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裏表フレンズ

色々あってやさぐれてしまった子のお話。





 




 一日の授業を終えて鞄を手に席を立った時。


志筑シヅキ……、少しいいかな」


 背後から掛けられた声に、またか、と久慈志筑クジシヅキは嘆息した。


 誰もいなくなった放課後の教室で向かい合うように座り、志筑は内心げんなりしながらも相手を見やる。


「…ごめん。今日はちょっとした愚痴になるんだけど…」


 僅かに眉を下げてそう話す生徒は、明るい紅茶色の髪と瞳を持ったやや細面の男だ。人より際立った美貌で 人気の、この学園で生徒会副会長を務める存在でもある。


 そして一応、志筑の“友人モドキ”と言う存在であった。


 そもそも志筑にはこの学園に親しい友人は一人もいない。

 そう思わせてくれた原因がこの目の前の男を含めた“友人モドキ”の男共だった。


 その理由は志筑が外部生として全寮制の中高一貫校であるこの学園の高等部に入学した頃にまで遡る。


 広い敷地に不慣れだった為、うっかり目的地とは違う場所に出てしまった時のことだ。

 その偶然辿り着いた中庭で、学園に入学して以来一番仲の良い友人だと思っていた相手が。


『は? 俺があんな地味なの相手にするわけねぇじゃん。構ってたのだってお前に妬いて欲しかったからに決 まってんだろ。でなきゃわざわざ自分から近寄んねぇよ』


 恋人らしき相手といちゃつきながらそんな風に自分のことを話しているのを耳にしてしまった。

 さすがにそれには志筑もショックを受けないわけがなく、重い足取りで教室に戻ったのだが。


『久慈はなー…話しててもつまんねぇんだけど…誰からも相手にされないのは可哀想で』


 慣れない寮生活に戸惑う自分の面倒を見てくれていたクラス委員長が、他のクラスメイトにそう話している のを教室の扉越しに聞いてしまった。


 更にその二日後にはクラスの中でも結構話す相手だった爽やかな友人にまで。


『あんな地味で面白味もないヤツ、好き好んで構おうと思わないよ』


 そう部活仲間に話しているのを偶々通りかかった廊下で聞いてしまい。


 それ以降。


『久慈? ああ…、少し優しくしてやったら何か勘違いしたみたいで最近馴れ馴れしいんだよね』


『いや、外部生だって言うから話し掛けてやっただけ。大体見るからに俺と釣り合わないのわかるじゃん』


『はあ? あはは、まさか! 違う違う。ほら、あいつ頭だけはいいだろ。試験の時や課題の時に使えるなー って』


 友人だと思っていた連中の自分に対する知りたくもない本音を立て続けに聞いてしまい─────正直、心 が折れかけた。

 そういった場面にタイミング良く出くわしてしまう自分の間の悪さを嘆けばいいのか。

 人には必ず裏表があるものだと諦めればいいのか。

 しかし結局、彼らは志筑が聞いていたことなど知りもせず、今も友人ヅラして傍にいたりする。


 ちょうど今、目の前で哀れっぽい声を出している男も、陰では志筑を『鬱陶しい』と評していた一人だ。


「なんか疲れちゃってね…」

「…そうだね。少し顔色が良くないみたい」


 志筑は志筑で連中の本音を聞いてしまってからも彼らの存在を黙って受け入れている。


「…わかる? 最近あんまり眠れてなくて」

「無理してるんじゃないの?」


 そこにあるのは上っ面だけの薄っぺらい関係。

 当然ながら志筑が連中に友情を感じているわけもない。だがそれは向こうも同様なのだからお互い様だ。

 真面目に話を聞いても馬鹿を見るだけ。どうせ陰では嗤われているのだ。

 ならば一緒にいる時だけ適当に話を合わせていればいい。

 下手に突っぱねて学園内で無駄に人気のある彼らの反感を買って厄介事を呼び込むくらいなら、適度に流して そこそこ平和な日常を送った方がいい。


 そう悟ったからだ。


「何だろうね……好きな筈なのに、傍にいても疲れるんだよ…」


 おかげでそう訴える友人モドキを見ても志筑の心はぴくりとも動かない。

 むしろ。


 


