其之二十四 連合会議の行方と平和の価値
三週間が過ぎた。
連合各国の調整に追われ何とか連合会議の開催にこぎつけたのは、はっきり言って僕の成果であり手柄である。
我が事ながら自分で自画自賛したいぐらいだ。
流国の姫様は手紙を書いて後は僕に丸投げだったが僕は何も言わなかった。
少し調子が悪いようだからだ。
それも肉体的にではなく精神的に。
供にいた爺さんも亡くなり、余り人と話す事をしなくなった。
更に一人の時間が増え、比例して一人での独り言も増えてた。
普段は問題ないのだが、夜中に突然笑い出したり泣き出しする事も出てきていた。
壁に向かい微笑みながら話しかけていた姿を見た時にはさすがに背筋が凍った。
医者に相談し……刺激は与えないように、また余り一人にせず絶えず誰かが話しかけながら監視する……事になった。
例の拾ってきた猫を副官から借りて流国姫さんの部屋に放り込み、その世話という名目で孤児姉弟達に簡単な身の周りの雑務をやらせた。
孤児達も仕事を貰えて嬉しそうだから大丈夫だろう……。
そしてようやく我が城の評定の間にて連合会議が開催されているのだ。
日程調整も雑務となったわけだがこうして無事開催できれば苦労も報われる。
連合の支配者の面々を前に僕は会議の開始を告げる事になる。
「今回は連合各国の重責である皆様に出席いただいたことを感謝します。今回の議題は周知の通り帝国の流国への侵攻を受けて我ら連合はどうすればよいのか?各国の分け隔てない実りのある意見を期待いたします。まずは流国姫君よりお話があります」
連合各国の国主とその重臣、計三十名あまりの視線、六十個あまりの目玉に見つめられながら僕は横を向き流国姫へ視線を投げかけ会話の水を向けた。彼女は精一杯背筋を伸ばして声高に語り始めた。
「皆様の知っている通り、流国が帝国に蹂躙され一月以上たちます。
古き盟約に従い連合の諸国には帝国打倒の軍を出してもらいたい」
姫さんの言葉は年齢の割には堂にいったものだった。
率直に目的を話し、明確に希望を伝える。
……悪くない。
だが、残念なのは言葉の中身より彼女の態度が減点だ。
……何んだろう。言葉に覇気と言うのか力がない。
棒読みも良いところだ。
もう少し年を重ねれば威厳もでるだろうが逆に言えばまだまだ少女としての域を抜け出していないレベルだ。
どうしても子供が劇をしているような『お遊戯』をしているように見えてしまう。
そんな流国の姫さんに答えるように声を上げたのは連合盟主にして武国国主である殿下だ。
三十には達していない力に漲った身体、鷹の様に鋭い眼光、そこに備えられた黒々とした瞳と同色の髪。
一応僕の親戚筋にあたるり、血は繋がっていないが昔はよく遊んでくれたお兄ちゃんだったので、『武国の義兄上』と呼んでいる。
僕の尊敬する数少ない人の中の一人だ。
「皆も知っての通り、今まで帝国の連合諸国との小競り合いは確かにあった、しかし流国が落ちるとは大変由々しき事態であり、これは帝国から連合国に対しての侵略行為と挑戦だ。すぐにでも兵の動員をして諸国の戦力を結集すべきだ。武国としては二千ならすぐに出せる」
「老国も同意ですな。もっとも我が国は武国ほどの兵は出せませぬが。ただし本格的な攻勢に出るのは厳しい。一つお聞きしますが、帝国と戦うとして一体落としどころはどうされるのか?仮に戦をするにしても流国領を奪還程度まで帝国兵を出し押し戻す程度が限界です」
