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日常から……

実は書籍化決まりました!大変嬉しく思っております。皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございます。


イラストレーターさんや、どこから書籍化されるのか、その他多数の情報は後ほど発表があると思います。その際は、自分からも発表します。お待ちください。


とりあえず、報告遅くなりましたことの謝罪を。編集の方に「まだ言わないでね」ではなく、「早く言ってしまいましょう!」とのお言葉をいただいた系なろう作家って、自分以外にあまり例はないかもしれない。……いやその、違うんです。更新する時は更新することに集中してるから、報告することが頭から抜けていただけなんです。なんなら今回も忘れそうになっていました。WEBと書籍で頭を切り替えている弊害かもです。すみません。


なんか淡々とした文章なので伝わりにくいかもですが、作者はもうとてもとても喜んでいますよ。書きたいことがたくさんあるんで、楽しみにしていてくださいね。一巻で30万文字くらい書きたいね。できないんですけどね。編集の方もめちゃくちゃいい方でして、楽しく作業しております。


……打診をいただいたのが書籍化を諦めてやりたいように書く方向性に舵を切ってからのことでしたから、正直驚きましたね。ということでキーランの脱衣、広めていこうな。男が脱ぐ作品とかで布教して大丈夫です(大丈夫なのか)


 激動の二週間だった。


 接客業をこなす。はっきりいって、ジルの才能を全面に発揮すれば、それ自体は非常に容易い。五つ星ホテル真っ青なおもてなしをすることだって、朝飯前だろう。圧倒的な安らぎを提供し、極楽浄土へと誘ってみせよう。


 だが、ジルのキャラを保ちつつ接客業をこなす……となると話は変わってくる。


 ジルのキャラは、正直どれだけ甘く見積もっても接客業に向いていない。いや向いていないどころか、そもそも接客業をしてはいけない次元にすら達しているだろう。色んな意味で。面倒なお客様なんてものが来店した日には、速攻で血祭りにあげるに違いない。いや、|それ以前の問題になるの《誰であろうと接客拒否》が自明の理である。


(カウンター席にふんぞり返りながら客の話相手をする……が、限度だろうな)


 とはいえ、自分の店ならばともかく、あくまでもマスターのご厚意で雇ってもらう身であることを忘れてはならない。


 身元不詳の人間を雇うリスクは計り知れないだろうに、それでも雇ってくれるのだ。である以上、俺としては義理は通さねばならない。俺のせいで、売上に悪影響が出るなんてことがあってはならないのである。故に、客に不快感を与えず、なおかつジルのキャラ崩壊は防ぐ接客を果たすという、相反する二つのミッションを背負わざるを得ないのだ。


 しかも、問題はこれだけに留まらない。


 ここは月の世界。常識も価値観も社会構造も法律も文化もその他も全て、俺の知識と異なるかもしれない世界なのだ。そんな世界でたくさんの人間と触れ合う接客業をこなすとなると、それはもう難易度は上がる。上がるというか、跳ね上がる。恐ろしいくらいの弾力性を有する。何が地雷なのかも分からない最中、多種多様な人間と交流するなど無謀でしかないだろう。そもそも言葉遣いの時点で、ある程度の縛りプレイを強いられているというのに。


 あり得ないとは思うが、それこそマーニが「やあ、来たよ」なんて具合に来店した日には、俺はどんな対応をすればいいのだろうか。ここが月の神御用達の喫茶店である可能性すら捨て切れないとは、これいかに。


(だが。これに対処できずして、明日はない)


 確かに難易度はイカれている。だが、それでもやり切らねばならないのだ。文句を垂れて時間を浪費している場合ではないだろう。賽は投げられたのだから。


 別に接客業にこだわる必要なんてない……と思われるかもしれないが、俺個人としては、このバイトはかなり有用だと考えている。それは身分証明書がないのに働かせてくれる職場が稀少……という理由に留まらない。喫茶店という場は、現状の俺にとって非常に好都合なのだ。なので、この機会を逃す手はない。


(なんとしてでも、ここでバイトをするとしよう)


 幸いにして、道筋自体は見えている。活路が皆無という訳ではないのだ。大変アクロバティックな着地にはなるかもしれないが、現代知識を活用させてもらうとしよう。そのまま転用するのではなく、調整を施す必要はあるが──材料とジルの頭脳がある以上、不可能はない。


(しかし、俺が提案するのは下作。あくまでも、店長自身に気づかせる必要がある)


 信頼を得ていない素人の意見で、店の方針を決められる訳がない。だが、その意見が店長自身の発想であると誤認させることができれば話は変わる。かつて教会勢力相手に(ジル)を神として認識させた時と似たようなことを、今回もしてやればいいだけだ。


 そしてそれ以上に──ジルのキャラで「私を猫カフェの猫として使うが良い」なんて言える訳がないだろう。そういう意味でも、俺自ら(ジル)の活用方法を提示するのは却下である。


