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緊急臨時全校集会

一人の転校生によって引き起こされた暴行事件の経緯と顛末。

 


 本日このような集会を開き、こうして私が発言する機会を設けてもらった理由を、ここに集まった皆さんは 既に理解していることでしょう。


 ─────まず、この度愚弟が引き起こした様々な騒動について、被害に遭われた方々にはこの場を借りてお詫 びしたいと思います。


 実家とは疾うに縁を切っており、今更“アレ”が私の弟だとは認めたくありませんが、そうは言っても血の繋がり があるのは動かしようのない事実。


 ……今回のことで、“アレ”がいかに歪んだ人間であったかは、もう皆さんが知っての通りです。


 何故あんな性格になったのか…そう聞かれても、私に返せる言葉はありません。ただ物心つく頃にはああだった、としか言いようがないのです。


 幼い頃から出会う人には当然のようにその容姿を褒められ、『可愛い子』だ『お人形さんみたい』だとちやほやされてきた結果というにはあまりにも“アレ”は極端過ぎる。


 誰にでも愛されることなど有り得ないのに、皆が自分を愛するはずだと思い込んでいた。


 だからこそ初めて自分を見ない相手に出会った時、その事実が許せなかったのでしょう。


 『アイツ、僕のこと可愛いって言わなかった』


 そう“アレ”が言ったのは、あの子と初めて会った日のことでした。


 ─────はい? 何ですか? ……それだけ? ええ、はい。そうです。それだけです。


 ……理不尽だと思うでしょう?


 それからはあの子にとって不可解なことの連続だったようです。


 身に覚えのないことで責められ、何か事あれば自分のせいにされ。

 友人だった相手はいつのまにか“アレ”を取り巻くようになり。

 必要以上に絡んできては意味のわからない言い掛かりをつけられる。


 小学校、中学校とそんな日常だったらしいです。当時のクラスメイトが話してくれました。

 

 あの子を狙う異常なまでの執拗さが気持ち悪かったと。


 それでも自分が“アレ”のターゲットにされることが怖くて見ていることしか出来なかった、そう話していま した。


 相手が自分の望む言葉を言わなかった、ただそれだけで執拗につきまとっては貶め、周囲から孤立させる。


 ……出会った当初は明るかったあの子からどんどん表情が消えていくのを目の当たりにして、空恐ろしく なったのを私はよく覚えています。


 そんな中、ようやく“アレ”の眼をかいくぐり入った学園で、またしても今回のような目に遭わされ────あの子は現在、私以外の人間を認識出来ない状態です。


 ─────ああ、はい。そうです。皆さんの姿も見えなければ、声も聞こえません。


 階段から落ちた時のものとは別に打撲や打ち身、切り傷が酷く、恐らくこれまで積み重なったものが限界に きていたのでしょう。精神的なものだと担当医からは説明されました。


 ……いえ。ここで皆さんを断罪したいわけではないのです。


 “アレ”を野放しにしていたのは両親であり、そしてそれを制御しきれなかった私を含め、その周囲のせいで もあるのですから。


 ……言い訳にしかなりませんが、私には“アレ”からあの子を救い出す力がなかった─────情けないことに。


 “アレ”を取り巻く人間は、とにかく“アレ”の望むような態度しか取らない。いえ、取れないと言った方が正 しいのかもしれません。

 何せ少しでも“アレ”の意に背けばその周りが一斉に攻撃を仕掛けてくるのです。それこそ異常なまでに。


 そんなものを見せられれば、その状態を気持ち悪いと思っていても巻き込まれたくないが故に口を閉ざすしかない。


 ……この中にも覚えのある人はいるでしょう。


 ですから─────そんなものに十年もの間つきまとわれ続けた、あの子の気持ちを。あの子の辛さを。理解して欲しいのです。


 状態も状態なので、今後は私があの子を引き取ることになっています。学校の方も自主退学という形で辞めざるを得ないでしょう。


 そのことを踏まえた上で皆さんにお願いしたいのです。


 あの子が皆さんのことを記憶から消してしまったように、皆さんにもあの子の存在を忘れて欲しいのです。


 今回のことで現在“アレ”は停学処分という形で隔離されていると聞いています。


 ですが停学から復学した後は?


 “アレ”がこの学園を卒業した後は?


 私は再び“アレ”があの子につきまとうリスクを少しでも減らしたい。


 責任の放棄だと言われるかもしれませんが、私は今後一切“アレ”と関わりを持とうとは思いません。


 何より……傷つけられたあの子の傍に、ついていたい。


 この先の“アレ”に関しては、

 

 『彼はあのままでいいんだ』

 『彼に悪いところなんてない』


 そう言い続けた人達に責任持って管理してもらいたいと思っています。


 何の根拠もない“アレ”の言い分を信じ、あの子を傷つけ罵り貶めた、そのことにも─────謝罪など望みません。償うことも求めません。今のあの子にはそんなもの見えなければ聞こえもしないのですから。


 悪いと思うのなら、姿を見せることなく、関わることなく、そっとしておいて欲しいのです。


 ですからどうか忘れて下さい。

 あなた方の記憶からあの子の存在を消してやって下さい。

 「知らない」ことが、あの子にとっての救いになる。


 あの子は周囲に期待などしていなかった。

 上辺だけの付き合いでしかない相手に何かを望むことなど疾うに諦めていた。


 ですからどうか。


 少しでも痛ましいと思われるなら、もしくは悔いる気持ちがあるのなら。

 この先のあの子を守る防波堤に、皆さんにはなってもらいたい。


 



 ─────それが、あなた方に望む唯一のことです。






























話し手→ヤンデレ王道転校生の常識人兄。あの子をとても大事に思っている。


あの子→巻き込まれ幼なじみ。逆上したヤンデレ幼なじみに階段から突き落とされ、彼と彼に関わる人物の全てを記憶から削除した。例外が心の拠り所である幼なじみの常識人兄。


“アレ”→自分から離れた幼なじみを追って学園にやってきたヤンデレ王道転校生。これまでと同じような経緯で幼なじみを孤立させた上、それでも屈しない彼に逆上して階段から突き落とした。


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