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火防女008 アレン5

その後の日々はただただ空虚だった。

月に一度くる商人に師匠の死を伝え、これからは自分がここの責任者だと説明する。

商人は疑いもせずそれを了承し、いつもと変わらない物資を置いて去っていく。

商人からすれば商売相手が師匠から僕に変わっただけだ

なにも変わらないのだ、師匠や僕がなにをして、なにをされたかなんて世界にとってはどうでもいいのだ。

そう思うとお役目なんてどうでもよくなってきた。


そんなある日、師匠の死を聞いてきたという集団が教会を訪れた。

先頭に立つぶ厚いコートを着込んだ少し小太りな男が苛立たしげに僕に言う


「全く、ひどい吹雪だ。

おい平民、私たちを火喰鳥の元へ連れて行け」


小太りの男はどうやら貴族のようだ。

人を平民と呼ぶのは貴族だけだと師匠も言っていた。

小太りの男が引き連れてきた男たちを見ると

皆つぎはぎだらけの防寒着を身にまとい、剣や斧、弓や杖を持っていた。

おそらく傭兵だろう。

一人だけ小太りの男と同じ綺麗なコートを着た女がいた。

その女だけ他の男共とは違う何かを感じた、ジッと目を凝らすと女の周りに赤い靄のようなものが見えた。


「(魔力・・・・色からみて火の属性か)」


僕が女を注視していると、無視されたと思った小太りの男が僕を殴りつける。

頬を叩かれ女から視線が外れる、叩かれた頬を抑えながら小太りの男のほうを向く


「平民風情が私を無視か!?いいからさっさと案内しろ!!これは命令だ!!!」


「我が主人であるリークイド家から許可は得ていますか?あの場へご案内するにはリークイド家当主と王か継承権を持つ王族3人の許可が必要になっています。」


「っぐ・・・。」


ちゃんと許可を得ての行動なのかと小太りの男に問いかけると、男は痛いところをつかれたと押し黙る。

やはり無許可だったようだ。

それもそのはず、火喰鳥は勇者が現れるまでは不要な接触は禁じられているはずだ。

勇者も現れていないのに許可がおりるはずもない。


「ええい!うるさい!!生意気な平民め!!おい!お前たち!!こいつを締め上げて場所を吐かせろ!!」


小太りの男は後ろに控えてた傭兵たちにそう命じると、傭兵たちは気だるげにこちらに向かって歩いてくる


「兄ちゃん、悪いことは言わねぇさっさと案内しな。

その綺麗な顔が二度と見れない顔になっちまう前にな。」


僕の鼻先に剣を突きつけた無精髭の男がニタニタと笑いながら脅してくる。

僕の周りを5人の男が取り囲み、無精髭の男と同じような顔でこちらを嘲笑している。

僕は無精髭の男をじっと睨みつけながら問いかける


「武器を向けるということは覚悟はお有りということですね」


「あ?なに言って・・・・」


答える無精髭の言葉を最期まで聞かず、腰から抜き取ったナイフを無精髭の喉に突き刺す。

ゴポッと無精髭の口から血が溢れその場に倒れこむ

周りの傭兵たちは突然の行動に呆気にとられ初動が遅れる。

僕は倒れた無精髭を踏みつけ包囲の輪から抜け出す。

そのまま真っ直ぐに小太りの男へ駆け寄り、左手で小太りの男の腕をとり拘束する。

空いた右手には腰のポーチから抜き出した細い針を握り小太りの男に突きつける。


「全員動かないでください、この針にはバジリスクの石化の毒が塗りつけてあります。突き刺せば生きたまま石化し、永遠に石の中に閉じ込められることになります。」


ようやく動き出した傭兵たちを人質を使って牽制する。

背後をとられないため、小太りの男を引きずりながら壁に背をつける


「き、貴様・・・・こんなことしてただで済むと思うな」


突きつけられた毒針によって顔が真っ青になっている小太りの男が恨み言を吐く


