表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

第1話 転移

 俺こと長嶺弘樹は普通の高校生でごく平凡な日常生活を送っていた。両親は海外出張しているため、都内で一人暮らしをしている。


「あー……何か退屈だな。面白いことないかな?」


 すると突然自身の周囲の視界が波打つようにうねりだした。ゲームの転移エフェクトのように斜めに高速に回転しながら時空が歪んでいった。

 そしておっさんの渋い声がサラウンドに響き渡った。


「我々を地獄から掬い上げる異世界の真の英霊よ、我の召喚に応じたまえ」

「いや、お前誰だよ」

「我は魔導を極めし大魔導師マジェスなり。そなたの為に金品財宝美女を用意した、どうか我々を救いたまえ」

「うーん、まあ暇だしいいよ」


 すると周囲の視界が白く輝き出し、地響きのような轟音と振動が全身を覆っていった。


「まぶしっ――」





「うおおおおおおおおおお!!!!!!! 英霊様だああああああああ」

「うわああああああああ!!!! 苦節10年、本当に召喚できるなんて……」

「なんと麗しい姿、まさしくファナフィスブルグの最強英霊王、これでこの世界は救われるのね……」


 俺の眼前には涙を流し喜ぶ者、抱き合って今までの苦悩を吐露する者、土下座して念仏を唱える者など、100名以上が俺のいる台座の周囲にひしめいていた。


 正直唖然としたが冷静に状況を考えるに異世界転移されたようだ。この周りにいる人々は一体……? あまりにも場が騒然としている。よく分からないが結構やばい状況じゃないか? こんな大勢に注目された経験はない。気を引き締める必要がある。


「召喚に応じていただき誠に感謝御礼申し上げます、私がマジェスです。英霊様に来ていただいたのは我がシャングリラ王国が魔物に侵攻され国家が存亡の危機に瀕しているためです。国土の5割を奪われ人口の3割というあまりにも多くの命が奪われました」

「それは可哀想だね、まあそれはいいとして金品財宝美女はどこだ?」

「ぐぬっ……。英霊様にはたっぷりの褒賞を用意しております故、王宮に来ていただければ。ゴールドやマジックアイテム、王家伝承の名刀、完全防御耐性のフルプレート等がご用意させてます。今配下に宝物庫を自由に利用できるように手配しました」

「おおっいいじゃないか、美女ってのはどんな感じだ?」

「それに関してですが……、英霊様のお好みが我々には分からない為王国の中から自由に選べるシステムとなっております。英霊様に選ばれた女性は拒まないように国王命令を出しております。王国を救ってくれる英霊様に我々は全力の支援をさせていただきます」


 ほほう、ほほう、なかなか良いではないか。だが何でここまでしてくれるんだ? 何か裏があるのではないか?


「俺はちきゅ……ファナフィスブルグという所から来た最強英霊王だ。……名前はヒロキスと言う」

「えっヒロキス……?」


 辺り一帯がざわつき始めた。


「伝説の英霊王様の名前はドグワーツの筈では……これは一体」

「っ……それは私のファミリーネームだ。ヒロキス・フォン・ドグワーツが私のフルネームである」

「ああ! そうだったのですね。後で古文書に追記しておく必要がありそうだ」


 なんとか誤魔化せたようだ。今後俺はヒロキスとして生きなければいけなくなった。ファナフィスブルグってどこだろう……。まぁ誤魔化せばいいか。


 あれ? そういえば何でみんな俺にこんなに敬服してるんだ? 冷静に考えたら俺に英霊王の風格がある訳が無い。そこで自分の姿を見て気づく。


「この姿どこかで……。はっ、これは俺の部屋のフィギュア、『チートで全世界支配してみた』の主人公ケルファスの肉体じゃないか。10人美女のハーレムフィギュアセットの中央に座してるめちゃくちゃムキムキでイケメンのキャラだ」

「よく分からないが転移ミスで魂と肉体の融合を間違えてしまったのだろう。恐らく英霊たる肉体フィギュアを探し、その一番近くにいた俺の魂を誤認してしまったのだろうな。肉体のサイズは異世界ということで物理法則も違うだろうしマジェスが補正を掛けたのだろう」

「? 一体何を仰っているのですか?」

「いや、こっちの話だ」


 とりあえず大体の事態は把握した。王宮に行って見返りの品やハーレムを築こう、それから考えるべきだ。


「王宮に行きたいのだが……どちらに行けば良いのかな?」

「ヒロキス様、ここは幸運の丘と呼ばれる所でして、王宮は南に10km程離れております。馬車をご用意させていただいております故、20人程の兵士を護衛につかせます。馬車の中でごゆっくりお寛ぎください。」

「うむ、わかったぞ」


 と、ここで気づいたが馬車籠の入り口が非常に高い所にある。どうやって乗るんだ……。まさか馬車籠に乗れない英雄はいないだろう。冷や汗が出てきた。

 まず全身に力を込めてどのぐらいの力が掛けられるかを知る。筋肉がバキバキと盛り上がるのを感じる。乗るためにはバネのような跳躍力が重要だろう、地面に思い切り足を叩き込み、一瞬で力を反転させ相殺させて跳ねる。そうすることで自然な歩行を演出しながら己の跳躍力を把握できる。一瞬不自然な動きになったがこれで自信が付いた。これは間違いなくケルファスの肉体だ。凄まじいパワーがある。目の前に籠が近づいてきた。

 俺は一切の予備動作無しに飛び立つと空を蹴りながら、まるでスキップでもする感覚で1m70cm程の籠底を悠々と超えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