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第12話 お暇なのです

 昨日のカレーを食べることにする。

 カレーは二日目以降がおいしい。なぜだか知らないが、俺はそう信じているから一日目はあまり多く食べないようにして、二日目以降のカレーの量を増やすようにしている。


「ま、昨日は三人だし、このくらいしか残ってなくて当然だよな」


 やっぱり、昨日の凍子とさとりの会話からも凍子のお兄さんの話題が出ていたし、気になるな。

 凍子に聞いても、顔を赤くして気にするなの一点張りだし……


「今日は大学が終わった後に九尾のところにでも行くかあ」


 九尾のところに行くのはちょっと怖いような気もするが、俺のことを通してくれると約束もしてあるし、妖怪で気になることがあれば妖怪に聞くのが一番だよな。

 それに、九尾はさとりと凍子の話を聞いてもわかる通りいろんなことを知っていそうだし、聞いてみて損はなさそうだな。


「それじゃあ、行ってくるぞ」

「ふわーあ、いってらっしゃいなのですうー」


 凍子は珍しく眠そうだ。

 昨日頑張って料理やらなにやらしたからだろうか。疲れているようだった。


「まあ、料理したことないみたいだし、慣れないことすると疲れるのは人間も妖怪も一緒か」


 料理であそこまで疲れるのはさすがに体力がないとは思うが。






 さて、大学の講義もささっと終わらせて、九尾のところへ向かう。

 さとりはまだ大学ですることがあるらしいし、九尾と二人で話せそうだ。


「えーっと、確か、この路地だったよな?」


 薄暗く、細い道。いかにも怪しい雰囲気だ。

 人間が迷いこむことなんてなかなかないだろうし、迷い込んでもすぐに見つかるようなものじゃない。


「九尾さーん、俺だ、雪女と一緒にいた元っていう人間だ! 開けてくれ!」


 俺の目の前にあった壁から扉が浮き出てくる。

 何度見てもこの光景はドキドキしてしまう。普通に人間として生きていたらあり得ない光景だ。

 扉を開くと目の前にいたのは笑顔の九尾だった。


「よく来たな、人間。ちょうど暇じゃった、本当によいタイミングじゃ!」

「九尾さんも暇になることあるんだな」

「この店に来るのは妖怪のみ、とはいえ、全国の妖怪がここに来るわけではないのでな」


 そりゃそうか。さらにいえば毎日誰かが絶対来るとは限らないだろうし、今日は俺としてもタイミングがいい。

 九尾は奥からお茶を持ってきてくれた。

 気が付けば目の前にテーブルが現れ、そこにお茶が置かれた。

 お茶の良い香りだ。


「九尾さん、実は二人で話したいことがあってきたんだ」

「改まってどうした。まあ、何となく気が付いてはいたが……なんでも聞くとよい」

「凍子の、雪女のお兄さんのことについてなんだが」

「やはりな」


 九尾は少し微笑み、うなずいた。


「雪女の兄のことじゃが、なぜ修行に出したのかは妾もよくわからぬ。じゃが、とにかく妹思いの兄だったことは覚えておる」

「その、お兄さんはどこにいるんだ? 雪女を家に帰してやりたい気持ちもあってさ」

「兄というか、雪女自体、東北のほうに住んでいる。お前の前回の話からするに、クール便で届いたといっておったな? 東北から兄が送ったのであろう」


 そう考えるのが妥当だ。

 東北の出身で土地勘もない雪女がここまで一人で来られるとは思えない。


「しかし、あの兄がなぜそんなことをしたのかが謎じゃな」

「俺も、いろいろ考えて雪女にも聞いたんだが、何も教えてくれなくて」

「妾も気になってさとりに聞いたのだが、修行をしに来たとしか言っていなかった」

「とはいえ、修行らしいことなんてひとつもしてないんですよねえ」

「ふむ、それはおかしいな」


 九尾は少し悩み、俺のことをじーっと見つめた。


「おぬしがさとりと同じように大学へ行っている間に彼女なりに何か修行をしているという可能性はないのか?」


 いわれてみれば、俺が見ていないだけで家の中で一人、修行をしているのかもしれない。

 昨日、さとりが来たと言っていたが、修行の相手になっていたと思えば、今日あんなに眠そうにしていたのも納得がいく。


「確かに、あり得るな」

「妾も少し気になることがある。雪女の兄のもとへ行ってやろう」

「本当ですか! じゃ、じゃあ、何かわかったらお願いします!」

「お前のために行くわけではないのじゃが、約束してやる」


 九尾は俺のほうに歩いてくると向かい側に椅子を置き、目の前に座った。

 近くで見るとよりもふもふで、それでいて神聖な雰囲気が漂っている。


「そんなことより、妾は暇なのじゃ。さとりが帰ってくるまで、暇を共につぶしていけ」


 目の前で九尾に目を見られて言われると、断ることができない。

 というか、断ろうとしても口が動かない。

 俺はうなずき、


「もちろん」


 と、言っていた。

 九尾は微笑み、頬杖をつく。


「それでは、何をする?」

「二人だとできることが限られてくるな、ここにはゲームもなさそうだし」

「げえむ? なんじゃそれは」


 人間界に長くいて好き勝手やってそうなのに、ゲームを知らないのか。

 こいつらに教えるときっとはまりにはまるだろう。


「すっげえ面白い機械のことだよ」

「機械が面白い? 妾はそういった種類の妖怪ではないが」

「まあまあ、一回やってみればはまるって!」

「その、げえむとやらはどこにある? 一刻も早くやってみたいのじゃが」


 九尾の尻尾がふわふわと揺れている。

 きっと楽しみなのだろう。


「九尾さん、人間界で使えるお金は持ってますか?」

「馬鹿にするでない! 持っておるわ!」

「それじゃあそれを、いっぱい持って一緒に買いに行きましょう!」

「すぐに手に入るものなのか?」

「お金さえあれば、あとは、テレビはありますよね?」

「さとりが欲しいと言っていたのでな、持っておる」

「よし、それじゃあ出発だ!」


 九尾は人間の姿に化けるとカバンに財布をいれ、俺の手をつかむ。


「きゅ、九尾さん?」

「何を勘違いしておる。ここを通るためにはこうするのが早い」


 そ、そういえばそうだった。

 お出かけに浮かれていたのは俺の方だった。

 そりゃ健全な男子ならみんな俺のようになってしまうだろう。凍子もさとりも十分可愛い。

 だが、九尾は美人というか、本当に美しい。金髪で色白、美少女のお手本じゃないのか、これ。

 そして、近くにいると優しいいい匂いが漂う。浮かれるつもりはなくとも浮かれてしまう。


「元よ、案内しておくれ」

「は、はい!」


 扉を出ると、ぱっと手が離された。


「なんじゃ、なにか忘れ物でもしたのか?」

「いえ、すこーし、すこーしだけさみしい気持ちになったっていうかなんて言いますかね、気にせず行きましょう」

「人間はようわからぬな。早くいくぞ、売切れなんてしていたら呪ってしまいそうじゃ」


 凍子もそうだが、妖怪はこういう自分の能力を使うジョークが流行っているのだろうか。

 まあ、九尾の目を見る限り、これは本気で言っているようだが。


「それじゃあ、俺についてきてくださいね」

「案内頼むぞ」


 俺たちは、ゲームを手に入れるため外に出かけた。


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