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火防女006 アレン3

しばらく過去編

孤児だった僕は幼いころにリークイド家に拾われ先代である師匠の元に連れてこられた。

それから毎日、様々な教育を師匠から受けた。

一般教養、武術、魔術、歴史、科学、果ては魔種の生物学までも叩き込まれた。

師匠はとても厳しい人だった、大の大人でも耐えられないような過酷な鍛錬が毎日続いた。

それを血反吐を吐きながら必死に耐えた。

ここを追い出されたくない、元の路上生活に戻りたくないと兎に角必死だった。



僕が15歳になった日、師匠は僕に見せたいものがあると言った。

猛吹雪が吹き荒れる中、黙々と師匠のあとについていくと

氷山をくりぬいたような洞窟にたどり着いた。

360度すべてが氷でできた洞窟はこの世のものとも思えないほど美しかった、師匠は誕生日プレゼントにここを見せてくれたのかと少し浮かれたが、そんな妄想は一瞬で打ち砕かれた。

洞窟の最奥部に辿りつくと、そこには氷漬けになった巨大な魔獣が封じられていた。


全長は5mほどだろうか、全身は赤い羽毛に包まれ、大きな翼は畳まれ、地面につけまるで獣のように四つ足で直立している。

長い首はあらゆるものを見逃すまいと高く真っ直ぐに伸びている。

大きな嘴の下には真っ赤なトサカが生えており、面長な顔には大きな穴がひとつぽっかりと空いている。

おそらくあそこが目なのだろう、しかし眼球は抉り出され、空虚な穴からは暗く深い闇が覗いていた。


深い闇のような眼孔が僕を睨んでいるように見えた。

あまりの恐怖にどんどんと呼吸が浅くなる

ハッハッハッと短く浅い呼吸を繰り返すたびに胸が苦しくなっていく

しかし僕はそれから目を離すことができなかった

目を離した瞬間、分厚い氷の中からあの魔獣が飛び出してくるんじゃないかと思うとどうしても目が離せない


不意に視界を誰かに塞がれた

分厚くゴツゴツした師匠の手が僕の目を塞いでいる


「落ち着け、あれはなにもできやしない」


低くしわがれた師匠の声を聞いて落ち着きを取り戻していく


「アレは火喰鳥、400年前氷の聖女ネーヴェ様によって封じられた魔獣。

儂達の雇い主であるリークイド家はこの火喰鳥の守護をネーヴェ様から命じられている。」


「ひ・・・・ヒクイドリ?」


「今日までは儂が守護のお役目を仰せつかっていた。

そして今日からはアレン、お前がお役目を引き継ぐのだ」


師匠が僕の両肩を掴みジッと目を合わせてくる

無理だ・・・・無理だ、あれを・・・・・あんなものを僕が守る?

逃げ出したい気持ちが僕を満たすが、肩を掴む師匠がそれを許してはくれなかった。


「アレン、火喰鳥は今こうして氷に封じられているが

これは永遠のものではないのだ」


ビクリと肩が震える、それはつまりいつかはこの化け物が解き放たれるということじゃないか。

顔を青ざめさせた僕が師匠を見上げる


「この氷の封印には聖女様の魔力が込められている、それが続く限りは封印は保たれる

しかしその魔力は無限ではない、火喰鳥を抑えるため日々消耗されている。」


氷の表面には薄っすらと青い光で無数の魔法陣が輝いていた

あれが聖女様が施された封印なのだろうか

今にも消えそうな弱々しい魔法陣に不安が募る


「封印を施される時、聖女様はこう仰った

『この封印は外からの衝撃に弱い

だからいつか勇者が現れるまで封印を守ってほしい』っと」


()()

龍神教の最高権力者である教皇様がいつか世界に現れると予言された

龍神様に選ばれた特別な人間、世界の救世主


聖女様は自分では倒せないと悟り、火喰鳥をいつか現れるだろう勇者に託すため命を賭して氷の封印を施したらしい。


「いつか勇者が現れるまで、この封印を守り続けることが儂達の使命なのだ。」


師匠の師匠もそのまた師匠も、400年間ずっと続いてきたお役目

その末端に自分が列席することになると師匠は言っている。


「誇れ、アレン。これは世界を守るお役目なのだ。」


力強い師匠の視線と低く激励する言葉に心が動かされた


「わ、かりました・・・・そのお役目・・・・・お受けいたします。」


たどたどしく答えると師匠はニッコリと笑い僕の頭を撫でる

そのまま僕の手をとり踵を返し洞窟から出て行く。

最後にチラリと火喰鳥を振り返る、氷に閉じ込められた火喰鳥の暗い眼孔は変わらず僕を睨みつけているようだった。


その日の晩は珍しく新鮮な肉を使った豪華なものだった。

上機嫌な師匠は滅多に飲まないお酒を飲み、15になり成人した僕にもお酒を勧めてくる。


「こうして息子と酒を飲み交わすのが夢だった・・・。」


酒気を纏い、顔を赤らめた師匠がそう呟く

初めて息子と呼ばれたことが嬉しく、僕の頬も真っ赤になる。

その日は夜遅くまで師匠と飲み交わし色々な話をした。

師匠の師匠のこと、僕が来る前の生活、僕が来てからの生活

いつも寡黙な師匠からは考えられないほど沢山の話をした。

この氷山にきてからの十数年で一番楽しい日だった。



気がつくと僕は食堂の机に突っ伏して眠っていた。

あのまま酒を飲み続けて酔いつぶれたらしい。

はじめての二日酔いに顔をしかめながら周りを見渡すが師匠の姿がなかった。

外を見るとすでに陽が昇っていた、日課の礼拝をしているのだと思い僕も礼拝堂に向かう。


礼拝堂への扉を開けるとソレが目に入る


「え?」












そこには龍神様の像の前でかすかに揺れ動く

()()()()()()()()()()()()()がいた。




「どうして・・・。」


師匠を見上げながらその場にへたりこみポツリとこぼす

昨晩嬉しそうに、楽しそうに自分と過ごした師匠は

物言わぬ死体となりブラブラと揺れていた。

どうして、なんで、誰が、助けないと、もう死んでる、いつ?、どうして、なんで、師匠、僕は、師匠、なんで、どうして。

頭の中で色々な考えがグルグルと回る、思考がまとまらないまま感情が爆発しその場で獣のように咆哮する。

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