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第16話 協力プレイなのです

 俺は九尾に言われるがまま、コントローラーを握り、ひとまず九尾と協力して幻獣を倒すことにした。


「は、元、おぬし、ガチじゃな」


 俺の渾身の装備を見て九尾は驚いているようだ。

 そうだろう、そうだろうよ、俺が何十、何百時間もかけてひたすらやり込んだゲームだ。


 大学1年はこのゲームに費やしたと言っても過言ではない。

 一人きりのサークルだと思いながら大学から帰ってきてはひたすら没頭していたのだ。


「まあな、お前とはプレイした時間が違う!」

「侮るでない、もっと先を見据えたほうがよいぞ?」

「どういうことだ……?」


 九尾は意気揚々とログインし、ゲームの中でも俺と合流する。


「見よ、妾の少ないプレイ時間でのこの成長ぶり、おぬしに追いつくのも時間の問題じゃ!」


 そこにいた九尾は1週間程度にしては装備が強く、相棒のケルベロスは本格的にケルベロスに近づいていた。


「つまり、妾が元と同じ時間プレイしたらおぬしよりももっと強くなるということがわかる。仮にもこの世界では先輩なのだから、妾よりも強くあってほしいものじゃ」


 九尾はコントローラーをひらひらさせながら得意げに話している。


 俺よりも要領がいいってことか?

 みんなが尊敬している妖怪なだけある。

 多分、ゲームの腕も上手なのだろうが、ここはお手並み拝見だ。


「さあ、狩りへ行くぞ!」


 狩りは勝負ではない。協力だ。

 しかし俺たちの間に流れていたのは勝負の空気だった。





「ただいまなのですー!」

「九尾さん、今帰りまし……た?」


 後ろで凍子の声が聞こえ、さとりの不思議そうな声が聞こえる。


「そのゲームって、協力してプレイするはずですよね?」

「一緒にプレイして、いつの間にか仲良しなのですね。私も一緒にやってみたくなっちゃうのです!」

「ええ、そうね……殺気立っているけれど」


 凍子はあまり気にしていない様子なのが伝わるが、心を見なくても察しのいいさとりはこの殺伐とした空気を感じ取ったようだ。


「お料理してくるので、げえむして待ってて欲しいのですー!」

「げーむよ、それじゃあ私も料理するので」

「ゲームな。お互い間違えてんぞ」


 相変わらずさとりのゲームの発音は惜しい。

 凍子といい九尾といい、英語っぽいのは苦手なのだろうか?


「元、さとりたちと会話するなど、随分余裕そうじゃなあ?」

「まあな、このくらいの幻獣ならこの装備で行けば簡単なんだよ」

「妾はテクニックで余裕じゃがな」


 あ、英語っぽいのしっかり言えてる!

 テクニック、確かにあるな。回避からの攻撃、そして回避がうまい!

 なんなら俺より回避がうまいような気がする。


「確かにうまいな、それにお前のケルベロスだっけ? お前に懐いているから連携がうまい」

「妾は元のそういう素直なところは大好きじゃ」


 ほんの少しドキドキしてしまう。

 その好きはそういう好きじゃないだろ!

 でも人間は単純な生き物なんだよな。


「妾のケルベロスはプレイ当初からの仲じゃ、こいつ以外の犬に妾の背中を任せられぬ」

「お前、仲間思いのいい奴だな。一緒にこいつを狩って、一緒にうまいもん食おうぜ」

「もちろんじゃ!」


 初期の犬はランダムで配属される。

 大きな声では言えなくなったが、俺は初期の犬ではなく、厳選した犬を連れている。

 今では絆も芽生えたかもしれないが、九尾の話を聞いてからは、俺がまるで最低の奴みたいに思える。


 普通は厳選とかするんだと思ってたけど、本来あるべきハンターの姿は九尾のような奴なのかもしれない。


「よし! だいぶ弱ってるな!」

「最後は二人で決めよう、妾が罠を仕掛ける!」

「頼んだ!」

「かかったようじゃな、二人で一緒に行くぞ!」


 二人で武器に力を送り込み、共に最後の一振りを――


 ――――ミッションコンプリート!


「あ」


 思わず間抜けな声が出る。

 隣を見るとコントローラーを握ったまま唖然とする九尾。


「何も、しておらぬぞ?」

「ああ、これな、よくあるんだ、これ」

「なんじゃ! なんなのじゃ?」

「俺たちの相棒がトドメを刺したってこと」


 よくある、長くプレイして相棒が強くなればなるほどよくあること。

 良いところを持っていかれる。

 ありがたいけど、達成感が薄れるんだよな!


「ま、まあ、次は俺たちでトドメを刺そうぜ!」

「はっじめー! そろそろ完成なのです!」

「お二方、ゲームのキリも良さそうですし、座って待っていてください」


 ナイスタイミングではあるが、俺も九尾もなんだかモヤモヤとした微妙な空気感のまま席に着くことにした。


 しばらくすると目の前に皿が置かれる。すごくいい香りだ。


「これは……肉じゃがだな!」

「正解なのです!」

「今日は以前作ったカレーからの派生として肉じゃがにしました。途中まではカレーのように、そこから肉じゃがに持っていきました」

「さすがさとりじゃ」

「ありがとうございます。もし、失敗してもカレーにして軌道修正も考えていました」


 さとりは嬉しそうに話す。九尾に褒められたのが相当嬉しいようだ。

 しかし、失敗することも考えていただなんて、さすがさとりというべきだろう。


「さ、食べるのです!」

「今回は凍子が大部分を作ったんだよな?」

「は、はいなのです……」


 凍子はさとりの方をちらちらとみる。

 さとりはため息をついた後、腕を組み、


「まあ、今回は大部分を作ったと言ってもいいわ。味付け以外は雪女がやったのだし」


 肉じゃがは味付けが重要なのではないだろうか?

 その工程が重要なのでは?

 それを今回さとりがやったということは、これは前回同様さとりの味ということだろう。それはそれで美味しいと安心して食べられるというメリットが発生するからいいのだが。


「ではでは、いただきますのです!」

「「「いただきます!」」」


 凍子の掛け声をきっかけに一斉に食べ始める。

 

「これはうまい!」


 一口、食べた瞬間に美味しいとわかる。母さんのとはまた違った味だがなんだろう、コクがあるというか、まろやかというか、なんだこれ! 美味しすぎる!


「いつもの味じゃ、本当にいつ食べてもさとりの料理は美味しい」

「いつもさとりが料理してるのか?」

「はい、九尾さんはお仕事もありますし、大学終わりに私が作っています」

「さとり、お前、そんなにいい奴だったのか……」

「い、いえ、当たり前です」

「元! 私! 私はどうなのですか!」


 さとりは顔を赤くし、九尾はにこにこし、凍子は慌てているというカオスな食事風景だ。

 

「まー、凍子も最近は頑張ってると思うよ。ありがとな」


 凍子の周りの粒子がきらきらと舞う。そして、凍子の笑顔をより輝かせる。

 そもそも、俺としては凍子はいるだけで癒し効果があるようなマスコットのように思っているから、そこまで頑張りすぎなくても大丈夫だ。

 料理に失敗してよくわからないものを作るのも、俺は見ていて楽しいし、可愛いと思う。


「お互い、良い暮らしをしておるようだな」


 九尾が俺の方をすごく優しい顔をしてみている。


「ああ、やっぱり、今の生活が楽しいよ」


 ある意味、今の生活は俺の望んでいた平和で穏やかな生活なんじゃないだろうか。

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