報告
琢己コスナーは、
閑静な住宅街の一角にあるマンションに来ていた。
醍条、と書かれたプレートの
横にあるインターフォンを押す。
昨日、
降辺の家を出た後、
すぐに明菜へ鹿児島大吾捜索の結果報告をしたいと
連絡をいれた。
明日なら自宅で聞きたいという
明菜の返事を受け、琢己はやってきた。
「どうぞ、おあがりください」
明菜の声は、落ち着いていた。
整理整頓されたリビング。
わんぱく盛りの子供がいるとは
思えないほど、すっきりしている。
テーブルに促されて、
琢己は腰をかけた。
お茶を用意した明菜が
目の前に座ったのを見届けてから、
琢己は話し始めた。
「早速ですが、結果がわかりました」
昨日、徹夜で仕上げた捜査資料を
テーブルに広げる。
頭には、「報告書」とだけ書いてある。
「単刀にいいます。鹿児島大吾さんは、お亡くなりになっています」
明菜は一瞬だけ、うつむきかけた。
「間違いないのでしょうか」
「警察からの発表は明日になります。身元確認も済んでいます」
「警察?」
「残念ながら、大吾さんは、殺された可能性が高い」
「殺された……」
「状況からはそうなります。醍条さんのところにも、
警察が聞き込みにくることになるでしょう。もちろん、チームメイトも」
「主人にもでしょうか」
動揺している。
「間違いなく。ただ、醍条さんが大吾さんと恋仲だったことは、
チームメイトの誰にも知れていません。
醍条さんがしらをきれば、誰にもわかりようのないことです」
明菜はうつむいたまま。
ご請求書はここに置きます、と付け加えて背中を向ける。
「………あの」
「なにか?」
「………わたしの……わたしのせい……」
「わたしのせいとは?」
琢己が振り返ると、明菜は泣いていた。
「琢己さん……もし、大吾がころ………犯人を探してくれませんか」
「醍条さん。この事件は警察が動いています。
それは警察の仕事ですよ」
明菜から、また表情が消えた。
「それでもいいんです。最後まで、最後まで
かかわっていたい……。……お願いします」
琢己はコーヒーをすする。
にがい。
「警察が先に犯人を逮捕しても、料金は頂きます。
警察より先に見つけた場合も、すぐに警察に引き渡しをします。
それでもいいですか」
明菜はうつろな目で、はい、と答えた。
「琢己さん……」
明菜が次の言葉を言いかけたとき、
玄関から、ただいま、の声が響いた。
彼女は、すみません、と
ソファーからさっと立ち上がり、玄関に向かう。
長男の悠馬が帰宅したのだろう。
2階へ上るふたつの足音が聞こえた。
琢己はコーヒーを一口すすった後、
ゆっくりと立ち上がった。
苦いな。
玄関で靴をはき、2階を見上げる。
明菜が階段を下りてきた。
「息子が帰ってきてしまって……」
「今日はこれで失礼します。進展があり次第、連絡します」
それでは、とノブに手をかけた瞬間、痛烈な視線を感じた。
吹き抜けになっている2階から、悠馬が顔を出している。
「探偵さんって、もっとおっさんかと思ってた。意外とかっこいいね」
琢己は瞬間的に2階をにらみつけ、
すぐに笑顔を作った。
「中学一年生から見れば、たいていの大人はおっさんだろ。
ほめてくれてありがとう。ただ、初対面にしては、上から過ぎるな」
「場所が?」
言葉だよ、と発したとき、明菜が、やめなさい、と悠馬を叱った。
「すみません、反抗期なもので……」
明菜が再度、詫びを入れたときには、
悠馬の姿はなかった。
「男の子はあれぐらいじゃないと」
恐縮している明菜を横目に、
琢己はもう一度、2階を見上げてから、ドアのノブを回した。
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