表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/22

火防女015 エル5

カランとナイフが落ちる音がした。

先程まで私の小指を切断しようとしていたナイフだ。

視線を前に向けると、目の前にいたはずのアレンさんが、私が張り付けられている壁とは反対の壁の下に倒れ込んでいる。

何が起きたのか理解できず呆然としていると、視界に緑色の鱗に包まれた大きな腕が入ってきた。

腕の出所は私のお腹だった。

いや、正確には私の背後の壁から人一人を軽く握りつぶせるほど大きな腕が伸びていた。


腕は倒れ込んでいるアレンさんを掴み、持ち上げ握りしめ始めた。

人の身長よりも高いところまで持ち上げられ、ギリギリと握りしめられているアレンさんは苦しそうなうめき声を漏らしている。

何が起きているのかわからずただ呆然と見上げていると


『よくも・・・よくもエルにひどいことをしたな』


地の底から響くような怨みがましい男の声が部屋中に響く


「だ、誰だ・・・・。」


苦しそうに見えない男に対して話しかけるアレンさん

しかしその問いかけは男の癇に障ったのか、握りしめる力が強くなる


『うるさい!!黙れ!!喋るな!!!!』


駄々をこねた子供がおもちゃを投げつけるように、アレンさんは食堂の長テーブルに向けて投げつけられた。

激しい破砕音と共にアレンさんが長テーブルと一緒に倒れこむ

男はまだ満足しないのか、うめき声をあげているアレンさんの足を掴み、また壁へと投げつけた。

壁に叩きつけられたアレンさんはもう立ち上がることすらできない様子で、ピクピクと痙攣を起こし倒れている、しかし男の追撃はまだ終わらない

アレンさんの足を掴むと、床に引きずるように滅茶苦茶に振り回し始める。


床がアレンさんの血で真っ赤に染め上げられていく

その光景に呆気にとられていた私は床に広がるアレンさんの血で我にかえる。


「ダメ!!!やめて!!アレンさんが死んじゃう!!」


ピタリと男の手が止まる

引き摺り回されていたアレンさんは、砕けた長テーブルの破片や、叩きつけられた時の衝撃で顔中が血塗れになっている。

掴まれた足は膝の関節が逆の方向に折れ曲がっている。

その痛々しい姿に視線を逸らしたくなった。

しかし微かに呼吸をしているようなので、なんとか生きているようだ。


『なんでだよ!こいつ!こいつエルに・・・・・許せない!!』


男は怒りが冷めやらないようでまたアレンさんを持ち上げる


「ダメ!殺しちゃダメ!お願いやめて!!セン!!」


私が必死にそう叫ぶと男・・・・センの腕が止まる。

数秒の沈黙の後に、センの腕がゆっくりと下がり、アレンさんを手放す

べしゃりと床に落ちたアレンさんは息も絶え絶えに手をつき起き上がろうとする、しかし腕に力がはいらないのかその場にまた倒れこむ。

アレンさんが生きていることにホッと一息つくと、私の真横の壁からセンがヌッと現れた。

先程までアレンさんを蹂躙していた巨大な腕はセンの右腕と繋がっている、縮尺がおかしくなっているのではないかというくらいそのバランスは歪だ。

私が肥大化しているセンの右腕を見つめていると、シュルシュルと音を立てながら腕が元の大きさに縮んでいく。

その間もセンは油断なくアレンさんを睨みつけていた、何か動きがあれば今にも飛びつかんばかりに殺気立っている。


「ありがとう・・・・セン。」


『・・・・・なんでお礼なんて言うんだ、バカエル。』


アレンさんから視線を外し、私の手に突き刺さっているナイフを痛ましそうに見つめるセンは、ナイフの柄を咥えると一気に引き抜く


「痛っ!!ちょ、抜くならなにか一言・・・・っ!!!」


私が文句を言っている間に反対側のナイフも引き抜かれ激痛が両腕を襲う。

痛みに悶え、恨みがましい視線をセンに投げかけると、センはフンっと鼻息を吹き出す。


『あのまま昆虫採集みたいに釘付けにされていたかったのか?

