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第10話 お友達なのです

 あれから数日経つが、結局凍子(とうこ)の修行の内容は全く分かっていない。

 それに、凍子の様子はあれから全く変わっていないし、何なら少し楽しそうにしている。


 やっぱり同じ妖怪に会えるってうれしいよな。

 逆に俺が妖怪の世界に行ったとして、人間に会えたら絶対嬉しいもんな。


(はじめ)! 今日も大学なのですか?」

「今日も大学だよ」

「それじゃあ、さとりは元気ですか?」

「たまに会うけど、相変わらずだよ」

「私のことで何か言ってないですか?」

「なんにも言ってないよ」


 凍子はいつになくそわそわしている。


「会いたいのか?」

「別に! なのです! ただすこーし気になっただけなのです!」

「そうか、大学であったら伝えておくよ」


 こっちに来てからできた妖怪友達って感じなのか?

 まあ、さとりは悪い奴ではないし、お互いにないものを持っていて案外ナイスコンビなのかもしれない。


「それじゃあ、大学に行ってくるから、今日も留守番頼むぞー!」

「任せてくださいなのです!」


 今日はさとりと一緒に受ける授業もあるし、凍子の話でもしようか。


 コンビニ寄るとサンドイッチと目が合った。


「いつもはおにぎりだが、今日はサンドイッチにしてみるか」


 おにぎりよりも高くつくが、何となくサンドイッチの気分だった。

 最近はサンドイッチの種類も増えていて、どれがいいのか正直わからないな。


「私のおすすめを教えましょうか?」

「さ、さとり!」


 後ろから話しかけてきたのはサンドイッチを持ったさとりだった。


「最近は本当にいろいろなサンドイッチがありますよね。オーソドックスなものからデザート感覚のものまで」

「お、おう、そうだな」

「私はデザート感覚のものは買ったことがないので味はわかりませんが、美味しいらしいですよ。ちなみに今私がはまっているのはこの悶絶たまごサンドです」


 なんだその恐ろしいたまごサンド。

 さとりは好きなことになるとよくしゃべるタイプだったのも意外だ。


「恐ろしくはありません。すごくおいしいです、美味しすぎて悶え苦しみますよ」

「サンドイッチ上級者じゃないと手を出せなくないか? それ?」


 コンビニを後にして大学へ向かう。


「そういえば、凍子がお前のこと気にしてたぞ」

「そうですか、私はあまり気にしていませんでしたが、予定を教えたはずなんですが」

「ああ、あの時か」

「はい、思い出しても疲れてきますね、毎日雪女と一緒にいて大変では?」

「元気もらえるよ。家に帰ったときにいつも張り切っておかえりなのですって言ってくれるんだよ。それは可愛いし、元気がもらえるかな」

「そういうものですか」


 そういうものだ。

 一人暮らしは気楽だが少し寂しい。

 そういう時に凍子がいてくれて、何度も元気をもらった。

 だが、毎晩風呂が冷たいのと、アニメで興奮しすぎてコップやらを凍らしてしまうのには俺も困っているが。


「おーい! はじめー!」


 これまた、聞き覚えのある声だ。大学でたまに聞く声。


「ああ、智則(とものり)か」

「よう元! って、隣にいるのはさとりちゃん!」


 さとりはほんの少し険しい顔をしたのちに軽い会釈をした。


「おいおい、元、なんでお前の隣にさとりちゃんがいるんだよ!」

「いろいろあってな、今はおしゃべりする仲って感じかな」

「ずるすぎる!」

「元さん、早く席につきましょう」


 さとりに催促され席に座る。

 大学でのさとりはずいぶんおとなしいというか、やっぱ九尾のところであった時とは違うな。


 講義が始まるとさとりが小さな声で話しかけてきた。


「私、あなたの友人とはいえあの人少し苦手です」

「智則か? 悪い奴じゃないぞ」

「それはわかっていますが……雑念が多すぎると思います」

「あー、それは、俺でもわかるよ」


 智則は講義が始まって間もないというのにもう寝ていた。

 幸せそうなやつだ。


「特にお前みたいな美人と話すときは雑念が多くなると思うし、許してやってくれ」

「わ、私は美人ではないですよ、元さん、そう思っていたんですか」


 さとりが動揺している姿はとても珍しい。

 少し俯いて小さな声で話している。


「初めて会った時からそう思ってるよ」

「か、からかうのはやめてください、と言いたいところですが、本心のようですね」


 少しため息を漏らしこちらをにらみつけてくる。

 俺、なんか悪いこといった?

 本心だし、喜ぶべきことじゃないか?


「ありがとうございます、元さん」

「良かった、怒ってるのかと思ったぞ」


 にらみながらもお礼を言われた。

 こういうところもさとりのいいところだと思う。


 さとりはまた俯いてしまった。


「あら、もう授業時間終わりなのお? 続きはまた来週ね、それじゃあ今回も感想とお名前忘れないようにねー!」


 教授の声が響く。大半の者がこの声とともに起きる。


「じゃあな、智則。俺たち、次の授業に行くからさ」

「おー、また今度なー」


 まだ眠たそうに俺たちを見送る。


「稲葉さんはあの状態のほうが良いように思いますが」

「お前にとってはあのくらいのテンションのほうが合うかもな」

「そうだ、元さん。今日は用事があるのでここでお先に失礼しますね」

「珍しいな、お前にも友達がついに出来たのか?」

「まあ、そんなところです。それでは」


 いつものように軽い会釈をして校門から出ていく。

 ついにさとりにも友達ができたのか、本当に良かった。

 俺は友達が少ない方だが、いないわけじゃない。やっぱり友達とくだらない話をしているときなんか結構楽しいんだよな。


 次の講義を一人で受け、さっさと帰ることだけを考える。

 凍子は今頃どうしているだろうか。

 今日の夕飯は何にしようか。


「あー、俺の母さんもこんな気分だったのか?」


 いろいろ考えていると講義はあっという間に終わる。

 しかし、内容は全く入ってきていない。


「よし、早く帰るぞ!」


 やっと家に帰れる。

 いつもはこの授業にさとりもいるおかげで楽しく授業を受けることができている。

 とはいえ、あまり話したりはしないが。


 授業中、時たまさとりの面白い一面が見える。

 例えば、意外と絵がへたくそだったり。

 あのとき、心の中でへたくそだって思っただけなのに、さとりに見られてしまいとても怒られたのはいい思い出だな。


「ただいまー、凍子―、無事かー?」


 ドアを開けるがいつものように凍子が飛び出してこない。


「あ、元! もう帰ってきちゃったのですか!」

「もう帰ってきちゃったってどういうことだよ、いつもはあんなに早く帰って来いって言ってたのに……」


 俺の目の前に凍子が二人いた。

 いや、凍子じゃないな。凍子ともう一人、さっき見た女の子がいるじゃないか。


「さとり? なんでお前がここにいるんだ?」

「おかえりなさい、元さん」


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