第15話 お邪魔するのです
今日は九尾とファンタジーハンターで一緒に遊ぶ約束の日だ。
「妖怪とゲームする日が来るなんてなー」
「げえむ? ですか?」
「凍子も知らないのかよ!」
「私の住んでいたところではそのような単語は出てきたことがないのです!」
凍子は雪女だし、住んでいるところはきっと雪山とかだろう。
そう考えると、ゲーム以前に、テレビに異様に食いついていたのも頷ける。
「遊びって言ったらわかるかな、人間の娯楽ってこと」
「なんとなくわかるのです」
「ほら、こんな風にお前の大好きなテレビを使うとゲームができるんだ」
ゲーム機のスイッチを押し、テレビを切り替える。
テレビにはファンタジーハンターの美しい映像が流れる。
「こ、これは、どこで撮った映像なのですか?」
「これは偽物、作られたものだよ」
「世の中に私の知らない動物がこんなにもいるのかと思ってしまったのです!」
「九尾も最初は驚いてたよ」
「あの九尾さんがですか?」
「ああ、まあ、これは人間でもすげえなあって思うグラフィックだから仕方ねえよ」
凍子がいつものごとく、興味津々で見てくる。
「このゲームは幻獣って呼ばれるモンスターを狩っていくゲームなんだ。操作に慣れると初心者にもできるし、凍子も少しやってみるか?」
「私は見てるだけでいいのです! 私たちにとっても、元がゲーム、私が見るほうがきっといいのです!」
意外な返答だった。
いつもならすぐに食いついてくるのに、今日はそういう気分じゃないのか?
「それじゃあ、九尾に電話するかねー」
その瞬間、うちのインターホンが鳴る。
「む、何者なのですか! 元、私が見てくるのです!」
「いや、いいよ、俺が見るよ」
「もしも元の命を狙ってる奴だったらどうするのですか! 私なら倒せます!」
最近、そういうアニメでも見たのだろうか。
「じゃあ、一緒に行こう。俺の命は別に狙われてないと思うけど、それでいいだろ?」
「それでお願いするのです!」
二人で玄関まで行き、ドアののぞき穴からインターホンを鳴らした人物を見る。
「きゅ、九尾?」
「え、九尾さんが来たのですか!」
のぞき穴から見えるのは金髪の美少女、人間に化けた九尾の姿。
その後ろにさとりが立っている。
インターホンがもう一度鳴る。
「確かに、これは九尾さんとさとりの気配なのです! 早く開けてあげるのですー!」
凍子が扉を開けると、やはり、九尾とさとりの二人組だった。
「邪魔するぞ、元」
「お邪魔します、元さん」
順番に部屋に入っていく。
凍子は笑顔で迎え入れている。
「さとり、来てくれたのですね!」
「当たり前でしょう、約束は守るわ」
「え、もしかして」
「ん、どうしたのですか?」
「今日がお二人が約束してた日……なんですか?」
「そうなのです! 九尾さんも一緒なのは驚いたのですが!」
そう、だったのか。
俺は九尾と、凍子はさとりと、それもまさか同じ日に約束をしていたとは。
でも、九尾とはお互いの家で協力プレイするはずだったのでは?
「驚かせてごめんなさい。九尾さんも元さんと約束をしていたみたいだし、せっかくだから一緒に行くことになったの」
「そういうことなのですか! 私は大歓迎なのです!」
ここは、確かに俺の家だよな?
この前もそうだが、最近、この家の権限みたいなものが凍子に移ってどんどん妖怪が集まっている気がする。
「そういうことじゃ元、実際に会ってプレイするほうがやりやすいであろう」
「まー、確かに、そうだけど……」
あれ、この人、来てくれたのはいいんだけど、ゲーム機持ってきているのか?
画面分割で二人でできたっけな?
「九尾、お前、ゲームは持ってきたのか?」
「もちろんじゃ! 手土産と共に持ってきておる!」
九尾は白い紙袋の中から手土産と共にゲームとテレビを出した。
正直、一瞬でよくわからなかったが、なんか時空がゆがんでいたような気がする。
「これはカステラ、そして、げえむ!」
「こんな大きなもの、よくこの紙袋に入ったな」
「妾の力を侮るでない、いろいろと細工してあるのじゃ」
「何でもありだな、九尾……」
「そうなのです、九尾さんはそのくらいなんでもありなお強い方なのです……」
「そうよ、元さん。九尾さんはお強いのよ」
二人そろって言っているあたり、本当にすごい人なんだろうな、九尾は。
でも、俺からすれば、めちゃくちゃ美人なゲーマーってとこだがな。
「元さん、雪女のことちょっと借りますね」
「一緒にお買い物に行ってくるのです! お料理の材料なのです!」
「わかった、気を付けてなー!」
二人が部屋から出ていく。
凍子はすごく楽しそうだし、さとりも笑顔で少し楽しそうだ。
相変わらず仲良しっていうか、二人の楽しそうな姿は癒される。
すると、後ろから九尾が話しかけてきた。
「元、雪女の兄についてわかったことがある」
「まじかよ! ゲームばっかりしてたと思ってたら、九尾、さすがだな!」
「妾もただ遊んでいるだけではないのでな」
さすが強いといわれる妖怪。
まさかこんなに頼りになる存在だったとは、改めて尊敬してしまう。
「兄についてじゃが、やはり今も北のほうにいるようじゃ。そして、兄本人が雪女を送ったのも本当のようじゃな。しかし、兄のもとにいる際に力が暴発したという話もないし、まだまだよくわからぬことが多いがな」
「雪女は元の場所に帰れるんでしょうか?」
「まあ、大体の位置はわかっておる。なぜそんなに焦っておる? 今の生活が不満か?」
「いや、むしろ凍子が来てくれて本当に毎日楽しくて、凍子は可愛くて、最初はどうしようかと思っていたが、今は来てくれてよかったとさえ思ってる」
「ならばよかろう?」
「だからこそ、凍子に苦しい思いはさせたくないんだ。九尾もここに住んでいるならわかるだろ? 夏が来たら凍子が死んでしまうかもしれない、夏が来る前には、何とかしてやりたいと思ってるんだ」
九尾は頷きながら話を聞いてくれた。
俺の住んでいるこの地域の夏は暑い。北に比べると明らかに暑い。
人間でさえ溶けて死んでしまいそうになるのに、雪女である凍子が耐えられるはずもない。
「妾も夏の暑さは大嫌いじゃ。確かに、雪女は妾たちよりも暑さに弱い、心配ではあるな」
「だろ? だから、夏が来る前には、寂しいけど帰ってもらいたいと思ってる」
「しかし、ここからどうやって雪女を……」
九尾は少し悩んだあと、九尾の手はコントローラーに伸びていく。
そのままコントローラーを握りしめると目を開き、こちらを向く。
「よし、元、とりあえず、げえむをするぞ!」
気が付けば俺もコントローラーを握っていた。




