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第13話 げえむなのです

 九尾が暇だというからゲームをおすすめしたら思いのほか九尾が食いついてきて、ゲームを買いに来ているわけだけども、人間に化けた九尾が可愛いすぎていろんなことに集中できない。


「おい、元、歩き方が気持ち悪くて周りから注目を集めておるぞ。どうにかならぬのか」

「そ、そんなに変ですかね? 俺も変かもしれないですけど、注目を集めているのは九尾さんの方かと」

「妾か? 妾はなにもしておらぬ。ただ普通に歩いているだけじゃが?」


 尻尾や耳が出ていないか気にする仕草をする。出ていないと確認し終わると俺をにらみつけてくる。


「おぬし、前はこんなではなかったであろう? 妾の歩幅を気にしてくれるのはありがたいが、妾は九尾、妖怪じゃ。気にするでない」

「いやー、九尾さん。大変申し上げにくいのですがー……」

「なんじゃ?」

「あの、九尾さんが美人だからでは?」


 九尾は突然笑い出し俺の背中をたたいた。


「妾が美しいのは当たり前であろう! そこら辺のものたちとはいろいろなものが違いすぎる。ましてや、人間と比べられても困ってしまうわ」


 九尾はすごく満足そうだ。

 自分で自分を美しいとわかっていても褒められるのはうれしいらしい。


「九尾さんらしいな。見れば見るほど美しいけど、結局九尾さんだもんな、変に緊張しなくてもよかったみたいだ」

「そうじゃ、お前はいつも通りのままでよい。そのほうが一緒にいて楽しい」


 嬉しいことをさらっというな、この人。

 九尾って凍子とかさとりとかと違ってあまり感情を表に出してないように見えるし、俺説いて楽しいのか不安だったが、そういわれると安心する。


「そろそろつくぞ」

「ふふ、わくわくしてきたぞ!」


 きっと今九尾が妖怪の姿だったら、尻尾がまたもふもふ動いていただろう。


「それじゃあ、ゲーム売り場に行くか」

「あー、いつになっても初めての経験というのはわくわくしてしまうものじゃな!」

「お、九尾さんもそんなにわくわくすることなんてあるんですね」

「特に、最近はあまりわくわくすることがなかったのでな、げえむにはとても期待しておる」

「いやー、お気に召すといいんですけどねー」


 ハードル上げすぎたか?

 こんなに楽しみにされていただなんて!

 どのゲームにしようか、これは非常に悩みどころだ。


「と、悩んでいたら、あっという間にゲーム売り場だ」

「これが、げえむか? 今まで気にもせず素通りしていたが、これがげえむ?」


 九尾は一人で売り場の中に行き、見回っている。


「九尾さん、こっち来てください」

「なんじゃ?」

「これがハード、つまり、ゲーム機本体でこれがないとソフトがあっても遊べないんです」

「重要ではないか! しかし、どれがよいのじゃ?」


 その通り、重要なのだ。

 ハードをどれにするのかで、遊べるソフトも変わる。九尾はどういうゲームが好みなんだ?

 さっぱりわからん。予想ができない!


「九尾さん! 九尾さんは、どういうジャンルが好きなんでしょうかね?」

「誰に聞いておる。そうじゃな、そういわれても、げえむなど初めてじゃ。元のおすすめでよい」


 その回答が一番困るんだよなあ。

 迷う、子供向けな感じにしてやろうか?

 でも、馬鹿にするなと怒られる可能性も秘めているし、何歳かはわからないが、大人の中の大人だろうからそんなイージーなゲームでは面白いと思わないんじゃないのか?


