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火防女21 エル11

『退け!!エル!!そいつは危険だ、排除する!!』


「やってみろ!そこのガキごとお前を食い殺してやる!!」


「まずは!!!!」


センとビアンコの言葉をかき消すようにありったけの声を張り上げた。

大声に二人が一瞬怯んだ隙に私はビアンコに対し振り向き頭を下げる


「センが無神経なことを言ってしまいごめんなさい。」


ビアンコから断続的に聞こえていた唸り声が止まった。

少し顔をあげて様子を伺うと、目を見開き驚いたようにこちらを見つめている。


「センは・・・・人ではないのであなたの感情を

理解することができなかったんだと思います。

だからあなたを深く傷つけてしまいました、本当にごめんなさい。」


誠心誠意心を込めて謝り続けると、フゥフゥと聞こえていた荒い鼻息が段々と収まっていく。

顔を上げビアンコの顔を伺うと、いくらか理性を取り戻したように見えた。

そのまま身体を反転させ、今度はセンに対して頭を下げた。


「人間の勝手な行いで不愉快な気分にさせてしまってごめんなさい。

人間を代表して謝罪します。」


『な、なにを!?お前のせいでは・・・・。』


謝った後、顔をあげセンを見ると

肥大化していた右手は元に戻り、あたふたと慌てているセンがいた。

とりあえず二人の興奮状態は解消されたようだ。

しかしこのままでは遺恨が残る、このまま話を終わらせてはいけない。


「セン、あなたのさっきの発言は

ビアンコさんの弱った心に鞭を打つような発言だったのは理解してる?」


『しかし・・・現実に・・・。』


「本当のことをそのままぶつけるのは人によってはただの攻撃になるの。

人によって伝えかたを考えて発言するのが人間のコミュニケーション。

人と話すのであればそのあたりはもうちょっと考えてほしかったわ。

あなた頭いいんだし。」


『む・・・むぅ・・・。』


少しは罪悪感があったようで、身体を縮こませて所在なさげに俯いていたセンの頭を撫でた。


「でも元話と言えば私達人間のせいだものね。

センを巻き込んでしまって本当にごめんなさい。」


『・・・・・だからお前が謝ることじゃないだろバカエル。』


少し頬を膨らませながら、頭を撫でる手にグリグリと頭をすり寄せながらゴロゴロと喉を鳴らした。

センのご機嫌とりには成功したようだ。

次にビアンコさんのほうにまた振り向く。

突然振り向いたことに驚いたのか、ビクリと大きな身体を揺らした。


「ビアンコさん、センは嘘をつきません。

今の話はきっと本当の話なんでしょう。

貴方達、穢浄人にとってはとても辛い現実だと思います。

そしてそんな世界を作ってしまった人間の一人としてここに謝罪します。

ごめんなさい」


再び深々と頭を下げる。

私一人の謝罪などなんの役にも立たないだろうが

今の話を聞いて謝らずにはいられなかった。

独りよがりな謝罪を受けたビアンコは重いため息を吐きながら口を開いた。


「キミの・・・・せいではないだろう。」


そう言うとビアンコはその場に座り込んだ。


「アレンも・・・すまなかった。」


ビアンコはそのまま真横にいたアレンに謝罪した。

ビアンコが座り込んだことで、アレンのほうが少し視線が高くなっていたが

アレンもその場に座り込みビアンコの肩を軽く叩いた。


「気にしないでください、長い付き合いなんですから。」


輝く笑顔でそう言うアレンに対しビアンコも頬を緩ませ軽くアレンの胸を叩く。

あれが男同士の友情なのかと見つめていると

その視線に気づいた二人は慌ててそっぽを向いた

照れることないのに、男の子は意地っ張りだな・・・。


「ビアンコさん、私は穢浄人の人たちがどのように生まれどのように生きてきたのか

それを今初めて知りました。

そして貴方達が日々どのような努力をしているのかも初めて知りました。」


ビアンコが私と目を合わせた。

真っ黒な瞳の奥に未だ憎悪の炎が燃えているように見える。

あれをなんとかしないと取り返しのつかないことになりそうだ。


「しかしセンが言った通り、世界中の人たちに赦されることなんかできっこありません」


そう言うとビアンコは眉間に皺を寄せ視線を逸らした。

私の言葉が否定の言葉に聞こえたのだろう。


「だから、まずは世界の定義を変えてしまいましょう。」


パンと手を鳴らしながらそう微笑むと、その場の全員が首を傾げた。


「定義を・・・変える?」


「はい、今ビアンコさんの中で世界とはどこまでのことを指す言葉なんでしょうか」


「どこまでって・・・・・この国?」


ビアンコはアレンにも視線を向けるが

アレンもよくわからないといった風に首を傾げた。


「でしたらビアンコさんの中では魔種族領にいる人たちは世界の中には含まれないんですか?