 ─────知るかボケ。




 今ではそんな感想しか出てこなくなっていた。


 だが相手はそんな志筑に気づくことなく女々しい繰り言を延々と続けている。


 あの子の明るい笑顔が可愛いと思ったんだよ、だの。

 あの子のはっきりしている所も好ましかった、だの。

 あの子のずっと傍にいてやるって言葉もすごく嬉しかったんだ、等々。


「それなのに、どうしてだろうね…」


 情けない顔で笑って肩を落とす男を見て思うことは。




 ─────アホか。




 ただそれに尽きる。


 男がわざわざ志筑の所にまでやってきて話す“あの子”とは、二ヶ月前に学園へやってきた編入生のことだ。

 男を始めとする友人モドキ共がその編入生に揃って惚れた腫れたと騒ぎ出したのがひと月と三週間前。

 朝昼晩と連中は編入生に纏わりつくようになり、見事に志筑の周りから消えた。

 おかげで入学当初から及んでいた騒がしい環境から逃れられ、平穏な生活がやってきた、編入生様々、と喜んだのも束の間。


 編入生との仲を進展させたい友人モドキ共が、何故か志筑の元に入れ替わり立ち替わり相談に来るようにな ったのだ。


『こんなこと志筑にしか話せないし』


 頬を染め、緩みきった情けない顔で友人モドキの一人が言った台詞に。




 ─────うわ、顔面殴りてぇ。




 加えて頭が沸いてしまった友人モドキ共の親衛隊の連中までもが編入生のことを愚痴りに来た日には。




 ─────あー…、頭掴んで眉間にニーキックかましてぇ。




 出来る筈もない妄想が頭を駆け巡った。


 散々相手を取っ替え引っ替えふざけた真似をしていた連中が、今更純情ぶって恋愛相談に来る気色悪さ。

 そんな連中に媚びて尻を振り見当違いな妬みで散々嫌がらせしくさってくれたオトコオンナ共が、当然のよ うに志筑の所へ現状の不満を言いに押し掛けてくる不愉快さ。

 何よりこんな連中相手に結構な時間を割かねばならない苦痛。




 ─────ウザイ。ウザイウザイウザイ! 果てしなくウザイ!!




 心の中では顔を盛大に歪めて罵りながら、表面上は。


 わあ、大変だね。

 あんまり根詰めないほうがいいよ。

 無理しないで。

 え、そんなことまで考えてるんだ。

 凄いな。

 さすがだね。


 誰にだって言えるだろう適当極まりない相槌を打つ。


 そうしていればそのうち相手は勝手に満足して帰って行く─────筈なのだが。


「正直、本当に彼のことが好きなのか……わからなくなってきて」


 これまでと風向きの違う発言に、表面的には薄い笑みを浮かべたまま内心で突っ込みを入れる。




 ─────一週間前まで『彼は僕の運命の人なんだ』と惚気まくってたのは何処のどいつだ。そのくっだんねぇ話で今までどんだけ人の時間を消費しくさったと思ってんだゴルァ! 今更勘違いでしたとか言いやがっ たらその顎カチ割んぞ。




 だがそんな心情はおくびにも出さず。


「……………でも、これまでも編入生の彼の好きなところを色々俺に話してくれたよね? その度にすごく嬉しそうな顔してたじゃない」


 フォローも兼ねてそう宥めるが。

 男は小さく首を振り、机に肘を付いて両手を顔の前で組むと。


「………志筑、今日はもう少し時間をもらえないかな」


 縋るような眼でこちらを見つめ、更には有り得ない言葉まで吐いた。


 途端、志筑のこめかみがぴきり、と音を立てる。




 ─────まったり出来る貴重な夜の時間をなんでてめぇなんぞと過ごさにゃならんのかふざけてんのかアホンダラ。




 志筑からすれば寝言は寝て言え馬鹿野郎、だ。


 気を抜いたらうっかり歪みそうになる顔面を必死に抑え。


「……………いや……、今日は“一人で”ゆっくりした方がいいよ」


 不穏な感情を乗せないよう、殊更抑えた声で極々遠回しに拒否する。


 しかし遠回し過ぎたせいで相手には嫌がっていることもそんな暴言を心の内で吐いていることも伝わらない 。

 むしろ男を心配したが故の断りと受け取ったらしく。


「……やっぱり、志筑は優しいね」


 目許を緩め、嬉しそうに呟かれた瞬間。


 ガンッ!!


