第2話 王宮入り
俺はふかふかの羽毛のイスに座りながら王国兵士長と会話をしていた。この世界がいかに魔物に支配されているか、ヒロキス召喚は10年もの長い歳月を掛けた国の運命を左右する博打だったということ。召喚に必要な神具を集め、国中の叡智を集め、数多の生贄の魂をささげ多くの命が失われたということ。
元々英霊王伝説は召喚では無く、国に生まれた子供が立派に成長して王国を救った話だったのだが、面白おかしく脚色されて、半分本当・半分嘘の話であると知られていた。魔物に領地を奪われ民の命を失って焦った国民たちは救いの手段として英霊召喚の話にすがった。狂信者が国中の人を説得し、召喚方法も自ら発明し、異世界の生物を何度もトライアンドエラーで召喚して技術を磨いてきた。しかし失敗するたびに天変地異が起き、巨大な落雷が城に直撃したり、火山が大噴火を起こして村が全滅したり、1ヶ月太陽が沈んだままといった奇怪な事態が起きることもあった。
城壁外の魔物の勢力がどんどん増す中、国の力はどんどん弱っていき、ここまで来ると今更召喚を諦めることは出来なくなった。多大な犠牲を出しながらも邁進していき、苦難の果にファナフィスブルグの”魔物”を召喚する。誤って召喚された魔物に死屍累々の大惨劇が起こり、多くの兵士の命が失われた。墓を作る余力すら残っておらず亡骸は今もそこら中に放置されているそうだ。しかし召喚が現実味を帯びてきたため、最後の賭けで国中の富を集中させて奇跡的に今回の召喚に成功することが出来たということだ。
なんだか大変な話を聞かされたがイマイチ現実味がない。本当の話なのか? まあそんなことより国の財宝と美女が最優先だ。そのために召喚に応じたのだからな。早くゲームで見るようなカッコイイ装備を付けてみたい! コスプレとは違って本物はやっぱり迫力が凄いんだろうな。ケルファスの肉体だから装備が重くても問題ないはずだ。この国を支配してみるのも面白いかもしれない、とにかくワクワクが止まらないぜ!
「ヒロキス様、馬車が城に到着しました。まずはシャングリラ王国の現状をお見せしたいと思います」
お、ようやく着いたか。ふー馬車はちょっと揺れるから車と違って尻が痺れるな。俺は伸びをしてからゆっくり馬車を降りる。そして目の前の城に目を向けた。
「ん……?」
何だ……? この景色は……? 城……のようなものが見える。ああ、城だ。大きな城だが左半分が崩れ落ちて……いや、そこは城じゃないな。崖だ。ん……? 城と崖……? なにかおかしいが、おかしくないか。
遠くに赤く染まった人の山のようなものが見える。……いや、気のせいか。瞬きしたら綺麗な芝生だけが写っていた。一瞬まるで死体の山のようなものが辺り一面に見えた気がしたが、気のせいだった。
「ごらんの有様です……」
王国兵士長は悲しそうな顔をしているが、俺はなんで悲しそうにするのか理解できなかった。それよりもこれからは俺がこの城を支配して極楽三昧の限りを尽くして異世界生活を満喫するぞ! と心の中で決意していた。
「まずは宝物庫に行かせてもらおうかな」
「……畏まりました、宝物庫は地下にございます。共に行きましょう」
中に入ると、そこには目にも眩しい黄金が所狭しと広がっていた。この世界の通貨は知らないが、恐らくこの国が世界中で最も強く、最も財力に富んだ国家であると推測できる程の量であった。金貨の大山の中には歴戦の勇者が世界中で掻き集めてきただろう装備品が到るところに散らばっている。
「本当に自由に使ってもいいのか? これだけのものを」
「今は国家が滅亡の危機に瀕している状態です。このまま国が滅んだら数千年にも及ぶシャングリラ王国の歴史が潰えます。それどころか人類滅亡のきっかけにすらなりかねない。この国は世界中で最も知識が集まり、最も強者が集い、最も娯楽が発達した国です。世界中に国は数多くあれど、ここより強い国はない。それほどまでに魔物の勢力は凄まじいのです。この部屋のすべての物を貴方様に捧げましょう。どうかこの国を救ってください」
俺は部屋を散策して物色していると、1本の光り輝く剣を見つけた。刀身を見ると緑と青のガラス細工のような波動が互いに絡まって融合したオーラが剣に纏わりついている。
手に持ってみると、とても軽くて手に馴染む。一振りするたびに何でも切れそうな暴風音がする。もしかしたら魔法剣かもしれない。
よし、これに決めた。さっそく試し切りしてこよう
「王国兵士長、魔物はどこにいる?」
「城壁の外ならどこにでもいます。我々を救う英霊王様にご加護あれ」
俺は一目散に城壁の外へ向かいながら、初めての戦闘に期待と不安で胸がいっぱいだった。