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第20話 またね、なのです

「それじゃあ、話そうかな」

「お願いするのです!」

「俺からも頼む」


 俺と凍子、さらには雪男までが昔にあったことあるなんて。

 段ボールから凍子が出てきたとき、全く気がつかなかった。凍子だって同じく気づいていなかったはずだ。


「僕たちのような妖怪は雪が降る地方に住んでいる。暑さに弱く寒さに強い、それに妖怪としての役目も雪の中でのほうがやりやすいからね。ちなみに、僕たちは東北を住処にしているよ」

「それはわかるのです! でもなんであんな雪の中で元と会うのですか?」

「そうなんだよ。元君はなぜかあの雪の山の、それも木が生え放題で整備されていないあの森になぜかいたんだけど、思い出せないかい?」


 雪山、森、真冬の話だよな。きっと。

 小さい頃、俺は、そういえば


「そういえば、おばあちゃんに会いに行ってた気がする。東北なんだよ。最近は夏にしか行かないけど」

「その時に、元は私たちに会ったのですか?」

「本当に覚えていないのかい? 雪女はその時に初めて人間と話したんだよ」


 凍子の初めての相手が俺なのか。俺にとっての妖怪も凍子が初めてだ。

 あの日、春に出会った時も同じことを思ったっけ。

 初めて会う妖怪がこいつなのかと。


「本当に、会ってたのか?」

「まあ、君は会ってすぐに雪女と手を繋いだせいで氷漬けになっていたから記憶が薄いのかもね」


 雪男は笑いながら話す。

 よく生きてたな俺。


「それで雪女はどうしようって僕に泣きついてきて、元君を必死の思いで解凍したよね。いい思い出だよ」

「その節はとってもお世話になりました!」

「本当にごめんなさいなのです!」


 昔も今も凍子はあんまり変わらないんだな。さすがに手を繋いで氷漬けっていうのはかなりやばいとは思うが。

 そう考えると、あれから成長したんだなあ。

 凍子を褒めてやりたい気持ちにもなるが、雪男はその当時から力をだいぶコントロールできていたと思うとどうなのだろうか。


「元君はおかしな人間でね、氷漬けにされたにもかかわらずまた雪女に会いに来たんだよ」

「元はその頃から妖怪に対して変な耐性があったのか。面白い」

「九尾さんの言う通り、元さんは子供のころから変だったのですね」

「俺って今変だと思われてたの?」


 初めて知った事実。あまりにも唐突すぎだろ。

 出会った妖怪四人のうち三人に変だと思われてただなんてな。心外だ。


「それで、雪女と二人で仲良く遊んでいたみたいで、三日目くらいかな? 雪女が突然人間と結婚したいと言い出したんだよ」


 雪男は微笑んでいる。九尾もまたニヤニヤしている。

 凍子はというと「あー!」と声にならない声で叫び続けていた。顔は今まで見た中で一番赤い。このままじゃ凍子が溶けてしまいそうだ。


「その時に、結婚するなら料理ができないとだめだよって教えたら料理をすると張り切っていたよ。でも、その時にわかったんだ。家事全般が苦手な子だって」

「じゃあ、その時から料理の練習をしてたのか?」

「それであの下手さ、驚きますね」

「あはは、料理がうまくできない理由に力のコントロールが苦手なのがあったからね、まずはそっちを鍛えることにしたんだ」


 なるほど、それであのお料理スキルの無さだったのか。でも、力のコントロールできるようになってるとは思えない行動も多いのだが、お兄様に後で聞きたいところだ。


「まあ、それでも普段のご飯は僕に頼り切りなところがあってね。花嫁修業ってことで元君のところに送ったわけ!」

「好きな人のところで花嫁修業って、お兄様は不思議なことをしますね」

「面白いではないか。わざとそうしたのか?」

「そう、本当は段ボールを開けたらお互い奇跡の再会を果たしてっていう素敵なシチュエーションをお兄ちゃんは用意したかったのさ」