「ぅわっ」

「っあ、ごめん!」


 志筑は咄嗟に机の脚を蹴りつけていた。

 そのくせ突然の衝撃に驚いて声を上げた男に対して白々しい謝罪をする。


「足当たっちゃった。ごめんね、どこか打ったりしなかった?」

「ああ、いや、大丈夫」

「本当ごめん、俺、何時まで経ってもそそっかしくて」


 そう言ってズレてしまった机を元の位置に戻す間にも志筑は男の言葉の裏を考えていた。


 友人モドキ共の口から“優しい”というキーワードが出された時は要注意だ。これまでのことを振り返るとその後で面倒な頼み事をしてきた事例が殆ど。

 連中の中での“優しい”は“都合が良い”と同義語だ。




 ─────平常心平常心平常心平常心。ここで相手のペースに持って行かれたらマズい。




 自分に言い聞かせるよう念じた後、志筑は話の方向を修正する為に口を開く。


「……あの。別に今、編入生の彼に対する気持ちの種類を焦って判断しなくてもよくない? だって一緒にいて楽しかったのも好きだと思ったのも本当なんでしょ?」

「……それは…、そうだけど」


 戸惑ったように頷いた男に志筑は笑みを深める。


 この一ヶ月と二週間、でれでれと編入生の何が良くてどこが他と違うのかを語る顔に、込み上げてくる暴力的な衝動を堪えるのにどれだけの忍耐を必要としたと思っているのか。

 結局奴らが離れて平和だったのは一週間だけ。その後は連日の「志筑、聞いてくれる!?」攻撃だ。

 その労力を今更「勘違いでしたごっめーん」で済まされるわけがない。否、済ませてたまるか。


「……俺は、皆それぞれの話を聞いてるし、一人一人の真剣な気持ちも知ってるから……多分、そういうのが うまく伝わらなくて少し疲れてるんじゃないかな?」

「……………」

「俺には皆の中の誰か一人だけを応援するってことはできないけど……、少しでもそれぞれ報われて欲しい と思ってる」

「…志筑………」

「あと、やっぱりなるべく編入生の彼にはついていてあげた方がいいと思うんだ。皆の話を聞いて俺が勝手 に思ってるだけだけど………編入生の彼は、寂しいんじゃない?」


 編入してきた時期も時期だし不安になっても仕方ないと思うんだ。それにこの学園は他と比べても特殊な場所だと思うからね。編入生に対する気持ちがどうあれ支えてあげないと云々かんぬん。


 とにかく目の前の男を編入生ハーレムに戻そうと志筑は言葉を重ねる。

 その甲斐あってか、男にもどうやら何か思い当たる節があったようで。


「………寂しいから、あの子は人が離れていくのをあんなに嫌がっているのかな?」


 ぽつり、と呟いた男に志筑は余計な口を挟まず見つめる。


「少し離れようとしただけで凄い力で腕を掴んでくるし、痛いよって言っても力を緩めてくれないんだ。それも一人にされることを怖がってるからなのかな」

「………傍にいたなら、俺なんかよりもずっとよくわかってるんじゃないの?」


 人からの話でしか知らない編入生が何を思っているかなど志筑にわかるわけがない。


 友人モドキ曰く『明るくて気取らなくて笑顔が可愛くて純真で天真爛漫』な編入生と。

 友人モドキ共の親衛隊が言う『五月蠅くて下品で汚らしくて暴力的で空気が読めない』編入生。 どちらも好意と悪意のフィルターが何重にも掛かっているのは想像に難くない。


 どちらにせよ志筑は編入生が何を考え何を思っているかなどに興味はない。彼においての関心事はただ一点 。

 “どれだけ長く友人モドキ共を翻弄してくれるか”、ただそれだけだ。

 できるなら志筑が卒業するまで連中には編入生を取り合い牽制し合ってごちゃごちゃしていて欲しい。

 それが無理ならごちゃごちゃしている間に別の誰かと新しい何かを芽生えさせちゃったりして志筑の存在を忘れて欲しい。

 精神的に疲弊させられるのは去年の諸々だけで充分だ。




 ─────だからとっとと帰るべき場所にお帰り。




 そう思って相手の返答を待っていれば。


「……志筑は、寂しいと思ってくれないんだ…?」




 ─────………はい?