老国国主も続ける、この会議の中では一番高齢で人生経験も長いし何よりその顔についた髭は白く腰まで伸びていてまるで昔話の仙人のようだ。
「それでいいのではないか?無論、さらに帝国領へ侵攻し皇帝の首を獲るのも一興だがな」
族国の酋長が快活笑いをとばす。
族国は国内最大傭兵団の団長が長となり国を纏める。
故に族国の王は国主ではなく一集団の長として酋長と呼ばれる。
そんな彼は無精ひげを好き放題に伸ばし言葉使いも乱暴に聞こえるが戦の事ならばこの男に聞けば間違いはない、族国というのはそういう国だ。
「それが実現できると思っている人間はこの場にはいないでしょう、連合の兵を集結させても帝国と一戦交えるにはギリギリの賭けです。目的はあくまで流国の奪還。相手は連合方面軍の一軍だけに留めるべきです」
僕は顔をしかめて告げる、族国の酋長が本気でないのはわかるが釘を刺さないと本当に自分の国だけで帝国へ侵攻しかねない。
この男は戦の名手だが勝つために戦を始めるのではなく戦う為に戦を始める危うさがある。
「それで仮に勝ったとして、その後はどうするのだ?流国の民は帝国領へ連れて行かれた者、難民で散らばった者、そして兵は空っぽ。我らが血を賭して奪い返しても我らが去った後、易々と奪い返されるだろう。その度に連合を招集されていたのではこちらは兵糧、金がもたんぞ。敵は根から断たねばな」
「流国が落ち着くまで各国で常備兵を分担して置くべきだろうね。それ以上の帝国への進軍、継続は本当に連合の運命を賭けた一大決戦になる」
武国の殿下が渋い顔で僕の発言に援護してくれた。
「ここで負けても流国を諦めるだけで済むからな」
その時、場の空気が凍りついた。
「族国酋長殿、言葉が過ぎますぞ」
老国の国主が穏やかにたしなめる。
族国酋長は、『こりゃ失敬!』とやはり大声を上げる。
「いやいや、皆様それは時期尚早でしょう。まずは帝国の話を聞いてそれからではないですかな」
商国長代理は笑みを顔に張り付けていう。
「そもそも、今回の最終的な帝国兵の動員数は万を超えたとか。
我々が束になった所で防衛が精々でしょう、我が商国は兵を出すことには反対です。
むしろここは辛抱強く交渉し、無益な血が流れないようにお互いの言い分を確かめるべきです」
商国は文字通り商人達の国だ、商国に王は無い。代わりに国をまとめているのは国の中で突出して巨大な四大商会の代表が話し合いによって運営している。
つまりここにいるのは四大商会会長である四人内の誰かの側近という事になり、この連合会議の場では明らかに他の王族と比べ格も役割も低い。
(商国の商会長達はなぜこんな緊急時にこんな男を寄越したのだろうか?)
とはこの場のほとんどの人間が思っている事だろう。
「商国代理、うちの国でも個別に交渉はしてるんだよ……」
といいながら、僕は先日の会議で外交大臣が言っていた『今回の帝国の進攻は防衛のためであり』の言葉をそのまま告げる。
「はっきり言うと今度は帝国がこの萌国に侵攻してくるかもしれないという焦りはあるし、もう交渉の段階は過ぎているように思うんだけどね」
「なるほど、流石はかの『名声』の名高い萌国国主様。いや素早い外交手腕ですな」
僕は表情を硬くした、こいつは僕に喧嘩を売ろうとしているのか?ここにいる全員が僕である萌国国主の『悪名』を聞き知っているはずだ。それを承知でこいつは……。
「実は商国でも帝国との単独交渉の機会を設けまして」
そこ発言を聞いて場が騒然とした。
しかしほとんどは商国の独断交渉に対する警戒心だ。