「そ、それじゃあ」


 俺は、迷いに迷いぬいた結果、結局自分の最近やって面白いと思うゲームを勧めることにした。


「この、ファンタジーハンターなんてどうだ?」


 緊張の一瞬。

 九尾は裏側の説明をじっくりと見ている。


「ほう、面白そうではないか。西洋風なのもよいな、これにしよう」

「ほ、本当にこれでいいのか! 九尾の好きなものを選んでいいんだぞ⁉」

「突然の呼び捨てじゃな」

「ごめん! 思わず……」

「構わん、今後も九尾と呼べ。お前もこのげえむをやったことがあるのだろう?」

「ああ、やりこんださ」

「では、これからお前はこのげえむに関しては先輩じゃ、対等の立場でよかろう?」


 先輩のはずなのに対等の立場、不思議な感じだが九尾らしい。


「ああ、じゃあ、これを起動するためのハードも買っていくぞ」

「お願いする。妾はよくわからんのでな、元に任せる」


 そういうと、レジまで俺の後ろをついてくる。

 まるで子供だ。

 俺もゲーム買ってもらうとき、昔はこんなだったっけな。


「よーし、買えた! あとは、家でやるだけだ!」

「そうなれば早く帰るぞ! ダッシュじゃ!」

「おいおい、走って帰るのは恥ずかしすぎるだろ! それに、これ、機械だから結構重いんだよ!」

「ほう、では妾がそれを軽―くしてやろう」


 九尾がそっと俺に触れる。

 右手で持っていたゲームの入った袋が突然軽くなる。


「まるで何も持っていないみたいだ」

「手を離すなよ、これはあくまで軽く感じさせているだけじゃ。手を離せば、げえむは地面に当たり前のように落ちてしまう」

「感じさせている?」

「そう、元に妖術をかけ、惑わせているだけじゃ。げえむには何も細工はしておらん」


 やっぱりこいつは妖怪だった。人間の姿はしているが、しっかり妖怪だ。

 妖術とか、狐の妖怪っぽいな。


「って、俺はそんなんかけられて大丈夫なのかよ? 人間だぞ?」

「呪いではない、安心しろ」


 誰だって不安になるだろこれ。

 でも、九尾本人がそういうなら、信じるしかないよな。


 九尾は今までよりも早く歩いて、九尾の店のほうに向かう。

 俺も小走りで九尾の後を追う。


「早くしないと、入れなくなってしまうぞ」

「いやいや、俺が入らないとゲームできないだろ」

「それもそうじゃな、とにかく早くこちらへ来い!」


 九尾は俺の手をつかむと路地の奥へ引っ張っていく。

 これはある意味夢のシチュエーションなのではないだろうか。

 まあ、スムーズに入るために手をつないだだけなんだってことはわかっているのだが。


「よーし、テレビのある奥の部屋に行くぞ!」

「え、俺入っていいのか?」

「おぬしが来なければげえむができぬであろう?」


 まあ、ゲームするのにHDMIケーブルをつないだりいろいろ手順があるからな。

 九尾はそういうことに興味がなかったようだし、わからないだろう。

 さとりが帰ってくるまで待たせるのも可愛そうだしな。

 女子のお部屋に入るのはいつ振りかわからないが、お邪魔させてもらおう。


「お邪魔しまーす」


 予想通りの和風なお部屋。整頓されていて全く散らかっていない。

 こんなにきれいな部屋に住んでるさとりにうちを見られたと思うと恥ずかしい。


「元、早くげえむができる状態にしてほしいのじゃが」

「おう、任せておけ! すぐにできるようになるぞ!」


 俺にとっては慣れた作業だから簡単だった。

 九尾はひもがたくさんあるといってみていたが、どれがどこに挿すかというのは大体わかっていた。


「ほーら、もうできたぞ。そこのスイッチ押したら起動しますから」

「ふうむ、これか?」


 ポチ。

 起動するゲーム機を見て人の姿からあっという間に妖怪の姿に戻る。

 尻尾もふわふわ動いている。


「で、あとはこのコントローラーでソフトを選択して……よし、これでできるぞ!」

「おおお! これは本物か? これは初めて見る動物じゃ!」

「これは本物じゃない。まー、映像がきれいすぎるおかげで超リアルだよなー!」

「うむ! だが、この後どうしたらよいのかわからぬ」

「とりあえず、キャラメイクして、あとはストーリーの通り進めていったら大体操作方法もわかるだろうよ。あとは、好きな武器と好きな装備でガンガン幻獣を狩ればいいんだ」

「よくわからぬが、大体わかった。元、本当にありがとう、いろいろとご迷惑をかけてしまった」

「いやいいんですよ! 俺も九尾と仲良くなれた気がするし、ゲーム仲間も増えたってことで!」


 時計を見るともうそろそろ帰らなければ、凍子が飢え死にしてしまう時間になってしまう。

 もう夕方だもんな。何も言ってないし、今日は遅くなる前に帰ろう。


「それじゃあ、今日はもう帰りますね。あとは適当に遊んでてください! セーブ忘れずに!」

「ありがとう、元。セーブじゃな、よし、では、またいつでもここに来るとよい!」


 九尾に見送られて、今日は帰ることにする。

 九尾、はまってくれると嬉しいな。


 いつもより遅い帰りだが、凍子、怒ってないといいが……





「元! 遅いのです!」

「ごめんごめん、ほら、アイス買ってきたから許してくれ」

「もー、許しちゃうのです! はやく、ご飯なのです!」


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