 一瞬何を言われたか理解出来ず、志筑は男を凝視する。


「………志筑はいつだって僕のことを支えてくれるよね。僕の話を聞いて一緒に考えてくれて、でも自分は 一度だって何がしたいとか何をして欲しいとか言ったことはない」


 真剣な、それでいて少し切なげな顔で男が話した内容に、志筑は唖然となる。


「……………もう一度聞くよ。志筑は、僕がいなくても寂しくないの?」


 トドメとばかりに、どこか熱を帯びた眼を向けられた瞬間。


 志筑の全身にぶわっ、と鳥肌が立った。




 ─────っっウザイきもいウザイきもいウザイきもいウザイきもいウザイきもいウザイきもいウザイきも いウザイきもい!!!!




 頭の中で悲鳴染みた罵倒が反響する。


 予想外過ぎる方向に話が転がり、志筑の頭は一気にパニック状態だ。

 体の方は凍りついてしまったようにぴくりとも動かない。


 だが呑気に放心してもいられなかった。


「…志筑……」




 ─────おい。おいおいおいおいおいおいぃぃ……!?




 口元に息がかかったことで、自分の身に何が起きようとしているのか気づいた、その時。

 志筑は椅子ごと強引に後ろへと引っ張られていた。


 ガタンッ!


 派手な音を立てて椅子が倒れるのと同時に後ろから体を引き上げられる。


「…ってめぇ、ざけんなよ!」


 頭上から聞こえた怒声にも志筑は何が起きたかわからず、未だ正面に座ったままの男を見るが。 しかし男は不機嫌そうな顔で志筑の頭上を見ていた。


「ふざけてなんかいないよ。志筑を離せ」


 言いざま、椅子から立ち上がった男に腕を引かれ、今度はその背に庇われる恰好となる。

 その時になって自分を後ろから引き上げた相手の姿が眼に入った。


 そこにいたのは金髪碧眼の野性的な雰囲気を身に纏った色男だ。

 この学園において生徒会長の肩書きを持つ男でもある。

 そして不愉快そうに顔を歪めて睨みつけているその男もまた、編入生ハーレムの一角を占める人間であり、 同時に志筑の友人モドキの一人でもあった。

 例に漏れずこの男も志筑の貴重な時間を恋愛相談という名目で遠慮なく食い潰してくれた相手だ。


 そんな彼らは同じ生徒会仲間でありながら編入生を巡っての恋敵とも言う関係だからか、雰囲気はすっかり一触即発状態。


「……志筑を寄越せ」

「嫌だよ。志筑はこの後も僕と過ごすんだから」

「んなのオレが許すわけねぇだろが」

「て言ってもそもそも君の許可が必要なことじゃないよね」


 しかし何故か彼らの口論の内容は志筑の身柄を巡ってのこと。


 意味がわからない、としばし呆然としていれば。


「なら間を取ってオレが志筑と過ごすよー」


 新たな声が背後から聞こえた。

 しかもそれは一つだけでなく。


「なんでおまえらもいるんだよ。さっさとあっちに戻れ」

「そっちこそあれだけ一騎イッキにアプローチしておいて志筑も、なんて真似を許せるわけないだろ」

「ならば貴様こそ有り得ないだろう」

「はあ? それはこっちの台詞だし!」


 面倒な声が更に四つ増えた。


 睨み合っていた男二人もその割り込んできた面子を見て途端に苦々しい顔になる。


「……てめぇらこそ調子のいいこと言ってんじゃねぇよ。これまで散々クソミソに言ってたじゃねぇか!」

「はっ、それを言ったら貴様とて同じだろうが! 『貧乏くさいのが移りそうで嫌だ』だったか?」

「それを言うなら『関わるのは立場上の義務でしかない』とか言ってたそちらも今更ムシが良いんじゃない のかな?」

「『存在がウザイ』とまで言ってた奴には言われたくないよねー!」

「面倒なセフレを切る為のスケープゴートに使ってたおまえも言える立場じゃないがな!」

「仕事を押し付けていいように使ってた人の言うことでもないけどね!」

「『あの顔でよくオレに話しかけられるよな』とか嗤ってたのは誰だろうな!」

「『図太い神経はさすが庶民って感じ』とも言ってたんじゃなかったっけ!?」


 睨み合うだけでは済まされず、掴み掛かってはかつての発言を引き合いに出して相手を責め立てる。