今も騎士様方が魔種族領で魔種族たちと戦いを続けていると思いますが

その人たちからの赦しは必要ありませんか?」


「い、いやそうじゃない・・・・・・訂正する、人類全体が俺の考える世界だ。」


「なるほど、ビアンコさんは人類全体に赦されたいのですね。

ではその人たちの名前を教えてください。」


「は!?」


ビアンコは驚きの声をあげるが、私の質問は当然のものだ。


「ビアンコさんは世界中の人に赦されて信用されたいんですよね?

でしたら名前を覚えるのは初歩の初歩です。

ですから世界中の人の名前を教えてください。」


「そんなの・・・・無理だ。」


「はい、無理ですね。

会ったこともない人の名前なんて知るわけがないですよね。

名前も顔も知らない人のことを他人と言うんですが

私たち普通の人だって他人にはまず警戒と敵意を向けます。

穢浄人に向けるものと同じものをね。」


そう言うとビアンコがごくりと唾を飲み込んだ。

そう、他人に向ける感情も穢浄人に向ける感情も一緒なのだ。

未知、不安、怯え

人のコミュニケーションはそこから始まるのだから。


「ではビアンコさんが知っている人の名前を教えてください」


「・・・・・ヘルナード助祭、ルークエンド助祭

リック、マーカス、リナリー、ウォック、クード、アレン・・・・・エル。」


「なるほど、その人たちとは信頼関係を結べそうですか?」


「いや、助祭たちとウォック、クードとは無理だと思う。

彼らは特別混血児を嫌っている・・・・。」


「なるほど、ではリック、マーカス、リナリー

そしてアレンと私とは信頼関係が結べそうですか?」


「アレンとは・・・・・いい関係を結べそうだ。」


「僕はとっくに友達だと思っていましたよ?」


アレンを振り返り、照れたようにそういったビアンコの背中を

アレンが叩きながらそう笑いかける。

自然とビアンコの顔にも笑顔が浮かぶ。


「キミは・・・・リナリーと似ている。

彼女もキミと同じように・・・・私の手をよく揉む。

まだ知り合ったばかりだから断言できないが、キミのことは嫌いではない」


私の方を見つめそう言ったビアンコに思わず頬が緩む。


「私もビアンコさんとは仲良くできると思っています。

あとリナリーさんとは趣味もあいそうですね。」


そう笑いかけると、ビアンコは大きな手で自分の頭をガシガシと掻いだ。


「随分と・・・・狭い世界だったな。」


「はい、今のビアンコさんの世界はたったの5人です。

そしてその5人はきっとビアンコさんのことをすでに赦し、信頼しているとも思います。」


「そうだと・・・いいな」


目の端に涙をいっぱいに溜めたビアンコは

腕の真っ白な毛皮でガシガシと目元を拭った。


「火喰鳥なんかが復活したら、俺の大事な世界も壊される・・・。

そういうことだろ?」


「いえ、そこまで言うつもりはありませんでした。

ただ気づいていなかったようなので気づかせてあげようと思っただけです。」


そう言いお互いニッコリと笑い合う。

ビアンコの瞳からは憎悪の炎が消えているように見える

恐らくだがもう大丈夫だ、大事なものに気づいた彼が自暴自棄になることはもうないだろう。


ビアンコは立ち上がると

不機嫌そうに浮かんでいるセンに向かって深々と頭を下げた。


「数々の無礼誠に申し訳ありませんでした。

この償いは役目を果たしたあと必ず致します。」


真摯に謝るビアンコを見てセンは益々顔を歪ませる。


『よい・・・・我も配慮が足りなかった。

難しいものだな、人間のコミュニケーションとやらは』


そう言うとセンはまた壁の中へと消えていく。

少し厳しいことを言いすぎてしまったかもしれない。

あとでそれとなく謝っておこう。


「さて、では・・・・・まずは掃除ですかね。」


「すまん・・・。」


アレンが部屋の中を見渡しながらそうつぶやく。

部屋の中はビアンコが暴れたせいでぐちゃぐちゃになっていた。

申し訳なさそうに砕けた木片を拾い始めたビアンコを見て、私とアレンは苦笑しながらその手伝いを始めた。



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