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火防女013 アレン9

気絶していた頬が痩けた傭兵にトドメをさしたあと

メガネの傭兵のあとを追い洞窟を出る。

猛吹雪によってほとんど消えかかっていたが、微かに人が歩いた後が雪に残っている。

雪の中慌てて走ったからだろう、あちこちに倒れこんだような跡がある。

しばらく跡を辿ると前方に人影が薄っすら見える。

相手に気づかれないよう姿勢を低くし駆け寄る、雪に足をとられ走りにくいが

メガネの傭兵よりは雪道に慣れている、すぐに距離は縮まった。


「ッヒ!」


僕に気づいたメガネの傭兵が小さく悲鳴をあげる

持っていた杖をこちらに向け魔法の詠唱をはじめる。

目を凝らしメガネの傭兵をみつめると杖の先に薄い赤色の靄が集まっていく

集まった靄はどんどんと密度を高め、赤い光の塊になる

詠唱が完了したときには赤い光の塊は熱を持ち拳大の火の玉となっていた


「ふぁ、ファイヤーボール!!」


杖の先から火の玉が放たれ、一直線に僕へと向かって飛んでくる

僕は手近な雪を握りこみ雪玉を作り火の玉へと投げつける

雪玉はジュッと音をたてて一瞬で蒸発する

それに比例して火の玉も一気に萎み、拳大から指先ほどまで小さくなる

弱々しい火の玉を手で打ちはらうと呆気なく消える。


「くっ!くるなぁ!!」


メガネの傭兵は悲鳴をあげながらがむしゃらに杖を振り回す。

目を瞑りながらただ振り回しているだけの攻撃など当たるわけがない

振り回してた杖を掴み取り手元に力任せに引き寄せる

引かれた杖につられてメガネの傭兵は雪の中に顔から倒れこむ


「ッッッブ」


メガネの傭兵は起き上がろうと雪の中でもがく、その隙に一気に近づき

起き上がったメガネの傭兵の無防備な頭を両手で抑え、そのまま膝蹴りを顔に叩き込む


「っガァ!!!」


鼻の骨が折れたのかドバドバと鼻血が溢れ出す

メガネの傭兵は鼻を抑えながらまた雪の中に倒れこむ

丸まり蹲るメガネの傭兵の背中にナイフを突き刺す

っぎゃと悲鳴が上がるが気にせず何度も何度もナイフを突き刺す。

周りの雪がメガネの傭兵の血で真っ赤に染まる

十数回ナイフを突き立てた頃にはメガネの傭兵はピクリとも動かなくなっていた。


疲れた・・・・。

雪の中の追いかけっこは思ったよりも疲労がたまった。

滅多刺しにしたメガネの傭兵はそのまま放置した。

わざわざ処分しなくとも、そのうち雪に埋もれるだろう。

洞窟の中のジーナたちの死体も近場の崖下に捨てた

石化した鬼火狐の処分だけ少し困ったが、教会で殺した無精髭の傭兵の斧を拝借して粉々に砕いてから崖下へと捨てた。

体力を使い果たしヨロヨロと覚束ない足取りで教会へと戻り

自分のベッドへそのまま倒れこんだ

限界だ・・・・・少し寝よう。

たった1日で色々なことが起こった、精神的にも体力的にも、もう限界だ。

僕は泥のようにそのまま眠り込んだ。





ジーナたちが教会を訪れてから3日が経った。

今日は一月に一度の商人が訪れる日だ。

商人はいつも通り食料と生活必需品を置いていく

そのまま立ち去ろうとする商人を呼び止める


「この間グエール家のお嬢様がこちらを訪れ、不幸にも足を滑らせ崖から転落、お亡くなりになっていました。遺体は崖下でしたので回収は難しかったです。せめて遺品だけでもと思いこちらを控えておきました。」


ソッとジーナから切り取った赤い髪の束と指にはめていた家紋入りの指輪を商人に手渡す。

商人はそれをジッと見つめたあと


「承知しました・・・・。」


と短く返事をして出て行った。

これでリークイド家にグエール家が黙ってここを訪れていたことが報告できた。

この事実はフォーコ派への切り札の一つとして扱うことができる。

きっと雇い主であるリークイド家の貴族は喜ぶだろう、僕にとってはどうでもいいことだけども。


報告が終わり、ようやく肩の荷が降りた。

緊張の糸が緩みジワジワと胸の奥から気持ち悪さがこみあげてくる。


一人で人を殺したのは初めてだった・・・・。

師匠が生きていた頃に何度か指導という形で人を殺したことはあった

その時は師匠が捕まえた侵入者を動けぬように拘束して、どこが急所で、どう刺せば殺せるのかを師匠に懇切丁寧に指導してもらっていた。

正直殺しというよりも実験のような感覚だったのでそれほど罪悪感はなかった。


しかし今回はそれとはまったく別だ。

生きて、武器を持ち、言葉を交わした人間を殺した。

こみあげてきた気持ち悪さは罪悪感と恐怖心だろう。

ジーナにもソコナイにも傭兵たちにも家族はいただろう

今頃帰ってこないと心配していると思う、二度と帰らない彼女らをずっとずっと待ち続けることになるのだと思うと吐き気がこみあげてくる。

口を抑えながら吐き気を堪える、知りもしないジーナたちの家族を妄想し、どれだけ悲しむかを想像してしまう。


「未熟者め・・・。」


眉間にしわを寄せ己を叱責する。

こんなことを考えるのは心が弱いからだ、師匠ならこんな情けない姿を晒すわけがない。

師匠ならば冷酷に、淡々と処理をして後に引きずらないだろう。

自分と師匠を比べて己の未熟さに腹がたつ

そして気づく、いまだに自分は師匠に依存していると

あの卑怯者を師と仰ぎ、先駆者として縋り寄りかかっている自分にますます怒りが深まる。

どこまで恥を晒せばこの身は満足するのか

ふらつく足取りで礼拝堂へと向かう。


礼拝堂はいつものように静謐な空気が漂い、5つ首の龍の像は変わらず祭壇に鎮座している。

少し前まで師匠の血と臓物で穢れていた場所とは思えないほど神聖な雰囲気が場を満たしている。

僕はいつものように龍神様の像の前に跪く

未熟な自分を律するように懺悔する、この身は敬虔な使徒であると龍神様に誓う。私情に囚われ怒り狂う自分を恥じ、常に冷静でいられるよう心に誓う。

祈っているとどんどん心が落ち着いてくる。

幼い頃から心が荒んだときはいつも祈っていた。

師匠の厳しい訓練に挫けそうになった時、日々抱える火喰鳥への恐怖

もうダメだと心が折れそうになったとき、龍神様は僕の心の支えとしていつも見守ってくれているように感じた。

深い感謝と尊敬の念が込み上がってくる、そして気づいた。

この世に救いがあるとすればそれは龍神様だけだろうと。


「感謝いたします・・・・。」


僕はそのまま日が落ちるまで祈り続けた。










そして今、エルの部屋から飛び出した僕は以前と同じように祈りを捧げていた。

感情的にエルの部屋から飛び出した自分を律するために

祈り心を鎮め、そして決心する。


「いつも通りに処理しましょう」


冷めた感情が僕の弱い心を凍りつかせる。


「相手が子供であろうと、火喰鳥を求める輩はすべて・・・・。」


立ち上がり龍神様の像を見上げる。

龍神様の像はいつもと変わらず、僕を暖かく見守ってくれていた。





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