「皆、静粛に!」
武国国主が一喝しやがて場が沈静化する。
「して帝国はなんと?」
何処からともなく先を促す声がする。
みな早く知りたいのだろう、当然だ。戦をしても勝算は低いし戦をしないにこしたことはない。
「和平の証として『三人の人物を帝国へ招ければ和平は守られるであろう』と」
「ほう」
「三人か……」
「意外と無欲ではないか」
などと声が聞こえるがそれが只の三人でないことは明白だろう。
今の連合で戦を止めるべき価値のある三人がそこいらの村人であるはずが無い。
「してその三人はいかなる人物か?」
僕は必至で声を落ち着け質問する。
聞きたくない、聞きたくない……、そう思いながら。
心臓の鼓動が早鐘のように鳴り響き、胃のあたりが鉛でも紛れ込んだように重くなった。
これは悪い知らせだ、そして僕の悪い予感はあまり外れない。
何人かが『なんだ人物に指定がついているのか』などどぼやき、無性に殴りたくなった。
そこらの乞食三人で済むと思っていたのかこいつら。
「はい。まず一人目ですがそちらにいらっしゃいます、流国姫君様でございます」
その発言を受けて一斉に流国の姫さんに視線が集まる。
視線を受ける彼女は無言で俯いていた、半ば予想されていた解答だからだ。
しかしその視線に『この場の人間達が生贄として自分を嬉々と帝国に差し出す姿』を見たのだろう、顔色は蒼白である。
「続いて、二人目ですが……、先年お生まれになられました連合盟主である武国国主様の第一子様です」
今度は武国国主に視線が集まるが、この方は表情を変えず『ほぅ』と呟いただけだった。
第一子は未来の武国国主であるし、万が一新たな子が生まれるとしても折角生まれた世継ぎを差し出す気にはならないだろう。
「最後の三人目のお方ですが、連合副盟主である萌国の先代国主の後の奥方様、……現在の国主様の義理の母上様です」
皆の視線が僕に集まる。
が僕の視線は商国代理を見たまま動かなかった。
耳から入った言葉が頭まで届いていない。
ナニヲイッタコノオトコハ。
僕の頭は高速で回転しだしたが理解はできない。
いや理解したくない。理解することを頭が、心が拒否している。
「貴様!いま何と言った!母さまを差し出せと!」
殺意にも近い視線を受けつつ微笑を崩さず、商国代理はやんわりと受けながす。
「如何にも、あの方はあなた様、萌国現国主の義理の母にて、武国国主の叔母であらせられます。これ以上の『人質』はおりますまい」
「ふざけるな、目の見えぬ母様を出せるわけがなかろう」
僕としたことが熱くなるな。
そう思い深く息をついた瞬間、
「今更、貴方様に親を差し出したという『悪名』の一つや二つが加わっても大差ございますまい」
その瞬間努力は終わった、僕は初めて自分の血管が切れる音と言うものを聞いた。
「貴様!」
床を蹴りあげその反動で飛びあがる。
そのまま商国代理の上に飛び乗り、襟首を締上げる。
僕にしては上出来だ。
「貴様の国はいいだろうよ、帝国に一番距離があるし、科国との貿易でコネもあるからな。
いざとなれば科国が守ってくれるからな!」
首を締上げて持ち上げる。商国代理の表情に怯えが走る。こんな各国首脳の集まる場で簡単に暴力沙汰を起こす馬鹿がいるとは思わなかったのだろう。
僕が歯を噛みしめて耐えると思っていたのだろう。
僕がここまで短絡的だと思わなかったのだろう。
そうそう思い通りになってたまるか!僕は僕の家族を侮辱する言葉を、人間を決して許さない!