「本来この場にあなた方がいるほうが問題でしょう。無許可でここに訪れる者は誰であろうと罰せられることになっています。」


このことをリークイド家、または王族に報告すれば

僕とあなた、どちらが罰せられるんでしょうねと笑いながら問いかけると小太りの男は大粒の汗をかいて苦悶の表情で俯く


その時、パチパチパチと場違いなほど軽い拍手が聞こえてきた

音の方を見ると先程の魔力を身にまとっていた女が拍手をしていた。


「坊や強いのねえ、お姉さんびっくりしたわ」


赤い髪を帽子の中にまとめ、狐のエリマキを首に巻いた女が

真っ赤な唇を歪めながらこちらに笑いかける。


「そのおじさんが乱暴な真似してごめんなさいね、もう手荒な真似はさせないから彼を離してもらえないかしら」


女が手をあげると傭兵たちは各々の武器をしまい始める。

傭兵たちから敵意がなくなったのを確認し、僕は小太りの男を解放する。

小太りの男は床を這いずりながら女の足元へ駆けていく


「こ、殺せ!!この小僧を殺せ!!!」


小太りの男が顔を真っ赤にして傭兵たちに怒鳴り散らすが

傭兵たちは誰も動こうとせずじっと赤い髪の女を見つめていた。


「ソコナイ、それは私の命令に刃向かうってことでいいのかしら」


赤い髪の女が小太りの男・・・・ソコナイと呼ばれた男を睨みつける。


「い、いえ・・・・そ、そのようなことは・・・・。」


先程まで真っ赤だった顔が瞬時に青く染まる

赤くなったり青くなったり忙しい男だ。

どうやら赤い髪の女はソコナイよりも格上の貴族らしい


「ならあなたはもう黙っていなさい。」


「は、はい・・・。」


ピシャリとソコナイを黙らせた赤い髪の女がこちらを振り向く


「ごめんなさいね、私の名前はジーナ・フォーコ・グエーラ よろしくね坊や」


ジーナと名乗った赤い髪の女はこちらへ手を差し出す

握手を求められているとわかっていてもその手を取ることはできない


「グエーラ家・・・・確かフォーコ派閥の大貴族でしたね。

アックア派閥である我が主人とは敵対関係にある家ですね。」


「ッチ・・・・知ってたのね。」


貴族には大きく分けて4つの派閥がある。

《フォーコ》《アックア》《スオーロ》《ヴェント》

4つの派閥はそれぞれ基本属性である火・水・土・風が得意な貴族達によって構成されている。

僕の主人であるリークイド家はアックア派閥に所属しており

ジーナのグエーラ家はフォーコ派閥に所属している。

昔からフォーコとアックアは仲が悪く、過去何度も武力衝突を繰り返していた。

フォーコ派閥に所属しているジーナの頼みをわざわざ聞いてやる義理は僕にはない。


「先程もいいましたが、許可なくご案内することは禁じられています。

今日のことは僕の胸の中に秘めておきますので、お引き取りください。」


「ダメよ、私たちは火喰鳥がどうしても必要なの」


助け舟を出したつもりだったが、ジーナに一も二もなく却下されてしまう。

それにこの女、今なんと言った。

火喰鳥が必要・・・・?言っている意味がわからなかった。

あれを手中に収めようとしているのか、あんなものが制御できるのか?

内心混乱している僕に対してジーナは渋面で話を続ける


「最近魔種族のほうで大規模な群れの移動が確認されたわ。

それも一つの種族だけじゃない、数十の魔種族が人間領に向かって大移動をはじめたの」


思わず驚愕が表情に出てしまう

ここ数十年動きのなかった魔種族の大規模な行軍

それが意味していることは一つだけだった。


「このままでは魔種族との大規模な戦争が始まるわ

それも最悪のタイミングでね。」


ゴクリと誰かの喉が鳴る音が部屋中に響く



貴族の名前は

【名前】・【派閥名】・【家名】

になっています。


平民は名前だけです。

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