災厄に認定されたという災厄は──
「上で留めたらしいけど……っと、来たわね」
瞬間、全体像が見えないほどの質量を伴った"巨大な手"が落下する。ゾーイ達を押し潰さんとして現れたそれに、しかし彼女は動じなかった。
「邪魔」
ドアをノックするかのような感覚で、ゾーイが軽く手を弾く。それだけで、巨手は轟音を立てながら吹き飛んだ。衝撃波が周囲を薙ぐが、ジルもゾーイも微動だにしない。ゾーイは真顔で、ジルは愉快げに口元を歪ませて壁にめり込む巨手を眺める。
「悪くない動きをする。だが良いのか? 貴様が守護すべき隔壁とやらは、貴様自身の手で破壊寸前に陥っているように見えるが」
「自動修復機能とやらがあるから大丈夫でしょ。それに、思ってるより分厚いわよあれ」
肩を回して関節を鳴らしたゾーイはそのまま膝を曲げ、伸ばすと同時に跳躍。巨手との距離を一瞬で詰めたかと思うと、巨手を掴み取る。そして。
「まずは動きを止めてっと……」
世界を揺るがすような轟音を立てて、ゾーイが巨手を地面に叩きつけた。加えてそれを二度、三度と続けていく。大きく動くことで抵抗していた巨手だったが、百を超え始めた辺りからその抵抗も鈍り始めていた。それを認識したゾーイは満足げに頷き──巨手をぶん投げた。
「意外としぶといけど、それだけかしら」
正直、この程度であれば下位災厄相当ではないか? というのがゾーイの見立てだった。巨大な建造物に匹敵する質量と、無駄に高い耐久力を有しているだけ。時間はかかるかもしれないが、自分が出張らずとも十分に彼らでも対処できただろう。となると、何かしらの秘密が隠されていそうだが──
「……って、投げる位置ミスったわ」
巨手が投げ飛ばされた先。そこに、ジルが悠然と佇んでいた。
「ふん」
マッハ50を超えて迫り来るそれ。余波だけで広範囲が更地と化すほどの砲撃を眺めながら、ジルは軽く鼻を鳴らした。そして、片手をポケットから取り出し。
「……これは余興故、一度に限り忠告してやろう」
──全ての衝撃を相殺した上で、微塵も被害を生むことなく受け止める。ミシリ、と何かが軋むような音が、巨手の内側から響いた。
「貴様の雑事を、私に投げるな」
「巻き込まれないように見てなさいって言ったのに、棒立ちしてるのが悪いのよ。巻き込まれないようにってのがどういう状態を指すのかくらい、わざわざ言わなくても分かるでしょ。それにあんたならあの程度、どうにかできることくらい分かってるから、あんまりあんたの存在を意識してなかっただけよ。これは信頼の証よ、信頼の」
「物はいいよう……という言葉を教えてやろう」
「鏡を見なさい鏡を。そもそも私は、あんたに当たる前に追いついて地面に叩きつけることもできたのよ。止めようとする判断が速すぎるわ」
「……そうか。ならば」
瞬間。巨手が風船のように破裂し、肉塊と化す。それはジルの握力によって、巨手の一部が強引に握り潰されたが故の末路だった。
「これで貴様の仕事は終わりだ」
「……残念だけど、多分まだ終わらないわよ」
ゾーイがそう口にした直後。
「……ほう」
弾け飛んだ肉塊。それらはジルの眼前で蠢き、やがて一つの形を成していく。完成したそれは、先ほどジルが握り潰したはずの巨手で──
「奇怪な……と思ったが。成る程。そういう事か」
ゆっくりと宙に浮かび上がっていく巨手。──否。よく見ると、それは宙に浮いているのではない。
「あー、そういうこと。バカみたいにでかい手のバケモノって訳じゃなかったのね」
視線を巨手から、巨手の先にある空間へと移す。
「然り。所詮はアレは、あの怪物の一部だったのだろう。文字通り、な」
そこに、腕があった。
「そりゃ手をどんだけぶん殴っても意味ない訳だわ。痛くはあっても、致命傷にはなり得ないもの……っていうか」
胴体があった。足があり、頭もあった。人型の怪物のみじろぎが大地を揺らし、白い吐息が空を覆う。
「……流石に隔壁を越えられるかもしれないわね、あれ。でかすぎでしょ」
「面白い。果たして、あの巨体がどこに潜んでいたのか。貴様に分かるか、専門家?」
「さあ。たった今生まれでもしたんじゃない?」
全長1000メートルを超える巨人が、その場に君臨した。
§
それは、もはや山が動いているようなものだった。
