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火防女002 エル1

「エル、こっちに来なさい」


()()()()()()()()泥だらけになった手で私を手招くおじいちゃん

生気のない目でこちらを見つめるおじいちゃんが怖くて少し躊躇してしまうが、恐る恐ると近づいていく


「エル、もうこの村には私とお前しか残っていない。

このままではお前もあの病に罹り命を落とすだろう」


村人全員が埋まっている墓地を見渡しながらおじいちゃんが私の頭を撫でる。


初まりは一年前だった。

ある日1人の狩人さんが高熱を出して倒れた

最初はみんなただの風邪だろうと思っていたが、一週間経っても熱は下がらず、彼の全身には緑色の斑点がびっしりと浮かび上がりはじめた

村に唯一いた薬師様も見たことがない新種の病気だと村では大騒ぎになった。

薬師様はすぐに狩人さんの家を隔離し、誰も近寄らないように厳命した。

たぶんこの時点でもう手遅れだったのだと思う。

狩人さんが隔離されてから1週間後、今まで元気だった村人たちが高熱でバタバタと倒れ始めた。

日が経つにつれ、倒れた人たちは緑の斑点にじわじわと侵されていった。

薬師様と私の両親の必死の看護も虚しいまま、1人、また1人と緑の斑点に全身を覆われ死んでいった。

半年経つころには200人近くいた村人が50人ほどまで減っていた

このままでは全滅だと若手の村人たちが近くの街まで薬を買いに出かけたが誰一人として帰ってこなかった。

途中で魔獣に襲われたか、それとも病が発症して倒れたか

村を見捨てて逃げ出した、様々な憶測が村人の中に広まりただでさえ悪かった村の中の空気がより一層悪化した。

そんな時、薬師様が高熱で倒れた。

病が広がるのが一気に加速したように思えた、薬師様が倒れたことで薬の配給が止まり、今までなんとか持ちこたえていた病人達が次々と死んでいった。

私も両親を手伝い必死に看病を続けたが、そんな私たちを嘲笑うかのように緑色の斑点は広がり続けた。

そしてとうとう私の両親も高熱に倒れた。

そのあとのことはよく覚えていない、とにかく毎日必死に村人と両親の看護をおじいちゃんとしていたと思う。

そして今日、最後の病人であるお母さんが死んだ。


「お前が最後まで病に罹らなかったのは天の采配かもしれぬ」


おじいちゃんは私の手を握りながら家の中まで歩いて行きそう呟く


「この村は死んだ、だが我が一族はここで死ぬわけにはいかぬ

エル、お前は生き延びて我が一族に与えられた使命を全うせねばならぬ」


私の手を握るおじいちゃんの手に力がはいり少し痛かった

きっとおじいちゃんにとっても苦渋の決断だったのだろう。

おじいちゃんは自分の寝室にはいり、絶対に開けてはならないといつも言いつけられていた扉の中に入っていく。

入ってはならないと言われていた場所に入れてもらえて不謹慎にも少しドキドキしていた。

扉の先は岩壁に囲まれた洞窟になっていた。

洞窟の奥に進んでいくと広間のような場所にたどりついた。

広間の床や壁には複雑な魔法陣がびっしりと書き占められていた、その広間の中心に私の背丈よりも大きい鉄球のついた杖が鎮座していた。


「センティメント様、ジグルドです。

継承の儀式をお願いいたします。」


おじいちゃんは広間の天井を見上げながら誰かに話しかける。

おじいちゃんの視線の先を見ても誰もいなかった。

誰と話しているのだろうと首をかしげると


『どういうことだ、次代はオルソンだという話だったではないか』


突然広場全体に響き渡るような男の声が聞こえた。

驚き周りを見渡す私とは対照的におじいちゃんは落ち着いたように返答する


「オルソンは死にました、そしてこの子以外の血族も死に絶えました。」

『なんと……そんなバカな……』

「私にももう時間は残されておりません、もうこの子に引き継ぐしか手は残されておりません」

『しかし、こんな幼子に……』


おじいちゃんと男の話を聞いてるとなんとなく状況がわかってきた

オルソン……私のお父さんが引き継ぐものだったものを私に引き継がせるようだ、そしてその引き継ぐものは恐らく目の前に鎮座している鉄球なのだと思う。


よくわからないがあの鉄球は怖い、内部でなにかが燃えているのか赤く発光して、その光が時々なにかの《瞳》のように見えて底知れぬ恐怖を感じてしまう。


「おじいちゃん……」


怖くて不安になって思わずおじいちゃんの足にしがみついてしまう。

おじいちゃんを見上げると眉間に皺を寄せ、今にも泣き出しそうなおじいちゃんの顔があった


「エル、この残酷な祖父を恨むがいい」


おじいちゃんがギュッと抱きしめてくる


「これは我が一族の使命なのだ、尊きお方に授けられた使命……

我らは個を優先してはならぬ、優先すべきは全、我らのお役目は世界のために必要なのだ。」


抱きしめる力がどんどん強くなり少し苦しくなってくる


「エルよ、この祖父はお前に死ねと言っている。

お前の人生はこれから楽しいこと、辛いこと、かけがえのないものに満ち溢れている。

この残酷で冷酷な祖父はお前にそれを捨てろと言っている。

世界のためにお前の人生に死ねと言っているのだ。」


おじいちゃんの声は震え、その両目からは止めどなく涙が溢れてきている。

こんなおじいちゃんは初めてだ、いつも背筋がピンと伸び、厳しくともどこかやさしい威厳のあるおじいちゃんからは想像もできない。

きっとアレを引き継ぐのはそれほどまでに大変なことなのだろうと理解した。


「いいよ、おじいちゃん」


泣いているおじいちゃんを抱きかえしながらそう言った。


「エル……」

「あれを引き継ぐのがどんなに大変なことなのか私にはわからないけど

それができるのが私だけだっていうなら、・・・・・ちょっと怖いけど頑張ってみる。」


おじいちゃんが信じられないといった顔で私を見つめる。

今日の私は珍しいおじいちゃんをいっぱい見れて少しご機嫌なのだ


「それにおじいちゃんに頼られるのがなんだかうれしいよ」


おじいちゃんの首に腕を回しギュッと抱きつく

おじいちゃんも震える手で私を抱き返す。


「ありがとう……」




『それでは継承をはじめる。』


広間に男の声が響き渡ると、広間中の魔法陣が一斉に光り輝く


『ジグルド、長きに渡る勤め誠に見事であった。

貴様の献身、私は生涯忘れることはないだろう。

そして新たなる契約者エルよ、貴様の祖父に恥じぬ働きを期待している。』


周りの魔法陣に呼応するかのようにおじいちゃんの全身に紋様が浮かび上がる。

魔法陣の輝きがどんどん強くなっていき、光によって何も見えなくなっていく。


『………さらばだ、()()()よ』


最後に男の声がボソリと聞こえたところで

私は意識を手放した。


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