「こ、これは我が商国に対して、敵対行為として本国に……」
「安心しろ、貴様が故郷の土を踏むことは二度とない」
僕の目は本気の狂気と怒りに着色されて濁っている。
ひっ、と恐怖に怯える商国代理。
殺されると思ったんだろう、助けを求めるように周りを見回すが誰も彼を助ける気配は無い。
「誰か……」
「僕は僕の家族に害をなすものを決して許さん」
その襟首に力を込める、手加減は……無い。
男の顔色が真っ赤になり泡を吹き始める。
バタバタ足を中を掻いて手は首を掴む僕の腕を必死に引っ掻く。
あと一息、そう無意識に考えたその時、扉が開かれて数人の、四人の男女が部屋に入って来る。
「そんな奴でも中々優秀な内政要因でな、放してやってはくれないかの」
視線を向けると四人の端に立つ少女がクマの濃い目を半眼にしながらどんよりした声を発する。
少女の隣の太った肉のおっさんが頬の肉をブルンブルン震わせながら口を開く。
「いや、本当に遅れてしまって申し訳ありません!その者は口が下手な愚か者ですが、我らの部下の一人なのです。代わりに謝罪しますので放してはいただけないでしょうか?!」
僕は横目でその四人を見ると、ちっと舌うちをして手の力を抜いた。
男は無様に床に倒れ必死に咳込んでいる。
「やっと本命が来たな」
武国国主は溜め息をつくと、ようやく会議の始まりだと宣言した。
商国の実質的な指導者、四大商会長の会長達四人が到着したのだった。
「まずは遅れたことを詫びておこう、ご存じのように我らの商国は連合内で一番東端にあり予定よりも到着に時間がかかってしまったのでの」
目に隈をこさえた赤い晴れ着に黒い帯を巻いたおかっぱの少女が詫びた。
「ああかまわないよ、第四商会長殿。こちらもその男に無礼をしたし痛み分けとしておこう」
「うむ、萌国国主殿は心が広いの。それならわしもそこの我が商会の下っ端が泡を吹いているのは目を瞑ろう」
そう言って彼女が手を鳴らすと、彼女の部下が二人部屋に入ってきて気絶している男を運び去って行った。
何事も無いように四人が席に着いた。
「して議題は『帝国と戦って死ぬか』か『犬のごとく逃げるか』で良かったかのう?」
『この雌餓鬼!』また僕の頭に血が昇りかけるが、その前に別の声が慌てて止めに入った。
「こら!第四商会長殿!もうわけありません、本当にご無礼を!帝国と戦うのは決定ですよね!?解っておりますとも、帝国と戦うにして『全面戦争して帝国を打倒する』のか、『限定的に派兵し流国をとり返す』のか、『一時的に流国を諦めて残りの連合諸国領地を共同で防衛する』のかの三択ですよね?!」
第二商会長と呼ばれる男が溢れんばかりの脂肪を震わせて甲高い声を響かせる。
「そうだな、しかし先ほどのお前たちの所の小物が『帝国との交渉で人質を三人』などと言っていた。これは答えようによっては商国が連合裏切って安全を買う為に帝国と交渉しているように見えるが如何か?」
族国酋長が厳しい目をして四人を一別した。
その場にいた連合諸国の重臣達も息をのんだ。
「世の中には物事を悪意ある取り方しかせぬもの達がおるがそれは甚だ迷惑。連合諸国が何もせぬから我らが先に動いて話をしてきただけの事である!」
日焼けして浅黒い肌にひげを蓄えた小柄だがガッシリした男が答えた。
たしかこの男は第三商会長だ。
「話を戻そう、よいかね?」
商国の商会長最後の一人、第一商会長。
神経質そうな背の高い男が眼鏡を光らせて族国酋長と周りを見回した。
異論は無かった。
「まず、『全面戦争して流国をとり返すのか』『一時的に流国を諦めて残りの連合諸国領地を共同で防衛する』の二択だった選択肢に『三人の人間を帝国へ送り休戦をする』という新たな選択肢を用意できたのは我らの交渉の力だ。どんな愚かな選択肢でも選択肢は多いに越したことはないからだ。それは誉められこそすれ責められる事ではないだろう」
言いながら族国酋長を一別した。
「帝国と戦がしたいなら結構!大いにやりたまえ。我が商国に戦力などと呼べるものはないが金と兵糧は出す、しかしその結果、敗戦での帝国との交渉はどうせ我らの役目になるのだ。そこを理解して欲しいのだが贅沢かね?そもそも帝国が流国を落としておよそ一か月、なぜ攻めてこないか君たちは考えたかね?帝国はこれ以上連合を攻める気が無いという意思表示とも捉えられる。そして我らが必死に帝国へ打診して『人質を出すから待ってくれ、連合を説得してみせる』と話し合っているとなぜ考えないのか」
気まずい沈黙が流れる。
「率直に言いなさい、商国は『戦』と『停戦』どちらを望んでいるのです?」
流国姫様が意を決したように四人に聞いた。
「うちらはどちらでも構わんというのが本音だの。戦になれば商国は戦の物資販売特需に肥える。ならなくても帝国との顔は繋がる、それは新たな商売のきっかけになるしの」
第四商会長の言に、流国の姫様は叫んだ!