冷気を纏った拳が振り下ろされ、一瞬にして大地が凍結する。跳躍することで余裕を持って回避した二人だったが、しかしその直後に火炎弾が吐き出された光景を見て表情を変える。
「? どこを狙って……──いや、そういうことか」
「……くくっ。獣にしては、中々に小賢しいと見える」
瞬間。大地に着弾せんとする火炎弾と、大地を覆う氷床が衝突する。轟音と共に発生した蒸気が空間を包み、二人の視界を遮った。こうして生じた隙を狙うかのように、踏みつけられる巨大な足。
「物理的に強い類の災厄……普段なら楽な部類なんだけど、流石にこの規模となると面倒ね。アイツが都市の方に歩くだけで、隔壁を越えられる」
それは隔壁の耐久力云々の問題ではなく、高さの問題だった。人間が柵を壊さずとも乗り越えられるように、あの巨人であれば都市を守護する隔壁を乗り越えることができるだろう。
そしてそうなれば──隔壁の内側で避難している住民が、災厄の性質によって死に絶えてしまう。
(その為には、この巨人を押し留める必要があるけど……っ)
少しずつ。少しずつだが、隔壁に近づいて来ている。打撃が効いていない訳ではないが、それでも完全に歩みを止めるに至っていないのだ。
ゾーイの実力をもってすれば、巨人を倒すこと自体は不可能ではない。むしろ容易いとさえいえるだろう。だがそれは、あくまでも都市の守護を度外視した場合の話だ。
「庇って戦うのは難しいから、危険を感じたらあんたはとっとと帰りなさい」
「危険、か。生憎だが、この程度に危険を感じられるほど、この身は目出度い感覚を有していないようだ」
「油断しすぎでしょ。記憶を失う前のあんたの生活を見てみたいわ」
「笑止。無知な貴様に教えてやろう。私のこれは──実力に裏付けされた、純然たる余裕というものだ」
「その実力とやらを記憶と一緒に失ってるでしょうが」
なんとなくだが、ゾーイには分かる。あの肉体が積んできたはずの技量を、ジルは発揮できていないと。本来であれば不要な工程を、行動の中に挟んでしまっていると。それでもそれを感じさせないのは、ジルの肉体のスペックが恐ろしく高いからだろう。記憶と共に技量を失いながらも、基礎性能で誤魔化せる。誤魔化せてしまう。
(……まあ、あいつの心配は必要なさそうね)
都市を守る為には、この巨人を一気に叩き潰す必要があるだろう。チマチマダメージを与えていては、その間に都市に辿り着きかねない。面積が広すぎるが故に、ダメージが分散され、倒すまでの時間がかかりすぎる。その為に、ゾーイとしては手札を一枚切りたいのだが。
(けどこいつ……)
距離を置いて手札──【贈物】を発動しようとした瞬間に、巨人の火炎弾が隔壁に向けて放たれる。咄嗟に【贈物】の発動を中止し、火炎弾を蹴り上げて上空に逸らすことで被害を防ぐが、ゾーイとしては険しい表情を浮かべざるを得なかった。
(どう見ても知能があるじゃない……。しかも、明確に都市を狙っている。ここまでとなると、中位災厄の域を超えているわよ、これ)
発動までの溜め。それを、ゾーイに与えない。特別知能に長けている訳ではないのだろうが、ゾーイにとって「面倒くさい」「無視できない」「体制を立て直す時間はない」と思わせるだけの行動は取れるらしい。
(……こいつの動きを止める時間が欲しいわね)
ちらり、とゾーイは視線を僅かに下げる。業腹ではある。だが、自らの役割を果たす為に──頼る必要があるのかもしれない。
§
ゾーイと軽快なコントを続けている間にも、巨人からの攻撃は止まらない。怪物から繰り出される苛烈な攻撃は、その一つ一つが国を滅ぼすだけの力を誇っている。下手に受け止めようものなら、大陸最強格とて無傷では済まない。これほどの質量を小細工や技量無しに真正面から受け止められるのは、それこそ【人類最強】くらいのものだろう。
(……これを日常的に対処しているのか? 月の世界は。いや、ゾーイは「二連続で中位災厄なんて」と愚痴っていたな。中位災厄も、それなりにレアではあるのかもしれん)
先ほど、ゾーイに対して「この程度、全くもって脅威じゃありませんけど?」みたいなことを口にした俺だが──当然ながら、俺自身は巨人に対して微塵たりとも油断していない。勿論、例え遥か格下であろうと足元を掬われる可能性があるため油断しないが……今回の場合は単純に、巨人の脅威を認めているが故のものである。
