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火防女001 アレン1


永久氷山ネーヴェ


人類領と魔種領の境界線上に存在する

一年中雪と氷に閉ざされた氷山を人はそう呼ぶ

かつては草木も生えぬ不毛な山だったが

400年前に氷の聖女ネーヴェが強大な魔獣を封じ込めるために

氷の結界を張り巡らせたことで、永遠に晴れることのない雪と氷に包まれるようになった。

人々は彼女の功績を忘れぬためにその氷山に彼女の名前をつけた。


そんな氷山の中腹に1軒の教会が建っていた

不思議なことにその教会の周りには雪は積もっておらず

草花が咲き誇り、教会の裏にひっそりと耕された畑には

様々な作物が実りをつけていた

まるでその一画だけが春のような陽気であった。


そんな不思議な教会の礼拝堂で1人の青年が跪き祈りを捧げていた

肩口で綺麗に切りそろえられた美しい金髪と、どこか幼さの残った顔をした黒い修道服を身に纏った青年だ。

礼拝堂に祀られている5つの首を持つ龍の像に対して熱心に祈り続けるその姿はどこか神秘的なものを感じさせる

目を閉じ祈る青年の瞳が開かれその灰色の瞳が近くの窓へと向けられる


「…誰かいる?」


ふと青年がそう呟き窓の外を見つめる

外は相変わらず教会の周りだけ春模様、少し離れたところは命を拒むような極寒の猛吹雪が吹き荒れていた。

あんな吹雪の中に誰かがいるわけがない、青年はそうわかっていても一度感じた違和感を拭い去ることができなかった。

礼拝堂の外に出て人の気配がする方向に歩いていく

吹雪に近づけば近づくほど人の気配が強くなっていく気がした


「やっぱり誰かいる?こんな吹雪の中に!?」


本当に誰かいたら事だ、慌てて教会の中に戻り

2階の生活スペースから防寒着を取ってきて纏う

そのまま吹雪の中に駆け込む、先程までのポカポカと暖かい春のような陽気と違い、吹雪の中は突き刺すような寒さが全身を突き刺す。

膝下あたりまで降り積もった雪をかき分けるように気配のする方向に歩いていく


少し歩くと遠くに灯りが見えた

ロウソクのように頼りなく、今にもかき消えてしまいそうな灯りだが


「この吹雪の中であんな小さな灯りがなぜ・・・?」


青年は疑問に思いながらも歩をすすめる、近づくにつれその灯りの正体がはっきりしてくる


「なんだ……あれ?」


それを一言で表すなら鉄球であった。

何もない雪原に鉄の棒が突き刺さり、その先端には人の頭よりも1回り大きい鉄球がくっついていた。

そしてその鉄球は仄かに発光している、まるで中で何かが燃えているように鉄球から光が漏れ出して言える。


青年は恐る恐るその鉄球に近づきそっと手で触れてみる

熱くはない、灯りが漏れ出るほどに明るかったのでその表面は高温かと思ったがそんなことはなかった。

むしろ吹雪によってキンキンに冷やされていた。


「なんでこんなところにこんなものが・・・?」


鉄球には継ぎ目のようなものがうっすらとついているので恐らく人工物だ

だとすると誰かがこれをここに突き刺していったことになる。

永久氷山と呼ばれるこの山をわざわざ登ってきてこれを突き刺して帰った?

ありえない……そう結論づけた青年は周りを見回す。

しかしどこを見ても吹雪と降り積もった雪しかない、誰かが隠れられる場所はない


誰がこんなものをこんな所に置いていったのかはわからない

しかしこのまま放置していてもいいものかわからないのでとりあえず教会に持ち帰ることにした。

鉄の棒の部分を掴み上に引っ張り上げる


「ん・・・?なにか引っかかってる?」


鉄球を引っ張りあげようとするとわずかに抵抗がある

少し強めに力を込めて再度鉄球を引っ張り上げる

ズボッと鉄球が雪から引き抜かれる、青年は引き抜かれた鉄棒を見てギョッと目を見開く


「ひ、人の手!?」


引き抜いた鉄棒を厚手の手袋が握りしめていた。

先程の突っかかりはこの手によるものだと瞬時に理解した。

そして同時にこの雪の下に人が埋もれていることにも気がついた。

青年は慌てて足元の雪をかき分ける、鉄棒を握りしめていた手を伝って掘りすすめると誰かがうつ伏せに倒れていた。


「大丈夫ですか!!」


青年は慌てて倒れ伏せていた人物を抱え起す

薄紅色の髪をしたまだ12・3歳ほどの幼いといっていいほどの少女だった

顔色は白く、唇は真っ青になって全身が小刻みに震えていた。


「もう大丈夫ですよ、すぐに暖かいところに運びます」


青年は少女を抱きかかえ慌てて教会に駆け戻る。

2階の生活スペースに備え付けてある暖炉の前に少女を横たえ、雪によって濡れた衣類を剥ぎ取る

どれだけ雪の中に埋もれていたのかわからないが、剥ぎ取った衣服は濡れたことによってずっしりと重い

下着姿になった少女に寝室から持ってきた毛布を巻きつける

よくよくみると少女の手足の指先に水ぶくれができ紫色に変色しはじめていた。


「このまま放っておいたら指が腐り落ちますね…」


毛布の塊と化した少女を暖炉の前に寝かせ

青年は炊事場でぬるま湯を沸かす

応急処置として患部をゆるま湯につけじっと動かさず温めていく


一通りの処置が終わるとまた炊事場に戻り、今度はスープを作る

生姜を摩り下ろしカップの中にいれ、先程沸かしたままにしていたお湯を注ぐ

更に牛乳と蜂蜜もいれ、子供でも飲みやすいように味を調整した

清潔な布にスープを染み込ませ少女の口の中に入れる

少しずつ、ゆっくりと少女にスープを飲ませ体の中を温めていく


「今できるのはこのぐらいでしょうか」


少し顔色がよくなり、スウスウと眠る少女を見ながらホッと一息つく


「しかしこんな子供がなんでこんな場所に・・・?」


明らかに場違いの少女を見下ろしながら青年は首をかしげる

とりあえずは目を覚ますまで待つしかないと後片付けを始める

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