火防女012 アレン8
「なぜだ!!なぜジーナさんたちを殺した!!」
弓を構えながら髪の長い傭兵が叫ぶ
その表情は怒りと困惑に満たされている。
「なぜ・・・・ですか。それが僕のお役目だからです」
興奮している傭兵たちとは裏腹に僕の頭は冷え切っていた。
落ち着いて状況を確認してみると、今の立ち位置は僕にとって不利だ
僕の後ろには火喰鳥がいて、前には鬼火狐、頬が痩けた傭兵、髪の長い傭兵がいる。
そして髪の長い傭兵の後ろには入ってきた洞窟への入り口がある
なにより一番まずいのが僕の後ろに火喰鳥がいることだ。
火喰鳥の結界は衝撃に弱い、僕が避けた攻撃が万が一にでも結界に当たってしまったらとんでもないことになる。
なんとか立ち位置を変えたいと考えていると、髪の長い傭兵が叫ぶ
「お役目!?人を殺すことがお前の役目なのか!!」
「そうです、僕のお役目は『勇者が現れるまで封印を守る』ことです。そのためならばどんな人でも、何人でも殺します。あなた達は秘匿されていた封印の場所を知りました。ですので申し訳ありませんが一人残らず殺します。」
「狂ってやがる・・・・。」
髪の長い傭兵が苦々しく顔を歪ませる。
頬の痩けた傭兵が剣を構え髪の長い傭兵に叫ぶ
「こいつはダメだ!ここで殺すぞ!!狐!!言葉わかるか!!協力してこのガキぶち殺すぞ!!」
「ガアアァァ!!」
頬の痩けた傭兵に答えるようにキリコが吠える。
その会話を皮切りに僕は一気にキリコへと距離を詰める
鬼火狐のキリコの最も厄介な攻撃は、名前にある通り鬼火と呼ばれる火属性魔法である。
あれを使われたらほぼ負けが確定してしまう、なのであえて距離を詰めて接近戦を仕掛ける。
魔法の行使には少なからず集中する必要があるので、絶え間なく接近戦を仕掛けることで魔法を使う隙を与えない。
キリコは突進してくる僕に対して右腕を振り上げ迎撃の準備をする
キリコの直前で急ブレーキをかけ、振り下ろされた右腕を躱す。
キリコの右腕は床の氷を砕き、細かい氷の破片があたりに散らばる。
そのまま右腕を起点にキリコが僕の方に突っ込んでくる。
僕を噛み砕こうと大きく口を開きこちらへと噛み付いてくる。
僕は取り外した腰のポーチをキリコの口目掛け投げつける。
ポーチが口に当たるとキリコは反射的にポーチを噛み砕く、口の隙間からはポーチに入っていた薬草や保存食、予備の投げナイフなどがこぼれ落ちる。
僕はそれを見届けると、キリコの右腕側に回り込み頬が痩けた傭兵へ一気に駆け寄る。
頬が痩けた傭兵はキリコを無視してこちらに駆け寄ってくる僕に驚きを見せたが、すぐに気持ちを切り替え剣を構える。
僕は走りながらナイフを大きく振りかぶる、それを見た頬が痩けた傭兵は投擲を警戒して持っている剣で首と胸、急所をガードした。
それに構わずナイフを投げつける、ナイフは頬が痩けた傭兵の横を猛スピードで通り抜ける。
「ハズレだド下手くそ!!!」
蔑むように笑いながらこちらに斬りかかってくる
唯一の武器であるナイフを失った僕など脅威ではないと思っているのか、頬が痩けた傭兵は完全に油断していた。
胴を寸断しようと大きくロングソードを振り上げる頬が痩けた傭兵に対し、僕は姿勢を低くしそのまま突進する。
「懐がガラ空きですよ」
そう言いながら最後の一歩をいままでより大きく蹴り出す。
最後に大きく蹴り出したお陰で、頬が痩けた傭兵が剣を振り下ろすよりも早く相手の懐に潜り込む。
タイミングをズラされた頬が痩けた傭兵は剣を引こうとしたが、すでに振り下ろされた剣を止めることはできなかった。
僕は左肘を突き立て、抉りあげるように相手の鳩尾へ肘を突き刺す。
コヒュっと息が詰まるような音が頬が痩けた傭兵から溢れる。
そのまま左腕で服の襟首を、右腕で足を掴むと力任せに頬が痩けた傭兵を投げ飛ばす。
まともに受け身もとれずに硬い氷の床に叩きつけられた頬が痩けた傭兵はそのまま気を失う。
ふぅと一息つき、髪が長い傭兵を確認する。
髪が長い傭兵の腹部には先程投げつけたナイフが深々と突き刺さっていた。
あの投擲は頬が痩けた傭兵ではなく髪が長い傭兵を狙って投げたものだった。
賭けに近かったので無事当たってくれてよかったとホッとため息を吐く
傷口を抑え壁にもたれかかっている、髪の長い傭兵は弱々しい呼吸を繰り返してこちらを睨みつけていた。
あの怪我ではまともに動けないだろう。
次いで鬼火狐のキリコを確認する。
そこには鬼の形相でこちらを睨みつける鬼火狐の石像があった。
キリコに投げつけたポーチには教会で使ったバジリスクの毒針が仕舞ってあった。
毒針は取り出しやすいようにポーチと垂直に刺し仕舞っていた、そのポーチを噛み砕いたキリコはポーチに仕込まれていた毒針も一緒に噛み砕いてしまったのだ。
噛み砕いたときに毒針が口内に突き刺さり、そのまま石化してしまったのだ。
もはや二度と動くことのできないキリコは脅威ではない、踵を返し髪の長い傭兵へと歩み寄る
「・・・・・ちくしょう。」
髪の長い傭兵が呟く
腹部の傷口からは絶え間なく血液が流れ続けている。
このまま放置していても死ぬだろうが、無駄に苦しませる趣味もないのでトドメをさそうとすると、その手を止められる。
「・・・・お前最初からこうするつもりだったのかよ」
息も絶え絶えに髪の長い傭兵が尋ねてくる。
「いいえ、ジーナ様が火喰鳥を調伏できたなら殺す意味もないので殺しませんでした。実際僕もその結果を望んでいました。」
「じゃあ・・・・・殺したくて殺したわけじゃないんだな」
「はい。」
「そっか・・・・。」
強張っていた髪の長い傭兵の顔から力が抜け、それにつられて全身からも力が抜けていく。
眉を下げ、弱々しく笑いながら僕を見つめると
「お前・・・・・・かわいそうなやつだな。」
そうポツリと呟くと目から生気が抜けていく
微かに動いていて胸も止まり、髪の長い傭兵が生き絶えたことがわかる。
「かわいそう・・・・ですか。」
髪の長い傭兵の瞼をそっと閉じ、天井を見上げる
「そんなこと生まれてはじめて言われましたよ。」
だいぶ長くなってますが、過去編次で最後です