(この巨人の連撃は、巨大隕石の雨のようなもの。加えて、そこに炎や氷といった属性が付与されているときている。質量だけを見てもかなりのものだが、属性を纏っている影響で射程範囲が想像より広く、多種多様が故に小細工や中遠距離攻撃も可能とはな)
前世の知識のせいで、少しばかり気掛かりな点もあるが……それは一時置いておくとしよう。
特級魔術に匹敵する火力。それを、あの巨人は通常攻撃として放つことができる。加えて、山に匹敵するほどの巨体に相応しい耐久性と、巨体に馴染まぬ敏捷性。その意味を、俺は決して軽んじることはない。
(……殲滅兵器としての機能に関しては、【人類最強】を除く大陸最強格を超えるか)
無論、技量面を考慮すれば、総合的には大陸最強格に軍配が上がる。周囲の被害を気にしなければ、大陸最強格でも問題なく災厄に対処すること自体は可能だろう。なので仮にこの巨人が大陸に降って湧いてきても、どうにかして討伐することはできるはずだ。
(だが……)
確か、これでも中位災厄だったか。中位と定義している以上、少なくとも上位災厄は存在するのだろう。加えて、これはメタ視点になるが、それ以上の災厄が出てきてもおかしくはない。そしてもしも、それらの災厄に対処できるだけの戦力を月が有しているのだとすれば──。
(……マーニと戦闘をしないとしても、交渉の座に着くだけの戦力すら足りん。【上司】に掛け合って、【人類最強】を連れてくるべきだったか。……いや、だが結局はあの女によって散らされる。そう考えると、大陸側に奴を残しておいた方が保険として成立するかもしれん。教会勢力も、月相手にはどう動くか分からんしな)
加えて。
(火力に対して、周囲の被害が軽微すぎる。これだけの衝撃が発生していながら、大地に亀裂が走る程度で済む訳がない。世界の強度そのものが、想像以上に頑強にできている……。戦力だけじゃない。これだけの世界を創造するだけの技術力も、月にはある)
確かに、大陸にしたって前世よりは頑丈である。それはエーヴィヒの一撃による魔術大国の被害が物語っているといえる。だが、月のこれはもはや、世界そのものが核シェルターのようなもの。前世で例えるならば、核による攻撃が最低ラインの戦争を想定された造りとでもいうべきか。
(実際、月の世界は住居もそんな感じだったしな。災厄に対しては、かなり手厚く保護されているのかもしれん。そして手厚い保護が必要となると……住人全員がバケモノみたいな実力者、という可能性はやはり切り捨てて問題ないか。とはいえ、技術力の高さはやはり侮れん。戦闘力以外の面で、秀でている人材も豊富なのだろう)
文字通り、色んな意味で大陸を超えて……いや、待て。この辺の技術に関しては、持ち帰ることができれば参考にできそうではある、か。幸いにして、セオドアが月のどこかにはいることだしな。
(絶望しかないかと思ったが、どうやら希望もあるらしい。とはいえ、まずは目先の怪物をどうにかせねば)
……さてこの局面。俺はどう立ち回るべきか。
魔力や【神の力】は、まだ使いたくない。この世界で魔力や【神の力】がある程度普遍的な代物であるかの確認──日常生活において普遍的でないことは確認済だが、こういった非常時においてはどうなのか。そもそも、これらの概念が認知されているのか──ができていないので、この段階では伏せておきたいからだ。これらが月において異端な力であった場合、ゾーイとも敵対する可能性がある。それは避けたい。
ゾーイは俺が火柱や暴風を起こしたと言っていたが、それが魔術によるものか【天の術式】によるものなのかまでの特定には至っていないし、災厄として俺に付与されていた力を行使していた可能性もあるだろう。
よって、現段階では単純な身体能力だけでこの巨人の相手をしたい訳だが。……時間がかかりすぎるな。身体強化も不可能な訳だし。
「……」
横目にゾーイの方を見る。彼女はこの状況に苛立っている様子だ。悲観的ではないことから推測するに手立てがないという訳ではないのだろう。災厄の専門家ともいえる彼女でも、この状況を打破するには数手足りないといったところか。
