其之八 帝国と科国と連合と
現在、この大陸東部には大きく分けて3つの勢力が存在していた。
まず大陸東部の中で一番北西寄りにある『帝国』
大陸東部で四、五十年前までは旧帝国内の一領主でしかなかった一人の男が、旧帝国内の領主を武力、懐柔、謀略を駆使して制圧。旧帝国の王に打ち勝ち新たに王位に付いた。
ただの一代で旧帝国を滅ぼし、現在の新帝国と呼ぶべき帝国を……三大勢力の一つまで肥大した国を作り上げた。
国は戦争に次ぐ戦争で兵達は軍国主義よろしく皇帝に絶対の忠誠を誓い、帝国式に身を包み甲冑を着て騎兵突撃する姿は絵本に出てくる騎士そのものだった。
特に連合より大型の帝国産馬の速度と騎兵の走破能力は非常に高く、連合諸国は兵力の差は元より、騎兵を恐れるあまり城内での籠城による防衛での戦いをする事が多い。
次に東部の中で一番北東にある『科国』
この国の歴史は古い。
我々人類が過去に経験した『悪夢の日』以前の文化を保有し、未知の武器を多数保有している。各国は『科国』から提供される技術に目を光らせ耳を澄ませている。
数年前に『科国』が発表した『鉄砲』という武器の名前は瞬く間に各国に鳴り響いた。
この武器がこれからの戦争を変える武器になるのかは解らないがほとんど『技術』は科国が発表することにより広まる。それが昔からの半ばの事実であり、この世界のあり方だった。この国は戦争を自発的に起こすことはなく防衛のみに固執していると各国は捉えていたので、わざわざこの技術大国に攻め込むモノ好きはいなかった。
次に帝国と科国に挟まれるようにして小国が集まって『連合』という一つの集まりを作っていた。『連合』自体は国ではなく国の集合体として呼ばれているだけに過ぎず、科国や帝国から見れば中小国、十余りが寄り合い所帯をしているようにしか見えない。
しかし連合全体を見れば総人口は帝国、科国のそれぞれを上回り弱者が群れて寄り合いを作りなんとか帝国、科国に対して『小国とはいえ手を出せば連合すべてが敵に回るぞ』と、張子の虎を見せているとも取れなくはない。
その『連合』の中で一番地位の高いのが連合盟主国である『武国』である。
『連合』の中でも一番の歴史を持ち(科国には及ばないが)純連合風の文化を維持し独自文化を保っている。また現在の帝国創立以前から連合の一角を守りぬいてきた兵士達、死を恐れぬ侍衆達に裏付けられた軍事力を持つ錚々たる国である。
続いて連合内『萌国』は連合国副盟主国である。
かつて旧帝国軍が総力をあげ連合領内に侵攻した当時、連合内で武国に並ぶと称されたのは、当時萌国初代国主であった男が様々な知謀、戦術を駆使して旧帝国撃退に多大な貢献をしたからだ。
その功績により新興小国であった萌国は連合内で地位を確立した。
今、この国はその活躍した初代国主から数えて五代目の国主が地位に就いたばかりだがその評判は他国から見ると良くはない、いやそれでは言葉が足りない。その評判は最悪に近いものであった。
また、戦力も初代国主当時と比べれば霞んでしまうぐらい弱体化している。
特に兵士の数は初代国主の頃から見て、考えられないような減少ぶりで国が維持されているのは豊富な鉱山の鉄による利益、そして地理的に連合内部を横断するには、萌国を通る道が商人から交通の便が良いと好まれ通行税の収入に恵まれているからである。
この兵士の減少は萌国の初代国主が死亡し二代目国主が相続する時の後継ぎの内乱や、その後三代目、四代目国主が相次いで急死し、この国がよくある後継ぎのお家騒動で揉めたことが主な要因である。
先の帝国の急襲に耐えきれず、帝国に進駐を許しているのが連合の一国『流国』である。
流国は緩衝地帯の意味合いが大きい国であった。
帝国が連合を攻める為、面す国は『武』『老』『流』の三国である。
その中で一番兵力の少ない流国を生贄として、ワザと攻めさせその間に帝国の規模、装備、戦術などを探る事が多かった。
故に、流国は帝国との小競り合いが絶えず度々砦を落とされかけ、他国の援軍を待っている間、閉じこもる事しかできぬ国だと、弱兵を馬鹿にされ陰口を叩かれていた。
また民も相次ぐ帝国からの侵攻に、賦役による防衛砦の補修や戦時用の臨時税などに悩まされていた。
それも今代の流国国主に代替わりしてから大分改善されていたが、その矢先、今回の帝国軍侵攻によりすべてご破算。
民の大半は連合各国に散り散りになったか、帝国に捕えられている。
流国の連合中に逃げた民を通して、帝国の恐ろしさと流国陥落の話が瞬く間に連合に広まった。
帝国に国境を面すすべての国の民が明日は我が身と顔色を青くして震えていた。
解説的な感じです。
本文でも書きましたが、連合は十余りの中小国の集まりです。
説明にない他の国は、ここでは記載しません。