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ミッシングリンク   作者: ケサボン
1/8

はじまり

寒い……


すごくさむい……


鹿児島大吾が感じた人間として最後の感情だった。


徐々に開いてきている大吾の瞳孔は、

ガラス玉のようにひとりの男を映し出している。


男は、震えながら大吾を見下す。


遠くを走る環状道路からは

トラックのけたたましいクラクションが鳴り続けている。


真っ暗闇の中、風が動いた。


一瞬だけ、月明かりが大吾の顔を照らす。


その瞬間、大吾の口角がキッとあがった。



笑った。



男は嗚咽をぐっとこらえた。



そして、


2、3歩後ずさりしたあと、光を求めて闇へと消えた。



闇から車のエンジン音が響く。



無音になる。



闇の中、


大吾は笑い続ける。



--------------------------------------


「真っ黒です。これが証拠の写真、そしてDVD。えっとDVDはサービスです」


琢己コスナーは、安っぽいテーブルの上に、

男と女がよりそっている写真を広げた。

琢己の向かいに座っている女は、俯いたまま。


「奥様、これが事実です。そして、当探偵事務所でお引き受けしたご依頼はここでクローズでございます。もし、今後、法的手続きにお進みになれるのなら、弁護士をご紹介いたします。えっと、これもサービスです」


琢己は女を見る。


浮気調査を依頼する女は、美人が多い。


もちろん、ファッションにも敏感で、

調査報告を聞きにくるときは、決まってコンサバ。


そして、結果が判明するまでは、いじらしくしているが、

クロとわかった瞬間に、豹変するのがお決まりのパターンだ。



「弁護士を紹介して頂けますか」



ほらきた。



「サービスでございます。このあとの事務手続きは、あそこに座っているぼっちゃりちゃん、えっと事務の女性と話してください。それでは」



琢己は、パイプ椅子から立ち上がり、

奥の執務室へと向かう。


執務室といっても、デスクの上にノートパソコンしかない。


しかも、4畳。


コスナー探偵事務所を立ち上げて3年。


駆け出しのころは、名前で仕事がくるわけもなく、

先輩探偵のおこぼれだった浮気調査をがむしゃらにこなしていた。


そのうち、浮気ならコスナーという噂が口コミで広がり、

単独でお客がくるようになった。


今では、本人の意に反して

業界では浮気調査のアンタッチャブルとして名前が響いている。


ちなみに、コスナーは、本名。


父親がケビンコスナーに似ているとの理由で、

母親が勝手につけたらしい。


その母は、父の浮気が発覚して、発狂。

ほかに男を作って出て行ったらしい。


俺が3歳のときの話らしい。



デスクに座り、つけっぱなしのノートパソコンを開く。


仕事の予定を確認。


浮気調査の文字が並ぶ。仕事のほぼ100%が浮気調査。


もううんざりだ。



カランコロン。



玄関ドアが開いた音がした。


さっきの奥さんが帰った音だ。今日は修羅場だな。


DVDなんてサービスしちゃったから、やばいかもなぁ。



「……しょちょう! 所長! お客様ですよ」



遠くからぽっちゃりちゃんの声がする。



「所長!」


「お客? そんな予定な…」


「予約なしのお客様です!」



怒っている。


やはり、あのぽっちゃりがいけなかったか。


あの雰囲気では、お茶も出てこないパターンだ。


まぁ、いい。また浮気調査だ。



「お待たせしました。所長の琢己です」


女は軽く会釈をして、渡したたての名刺をじっと見ている。


美人だ。


白いチュールスカートに花柄ブラウス。


20代後半もしくは30代前半。


確実に浮気調査だ。

琢己は心の中で、ためいきをついた。


「あの……」


依頼人の方から切り出してくるのは、珍しい。


「はい」


「あの……この人を探してほしいんです」


すらっとした指には、指輪がない。

その変わりに、写真が一枚。


若い男が写っている。


「探す?」


「だめでしょうか?」


「だめじゃないです。ぜんぜんだめじゃないです。お任せください。業界では人探しのアンタッ」


ドン!


「どうぞ、お茶です!」


ぽっちゃりちゃんの背中から湯気が出ている。いや、これはお茶の湯気か。

どちらにせよ、今日は早く帰らなければ。



「お願いします、この人を探してください」


「ちょっと待ってください。まずは少しだけ情報をください。

本名でなくても結構ですので、お客様のお名前を」


「あっ、ごめんなさい。……私は醍条明菜といいます。


「だいじょうさん、とお呼びしてよろしいですか」


「はい」


琢己は、あらためて写真を見てみる。


いい男だ。今でいうイケメン。


「この彼については、詳しく聞かせていただけますか」


「…はい。彼は……恋人です。でも、2週間前から連絡がとれなくなって…」


よく見ると、明菜の顔は真っ青になっている。


「あわてないで、ゆっくりと話してください。彼のお名前は?」


「…はい。……名前は、鹿児島大吾。

 先生……大吾を、大吾を探してください」


お読みいただき、ありがとうございます。

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