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火防女005 エル3

怖い、怖い、怖い、怖い


先程まで優しく微笑みこちらを見つめていた視線とは打って変わって

今のアレンさんは私を射殺さんばかりに睨みつけている。


怖い、怖い、怖い、怖い


寒さで震えるのとは全く違う悪寒が全身を巡りガタガタと震えてしまう

怒っている、アレンさんは今までにないほど私に対して怒っている。

いや、あれはもう怒りなんか通りこしている


殺意


私は今アレンさんに殺意を向けられている。


怖い、怖い、怖い、こわい


目尻にジワリと涙が浮かぶ

あの吹雪の中に放りだされたように全身が冷えて固まって動かなくなる。

死ぬ、私はここで死ぬのだと否が応にも直感してしまう。


こわい、こわい、こわい、こわい


「はぁ・・・・。」


アレンさんがため息をひとつ吐く

私はそれに過剰なほど反応して体が飛び跳ねる


「君のような子供があんなものを求めるんじゃない」


私から視線を逸らし、力なくアレンさんが呟く

その目には先程まであった殺意はなく失意に満ちていた

アレンさんはそのまま黙って部屋から出て行ってしまった。


バタンと扉が閉じるとガチガチに強張っていた体から力が抜ける

思わずパン粥をこぼしそうになる、慌てて持ち直してベッド横の机へと置く。

パン粥を持っていた手が震えている、手だけじゃない私の全身がカタカタと小刻みに震えている。

あれが殺気、人を殺す感情…


一人で旅をするうちに死にかけたことは何度もあった。

それでもなんとかなると、どれだけ小さくとも希望はあると思えたものばかりだった。

だけどさっきのアレンさんは違う

生きることを許さない、死以外の道は全て断ち切る

一切の希望がなく、生きることを諦めさせるような鋭い殺意だった。


ギュッと自分の体を抱きしめる

止めどない恐怖に体の震えが止まらない

ガチガチと歯の根が合わない、両目からは止めどなく涙が流れ落ちる。

少しでも安心したいと、自己防衛から毛布を頭から被りベッドの上で丸まる。

暗闇の中に篭ると少しホッとした、目を閉じ何も考えずただただ泣き続けた。

どのくらい泣いただろうか、毛布の中から抜け出し鼻をすする。

たくさん泣いたおかげで気分を持ち直せた。


アレンさんにちゃんと私のことを話そう

また怒らせてしまうかもしれないけど、私にも引けない理由がある。

そう思いベッドから立ち上がろうとした時、懐かしい男の声がどこからか聞こえてきた。


『随分こっ酷くやられたもんだな』


ケラケラと笑う声が部屋中に響き渡る


「セン!?センなの!?今までどこに行ってたの!?」


私が部屋の中を見回すと近くの壁からソレはヌッとすり抜けて現れた

まん丸と肥大化した頭、それに繋がるように伸びる蛇のような胴体、頭の大きさに比べるとやけに小さく頼りない手足、そんな小さな手でとても綺麗な橙色の水晶を大事そうに抱えている。

出っ張った大きな目は眠たげに半分閉じられ私を見つめている。

一言で言えば醜悪な蛇、それが私があの時契約したセンティメント……通称センだった。


『少し様子を見させてもらっていた。

あの男随分と猫を被るのがうまいらしい』


ケタケタとアレンさんが出て行った方向を見て笑うセン。


「目が覚めたらセンがいなくてとっても心配してたのよ!吹雪の中逸れちゃったのかと思ってすっごく心配したんだから!!」


私がどんなに心配したと思っているのか

それでもなおケタケタと笑っているセンに腹が立ち思わず枕を投げつける。

枕は真っ直ぐにセンへと飛んでいき

センをすり抜けて床に落ちる


『無理無理、我には当たらんよ』


楽しそうにニヤニヤと下品を笑みを浮かべるセンにますます腹が立った。


「なによ!気取っちゃって!

エルゥ〜死なないで〜ってビービー泣いてたくせに

カッコつけちゃって!!」


私が泣き真似をしながらそういうと

センの眠たげな目が一気に見開き顔が真っ赤になる


『な、な、な、なな!!なにを言うか!!

我がそんなこというものか!!それに泣いてもいない!!』


「あらごめんなさい、間違えたわ。

無視しないでよぉ〜エルゥ〜って言って泣いてたのよね。」


『ぬ、ぬがああああ!!違う!違う!!そんなことない!!

そんなこと言ってないし泣いてもいないのだ!!』


両手で抱えている水晶をブンブンと振り回しながらセンは否定する

あの時のセンの情けない声と鼻をすする音を

一生忘れてやるものか。


『ぐぬぬ、少し前はもう少し礼節を弁えた小娘だったものを……』


「お生憎様、誰かさんのせいですっかり抜け切りました。」


ぐぬぬとお互いがお互いを睨み合っていると

突然センが私の胸に頭突きをしてくる

綺麗に鳩尾に入った頭突きに一瞬息が詰まる


「げ、ゲホッ!!ちょ、ちょっとセン!不意打ちは卑怯…」


むせ返りながら胸の中のセンに視線を向けると

小さな手で私の服をギュッと握りしめていた。


『もう二度と……あんな無茶な真似はするな。』


震える小さな体を抱きしめる

同じだった。

私が心配していたように、あの吹雪の中の強行軍中センもずっと私を心配していたのだ。

そして私が力尽きた時誰よりも怖くなったのは彼なのだ。


「ごめんね……セン。」


小さな相棒を力一杯抱きしめて謝る。


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