ラブソング
一生忘れないぜオマエのこと
アッアーイエーオッオッ
オマエに届けたいこの気持ち
イエーイエーアーンアーン
オレの恋よアッオーイェー
「うぜぇ」
有線から流れるヒップホップなラブソングを聞きながら、高野凛太朗は思わず吐き捨てた。
一時間に一回はこの曲を耳にしている気がする。
今、売れ筋の曲なのだろうが、凛太朗にはこの歌詞の良さというものが、さっぱり理解できなかった。
だってこういう男は、次に付き合った女にも、同じことを言うに決まっているのだ。
しかも次の女というのも、浮気したあげくに前の彼女から乗りかえた相手だったりして、そんな流されやすい自分自身に酔ったような歌さえ歌うに違いない。
まったくいけすかないチャラ男だ。
凛太朗は毒づきながら、もう何度も拭いたグラスを意味もなく拭き直した。
それにしても暇だった。グラス拭きばかりしていても仕方がない。
暇すぎるから有線に気を取られてしまうのだし、腹の虫の居所も悪くなる。
大学生になってはじめて迎えた夏休みは、リア充とは程遠いものだった。
退屈なバイトで時間を無為に費やすだけの日々が続いていた。
八月も半ばを過ぎ、夏の終わりが近づいている。
カフェと呼べるほど洒落てはいない、古びたこの喫茶店が、凛太朗のバイト先だ。
敷地だけは広いがすっかり寂れた市立公園の池の畔で、静かに営まれている。
昼時は安いランチ目当てにぽつぽつと客が出入りするものの(ほとんどは散歩中の老人かサラリーマンだ)、それを過ぎると閑古鳥が大合唱する。
「退屈すぎる」
ついぼやきながら、レトロな木目調の壁時計を見やると、午後三時半を回ったところだった。
バイトが終わる午後五時まで、あと一時間半ほどだが、これがまた妙に長く感じられるのである。
店長は閑古鳥タイムの訪れとともに、いつものごとく凛太朗に店を任せて出て行ってしまったし、他に店員も客もいないため、余計に気が引き締まらずだらけてしまう。
と、凛太朗のスマートフォンがポケットの中で振動し、着信を知らせた。