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第21話 ただいまなのです

 あれから、何か月経っただろうか。

 凍子のいない夏休みは非常に退屈で、ただただ暑いだけだった。それをいったら今までだってそうだった。でも、今年は特に暑く感じる。


 さとりとは大学で今でもよく話す。大学での一番話す奴が智則からさとりに変わった。まあ、智則はさぼりがちなせいもあるな。

 さとりも数人ではあるが友達ができたらしい。


 九尾はというと相変わらずゲームに没頭している。ファンタジーハンターはもちろん、最近はぴよぴよにはまっているらしい。さとりと二人でやっているそうだ。

 さとりの意外な一面でぴよぴよは九尾に負けないくらいうまいらしい。九尾も十分うまいんだけどな。


 こんな感じで、毎日が過ぎていって、俺はずっと妖怪たちと仲良くしているわけで、


「凍子に手紙とか出してえ! 教えてやりてえよ、このこと!」

「元さん、何を大きな声を出しているの? ここは九尾さんの家で外に声は漏れないけれど、迷惑ですよ」

「すまん、でもさとりだってそう思わねえ? ぴよぴよ勝負挑んどけよ」

「雪女が私に勝てるとは思えません」

「そうじゃろうな、さとりは強い! 頭脳派じゃな」

「ほら、お客様ですよ、コントローラーから手を放してください」


 よいしょっと九尾は立ち上がると店の方に出ていった。

 ちゃんとお仕事してるんだな。


「って、九尾はどんな仕事してるんだ? 普段働いてる姿なんて見ねえぞ」

「そうですね。人型に化けられない妖怪さんたちに物を売っていたり、妖怪しか使わないようなものを妖怪全般に売っていたりしますね。他にも、この環境に慣れなかった妖怪の保護だったり様々ですよ」

「九尾いい奴すぎるだろ。まさかあのゲーマーがあんなにしっかりお仕事してるとは思わなかったよ」

「失礼ね。九尾さんはお強くて美しい、素敵な方よ」

「それと仕事ができるかは結び付かないような気もするけどな」


 九尾はよろよろと俺たちの方へ戻ってきた。


「はあー、疲れる。暮らしには困っておらぬし、店を閉めてやろうかと何度考えたことか」

「そんなに疲れるのか?」

「おぬしら人間のように自ら商品を選んで持って、レジで会計ではない。そういうシステムだと怖いもの知らずの馬鹿が何かしでかすやもしれぬ。そのため、妾が言われたものを台に並べ、確認し、会計という流れじゃ」

「妖怪相手だとそういう風にすべきなのか?」

「九尾さんのところではただの商品以外も扱っていますから」

「でも九尾は強いんだろ?」

「そうじゃ、負ける気はせんが、馬鹿はおるものじゃ」

「妖怪にもそういう人はいるんですよ。謎に自信過剰だったり」

「妖怪もそういうもんか」


 人間の世界よりも妖怪の世界のほうが殺伐としているのかな。

 いや、人間の方がやばそうだ。

 妖怪はこんな風に妖怪同士一応手を取り合ってはいるようだし……人間だって商品を盗んだりいろいろしてるけどな。ここは日本だからまだそういう変なのが少ないように見えるのかもしれないが。


「そろそろ帰ろうかな、今夜は一段と冷え込むらしいし」

「そうじゃ、元」


 九尾が思い出したかのように目を見開き、笑顔で俺を見る。


「今日の夕飯は多めに作っておくとよい」

「なんでだよ」

「そのほうが何かと便利だからじゃ」

「なんだあ? 明日大災害でも起きるのかよ?」

「まあ、大雪じゃな」

「とりあえず、多めに作って備えとくよ」

「元さん、お気をつけて」


 九尾とさとりに見送られて自分の家へ帰る。

 多めに作っとけって、変わったアドバイスだな。とはいえ、俺も九尾の言うことはなんだか信じなければならない気がするので多めに作っちゃうのだが。

 煮物、とかでいいか。長く持ちそうだし。





 夕飯を作っていると、チャイムが鳴り響く。


「すみませーん、宅急便でーす!」


 相変わらず元気な声がドア越しに聞こえてくる。


「はーい、待っていてくださいねー!」


 何か頼んでいただろうか。それとも予約商品?

 とにかく、帰ってきてから届いてよかった。正直、再配達は俺も配達員さんもお互い面倒だからな。


「これ、結構重い荷物ですけど、中に入れましょうか?」


 なんだか、昔聞いたことあるような。


「あ、一人でも大丈夫なんでしたっけ」


 この配達員、前にも配達に来ていたような。


「それじゃあ、ここに置いときますね。ありがとうございましたー!」


 お兄さんの色白な手から目線を上げていくと、そこには見覚えのある爽やかな笑顔。

 もしかして、この荷物は……


「と、凍子?」


 段ボールから豪快に両手を広げて、梱包やら粒子やらがあたりを舞い散る。


「私は見ての通り凍子こと雪女なのです! 元、ただいまなのです!」


 そこにいたのは色白で、透き通るような銀髪の可愛い女の子、雪女の凍子だった。


「凍子、おかえり! またよろしくな!」

「よろしくお願いするのです!」


 俺は飛び出した凍子を咄嗟に抱きしめていた。とても冷たい。凍えてしまいそうだが、俺の体は凍っていなかった。ちゃんと、修行できている。


 俺の平和で自由で穏やかな生活は、この段ボール一つが届いたことでまた始まりを告げた。


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