(……ゾーイには一宿一飯で済まない恩がある。流石に、彼女を見捨てる選択肢はあり得ないな。さりげなくサポートに回りたいところではあるが)
だが、俺の力が月でどのように扱われるかが不明である以上、世界を敵に回すなんて展開は避けたい。ならば、俺が踏むべき手順は──
「ねえ、あんた」
この状況を切り抜けるべく、思考を巡らそうとしたまさにその瞬間。ゾーイが俺と背中合わせになる形で現れる。この場面で俺に声をかける理由が読めない俺としては、若干訝しまざるを得ない状況な訳だが、続くゾーイの言葉で俺の疑問は氷解した。
「あんた。めちゃくちゃ硬い光の壁を出せたりする? なんていうか……壊せる気がしないやつ」
それが俺の愛用する【光神の盾】を指していると察するまでに、さしたる時間は不要だった。災厄として暴れ回っていた俺は、悲しいことに【光神の盾】を使用していたらしい。暴風や火柱であれば「災厄になった俺はそんな力を使えたのかー」という解釈もできたが、破壊不可能な光の壁を使用していたとなると話は変わる。それはもう【光神の盾】以外の何者でもない。なんてもんを使用してくれたんだ、意識のない状態の俺は。
(だが、そうか。ゾーイの反応的に……【光神の盾】は異端ではない、か)
よし、回りくどい方法を取る必要が無くなった。とっとと【光神の盾】の使用を解禁するとしよう。これだけでも、かなり行動の幅が広がる。偶然の産物ではあるが、この産物を掴み取らない理由はない。
「……光の壁、では抽象的すぎる。記憶を呼び起こせん」
だが、それでもゾーイの先の説明で記憶喪失の人間が【光神の盾】を展開できるのは些か急すぎると思わなくもない。若干で構わないので、俺が【光神の盾】を展開できる建前として機能するだけの説明を所望する。
「あー。そうね……なんかこう、自分の中の魂的なものに呼びかけるような感じでどうにかならない?」
「……」
魂的なものに呼びかける……? 俺は具体的に説明しろと言ったはずだが、むしろ抽象的になっていないか? ゾーイは何を言って──いや、待て。成る程、成る程。そういうことか。
「……ふん。相も変わらず抽象的ではある。貴様の頭の出来が知れるというもの。──だが」
決して口にはしないが……感謝しよう、ゾーイ。お前のその感覚的な説明のおかげで、俺は一つ、この世界に対する理解を深めることができたのだから。
お前達に──【加護】に類する力があるということのな。
「良いだろう。欠片ではあるが、私の記憶を呼び覚ました褒美だ。刮目しろ」
とはいえ、今は目の前の巨人をどうにかするとしよう。
肉体に刻んだ術式に、【神の力】を巡らせる。俺を中心に重圧が発生し、巨人の動きが大きく鈍った。
「久方ぶりだが、私に失敗などあり得ぬ道理。その場に居座れ、巨人」
直後。巨人の肉体を完全に遮るように、【光神の盾】が展開された。高さは2キロを超え、横幅も10キロ前後。これであの巨人が隔壁に近づく為には、大きく迂回する必要が生まれる訳だが。
「──よし。贅沢な時間稼ぎが成立したわね」
それだけの時間があれば、彼女が巨人を倒すのに十分だろう。不敵な笑みを浮かべたゾーイを中心に、力の波動が解き放たれた。
「さてと」
ゾーイを中心に、複数の円環が展開される。神秘的な力を秘めたそれに脅威を感じたのか、光の向こうから巨人が咆哮をあげる。
「ムカつくけど、認めるわ。私一人じゃ、この災厄を被害無しに鎮めることは無理だった」
だが、もう遅い。ゆっくりと、円環が歯車のように動き出すと同時に、空間が震撼していく。それを見た俺はもう不要だろうと判断し、【光神の盾】を解く。
そして──
「決められたレールみたいであまり使いたくないけど……【月の──」
そして、巨人の肉体は喰い破られた。鳴り響く雷鳴と、大地を揺るがす大爆発。それが、災厄の終焉を知らせる証であった。
矛盾あれば修正いたします。今回は駆け足投稿になったので修正率高そう。まあ結末とかは特に変わらないので、気にするほどの修正はないかと。
意外かもしれませんが、ゾーイとキーランとヘクターとジルとソフィアを一緒の空間に放り込むと、なんと、かなりカオスなことになります。