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火防女004 アレン2

エルと名乗る少女を保護してから一週間が経った。

彼女の怪我は悪化することもなく順調に回復に向かっていた。

手足の凍傷は最悪切断するしかないと色々と準備を整えていた。

幸いにもその準備は徒労に終わった。


最初は流動食しか食べられなかった彼女も段々と固形物を食べることができるようになってきた。

今まで自分一人だけの食事だったので手を抜いてきたが

お客様、しかも子供が一緒となれば食事の準備にも俄然やる気がでてくる。

残念なことにこの家には月に一度くる商人から買い付ける保存食しかないため、あまり美味しい食事を準備することができなかった。

裏庭で栽培していた野菜類はまだ熟しきっていないので出すわけにはいかない。

食材があれば十分な持て成しができたのにと肩を落とす。


しかしエルはそんなこと気にした様子もなく

用意した食事を美味しそうに食べてくれる。


「旅の間の食事に比べればごちそうです」


そういいながら美味しそうにパン粥に手をつける

聞いて見ると旅の途中は硬い黒パンや塩漬けされた干し肉など味気ないものしか食べることができなかったそうだ。

手持ちの路銀がつき、食料もなくなった際など木の根をかじり飢えをしのいだという。

あまりにも悪質な食生活に思わず絶句してしまった。

この子には美味しいものをお腹いっぱい食べてもらおう…

密かにそう決意した。


エルとの生活にも慣れてきたところで

今まで聞きたかったことを尋ねてみることにした。


「ところでエルはなんで一人であんなところにいたんですか?」


ビクッとエルの肩が震えパン粥を食べていた匙が止まる。

なにかを逡巡するように目線を彷徨わせる。


「こ、この先に少し用事がありまして…」

「この先は魔種領しかないですよ、子供が一人で訪れる場所ではないですね」


ネーヴェは人類領と呼ばれる僕たち人間が住む領域と

魔種と呼ばれる魔物や魔獣が住む魔種領の境目に存在する。

魔種は僕たち人類にとっての天敵だ、奴らは人類を見かけると有無を言わさず襲いかかってくる凶暴な種族だ。

そんな魔種が住む魔種領になど大人でも訪れようとする人はいない。

この子は何かを隠している、そう確信して思わず目を細めて警戒を深める。

こちらの雰囲気が変わったことに気づいてエルは怯えたように俯いた。


「い、いえ・・・・そこまでいくつもりは・・・。」

「そうなると目的地はここですか?この山には何もないですよ?

一体なんの目的があってきたんですか?」


そう尋ねると俯いたまま黙り込んでしまう。

どうやらエルの目的はネーヴェにあるようだ、しかしここは一年中雪と氷に閉ざされるネーヴェだ。

子供が求めるようなものは何一つない


いや、僕にはひとつ心当たりがある

しかしエルがそれを目的にしているとは考えたくなかった。


「エルは氷の聖女様の話は知っていますか?」


エルの目が見開き、持っている匙がカタカタと震えている

この時点で確信していたが気にせず話を続ける


「400年前、ここである魔獣と戦った聖人様がいらっしゃった

ネーヴェ・アックア・リークイド様、氷の聖女と呼ばれているお方です。」


自然と眉間に力がはいってしまう。

過去何度かこのネーヴェに侵入してきた輩がいた

彼らの目的はどれも同じで、恐らく目の前の少女も同じだろう。

そう思うと腹の底から沸々と怒りが込みあげてくる。


「ネーヴェ様は魔獣と三日三晩戦い続けました。

しかしあまりに強大な魔物を倒すには力が足りなかった。

倒せないと悟った聖女様はこの山全体に強力な結界を張った。

その結界のせいでここは一年中雪と氷に閉ざされることになりました。」


伏せていた顔をあげこちらの目を見上げるエルと目が合う

彼女の目にはある種の覚悟のようなものが灯っているように見えた。


「聖女様が封じた魔獣の名前は火喰鳥(ヒクイドリ)

太古の昔からこの世界に存在し、人・魔種関係なく殺戮を繰り返してきた伝説の魔獣。」


一拍おいてから殺気を込めて彼女を睨みつける


「君の目的は火喰鳥(ヒクイドリ)だね?」







「はい。」


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