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田舎探偵物語  作者: 伊識 填人
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いらい

こんな田舎でも、どうした物か、探偵なんて代物が成り立っている。

全く、世知辛い世の中だが、嫌、だからこそ、練習もかねて……

田舎探偵物語カントリー・オプ



「この男の事を調べていただきたい」


 どうみても全く似合っていない眼鏡と、顔の半分を覆い隠す白いマスクをした男は、ぼそぼそと呟くように言った。

 蚊の鳴くような声、という表現がぴったり来る声で、奇妙にしわがれていた。

 どうやら、自分の正体を隠しておきたいらしい。

 それに、よほど重要な話なのだろう。たいがいの人間は、重要かつ秘密の話をする場合、無意識に声をひそめてしまうものだ。

 私は、久しぶりに金になる依頼が舞い込んだ、と感じた。


「詳しい内容をお願いします」

 私も、相手にあわせて声をひそめた。

「知り合いの娘さんが、一目ぼれしたらしいんですよ」

「ほう」


 私は、依頼人の言葉に相づちを打ちながら、いよいよ確信を強めた。

 この手の切り出しで始まる場合、私の経験からいって、3割方が嘘である。

 ただし、年ごろの娘を持つ知り合いがいても当然と言った感じの夫婦連れや、以前に事を引き受けた事のある身もとのしっかりした客も含んだ場合の割合である。

 つまり、嘘の確立はもっと高い。

 残り3割の場合、本当に調査して欲しいことは別にある。

 最初の調査で、能力と信頼しても大丈夫かどうかを確認するのだろう。


「わかりました。簡単な調査のようですから、来週には報告書がお渡しできるでしょう」

「そうですか。では、来週のこの時間に参りますので。」

 依頼人は、そういって前金を出した。

「領収書は・・・・」

「いえ、けっこうですよ」

 私は、軽く肯いた。まあ、当然だろう。

 だが、けっこうです、などという危険な、素人くさい表現を使ったことに違和感を覚える。

 依頼人は、わざとらしい咳をしながら帰っていった。



 一週間後


 依頼人は、約束通りの時間にやって来た。

「どうも」

 そういって、依頼人は頭を下げた。

 前回と寸分違わぬ姿である。

 私は、あきれてしまった。おいおい、もう少しは工夫しろよ。

 そんな感想とは裏腹に、私はソファーの方を示して、腰を下ろすように進める。

 コーヒーかなにか飲みますか、という私の問いに、頭を軽く振って断った。

「早速ですが、この封筒の中に調査内容が入っています」

 私は、小声でそういうと、大判の封筒を差し出した。

 依頼人は、軽く頭を下げると、中身を出してざっと目を通す。

「ありがとうございます」

 依頼人は、そう礼を述べ、ちょっと間を置いてから、例のしわがれ声で言葉を続けた。



「ところで、探偵さん」

「はい、なんでしょう」


「あなたも風邪ですか」


……まあ、何です。

鍋焼き饂飩でもどうぞ。

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