「でも、本人同士は忘れていたと」

「そう! 本当に残念だよー、雪女は覚えてると思ったんだけどなあ」


 雪男は誇らしげにした後、がっくりと肩を落とした。

 それでも笑顔のままだ。


「覚えていたのです! その男の子のことを忘れた日はないのですが、でも、まさかそれが元だとは思わなくて……」

「俺も、何となく覚えてるよ。すごく可愛い女の子と遊んで、そのあと誰にも信じてもらえなくってさ。あの子が凍子だったのか」

「はは、可愛い女の子だって。良かったね? 雪女」

「か、からかわないでほしいのです! 元も!」


 本当に溶けて消えてしまうんじゃないのか?

 それでも凍子の周りに浮かぶ粒子はきらきらと輝いている。


「それじゃあ、謎も解決して、感動の再会を果たせたことだし、一緒に帰ろうか」


 凍子の肩をたたく。凍子はおろおろした後、俺の方を見つめる。


「元、私はまだここに居たいと思っています。でも、私も感じていました、だんだん暑くなってきていて、私も自分の冷気で何とかしていましたが、厳しいと思っています」

「俺だって、まだ心の準備はできてないし! 最近、お前と一緒に過ごすのに慣れて、楽しいと思ってきてたんだ! 暑いならクーラー十八度に設定して使えばいいし、風呂場なら凍らせていい! お前の過ごしやすい環境を作っても厳しいのか?」

「そういってもらえてすごくすごくすごーく嬉しいのです! でも、それは元に迷惑をかけてしまうことになるので、やっぱり一度お兄ちゃんと一緒に帰ることにするのです」


 凍子、お前はそんなに聞き分けのいい子だっただろうか。

 無理して笑っているようにも見える。

 やっぱり俺がバイトをしていないから電気代が上がるのを心配してくれているのか?

 それともなんだろう。もう何が何だかわからない。

 とにかく、一緒に、まだ一緒に居たいと思う。

 それに、凍子があの時の女の子だったのならなおさら、それにあの時のことをもっと話したり、感謝したいと思っていたのに。


「やっぱり、行くしかないのか?」

「はい。本当は私もいたいです。さとりにもまだまだお料理を教えてほしいですし、九尾さんのげえむも!」

「基本は教えたから、あとはお兄さんと一緒に頑張りなさい。それでいつか、一緒に美味しいものを作りたいわ、安心して、スムーズに」

「ふふ、ご飯を食べた後は妾とげえむをしよう! ファンタジーハンター以外の面白いげえむを元と共に探しておくぞ」


 九尾が俺の方を見る。きっと九尾なりの気遣いなのかもしれない。


「ああ、もちろんだ。きっと凍子にファンタジーハンターは難しすぎるからな」


 雪男が立ち上がり、扉の方に向かって歩き出す。


「僕は嬉しいよ、妹にこんなにお友達ができて。元君」

「はい!」

「これが永遠の別れじゃないからね、絶対にまた君のところに送るからね。その時はきっと君にふさわしい子になっているはずだよ」

「お、お兄ちゃん! 変なことを言うのはやめてほしいのです! でも、絶対にお料理は完璧にして帰ってくるのですよ!」

「おう、凍子の料理は最高においしかったからな、期待してるぞ! お兄さんに負けないようにな!」

「それじゃあ、行こうか」

「九尾さん、さとり、元、とてもお世話になりましたのです!」


 凍子は勢いよく深々とお辞儀をした。雪男も一緒にゆっくりと優雅にお辞儀をしていた。

 この兄妹は本当に個性が強すぎる。

 勢いよく顔を上げるとぶんぶんと手を振りまくっていた。その度に彼女の美しい粒子がきらきらと舞い、すっきりとした風が吹く。


「またな、凍子」

「またね、なのです、元!」


 明日から、俺も凍子に負けないように頑張らないとな。


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