 しかし端から聞いていれば皆どいつもこいつも五十歩百歩。

 何より相手の非を知らしめる為とはいえ、よくもまあその発言を向けていた本人の前でぼろぼろと暴露でき るものだ。




 ─────…………多分これは「皆そんな風に思ってたんだ…酷い!」って泣きながら走り去っていい状況だよな。




 勿論、それらの発言に今更ショックを受けるわけもない。

 例え面と向かって言葉にされなくても連中と接してきた一年、彼らの態度にはそれらが滲み出ていたからだ 。

 何より陰口というものは意外と当人の耳に届きやすい。実際に見て聞いた自分のような例があるのだから。

 そうでなくとも“誰”が自分を見下し、嘲笑い、馬鹿にしているか、言っている本人は元よりその周辺からも漏れ聞こえてくるものだ。




 ─────…………これ、放置で良くね?




 下に見られていることを知っていたとはいえ、やれこう言ったやれああ言ったと自分に対する貶し言葉を聞かされ続けるのはさすがに不快だ。


 志筑は彼らの意識が自分から逸れているのをいいことに机からそっと鞄を取り上げ、言い合う連中を見ながらじりじりと後退る。

 そうして首尾良く廊下へ退避することに成功すると。

 未だ騒がしい教室内を横目に見やって疲れたような溜息を一つ吐き。


 一人足早に寮への帰路に着くのだった。














 一方、志筑の姿が既にないことにも気づかず怒鳴り合っていた彼らは。


「……んなこたわかってんだよ! でも好きになっちまったもんは仕方ねぇだろ!」

「僕だって陰で散々馬鹿にしておいて今更都合が良いのはわかってるんだよ!」

「そうは言っても控えめな笑顔が可愛いとか思っちまったらどうしようもないだろうが!」

「どんなくだらない話でも嫌な顔一つしないで聞いてくれたら嬉しくならないわけないじゃん!」

「疲れてる時には適度な距離感で労ってくれるような相手に特別な気持ちを持つなと言う方が無理だろう! 」

「気づけば傍にいてくれて辛い時や苛々してる時も黙って受け入れてくれるから!」

「自然体な優しさを持ってて人の言葉を頭から否定したりしない志筑だから」

「「「「「「「好きになったんだよ!!」」」」」」」

「「「っ、だから」」」

「「「「志筑!」」」」


 七者七様の想いの丈を吐き出し、彼らは志筑がいる方へと視線を向けた、のだが。




「「「「「「「…………………あれ?」」」」」」」




 そこに志筑の姿はなく。




「「「「「「「…………………」」」」」」」




 周りを見渡しても姿どころか気配一つ感じられず。




「「「「「「「………………………………………」」」」」」」




 彼らの前に広がるのは、虚しい沈黙だけ。







 そして後日、志筑に「ごめんね、もう馴れ馴れしく話し掛けたりしないから」と言われて撃沈する彼らの姿があちこちで見られるようになる。












久慈志筑クジシヅキ→見た目は地味で真面目な優等生。でも何故かいつも派手で人気者な生徒たちに囲まれてる。だが当人にとっては鬱陶しいことこの上ない。色々あって人の言葉の裏を読む癖がつきました。表面上は穏やかでも内心は毒舌の嵐。今回、友人モドキの一人に迫られかけたことはまるっと記憶から抹消 。しかしその後の連中の自分に対する誹謗中傷部分のやり取りはしっかり覚えている為、かなりムカムカし てる。


友人モドキたち→最初の頃は志筑の存在を軽く見ていたが、接する内に「結構いい奴」「傍にいると楽 」「何かホッとする」などに変化。更には編入生のことを相談している内に気持ちが恋愛感情に移行してたっぽい。でも肝心の志筑にはまったく伝わらず。それどころか自分たちが陰で言っていた諸々を暴露してし まった為、大義名分が出来た志筑から距離を置かれるようになって大慌て。もはや編入生どころじゃなく、 事あるごとに志筑の元を訪れては言い訳や弁解、謝罪に必死。


一騎イッキ→多分編入生の名前。


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