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あれから、似たようなレースゲームを探してみた。
まぁ見つからなかったけど。
恋愛ゲーム好きな友達に「レースゲーム的な恋愛ゲームない?」と聞いたら「一緒にする意味が分からない」と言われただけだった。
それは私も思ったよ。
今では実家に帰って頻繁に車の運転を練習している。
あれが夢だったのか、正直分からない。しかし、ハンドルを握ると何故かしっくりくる。
久しぶりに実家の車を運転しようとアクセルを踏んだら、踏み過ぎたようで母親から凄まじい勢いで止められた。レースと同じ感覚だとダメですね。
今日は自分の車を買おうと、近くの中古車販売店にいる。本当は新車が欲しいけど高くて挫折した。
「これがいいんじゃない?」と隣で勧めてくる母の言葉を聞きながら、私は一台の車に目がくぎ付けだった。可愛いピンクの車体に。
「え、お前アレにするの?止めとけって、ピンクはゲームだけにしろ」
目が痛い。と私の横で聞いたことのあるような声がする。隣を見ると、黒髪で目が切れ長なイケメンがいた。
いや、誰ですか。なんか親しげに話しかけられたんだけど。
「あれだけ世話してやったのに覚えてないわけ?」
え、なんか不機嫌そう。
腕を組み、不機嫌丸出しのオーラを放つ男になんだか覚えがある気がした。そう、すごく最近。こんな光景があった気がする。
*****
「お前!あれだけレースで練習しといてなんで下手なんだよ!」
「レースと普通の道走るのとでは全然違うんですー!!」
「バカ!もうちょっと速度落とせ!」
結局、ピンクの中古車を買った私はただいま運転の練習中である。
いつまでたっても運転の技術力が上がらないってどういうことなの。
「赤さん?」
私の運転で叫び疲れたらしい。隣の席でいつかのように座る男の人は、あの時と違ってヘルメットをしていない。
「とりあえず赤さんは止めろ。工藤だ」
「意外と普通ですよね!」
そう返すとポカリと殴られた。
赤さんは私の中では赤さんでしかない。つい呼んでしまうのだからしょうがない。
ゲームのキャラクターだと思っていた赤さんは、まさかの私と同じ境遇の人だったらしい。
私と違うのは恋愛ゲーム要素はなく(あったら面白いが)、1位を取り続けると帰れるという条件だったらしいが。
「時間、間に合ってるのか?」
「大丈夫です!5分前ですよ!」
「いや、むしろあれだけ余裕があったはずなのに5分前って凄いよ」
脱力感が半端ないです。
コンコンと運転席の窓を叩く音がした。私は叩いた人物を確認して、満面の笑みで窓を開ける。
「ちょっと、2人とも車内でいちゃいちゃしないでくれる?」
いつも通りニヤニヤと笑う青年と、その後ろで困った表情をしながら彼氏を眺めている女の子。
「お待たせしましたー!青さん!」