「帝国と商売など!あなたは本当に連合に属する一国ですか!」
「なんと言われようと連合に属する一国だの。それで?次はあるかの?」
第四商会長は面倒そうに流国の姫に答えた。
この商会長は一見子供なのに、なぜこうも堂々と会話できるのか。
流国の姫様の方が、体が大きいだけの子供に見えるではないか。
「ははは、それに戦になって科国譲りの武器と今まで各国から貯め込んだ食料、生活物資も売れ行き倍増だろうさ」
そう皮肉を付け加えたのは僕ではない。
族国酋長だった。
「いや案外、帝国へけしかけたのは商国じゃないのか。連合が帝国のものになった暁には関税撤廃か免除の約束を……とかな」
と楽しそうに僕と商国商会長四人を眺めている。
「あ……あの!やめましょうよ、同じ連合同士で言い争うのは……。その、そろそろ決めましょう?帝国と戦うか停戦するか。僕は戦は恐いです……。
だけど皆さんが開戦を決意するのなら戦います。……それが連合に属する一国の、我が若国の務めですから」
オドオドした声が聞こえた。若国の国主だった。歳は第四商会長とあまり変わらないがこちらは言葉にあどけなさが残る。必死に勇気を出して発言した正直すぎる言葉が心地良かった。
「連合諸国に尋ねる、帝国と戦うには連合すべての力は必要だ。それは皆分かっていると思う。してここで帝国と戦わず、帝国と接している武、老、萌国のうち一つが新たに滅ぼされたときその時点ではすでに兵力を集結しても一国分の戦力は足りなくなる。当然勝率は下がりその時に後悔するだろう『あの時戦っておけば……』とね。なれば連合盟主として帝国と戦をすると決する!」
武国の義兄上の発言にどよめきが走るが、発言は続けた。
「しかし……商国の発言ももっともだ。平和的な解決ができるのならばそれも重畳、我らは流国奪還へ軍備を整えつつ同時に交渉も重ねる。如何か?」
駄目だ、とは誰も言わなかった。
連合盟主の武国に対してこの場でそう言えるものはいないだろうし、確かに一理ある意見に聞こえる。
しかし……。
僕は族国酋長、流国姫様の顔を見た。
族国酋長は苦虫をかみつぶした顔を、姫様は無念そうな顔をしていた。
他の諸国の者たちは戦が伸びた事に安心した表情をしている者もいる。
「……意見が無いようなのでこれにて連合会議を閉会とする。なれば皆様方、国へ帰り軍備を整えられよ。解散!」
各人が席を立ち部屋から退席し始める。
「義兄上……」
僕は武国国主へそう声をかけた。
「ん……ああ。何かあるかい?萌国殿」
「いえ」
本当は、『ただ戦なら戦とはっきりと告げ、期日までに武国なり萌国なりに全兵集合まで決めた方が良かったのでは』と言いたかった。しかしこの方も考えがあっての事だろう、と声を腹に押し込んだ。
「戦になるだろう。頼むぞ」
「……はい。それまで義兄上もお元気で」
そう言って僕らは別れた。