(店長には(ジル)を立てるように煽てつつ、うまく回す方法に気付いてもらうとしよう)


 店長が鈍ければ一切使えない手法ではあるが……そこは心配していない。


(喫茶店の経営面に特化していそうだが、凄まじい観察眼を有しているらしい。……この店長、できる)


 俺が言葉で丁寧に方向性を誘導する必要はない。この店長は、漠然とではあるが(ジル)を活用した商売方法が見えている。そこを補強するような具体案を遠回しに提示してやれば──俺は無事この店に貢献できるだろう。


(とはいえ、客の種類は千差万別。全ての客に「猫だから」で許されるはずもなし。そもそも、この喫茶店が猫カフェやコンカフェとして売っている訳ではないからな。新規客はともかく、既存客に対するアプローチは──)


 こんな風にめちゃくちゃ考えて。それはもうめちゃくちゃ考えて。店長の思考やら何やらを誘導し、客層を見極めた上で他人からは気付かれない範囲で接客の態度と言動をお客さんに応じて切り替え、ジルというキャラクター性を受け入れさせ──死ぬ気で働いたのである。


 結果。


(成し遂げた)


 心の中でガッツポーズをしながら、俺は不敵な笑みを浮かべて紅茶を飲む。超高難易度ミッションだったが、それでも俺はバイトを続けることに成功したのだ。クビにならず、利益も落とさない。それどころか、新規の客層を獲得することで営業利益の三割増しにすら成功している。最低限の筋は通したといえるだろう。本腰を入れればまだまだ伸ばせるが、やりすぎるとそれはそれで悪目立ちしてしまう。この世界の頂点がマーニであると仮定すれば、余り目立つのはよろしくない。


(これで、店長への義理は果たせた。ゾーイへの生活費の支払い問題も解決し、憂は消失する。小遣いも稼げたから、ある程度の資金は調達できた。加えて……やはり目論見通りだったな)


 もう一つの目的も、それなりに機能している。それも、俺にとってはかなり好都合な結果が舞い降りたといっても過言ではない状況。


(常連さんの多い喫茶店で行われる雑談の内容。それこそが、今の俺にとっては重要なものだ)


 常連さん同士の雑談。そこから得られる情報とは、この世界のごく当たり前(・・・・・)に他ならない。


 直接的な情報が得られなくとも、間接的な情報からこの世界の情勢を推測する程度のことはできる。勉学に励む少年がいる以上は学校やそれに類する施設があるはずであり、ゲームのような娯楽がある以上はそういった文化を形成する土壌や余力があるはずだ。インフラ環境やその他に関しても、業務のおかげである程度だが分かってくる。こういった要素要素を繋ぎ合わせていくと、薄らと外観が浮かび上がってくるのである。


(バイトをする前から薄々推測できてはいたが──所謂、現代のような世界と考えていいだろう。サブカル風に表現するならば、現代ファンタジーというやつだ)


 まあ細かい部分を詰めていく必要はあるが、ある程度は自由に動いても問題なさそうだ。買い出しの付き添いでも、特に問題は起きなかったからな。最優先懸念事項たる神についても、そもそも神に通じていそうな存在を見つけることができなかった辺り……警戒していたほど、神が近しい世界ではないのかもしれない。少なくとも、一般的には。


(博打要素は残るが、災厄の方面からも探る必要があるか)


 災厄の扱いも気になるところではあるが、誰もあまり話題にしていなかった辺り──そこまで脅威という訳ではないのだろうか? 勿論、災厄への対処方法が確立されているという意味でだが。勉学に励む少年が歴史系の教科書を持ち込んで来てくれれば非常に助かるので、勉強ができるお兄さんという印象を植え付けてはいるが……先行きが不透明過ぎる。


(無限に時間があるならばともかく、流石にもう二週間だからな。ある程度は行動に移さねば)


 襲撃等を警戒していたが、二週間経ってもその気配は全く感じ取れない。ゾーイに何者かが接触した様子もないし、世界的に俺を探し当てるような動きも見当たらない。この世界が全て敵に回る可能性すら視野に入れていたが、そちらの心配に回す意識は減らしてもいい頃合いだろう。


 それに、ステラ達の状況も気掛かり──奇跡的に、ステラとセオドアに関しては無事であることが分かる手段を発見できたのだが──である以上、超絶安全な情報収集タイムは、一時お預けだ。


(幸いにして、一般人全員がバケモノじみた実力の持ち主なんて世界ではないことは判明した。軍部その他に関しても、それなりに特殊な位置付けだろう。つまり──)