いいからとっとと止血しろ、失血死するぞ。』


センが乱暴にナイフを抜いたことで私の両手のひらからはドクドクと血が流れ出ていた。

血が流れる度に突き刺さるような痛みが走る、痛みに苦悶の声を漏らしながら何か縛れるものを探す。

丁度よく不要になったテーブルクロスがあったので、ナイフで引き裂き帯状になったテーブルクロスで両手のひらを縛る。

傷口を圧迫したことで出血はだいぶ抑えられた。

ホッと一息ついてると、アレンさんのうめき声が聞こえてきた。


自分のことでいっぱいいっぱいでつい忘れていた。

私は残ったテーブルクロスを掴み、血まみれのアレンさんに駆け寄った。

傷口を確認すると、壁に叩きつけられたときに切ったのか、額がパックリ割れて派手に出血していた。

先程と同じようにテーブルクロスを裂き、簡易な包帯を作り傷口を縛る。

他の外傷は細かい擦り傷がほとんどで、こちらはもう血が止まりかかってるので放置でも大丈夫そうだ。


額の次に重傷なのがセンに掴まれていた右足だ

こちらは確実に骨折している、骨折の対処などしたことがないのでどうすればいいかわからない・・・。

前に向かいのおじさんが屋根から落ちて骨折したときは

曲がってる足を板切れで固定していたはず。

私は壊れた長テーブルの足を拾いアレンさんの足に当てがい、包帯をきつめに巻きつけていく。


「ぐああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」


突然アレンさんが大声で叫ぶ、それに驚いた私はビクリと驚き硬直してしまう。

折れた足に触り、きつく縛られたら誰だってものすごく痛い、アレンさんは痛みに耐えるように歯を食いしばり、爪で床を引っ掻く

怒りに染まった目を私にギロリと向ける


「な・・・に・・・・を・・・・・。」


血まみれの顔で睨まれ、蛇に睨まれたカエルのように動けなくなる


「あ、足・・・・・ち、治療を・・・・。」


なんとかそれだけ言葉にすると、アレンさんは自分の右足へと視線を向ける。

歪に折れ曲がった自分の足を確認すると、目を閉じ大きく息を吐いた。


「そうですか・・・・・ありがとうございます」


疲れたようにそう溢すと、私が巻いた包帯を解いていく。

せっかく縛ったのになんで解いてしまうのか、少し批難じみた視線を向けると、足が曲がったままだと逆に怒られてしまった。

アレンさんは残っていたテーブルクロスを折りたたみ、それを口に咥えると、折れ曲がっていた足を一息に元の位置へと戻す。


「んッ!!!んんんんんんん!!!!!」


とんでもない激痛だったのだろう、咥えたテーブルクロスの隙間から悲痛な叫びが漏れ出ている。

目にいっぱいの涙を溜めつつ、私にもう一本テーブルの足をとってくるように指示をする。

言われたように取ってくると、先程あてがったテーブルの足と合わせて、右足を挟むように添え木をする。

そのまま足を固定するように包帯を巻いていく


結局アレンさん一人で全ての処置を行ってしまった。

なにもできなかったと一人落ち込んでいると、額に汗を滲ませ、苦しそうな呼吸をしているアレンさんが尋ねてくる


「なんで・・・助けたんですか?」


「え?」


「僕は・・・・あなた・・・に・・・・」


アレンさんは私の手のひらへ目を向けて眉根を寄せる。

拷問しようとした自分をなぜ助けたのか

アレンさんはそう聞きたかったのだろう。

それに対する答えはシンプルだ。


「センに・・・・・人殺しになってほしくなかっただけです」


宙に浮き、訝しげにこちらを見つめていたセンへと視線を向ける

自然とアレンさんもセンへと視線が移る

センを見たアレンさんは大きく目を見開き驚愕している。


「ま、魔獣・・・?」


『誰が魔獣だ!殺すぞ人間!!』


怒ったセンがまた右手を肥大化させシャッーと威嚇する

肥大化させた手を見て、先程まで自分を蹂躙していたのがセンだと気づいたアレンさんはビクリと大きく体を震わせる。


「セン、冗談でもそういうこと言わないで」


『冗談のつもりはないのだがな・・・。』


不機嫌な表情をしたセンがアレンさんの目の前へと移動する

目を合わせた二人はしばらく無言で見つめあう。

フンっと鼻息を吐いたセンが胸に手をあてて踏ん反り返る。


『我が名はセンティメント、偉大なる龍神様に仕える眷属が一柱

亜龍センティメントである!!!ハァーハッハッハッハ!!!』


両手を天高く広げ高らかに大笑いするセン。

いつも通りの大仰な自己紹介に内心ため息を吐きつつ、アレンさんの様子を伺う。

センと初対面だった時の私と同じようにポカンとしているだろうと思っていたが、アレンさんの反応はまったく違った。


溢れんばかりに目を見開き、口も大きく開き、ボロボロと涙を流しながら驚嘆している。

胸の前で組まれた手は力を込めすぎて真っ赤になっている


その異様な光景に私は2・3歩後ずさった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