 つまり、特殊な事態を観察しなければ、深い部分は分からない。


『東地区7B区域前線にて、災厄が発生しました。繰り返します。東地区7B区域前線にて、災厄が発生しました。近隣住民の皆様は、各自避難用──』

「っと、災厄か」

「急がないとね」

「ああ」


 世界そのものに鳴り響く警報と、繰り返される避難勧告。常連客の皆様は急いだ様子で荷物をまとめ、されど焦燥を浮かべることはなく、指示に従って行動している。


(成る程。慌ただしいが、しかし心配はないのか。避難こそすれ、避難さえすれば問題ないという社会通念。ある種の信頼……いや、それ以上のものがあるな。そして、これを為しているのはおそらく……。僅かだが、この世界のことが更に分かってきたぞ)


 ちょうどいいタイミングだなと俺が一人内心で頷くと同時、ゾーイが席を立つ。災厄に関する情報は皆無に近いので、彼女の後を付けるのが無難だろう。俺の状況を理解していることも好都合。……しかし、どことなく苛立った様子なのは何故だろうか。


(さて。動くとしようか)


 気配を遮断し、音を消してゾーイの後を追う。こういった方面の技量は磨いていないためキーランに劣るが、それでも人類最高峰のスペックは伊達ではない。誰にも気付かれることなく、俺は店から出ることに成功していた。


(暫くすれば隠密を解除して、それから──)


 筋書きは用意してある。ゾーイ以外の人間と遭遇して事情を訊かれたとしても、誤魔化せる程度の筋書きはな。なんなら個人的には、ゾーイ以外の人間で災厄に対処している人間を把握しておきたい面もある訳で。


(あの女やマーニが俺に接触して来ないのはその必要がないからか、月の全土を把握する手段は無いからか、災厄とやらが連中にとっても不本意な代物なのか、敵対は不可避なのか、そういった部分も情報の一端を掴めれば……)


 ……とまあ、色々と推論を並べてはいる。警戒を重ねているし、慎重に行動もしているだろう。


 だが正直なところ、マーニに泳がされているのではないか……というのが俺の本音だった。というよりむしろ、(ジル)をあえて放置することがマーニ陣営の目的とすら思っている。


「……面白い」


 ならばその思惑に乗ってやろう。マーニ。災厄との対面は、何かしらのきっかけになるかもしれんからな。


 §

 

「……え、なんで来たの?」

「ふん。何を不思議に思うことがある? この私と貴様の奇妙な縁は、災厄とやらにより始まったのだろう。ならばその原点を私が知ろうとすることに、疑問が介在する余地はない」

「……要するに。気になったから付いて来たってことかしら?」

「然様」

「バカなの?」


 こいつは何を言っているのだろうか、とゾーイは本気で思った。災厄は、人々にとって天敵といっても過言ではないというのに。


 勝つ負けるの次元ではない。相対するだけで、死に直結しかねないのだ。


(当たり前をぶっ壊すような奴を求めてはいたけども……)


 災厄の警報が鳴っているのに外に出る愚か者など、この世界に存在しない。この世界は、そういう風に出来ている。自分のように役割を担った者以外は、皆例外なく避難するのだから。故に、万が一、億が一にもあり得ないが、この状況で外出している者を見かけた場合、ゾーイは迷うことなくそいつを避難所にぶち込むだろう。それこそ、どんな手段を使ってでも。


「……いいわ。けど、離れてなさい。あと、私が仕事を引き継ぐまではさっきみたいに気配も消しといて」

「ほう。私の隠密を見抜いたか」

「ムカつくけど、見抜けなかったから言ってんのよ。意識が散漫していたとはいえね」


 だが、今回はそうしない。青年ならば大丈夫だろうという勘。加えて災厄との邂逅は、ここ二週間、全く動きがなかった青年に何かしらのきっかけを与えてくれるかもしれないのだから。


 §


「二週間。それだけあれば、多少は周囲を知れただろう。……ゾーイ、だったか? アレも付いているしな」


 風が、ミルキーホワイト色の長髪を薙いでいた。


「この都市に置いたのはマーニ様の意向だが、(いささ)か温いと思うのは私の性なのだろうか。……いや、まあいい」


 街を見渡せる高さを誇るビルの頂上。


「さて、お前はどう舞う? このマーニ様の世界で」


 そこに立つ女は、視界に映る青年を見下ろしながら呟く。


「失望させてくれるなよ」

矛盾あれば修正します。


今月もう一回は更新したいと思っています(願望)

ステラ達が行方不明になってから、現実では約一年ですからね。捜索願い出てますよこれ。

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― 新着の感想 ―
[一言] もう1年か...早いなw
[良い点] ついに!書籍化!! おめでとうございます!!!! いやー、めでたいめでたい 掲載当初から拝見させていただいておりましたが、 思えば「此れは面白い」と感じた作品は数あれど、 毎回感想を書い…
[良い点] 書籍化おめでとうございます! めっちゃ好きな作品なんで自分の事のように嬉しいです!
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